タングラム法律事務所

トレントのアップロード制限・ポート未開放は通用するか|意見照会書

トレントのアップロード制限・ポート未開放は通用するか|意見照会書

トレントのアップロード制限・ポート未開放は通用するか|意見照会書

トレントのアップロード制限・ポート未開放は通用するか|意見照会書

トレントのアップロード制限・ポート未開放は通用するか|意見照会書

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月18日 最終更新日:2026年10月18日

BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書が届いた方から、「アップロード速度は最小に制限していた」「ルーターのポート開放はしていないので、外から接続されることはないはず」「ダウンロードが終わったらすぐ止めて、シードはしていない」といったお話を伺うことがあります。ソフトの設定に気を配っていた方ほど、自分は送信していないのではないかと考えるのは自然なことです。

この記事では、こうした「設定」に基づく主張が、著作権侵害の成否や意見照会書への回答でどう扱われるのかを、BitTorrentの通信の仕組みと著作権法の定義、裁判例に沿って整理します。あわせて、回答書でこの主張を扱う際の注意点を、横浜の弁護士の立場から説明します。

結論から述べると、アップロード制限・ポート未開放・シードしない設定は、いずれも「送信の量や機会を減らす」ものにとどまり、送信そのものをなくす設定ではないため、それだけで侵害を否定するのは難しいと考えられます。著作権法は、実際に送信された量ではなく「自動的に送信し得る状態にしたこと」を侵害行為としているからです。他方で、設定や利用期間の事情は、損害額を検討する場面では意味を持ち得るため、主張する場面を選んで整理することが大切です。

トレントの「設定」でよく聞かれる3つの主張

意見照会の段階でよく伺う主張は、おおむね次の3つに分けられます。

主張その方が考えていること技術的な実際
アップロード速度を制限していた送信量はごくわずかで、実質的に送信していない速度が落ちるだけで、送信は行われる。ソフトによっては上限値「0」が「無制限」を意味する
ポート開放をしていなかった外部からの接続を受けられないので、送信は起きない自分から接続しに行った通信でも、データは双方向に流れる
シードしていなかったダウンロード完了後すぐ止めたので、配布はしていないダウンロードの途中から、取得済みのピースは送信される

以下、それぞれの主張がなぜ通りにくいのかを、通信の仕組みから順に見ていきます。

アップロード制限は「送信の速さ」を変えるだけ

BitTorrentでは、共有されるファイルが「ピース」と呼ばれる断片に分けられ、利用者(ピア)同士がピースを交換し合うことで、ファイル全体がそろう仕組みになっています。アップロード速度の制限は、この交換のうち自分が送り出す側の速度に上限を設けるものです。上限を低くすれば送信量は減りますが、ピースの送信自体が止まるわけではありません。

また、注意したいのは、ソフトによっては上限値の欄に「0」を入力すると「制限なし(無制限)」として扱われるものがあることです。たとえば主要なクライアントの一つは、外部から設定を操作するための仕様書で、アップロード上限の値「0」を無制限と説明しています。本人は「0にしたので送信していない」と考えていても、実際には制限がかかっていなかったということもあり得ます。

さらに、権利者側の調査会社は、監視用のソフトウェアで実際にピアからピースをダウンロードし、その記録をもとに開示を求めるのが一般的になっています。意見照会書が届いたということは、調査会社の記録の上では、あなたの回線から何らかのデータが送られたと判断されていることを意味します。速度を絞っていたとしても、その記録と矛盾するわけではありません。

ポート未開放でも送信が起きる理由——接続は双方向

ルーターでポートを開放していない場合、外部のピアからこちらに接続を始めることは難しくなります。しかし、BitTorrentのソフトは、トラッカーやDHTで知った他のピアに対し、自分の側からも接続を始めます。そして、いったん接続ができれば、その接続の上でピースの受信も送信も行われます。

BitTorrentのプロトコルの基本仕様書(BEP 3)は、ピア同士の接続は対称的であり、どちらの方向に送られるメッセージも同じ形で、データはどちらの方向にも流れ得ると定めています。つまり、「外から入って来られない」ことと「こちらから送信しない」ことは別の話です。調査会社の監視ソフトもネットワーク上のピアの一つとして振る舞うため、こちらから接続しに行った相手が調査用のピアであれば、その接続でピースが送られることになります。

なお、ポート番号は、IPアドレスを複数の契約者で共有する回線で契約者を特定する手がかりとしても使われます。ポート開放の有無と、照会書に記載されたポート番号の意味は別の問題である点に注意してください。

シードしない設定と「ダウンロード中の送信」

「ダウンロードが完了した時点で停止したので、シードはしていない」という主張もよく伺います。しかし、BitTorrentでは、ファイルを100%保有するシーダーでなくても、ダウンロードの途中で取得済みのピースを他のピアに送信します。ダウンロードとアップロードが不可分に設計されていることは、「ダウンロードしただけ」は通用するかを送信可能化権の観点から解説した記事で詳しく取り上げています。

完了後すぐに停止していたことは、送信していた期間が短かったことを示す事情にはなり得ます。ただし、それは侵害の有無ではなく、後で述べる損害の範囲の問題として意味を持つものです。

法律上の基準——侵害は「送信量」ではなく「送信し得る状態」で判断される

著作権法は、著作者に公衆送信権を認め(著作権法23条1項)、その中に、実際の送信の前段階である「送信可能化」を含めています。送信可能化とは、公衆からの求めに応じて自動的に送信(自動公衆送信)し得るようにすることをいい、ネットワークにつながった装置に情報を記録すること、あるいは情報を記録した装置をネットワークに接続すること(送受信用のプログラムの起動などを含みます)が典型として定められています(同法2条1項9号の4・9号の5)。

この定義は、実際に何バイト送られたかを要件にしていません。トレントソフトを起動し、対象ファイルを共有に供した時点で、他のピアからの求めに応じて自動的に送信し得る状態になっていれば、送信可能化に当たると考えられます。アップロード速度の上限やポート開放の有無は、この「送信し得る状態」そのものを否定するものではありません。

裁判例でも、BitTorrentの仕組みそのものに着目した判断が示されています。東京地方裁判所令和7年10月30日判決(令和7年(ワ)第70014号)は、BitTorrentでは発信者が不特定の者からの求めに応じて自動的にファイルを送信する仕組みになっているとして、発信者と調査会社の1対1の通信にすぎないというプロバイダ側の主張を退けています。また、知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決(令和3年(ネ)第10074号)は、ファイルをダウンロードすれば同時に送信可能化していることを認識していたか、容易に認識し得たとして、少なくとも過失があると判断しています。仕組みを知らなかったという主張の扱いは、「意図せず共有していた」という主張と故意・過失の記事で整理しています。

設定だけを理由に侵害を否定した公表裁判例は、本記事の執筆時点で確認できていません。もちろん、「送信が一切起こり得ない設定」が技術的に証明できるような特殊な事案であれば、議論の余地がないとはいえません。しかし、その場合でも、調査会社の記録との関係を具体的に説明する必要があり、設定を主張するだけで足りるものではないと考えられます。

設定の事情が意味を持つ場面——損害額と期間

侵害の成否と、損害の額は別の問題です。ピースの送信について侵害の成立を認めた知的財産高等裁判所令和6年6月26日判決(令和5年(ネ)第10102号)も、それ自体では再生できないピースを保有するにすぎない発信者について、生じた損害は微々たるものにとどまると想定される旨を付言しています。断片(ピース)をめぐる議論は、トレントの断片(ピース)送信と著作権侵害の記事で詳しく解説しています。

この考え方からすると、アップロード速度を制限していたこと、ダウンロード完了後すぐに停止していたこと、利用期間が短かったことなどは、開示後の示談交渉で、請求額の相当性を検討する際の事情になり得ます。もっとも、どの程度考慮されるかは事案によって異なり、設定を理由に必ず減額されるというものではありません。また、そのためには、当時の設定や利用状況を、ある程度客観的に説明できることが望ましいといえます。

回答書で「設定」を書くときの注意点

意見照会書への回答書で設定の話を書くことには、注意すべき点があります。

  • 利用を認める記載になりやすい:「アップロードを制限していた」と書くことは、その時期にBitTorrentを利用していたことを前提とした記載です。発信者であることを争う余地がある事案で書くと、自ら認めたものと受け取られるおそれがあります
  • 当時の設定を裏づけにくい:設定は後から変更でき、照会書に記載された発信日時の時点でどうなっていたかを示すことは容易ではありません。ソフトの設定画面のスクリーンショットや設定ファイルは、変更する前に保存しておくとよいでしょう
  • 開示を止める理由としては弱い:上で見たとおり、設定は送信可能化そのものを否定しにくいため、開示に同意しない理由として前面に出すと、かえって回答書全体の説得力を下げることがあります

回答書にどの主張を、どの順序で、どこまで書くかは、事実関係と照会書の記載内容によって変わります。回答書の作成を含む意見照会段階の対応は、当事務所の意見照会対応のページでご案内しています。BitTorrentに特化した対応の流れや弁護士費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページにまとめています。

よくある質問

アップロード速度を最小限に制限していれば、著作権侵害にはなりませんか。

制限していても、送信の量が少なくなるだけで、送信がなくなるわけではありません。著作権法は、実際に送信された量ではなく、自動的に送信し得る状態にしたこと(送信可能化)を侵害行為として定めているため、速度の制限だけで侵害を否定することは難しいと考えられます。制限していた事実は、損害額を検討する場面での事情の一つとして整理するのが現実的です。

ポート開放をしていなかったので、外部から接続されることはなかったはずですが。

ポートを開放していない場合でも、自分のソフトから他の利用者に接続しに行った通信の中で、データは双方向に流れます。BitTorrentの仕様書は、利用者同士の接続は対称的であり、データはどちらの方向にも流れ得ると定めています。そのため、ポート未開放であることだけで送信がなかったと主張するのは難しいと考えられます。

ダウンロードが終わったらすぐに停止していました。シードはしていません。

BitTorrentでは、ダウンロードの途中でも、取得済みのピースを他の利用者に送信する仕組みになっています。完了後にシードしなかったことは、送信していた期間が短いことを示す事情にはなり得ますが、送信そのものがなかったことの根拠にはなりにくいと考えられます。

設定のことを回答書に書けば、開示を止められますか。

設定の主張だけで開示が止まる可能性は高くないと考えられます。また、設定の内容を詳しく書くことは、BitTorrentを利用していた事実を前提とした記載になり、発信者であることを自ら認めたものと受け取られるおそれがあります。書くかどうか、どこまで書くかは、回答書全体の方針の中で慎重に判断する必要があります。

まとめ|設定は「侵害の有無」ではなく「損害の程度」の問題として整理する

アップロード制限、ポート未開放、シードしない設定は、いずれも送信の量や機会を減らすものにすぎず、BitTorrentの接続が双方向であることや、ダウンロード中にも送信が行われることからすると、送信そのものをなくす設定ではありません。著作権法は「送信し得る状態にしたこと」を侵害行為としているため、設定だけを理由に侵害や開示を争うのは難しいと考えられます。

他方で、設定や利用期間の事情は、開示後の損害額の検討では意味を持ち得ます。大切なのは、主張する場面を取り違えず、回答書では利用を前提とした記載のリスクにも配慮して方針を決めることです。技術的な事情を含む事案では、仕組みを理解したうえで組み立てる必要があります。横浜の当事務所では、遠方の方からのご相談にもオンラインで対応しています。

BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちら

トレントの設定に気を配っていたのに意見照会書が届いた方へ

タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応を数多く取り扱っております。ITエンジニアの経験を持つ弁護士が、ソフトの設定や通信の仕組みを踏まえて事実関係を整理し、回答書の作成から開示後の示談交渉まで対応します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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