タングラム法律事務所

VPN・シードボックス経由でも開示請求は来るのか|トレント意見照会

VPN・シードボックス経由でも開示請求は来るのか|トレント意見照会

VPN・シードボックス経由でも開示請求は来るのか|トレント意見照会

VPN・シードボックス経由でも開示請求は来るのか|トレント意見照会

VPN・シードボックス経由でも開示請求は来るのか|トレント意見照会

「VPNを使っていたのだから、自分のIPアドレスが記録されるはずがない」——BitTorrent(トレント)に関する意見照会書を受け取った方から、最も多く寄せられるお声のひとつです。有料のVPNを契約し、あるいは海外のシードボックスを経由していたにもかかわらず、契約するプロバイダから自宅回線の契約者情報について照会が届いたとなれば、何かの間違いではないかとお考えになるのも無理はありません。

しかし残念ながら、VPNやシードボックスを利用していたことをもって、意見照会書の記載が誤りであると直ちに結論づけることはできません。この記事では、VPNを経由していたはずなのに自宅回線のIPアドレスが記録されてしまう仕組み、シードボックスを使っていた場合の法的な位置づけ、そして「VPNを使っていた」という説明を理由回答書に書くことの意味とリスクについて、発信者(照会を受けた側)の立場から整理して解説します。

VPNを使っていたのに意見照会書が届くのはなぜか

まず前提を確認します。意見照会は、著作権者が情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条1項に基づいてプロバイダに発信者情報の開示を求めた際に、プロバイダが同法6条1項に基づいて発信者の意見を聴く手続です。プロバイダは、権利者が提出したIPアドレスと発信日時(タイムスタンプ)を自社の接続記録と突き合わせ、その時刻にそのIPアドレスを割り当てられていた契約者を特定したうえで、その契約者に照会書を送付しています。

つまり、意見照会書が届いたということは、権利者側の監視システムが記録したIPアドレスが、VPN事業者のものではなく、ご自宅の回線に割り当てられていたものであったことを意味します。VPNが正常に機能していれば、他のピア(トレントで接続している相手方)から見えるのはVPN事業者のIPアドレスであり、自宅回線のIPアドレスが記録されることは通常ありません。それにもかかわらず照会が来ているということは、当該発信日時において、VPNを経由しない通信が生じていた可能性が高いということになります。

まず確認していただきたいのは、意見照会書に記載された発信日時(多くはUTC=協定世界時で記載されており、日本時間はこれに9時間を加えた時刻です)と、その時刻にご自身がVPNを利用していたかどうかです。この照合が、その後のすべての検討の出発点になります。

VPN経由でもIPアドレスが記録される典型的な経路

実務上、VPNを契約していた方に照会が届く原因としては、次のようなものが考えられます。技術的な話になりますが、ご自身のケースがどれに当たるかを把握しておくと、その後の対応方針が立てやすくなります。

原因内容
VPN接続の一時的な切断回線の不安定さやサーバー側の都合でVPN接続が一瞬でも切れると、その瞬間からトレントのクライアントソフトは自宅回線で通信を再開します。トレントは長時間にわたり自動でアップロードを続けるため、就寝中や外出中の切断に気づかないことが多くあります。
キルスイッチが無効だったキルスイッチは、VPN接続が切れた際にすべての通信を遮断する機能です。多くのVPNソフトで初期設定では無効になっており、有効化していなければ切断時にそのまま自宅回線での通信が続きます。
クライアント側のバインド設定漏れトレントのクライアントソフトには、通信に使うネットワークアダプタをVPNの仮想アダプタに固定する設定があります。この設定をしていない場合、VPNの状態にかかわらず通常回線が使われることがあります。
IPv6・DNSの漏れVPNがIPv4のみを保護する設定になっていると、IPv6の通信が自宅回線から直接出ていく場合があります。DNSの問い合わせが保護されないケースも同様です。
VPNを使っていない時期の通信VPNを契約する前や、契約を更新せず失効していた期間の通信が対象とされている場合です。トレントのクライアントソフトはパソコンの起動と同時に自動起動する設定になっていることが多く、利用者の意識と実際の稼働状況がずれることは珍しくありません。

いずれの場合も、共通しているのは「利用者が意図していない時間帯に、意図していない経路で送信が行われていた」という点です。この点は、故意・過失の程度や、開示後の損害額の交渉において意味を持つことがあります。ただし、意図していなかったという事情は侵害の成否そのものを否定するものではなく、あくまで賠償額や交渉の局面で考慮され得る要素にとどまる点には注意が必要です。

シードボックスを利用していた場合はどう考えるか

シードボックス(seedbox)は、海外のデータセンター上に置かれたサーバーでトレントのクライアントソフトを動作させ、利用者はそこにダウンロードされたファイルを別途取得するというサービスです。この場合、他のピアから見えるIPアドレスはシードボックス事業者のものであり、原理的には自宅回線のIPアドレスが記録されることはありません。

それにもかかわらず意見照会書が届いている場合、考えられるのは、①シードボックスを利用していなかった時期・作品についての照会である、②シードボックスとは別に自宅のパソコンでもクライアントソフトが稼働していた、③シードボックスからファイルを取得する際に使っていた別の手段が記録された、といった可能性です。ここでも、発信日時とご自身の利用状況の照合が要になります。

「サーバーが海外にあるから日本法は適用されない」といえるか

シードボックスの利用が実際にあった場合であっても、サーバーの所在地が海外であることをもって、日本の著作権法の適用が当然に否定されるわけではありません。日本国内から日本の著作物を対象として操作し、日本国内の公衆に向けて送信可能な状態を作出していたと評価される場合には、日本法により判断される余地は十分にあります。

また、シードボックスは利用者の指示に従って動作する道具にすぎないと評価され、著作権法2条1項9号の5にいう送信可能化の主体は、サーバーを設置した事業者ではなく利用者であると判断される可能性があります。送信可能化権(著作権法23条1項)の侵害が成立するかどうかは、誰がその状態を作り出し、誰が管理・支配していたかという観点から検討されます。「自分は日本にいて操作しただけで、送信していたのはサーバーだ」という説明は、それ自体で責任を免れる主張にはなりにくいのが実情です。

なお、そもそも「ダウンロードしただけでアップロードはしていない」という主張がどこまで通用するかについては、「ダウンロードしただけ」は通用するか|トレント開示請求と送信可能化権で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

理由回答書に「VPNを使っていた」と書くべきか

ここが、意見照会段階で最も判断を誤りやすいところです。「VPNを使っていたのだから自分ではない」と書けば開示を防げるのではないか、とお考えになる方は少なくありません。しかし、この説明には二つの構造的な問題があります。

問題1:ファイル共有ソフトの利用自体を認めることになりかねない

「トレント利用のためにVPNを契約していた」という説明は、裏を返せば、その時期にトレントを利用していたことを前提とする説明です。発信者性(その通信を行ったのが自分であること)を否認したいはずが、かえって侵害行為との結びつきを自ら示してしまう結果になり得ます。開示を求める側にとっては、その回答自体が有力な資料になります。

問題2:反論として噛み合っていない

プロバイダが照会をしているのは、自社の接続記録上、当該日時に当該IPアドレスを割り当てられていたのがその契約者だったからです。VPNを契約していたという事実は、この接続記録の正確性を直接争うものではありません。前述のとおり、VPNの切断やキルスイッチ未設定によって自宅回線のIPアドレスが記録される経路が現に存在する以上、「VPNを使っていた」という一事では、記録が誤りであるという結論には至らないのです。

もっとも、これは「VPNの話を一切書いてはいけない」という意味ではありません。たとえば、発信日時に自宅にいなかった、当該端末を使用していなかった、回線を第三者と共用していたなど、発信者性そのものを争う事情があるのであれば、その主張の一部として通信の状況に触れることに意味がある場合もあります。ご家族や同居人が利用していた可能性がある場合の考え方については、トレント開示請求|家族・同居人が使っていた場合、発信者性は否認できるかで整理しています。

いずれにせよ、理由回答書は後の示談交渉や訴訟でも証拠として参照され得る書面です。書かなくてよいことを書いてしまうと、後から取り消すことはできません。横浜の当事務所が扱う意見照会対応のページでも触れているとおり、何を書き、何を書かないかの取捨選択こそが、この段階の実質的な作業です。BitTorrentの意見照会書が届いた方に向けた対応の流れは、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページにまとめています。

VPN事業者にログの開示が求められることはあるか

「権利者がVPN事業者にログの開示を求め、そこから自分にたどり着くのではないか」というご心配もよく伺います。理論上その可能性は否定できませんが、日本のトレント案件においてVPN事業者を相手方とする手続が広く用いられているとはいえません。相手方が海外法人である場合の送達の負担や、いわゆるノーログポリシーを掲げ接続記録を保存していないと表明する事業者が多いことなどが理由です。

ただし、この点は「VPNを使えば特定されない」ということを意味しません。現に意見照会書が届いているということは、VPN事業者を経由せずに自宅回線のIPアドレスが記録された経路が別に存在したということです。実務上重要なのは、VPN事業者への手続の可能性ではなく、目の前の照会にどう答えるかです。

意見照会段階でやっておくべきこと

VPNやシードボックスを利用していた方が、意見照会書を受け取った段階で確認・準備しておくとよい事項を整理します。

  • 発信日時の確認:照会書記載の日時(UTC表記であれば9時間を加算)と、当時の自身の所在・端末の稼働状況を照合する
  • VPNの契約履歴の保存:契約開始日・解約日、請求明細、プランの内容を確認できる資料を手元に残す
  • 設定状況の記録:キルスイッチの有効・無効、クライアントソフトのバインド設定、IPv6の扱いなど、当時の設定がわかる画面を保存する
  • 回線の利用状況の整理:同居人の有無、Wi-Fiのパスワード管理、端末の共用状況など、発信者性に関わる事実を書き出す
  • 回答期限の確認:期限は2週間程度と短いことが多く、期限を過ぎると意見を述べる機会を失うおそれがあります

これらの資料は、そのまま提出するかどうかとは別に、方針を立てるうえで必要な材料です。提出することでかえって不利な事実を明らかにしてしまう資料もあるため、提出の要否は個別に判断する必要があります。開示に同意しない旨を回答した後にどのような手続が続くのかについては、「開示に同意しない」と回答した後の流れ|トレント発信者情報開示をご覧ください。

よくある質問

VPNを使っていたのに意見照会書が届きました。何かの間違いではないですか。

間違いである可能性はゼロではありませんが、多くの場合は、VPN接続が切れていた時間帯や、VPNを経由しない設定になっていた通信が記録されています。VPN接続が一瞬でも途切れると、その瞬間にトレントのクライアントソフトが自宅回線のIPアドレスで通信を行い、権利者側の監視システムに記録されることがあります。まずは意見照会書に記載された発信日時と、ご自身のVPNの利用状況・設定を照らし合わせて確認することが出発点になります。

理由回答書に「VPNを使っていたので自分ではない」と書けば開示を避けられますか。

その記載だけで開示が避けられるとは考えにくく、かえって不利に働く可能性があります。VPNを使っていたという説明は、ファイル共有ソフトを利用していた事実そのものを認める前提になりかねないためです。VPNの利用に触れるかどうか、触れるとしてどのような文脈で述べるかは、意見照会書に記載された発信日時や対象作品との関係を踏まえて、慎重に判断する必要があります。

海外のシードボックスを使っていた場合、日本の法律は適用されませんか。

サーバーが海外にあることをもって、日本の著作権法の適用が当然に否定されるわけではありません。日本国内から日本の著作物を対象として操作していた場合、日本の裁判所で日本法により判断される可能性は十分にあります。また、シードボックスはあくまで利用者の指示で動作する道具にすぎないと評価され、送信可能化の主体は利用者であると判断される余地があります。

VPNの契約や設定の記録は残しておいたほうがよいですか。

残しておくことをおすすめします。VPN事業者の契約履歴や請求明細、接続ログのスクリーンショットなどは、発信日時における通信の状況を検討するうえで手がかりになります。ただし、これらの資料をそのまま提出すべきかどうかは別の判断であり、提出することで不利な事実を自ら明らかにしてしまう場合もあります。提出の要否は弁護士と相談して決めることをおすすめします。

まとめ

VPNやシードボックスを利用していたとしても、意見照会書が届いている以上、自宅回線のIPアドレスが権利者側の監視システムに記録された経路が存在したことになります。VPN接続の一時的な切断、キルスイッチの未設定、クライアントソフトのバインド設定漏れ、IPv6の漏れなど、利用者が意図しないかたちで通信が発生する経路は複数あります。

そして、「VPNを使っていた」という説明は、それだけでは開示を避ける主張として噛み合わないばかりか、ファイル共有ソフトの利用自体を認める前提として受け取られるおそれがあります。理由回答書は後の交渉や訴訟でも参照され得る書面であり、事実の取捨選択を誤ると、後から取り返しがつきません。VPNや海外サーバーの利用があった事案ほど、技術的な経過を正確に把握したうえで、どこまでを書面に載せるかを設計する必要があります

タングラム法律事務所は横浜・山下公園にある法律事務所で、BitTorrentに関する発信者情報開示について、照会を受けた側(発信者側)の立場からの対応を数多く取り扱っています。ネットワークの技術的な仕組みを踏まえた検討が必要な事案についても、弁護士がご事情を伺ったうえで方針をご提案します。意見照会書が届いた方の対応の流れは、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページをご覧ください。

VPN・シードボックスを使っていたのに意見照会書が届いた方へ

タングラム法律事務所では、BitTorrentに関する発信者情報開示の意見照会について、発信者側の立場からの対応に豊富な実績を有しております。回答期限は2週間程度と短く、書面の内容はその後の示談交渉や訴訟にも影響します。お早めにご相談ください。

BitTorrent案件のご相談はこちら

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

発信者情報開示請求・削除請求について見る

意見照会書や損害賠償請求の通知が届いた方へのご案内

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。