タングラム法律事務所

与信管理のやり方|取引先の未回収を防ぐ債権保全策を弁護士が解説

与信管理のやり方|取引先の未回収を防ぐ債権保全策を弁護士が解説

与信管理のやり方|取引先の未回収を防ぐ債権保全策を弁護士が解説

与信管理のやり方|取引先の未回収を防ぐ債権保全策を弁護士が解説

与信管理のやり方|取引先の未回収を防ぐ債権保全策を弁護士が解説

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月16日 最終更新日:2026年10月16日

「新しい取引先から大口の注文が入ったが、支払能力が分からない」「長年の取引先の入金が最近遅れがちで不安だ」――売掛金の未回収は、資金繰りに余裕のない中小企業にとって経営を揺るがしかねない問題です。しかし、いざ未払いが起きてから回収に動いても、相手方に財産が残っていなければ回収は困難になります。

この記事では、取引先の支払能力を見極めて取引条件を決める「与信管理」の具体的なやり方と、契約書・担保・保証による債権保全策を、横浜の弁護士が中小企業向けに整理します。

結論として、与信管理は「取引前の信用調査」「与信限度額の設定と定期的な見直し」「契約書の債権保全条項と担保・保証の確保」の3段階で進めるのが基本です。未払いが発生してからできることには限りがあるため、取引を始める段階で、期限の利益喪失条項・所有権留保・相殺の条項を契約書に入れ、取引規模に応じて保証や担保を取り付けておくことが、売掛金を守るうえで最も効果的です。

与信管理とは|売掛金の未回収は「取引前」に防ぐ

与信管理とは、取引先にどれだけの「信用」(代金後払いの猶予)を与えるかを判断し、その範囲内で取引を管理することをいいます。掛取引(後払い)は、実質的には取引先に代金相当額を貸しているのと同じです。

売掛金の回収手段としては、内容証明郵便による督促、支払督促、訴訟、強制執行などがありますが、これらはいずれも相手方に財産があることが前提です。取引先が倒産すれば、一般の売掛金は破産手続の配当でわずかしか回収できないことも珍しくありません。そのため、「回収」よりも前の「保全」の段階で手を打つことが重要になります。

与信管理のやり方①|取引開始前の信用調査

新規取引を始める前に、少なくとも次の事項を確認します。

調査項目確認のポイント
登記事項証明書設立時期、資本金、役員、本店所在地。短期間に役員や本店、商号が頻繁に変わっていないか
決算書売上・利益の推移、債務超過の有無。取引規模が大きい場合は提出を依頼する
不動産登記本店や代表者自宅の所有関係、抵当権・差押えの登記の有無
信用調査会社の報告書評点、支払状況、業界内の評判。重要な取引では利用を検討する
反社会的勢力との関係記事検索や表明確約書の取り付け

反社会的勢力との関係の確認方法は「反社チェックのやり方|取引先の調べ方と該当時の対応」で詳しく解説しています。調査した内容は、日付と担当者を付けて記録に残しておきます。

与信管理のやり方②|与信限度額の設定と見直し

調査結果をもとに、取引先ごとに「与信限度額」(売掛金残高の上限)を設定します。決め方に法律上の決まりはありませんが、取引先の規模や財務内容、自社の資金繰りへの影響(回収できなかった場合に耐えられる額か)を踏まえて社内基準を作り、限度額を超える受注は決裁権者の承認を要するといったルールにしておくのが一般的です。

与信限度額は一度決めたら終わりではありません。少なくとも年1回は見直し、次のような兆候があれば随時見直します。

  • 支払期日の遅れ、支払額の一部だけの入金、支払条件の変更(期日の延長、分割払い)の申入れ
  • 経理担当者や代表者の交代、本店の移転
  • 急な大量発注や、これまでと異なる商品の発注

兆候があれば、限度額の引下げ、前払い・現金取引への切替え、出荷の一時停止などを検討します。ただし、契約上の根拠なく一方的に出荷を止めると、自社が債務不履行の責任を問われるおそれがあるため、次に述べる契約条項をあらかじめ整えておくことが大切です。

契約書で備える債権保全条項|期限の利益喪失・所有権留保・相殺

継続的な取引では、取引基本契約書に次の条項を入れておくことが債権保全の土台になります。

期限の利益喪失条項

取引先が支払を1回でも怠った場合や、差押え・破産手続開始の申立て等があった場合に、まだ支払期日が来ていない売掛金も含めて直ちに支払わなければならなくなる旨の条項です。民法137条は期限の利益を失う場合を破産手続開始の決定等に限定しているため、より早い段階で請求できるよう、契約で事由を広く定めておく意味があります。

所有権留保条項

商品の所有権を、代金が完済されるまで売主に留保する条項です。取引先が代金を支払わないまま経営が悪化した場合に、商品の引揚げなどを検討する根拠になります。ただし、商品が転売・加工されると効力が及ばなくなることがあり、引揚げにも相手方の同意など適法な手続が必要です。なお、2025年6月6日に「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(令和7年法律第56号)が公布され、所有権留保の効力や実行手続のルールが法律で定められました。施行は公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされているため、契約書の見直しの際は施行日と内容を確認してください。

相殺・出荷停止に関する条項

自社が取引先に対して支払うべき債務(買掛金など)がある場合、売掛金と相殺することで実質的に回収できます。期限の利益喪失条項と組み合わせることで、相殺できる場面が広がります。差押えを受けた後でも、差押え前に取得していた債権であれば相殺を差押債権者に対抗できるとされています(民法511条1項)。あわせて、支払遅延時に出荷や役務提供を停止できる旨を定めておけば、未回収額の拡大を防ぐことができます。

契約書の作成・見直しを含む当事務所の企業法務の取扱内容は、企業法務(契約書・債権回収・顧問)のページをご覧ください。

担保・保証による債権保全|個人保証は極度額に注意

取引額が大きい場合や信用に不安がある場合は、担保や保証の取付けを検討します。

  • 代表者の連帯保証:継続的取引の売掛金を個人が保証する「個人根保証契約」は、極度額(保証の上限額)を書面等で定めなければ効力を生じません(民法465条の2第2項・3項)。また、事業のために負担する債務について保証を委託する際には、主たる債務者が保証人となる者に財産・収支の状況等の情報を提供する義務があり(民法465条の10)、これを怠ると保証契約が取り消されるおそれがあります
  • 保証金・前受金:取引開始時に保証金を預かる、初回取引は前払いとするなど、実務的で効果の高い方法です
  • 物的担保:不動産への根抵当権の設定、在庫や売掛金を目的とする譲渡担保など。登記等の対抗要件の具備が必要です
  • 取引信用保険・ファクタリング:取引先の倒産等による損失を保険でカバーし、又は売掛金を売却する方法です。費用と補償範囲を比較して検討します

支払が遅れ始めたときの初動対応

与信管理を尽くしても、支払遅延が起きることはあります。その場合は次の順で速やかに動きます。

  1. 事実確認と督促:電話・メールで遅延理由と支払予定を確認し、記録を残す
  2. 取引条件の変更:出荷停止、前払いへの切替え、新規受注の見合わせ
  3. 債務の承認と支払計画の書面化:分割払いに応じる場合は、債務承認書や公正証書を作成する(「公正証書を自分で作る方法|売掛金回収に使う手順・費用」参照)
  4. 相殺・商品の引揚げの検討:契約条項に基づき、適法な方法で行う
  5. 法的手続:相手方が財産を処分するおそれがある場合は、訴訟の前に仮差押えを検討する(「売掛金を仮差押えで回収する方法|要件・流れ・費用」参照)

与信管理に関するよくある質問

小規模な会社でも与信管理は必要ですか?

はい。むしろ取引先の数が少ない小規模な会社ほど、1社の未回収が資金繰りに与える影響は大きくなります。登記の確認や与信限度額の設定、契約書の整備など、費用をかけずにできることから始めることをおすすめします。

長年取引している相手にも与信管理は必要ですか?

必要です。取引先の経営状態は変化するため、付き合いの長さにかかわらず、年1回程度の見直しと、支払遅延等の兆候があった場合の随時の見直しを行うことが望まれます。

代表者に連帯保証を求める場合の注意点は何ですか?

継続的な取引の売掛金を個人が保証する根保証では、保証の上限となる極度額を契約書に明記しなければ保証契約は無効となります(民法465条の2)。また、保証人となる者への財産状況等の情報提供(民法465条の10)がされたかも確認しておくことが重要です。

支払が遅れている取引先への出荷を止めてもよいですか?

契約書に支払遅延時の出荷停止や期限の利益喪失の定めがあれば、それに基づいて停止できる可能性があります。定めがない場合は、民法上の同時履行の抗弁などで対応できるかを個別に検討する必要があり、一方的な停止は損害賠償を請求されるリスクがあるため、事前に弁護士へご相談ください。

まとめ|与信管理は契約書の整備から

  • 与信管理は「信用調査」「与信限度額の設定と見直し」「契約条項・担保・保証による保全」の3段階で進める
  • 取引基本契約書に期限の利益喪失・所有権留保・相殺・出荷停止の条項を入れておく
  • 個人根保証は極度額の定めが必須で、情報提供義務にも注意する
  • 所有権留保については譲渡担保法(令和7年法律第56号)の施行日と内容を確認する
  • 支払遅延の兆候があれば、取引条件の変更と書面化、仮差押え等の検討を速やかに行う

与信管理の仕組みや契約書の保全条項は、事業の内容や取引の実態に合わせて設計する必要があります。弁護士に相談することで、自社の取引に合った契約書の整備や、支払遅延が起きた際の迅速な法的対応が可能になります。横浜の弁護士として、中小企業の債権管理を契約書の段階から支援しています。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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