乗っ取りアカウントが取り戻せないときの削除仮処分|弁護士が解説
乗っ取りアカウントが取り戻せないときの削除仮処分|弁護士が解説
ある日突然ログインできなくなり、登録メールアドレスも電話番号も書き換えられていた。運営会社の復旧手続を何度試しても戻らないまま、自分の名前と写真のアカウントから知人に怪しいDMが送られ続けている――。乗っ取りの被害は、アカウントを失うだけでなく、周りの人を巻き込みながら広がっていく点に怖さがあります。
取り戻すことができないのであれば、せめてアカウントを消して被害を止めたい。そう考えたときの法的な手段が、裁判所の削除仮処分です。この記事では、乗っ取られたアカウントの削除を裁判所に求める仕組み、認められるための要件、用意すべき証拠と手続の流れを、弁護士の立場から解説します。
乗っ取りアカウントが「取り戻せない」典型的な状況
X(旧Twitter)やInstagramには、乗っ取られたアカウントを取り戻すための公式の窓口があります。まずはこれを試すのが原則ですが、次のような状況では復旧が難しくなりがちです。
- 登録メールアドレスと電話番号の両方が第三者のものに変更され、パスワード再設定の連絡が本人に届かない
- 第三者が二段階認証を設定し、本人側からは認証を突破できない
- サポートに問い合わせても定型文の返信しか来ず、本人確認が進まない
- アカウントが凍結・停止され、異議申立てをしても解除されない
この状態で、アカウントが詐欺の勧誘や偽の販売、不審なリンクの拡散に使われている場合、時間が経つほど被害は広がります。そこで検討するのが、運営会社に対してアカウントの削除を求める裁判手続です。
削除仮処分とは――裁判所が運営会社に削除を命じる手続
仮処分は、正式な裁判(訴訟)の結論を待っていては回復しがたい損害が生じる場合に、暫定的な措置を裁判所に命じてもらう手続です。民事保全法では、争いのある権利関係について「著しい損害又は急迫の危険」を避けるために必要なときに、仮の地位を定める仮処分を発することができるとされています(民事保全法23条2項)。
乗っ取りの場面では、本人の氏名や写真を掲げたアカウントが本人の意思に反して使われ続けていることを、氏名権・肖像権などの人格権の侵害として構成し、アカウントを管理する運営会社に削除を命じるよう求めます。訴訟に比べて早期に結論が出る点が、被害の拡大を止めたい乗っ取り事案に向いています。
| 項目 | 削除仮処分 | 削除請求訴訟 |
|---|---|---|
| 向いている事案 | 乗っ取られ、不正な運用が続いている | ログイン情報の失念、悪用が始まっていない乗っ取り |
| 結論までの期間 | 比較的短い | 長期になりやすい |
| 担保金 | 裁判所が定める額の供託が必要 | 不要 |
X・Instagramなど主要SNSごとの対応の違いは、掲示板・SNS別の削除・投稿者特定のページでも整理しています。
削除が認められるための2つの要件
仮処分では、申立てをする側が「被保全権利」と「保全の必要性」の2つを疎明(一応確からしいと裁判官に示すこと)する必要があります(民事保全法13条)。
1. 被保全権利――本人のアカウントであること
最も重要なのは、そのアカウントをご本人が開設し、使っていたことを示すことです。乗っ取られた後はプロフィールや投稿が書き換えられていることも多いため、乗っ取り前の状態を示す資料が決め手になります。
2. 保全の必要性――被害が今も続いていること
仮処分は急ぐ必要がある場合の手続なので、第三者による不正な運用が続いており、放置すると損害が広がることを示す必要があります。反対に、乗っ取られてはいるものの投稿やDMなどの悪用がまだ見られない場合は、仮処分ではなく訴訟を選ぶことになります。
申立ての前に用意したい証拠
ご本人が早い段階で集めておくほど、手続を進めやすくなります。
| 証拠の種類 | 具体例 | 示せること |
|---|---|---|
| 本人性を示す資料 | 過去の投稿に使った写真の元データ、登録していたメールアドレス、運営会社からの通知メール | ご本人が開設者であること |
| 乗っ取りの経過 | 「メールアドレスが変更されました」等の通知、ログイン不能の画面 | 無断で登録情報が変更されたこと |
| 被害の状況 | 不審な投稿・DMのスクリーンショット(URLと保存日時がわかる形)、知人からの連絡 | 不正な運用が続いていること |
| 対応の経過 | 運営会社への通報・問い合わせと返信、警察への相談の記録 | 自力では解決できなかったこと |
特に、写真の元データには撮影日時などの情報が残っていることがあり、乗っ取り前からご本人がそのアカウントを使っていたことを裏づける有力な資料になります。スマートフォンやクラウドに残っていないか、早めに確認してください。
削除仮処分の流れ
- 法律相談:経緯と手元の資料を伺い、仮処分と訴訟のどちらが適しているかを判断します。
- 資料の整理と陳述書の作成:本人性・乗っ取りの経過・被害状況を整理し、ご本人の陳述書にまとめます。
- 申立て:運営会社を相手方として、削除仮処分命令の申立てを行います。海外企業が相手方となる場合は、書類の翻訳や送付に時間を要することがあります。
- 審尋:裁判官との面談や、相手方の意見を聴く手続が行われます。
- 担保金の供託と発令:裁判所が定める担保金を供託し、削除命令が発令されます。担保金は手続の終了後、担保取消の手続により返還されるのが一般的です。
- 削除の確認:運営会社による削除(閲覧できない状態になったこと)を確認します。
知っておきたい注意点
- 削除すると元には戻りません。フォロワーや過去の投稿も失われます。取り戻すことを優先したいのか、被害を止めることを優先したいのかを最初に整理しておくことが大切です。
- 犯人の特定とは別の手続です。乗っ取りは海外からのアクセスによるものが多く、発信者情報開示請求をしても特定に至らない事案が少なくありません。当事務所では、被害を止めることを最優先に、削除を中心とした手続をご提案しています。
- 結果をお約束できる手続ではありません。証拠の内容によっては、削除が認められない可能性もあります。
他人がご本人になりすまして作った偽アカウントの場合は、考え方が少し異なります。こちらはSNSのなりすまし・偽アカウント被害への法的対処法で解説しています。
よくある質問
乗っ取られてから時間が経っていても、削除仮処分はできますか?
不正な運用が現在も続いていれば、仮処分を検討できます。一方で、乗っ取り後に目立った悪用がなく時間が経っている場合は、保全の必要性を示しにくいため、訴訟による削除請求を検討することになります。
警察に相談すれば、アカウントを消してもらえますか?
他人のアカウントに無断でログインする行為は、不正アクセス禁止法違反となる可能性があり、警察への相談は大切です。ただし、刑事手続は犯人の処罰を目的とするもので、アカウントの削除が当然に実現するわけではありません。削除を求めるには、別途、運営会社に対する手続が必要です。
自分が作ったアカウントだと証明できる資料が少ない場合はどうなりますか?
写真の元データ、登録していたメールアドレスの受信履歴、知人の証言など、複数の資料を組み合わせて立証を検討します。どの資料が使えるかは事案によって異なるため、ご相談時に一緒に確認します。
削除されるまで、どのくらいの期間がかかりますか?
事案や相手方によって異なりますが、運営会社が海外企業である場合は書類の送付等に時間を要するため、数か月単位の期間を見込むのが一般的です。
まとめ
乗っ取られたアカウントが取り戻せず、不正な運用が続いている場合には、裁判所の削除仮処分によって運営会社に削除を求める方法があります。認められるかどうかは、ご本人が開設者であることと、被害が今も続いていることをどれだけ具体的に示せるかにかかっています。
写真の元データや通知メールなど、本人性を示す資料は時間とともに失われやすいものです。取り戻すことが難しいと感じた段階で、早めに弁護士へご相談ください。横浜の当事務所では、オンラインで全国からのご相談をお受けしています。
乗っ取られたアカウントの削除手続・費用の詳細は、乗っ取られた・ログインできないSNSアカウントの削除請求のページをご覧ください。
乗っ取られたアカウントの削除でお困りの方へ
横浜のタングラム法律事務所では、X・Instagram等のSNSアカウントの削除請求や、インターネット上の権利侵害への対応に継続的に取り組んでいます。取り戻せないアカウントの削除について、手続の見通しと費用をご説明します。オンラインでのご相談にも対応しています。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。