未支給年金と遺族年金の相続
「年金も相続できる?」未支給年金・遺族年金と相続の関係を横浜の弁護士が解説
親や配偶者が亡くなったとき、年金に関して「まだ受け取っていなかった年金はどうなるの?」「遺族年金は遺産の一部として分けなければいけない?」と疑問に思う方は少なくありません。年金は毎月の生活を支える重要な収入ですが、相続手続きの中でどう扱われるかは一般にあまり知られていません。
本記事では、「未支給年金」と「遺族年金」のそれぞれについて、相続財産との関係、遺産分割や遺留分への影響、相続放棄との関係、請求手続きの流れを、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
未支給年金とは何か
年金は偶数月(2・4・6・8・10・12月)にその前2か月分が支払われる仕組みです。そのため、受給権者が亡くなった時点で、すでに受け取る権利があったにもかかわらず、まだ支払われていない年金が発生します。これを「未支給年金」といいます。
たとえば、7月5日に亡くなった場合、6月分・7月分の年金が翌8月の支払日(8月15日)に振り込まれるはずでしたが、この方はすでに亡くなっています。このとき、6月分(亡くなる前の月)・7月分(亡くなった月)の年金が「未支給年金」として残ることになります。
未支給年金の根拠条文は国民年金法第19条(厚生年金保険法では第37条)に規定されており、「年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の遺族は、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる」とされています。
未支給年金は相続財産ではない
重要なポイントは、未支給年金は故人(被相続人)の「相続財産」には該当しないという点です。
相続財産とは、被相続人が死亡時に有していた財産(預貯金・不動産・株式など)のことをいいます(民法第896条)。これに対して、未支給年金を請求する権利は、一定範囲の遺族が「自己固有の権利」として法律上直接付与されるものです。つまり、いったん被相続人の財産に帰属したうえで相続されるのではなく、遺族が死亡という事実に基づいて独自に取得する「固有財産」として扱われます。
このため、未支給年金は次のような性質を持ちます。
- 遺産分割協議の対象とならない
- 遺留分侵害額請求の基礎となる「みなし相続財産」にも算入されない
- 相続放棄をした人でも請求・受領できる
未支給年金の受給権者と優先順位
未支給年金を請求できるのは、故人と「生計を同じくしていた」一定範囲の遺族に限られます。死亡した受給権者と別居していた場合は、生活費の仕送りの有無や実態によって「生計同一」が判断されます。
請求できる者の優先順位は国民年金法第19条により以下のとおり定められています。
| 順位 | 続柄 |
|---|---|
| 第1順位 | 配偶者 |
| 第2順位 | 子 |
| 第3順位 | 父母 |
| 第4順位 | 孫 |
| 第5順位 | 祖父母 |
| 第6順位 | 兄弟姉妹 |
| 第7順位 | 上記以外の三親等内の親族 |
上位順位の者が存在する場合、下位順位の者は請求できません。また、請求できる遺族が複数いる場合は、その代表者が請求書を提出することになります。
未支給年金の請求手続きと時効
未支給年金の請求には「年金受給権者死亡届(報告書)兼未支給年金・未支払給付金請求書」を、死亡した受給権者の年金事務所または年金相談センターに提出します。提出期限は、年金受給権者の年金の支払日の翌月の初日から5年以内です。5年が経過すると時効により請求権が消滅するため、速やかに手続きを行うことが大切です。
提出時に必要な主な書類は、故人の年金証書、死亡の事実を明らかにできる書類(戸籍謄本・住民票の除票など)、請求者と故人の続柄・生計同一を確認できる書類などです。手続きに不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士に相談することをお勧めします。
遺族年金とは何か
遺族年金とは、年金に加入していた方が亡くなったとき、その遺族に支給される年金です。国民年金から支給される「遺族基礎年金」と、厚生年金から支給される「遺族厚生年金」の2種類があります。
遺族基礎年金
遺族基礎年金は、国民年金や厚生年金の被保険者(または受給権者)が死亡した場合に、故人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に支給されます。ここでいう「子」とは、18歳到達年度の末日(3月31日)までの子、または20歳未満で障害等級1・2級に該当する子をいいます。2026年度の年金額は年額847,300円で、第1子・第2子には各243,800円が加算されます。
遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者であった方が亡くなったとき、その遺族(配偶者・子・父母・孫・祖父母)に支給されます。支給額は故人の報酬比例部分の4分の3相当額が基本です。なお、2025年(令和7年)に成立した法改正により、子のいない配偶者への遺族厚生年金は、2028年(令和10年)4月から原則5年間の「有期給付」に改められる予定です(現在は終身)。ただし60歳以上で配偶者を亡くした場合など一定の要件を満たす場合は継続給付が認められます。
遺族年金も相続財産ではない
遺族年金も、未支給年金と同様に相続財産ではなく、受給権者の固有財産です。根拠は厚生年金保険法・国民年金法に定められており、遺族年金受給権は受給権者が法律上直接取得する権利であって、被相続人の財産ではありません。
このため、遺族年金は次の性質を持ちます。
- 遺産分割の対象とならない(他の相続人に分配する必要がない)
- 遺留分侵害額請求の計算に影響を与えない
- 相続放棄をしても受け取ることができる
実務上よく見られる誤解として、配偶者が遺族年金を受け取ることについて、他の相続人(子や兄弟姉妹など)から「その分を遺産として分けるべきではないか」と主張されるケースがあります。しかし、遺族年金は法律上の固有財産ですから、遺産分割の対象にはならないのが原則です。
相続放棄をした場合の年金の取り扱い
故人に多額の借金がある場合など、相続放棄を検討されることがあります。相続放棄を行った場合の年金の取り扱いは以下のとおりです。
- 未支給年金:相続放棄後も請求・受領できます。固有財産であるため、相続放棄の効力は及びません。
- 遺族年金:同様に固有財産ですので、相続放棄後も受給できます。
- 年金として口座に振り込まれた後に故人が死亡した場合:口座に入金済みの年金は預貯金の一部となり、相続財産に含まれます。相続放棄をした場合は引き出せない点に注意が必要です。
遺留分侵害額請求への影響
遺留分侵害額請求の計算においては、「遺留分算定の基礎となる財産」を正確に把握することが重要です。未支給年金・遺族年金はいずれも相続財産ではないため、遺留分算定の基礎財産(相続財産+特別受益に該当する生前贈与など)に含まれません。
ただし、実務上は次のような問題が生じることがあります。故人の死亡時点で口座に残っていた年金(すでに受給済みで口座に積み立てられていた年金収入)は、普通の預貯金と同様に相続財産として遺産分割の対象となります。「年金として受け取ったお金だから除外される」というわけではありませんので、注意が必要です。
遺留分侵害額請求においてどの財産が対象に含まれるか、また、請求額の計算方法については、個別の事案の事実関係によって異なります。専門的な判断が求められますので、弁護士に相談されることをお勧めします。
まとめ:年金と相続は別物と理解したうえで弁護士に相談を
未支給年金・遺族年金の相続における取り扱いを整理すると、次のとおりです。
- 未支給年金は「故人の固有財産ではなく遺族の固有財産」であり、相続財産・遺産分割の対象外です。
- 遺族年金も同様に、遺族固有の権利であり、遺産分割や遺留分計算の対象外です。
- いずれも相続放棄をした後でも受け取ることができます。
- ただし、口座に入金済みの年金は預貯金として相続財産となるため区別が必要です。
- 遺族厚生年金は2028年4月から子のいない配偶者について5年有期給付に変わる予定で、相続設計・生前対策に影響を与える場合があります。
相続手続きの中で年金の取り扱いをめぐって相続人間で意見が対立したり、遺留分請求の計算に混乱が生じるケースは少なくありません。「遺産分割をどう進めればよいか」「遺留分を侵害されているのではないか」といったお悩みをお持ちの方は、早めに弁護士にご相談ください。
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