自筆証書遺言と公正証書遺言の違い|メリット・デメリットを比較して弁護士が解説
2026/04/20
自筆証書遺言と公正証書遺言の違い|メリット・デメリットを比較して弁護士が解説
「遺言書を残しておきたいけれど、どんな形式で書けばよいのかわからない」「自分で書いた遺言書はきちんと有効になるのだろうか」——親の介護を続けながらそんな不安を抱える方や、あるいは逆に「亡くなった親の遺言書が見つかったが、本当に有効なのか確認したい」という方は少なくありません。遺言書の方式を誤ると、せっかくの意思表示が無効になってしまう場合があります。
本記事では、日本の遺言書のなかでも最もよく利用される「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の違いを、要件・費用・メリット・デメリット・最新制度の動向まで含めてわかりやすく解説します。また、遺言書が存在していても遺留分を侵害されている場合はどのような請求ができるかについても触れますので、ぜひ最後までお読みください。
遺言書の種類|民法が定める3つの方式
民法は遺言書の方式として、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類を定めています(民法第967条)。このうち秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま公証役場で存在だけを証明してもらう方式ですが、実務上の利用頻度は非常に低く、自筆証書遺言のデメリットをほぼそのまま抱えているため、現在では特段の事情がない限り選択されることはほとんどありません。
実際に多くの場面で選択を迫られるのは、自筆証書遺言か公正証書遺言かというニ択です。両者にはコスト・安全性・手続のしやすさなどの点で大きな違いがあり、どちらを選ぶかによって相続人が直面する手続の負担も大きく変わってきます。
自筆証書遺言とは?作成要件と近年の改正ポイント
自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自書(自分の手で書く)し、押印することによって成立する遺言方式です(民法第968条第1項)。紙とペンと印鑑があれば費用ゼロで作成でき、証人を必要としないため、誰にも知られずに遺言内容を秘密にしておけるという手軽さが特徴です。
ただし、要件を一つでも欠くと遺言書全体が無効となります。「日付が〇〇年〇月吉日」という記載は特定の日付として認められないと判断されることがあり、「全文自書」の要件を誤解してパソコンで本文を作成してしまうと無効になります。
なお、平成30年(2018年)の民法改正(平成31年1月13日施行)により、財産目録の部分に限ってはパソコンで作成したものや、通帳の写し・登記事項証明書などを添付する方法も認められるようになりました(民法第968条第2項)。ただし、この財産目録の各ページには必ず署名・押印が必要です。この改正によって、不動産や預貯金口座が多い場合でも自筆による記載量を大幅に減らせるようになりました。
自筆証書遺言の主な作成上の注意点
- 全文(財産目録を除く)・日付・氏名は必ず自書すること
- 日付は年月日を具体的に記載すること(「吉日」は不可)
- 訂正・加筆する場合は民法第968条第3項所定の方式(訂正箇所を示し、署名の上に押印)に従うこと
- 財産目録をパソコン作成・コピー添付する場合は各ページに署名・押印が必要
公正証書遺言とは?作成の流れと費用の目安
公正証書遺言は、公証人(法務大臣が任命する法律の専門家)が関与して作成する遺言方式です(民法第969条)。遺言者が公証人に遺言の趣旨を口述し、公証人がそれを筆記して読み聞かせ・閲覧確認を経たうえで、遺言者・証人2名・公証人が署名押印することで成立します。原本は公証役場に原則として20年間(場合によってそれ以上)保管されます。
費用は財産の総額に応じた手数料(政令で定める公証人手数料令に基づく)が必要で、財産額が1,000万円の場合で約1万7,000円、5,000万円の場合で約2万9,000円が目安とされています(複数の財産を対象とする場合は合算方式)。これに加え、証人2名が必要なため、公証役場で証人を紹介してもらう場合は別途費用がかかることがあります。弁護士に依頼して作成する場合は弁護士費用も必要となりますが、その分、内容の法的安全性が高まります。
なお、令和7年(2025年)10月1日からは、指定公証人の役場においてメールを利用した嘱託やウェブ会議を通じた公正証書の作成が可能となるなど、手続のデジタル化が段階的に進められています。身体的な理由で公証役場に出向くことが難しい方にとっては、今後利用しやすくなることが期待されます。
自筆証書遺言と公正証書遺言の比較:メリット・デメリット
| 比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成費用 | ほぼ無料(紙・筆記用具代のみ) | 財産額に応じた公証人手数料が必要(数万円〜) |
| 証人 | 不要 | 証人2名が必要 |
| 方式不備による無効リスク | 高い(自書漏れ・日付不備等で無効になる場合がある) | 低い(公証人が確認するため) |
| 家庭裁判所の検認 | 原則として必要(法務局保管の場合は不要) | 不要 |
| 紛失・改ざんリスク | あり(自宅保管の場合) | なし(原本は公証役場で保管) |
| 秘密保持 | 高い(証人不要のため) | 低め(公証人・証人に内容を知られる) |
| 遺言内容の法的正確性 | 本人次第(専門家に確認してもらわないと不安が残る) | 高い(公証人が法律的整合性を確認) |
法務局の自筆証書遺言書保管制度|自筆証書遺言のデメリットを補う選択肢
令和2年(2020年)7月10日から、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」に基づく「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしました。この制度を利用すると、自筆で作成した遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けることができ、次のようなメリットが生まれます。
- 家庭裁判所の検認が不要になる(保管制度を利用した場合に限る)
- 法務局のデータベースに登録されるため、相続人が遺言書の存在を検索・確認しやすくなる
- 自宅保管と比べて紛失・改ざんのリスクが大幅に減少する
ただし、この制度は「自筆証書遺言としての形式要件(全文自書・日付・氏名・押印)を満たしているかどうか」を外形的に確認するにとどまり、遺言の内容が法律的に正確かどうかまでチェックしてもらえるわけではありません。保管の申請には手数料(1件につき3,900円)がかかります。また、法務省令で定める様式(A4サイズ・余白の確保など)に従った書式で作成する必要があります。
どちらを選ぶべきか?ケース別の判断基準
どちらの方式が適しているかは、遺言者の状況や遺言の内容によって異なります。一概には言えませんが、一般的な傾向として次のように整理できます。
自筆証書遺言(法務局保管制度の活用)が向いているケース
- 遺言の内容が比較的シンプルで、専門的な判断が必要な要素が少ない場合
- 費用をできる限り抑えたい場合
- 遺言の内容を第三者(証人)に知られたくない場合
- 繰り返し書き直す可能性が高く、フレキシブルに更新したい場合
公正証書遺言が向いているケース
- 不動産・株式・複数の金融機関の預貯金など、財産の種類が多く複雑な場合
- 相続人間で紛争が生じるリスクが高く、遺言の有効性について争われる可能性がある場合
- 特定の相続人に多くの財産を集中させたい・一部の相続人を相続から排除したいなど、内容が通常とは異なる場合
- 認知症などにより将来の意思能力に不安がある場合(早期に公正証書で意思表示を固めておくことが望ましい)
- 相続人の一人が遺産管理に不適切と考えられる場合など、遺言執行者の選任が特に重要な場合
一般的に、遺産総額が大きい場合や相続をめぐる紛争リスクが高い場合は、費用がかかっても公正証書遺言を選択するほうが、後々の家族の負担を大きく減らせる傾向があります。横浜をはじめ各地の弁護士に遺言作成の相談をした場合も、財産状況や家族関係に照らして最適な方式について具体的なアドバイスを受けることができます。
遺言書があっても遺留分侵害額請求は可能
「遺言書が残されているから、もう何もできない」とあきらめてしまう方も少なくありませんが、これは誤解です。遺言書が有効に成立していたとしても、遺留分(一定の相続人が相続財産から最低限受け取ることができる権利)を侵害している内容であれば、遺留分権利者は遺留分侵害額請求を行うことができます(民法第1046条)。
遺留分の権利を持つのは、配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属であり、兄弟姉妹には遺留分がありません。遺留分侵害額請求権には消滅時効があり、「相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年」または「相続開始から10年」のいずれか早い時点で消滅します(民法第1048条)。時効の問題があるため、遺留分を侵害されていると感じた場合には早期に弁護士へ相談することが重要です。
まとめ|遺言書の方式選択で迷ったら専門家に相談を
自筆証書遺言と公正証書遺言はそれぞれに一長一短があります。費用・秘密保持の面では自筆証書遺言に軍配が上がりますが、法的安全性・紛失・改ざんリスクの排除・家庭裁判所の検認手続の省略という点では公正証書遺言が優れています。法務局の保管制度の活用により、自筆証書遺言の弱点はある程度補えるようになりましたが、遺言の内容そのものの適法性は保証されないため、特に財産内容が複雑な場合や相続人間の関係に不安がある場合には専門家の関与が欠かせません。
また、遺言書が存在する場合でも、遺留分を侵害されている相続人はその権利を行使できます。「遺言書があるから諦めるしかない」という状況ではないケースも多くあります。遺言書の内容や相続関係に不安や疑問を感じたら、早期に弁護士へ相談されることをおすすめします。
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