「特定財産承継遺言」(相続させる旨の遺言)とは?遺贈との違い・対抗要件・遺留分の関係を弁護士が解説
「特定財産承継遺言」(相続させる旨の遺言)とは?遺贈との違い・対抗要件・遺留分の関係を弁護士が解説
遺言書を作成する際に、「この不動産を長男に相続させる」と書くのか、「この不動産を長男に遺贈する」と書くのかで、法的な効果が大きく異なることをご存知でしょうか。亡くなった方の遺言書を手にして初めてこの問題に直面するご遺族は少なくありません。書かれた文言の違いによって、相続手続きの方法はもちろん、遺留分侵害額請求の対象になるかどうか、登記の手続き方法まで変わってくることがあります。
本記事では、2019年(令和元年)7月1日に施行された改正民法で新たに法律上の用語として位置づけられた「特定財産承継遺言」(いわゆる「相続させる旨の遺言」)について、「遺贈」との違いや対抗要件の問題、遺留分との関係を、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
特定財産承継遺言とは?法律上の定義(民法1014条2項)
「特定財産承継遺言」とは、遺産の分割の方法の指定として、遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人または数人に承継させる旨の遺言をいいます(民法1014条2項)。2019年7月1日施行の改正民法において、この用語が法律上明文化されました。
改正前は、このタイプの遺言は「相続させる旨の遺言」と実務上呼ばれ、最高裁判所平成3年4月19日判決によって有効性と効力が確立されていました。「相続させる旨の遺言」があると、遺言者の死亡と同時に、対象となった財産は何らの行為を要せず当然に指定された相続人に承継されるとされてきました。
改正民法のもとでも基本的な効力は同様ですが、後述のとおり対抗要件(第三者への権利の対抗可能性)に関するルールが大きく変更されたため、注意が必要です。
特定財産承継遺言と遺贈の主な違い
「特定財産承継遺言」と「遺贈」は、いずれも遺言によって特定の財産を特定の者に承継させる手段ですが、以下のように法的な効果が異なります。
| 項目 | 特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言) | 遺贈(特定遺贈) |
|---|---|---|
| 対象者 | 相続人のみ | 相続人・相続人以外の第三者・法人を問わない |
| 移転時期 | 遺言者の死亡と同時に当然に移転(承諾不要) | 遺言者の死亡後、受遺者の放棄がなければ効力発生 |
| 相続登記の申請方法 | 受益相続人が単独で申請可能 | 相続人全員と受遺者の共同申請が原則 |
| 賃借権の承継 | 賃貸人の承諾なしに承継可 | 賃貸人の承諾が必要 |
| 受益者が遺言者より先に死亡した場合 | 原則として遺言の効力が失われる | 遺贈の効力が失われる(民法994条1項) |
登記手続きの面では特定財産承継遺言の方が受益相続人の単独申請が可能であるため、手続き負担が軽くなる場面があります。一方で、賃貸物件を承継させる場合はいずれの方法でも注意が必要です。
対抗要件の問題:2019年改正前後で何が変わったか(民法899条の2)
2019年の民法改正において、特定財産承継遺言に関して特に重要な変更があったのが「対抗要件」に関するルールです。
改正前のルール
改正前は、「相続させる旨の遺言」によって不動産を取得した相続人は、登記をしていなくても、第三者に対して所有権の取得を主張できる(対抗できる)とされていました。これは判例(最高裁判所平成14年6月10日判決ほか)によって確立したルールです。一方、「遺贈」によって取得した場合は登記が必要とされていたため、両者では対抗要件に関する扱いが大きく異なっていました。
改正後のルール(現行法)
2019年7月1日施行の改正民法では、民法899条の2第1項が新設され、遺言の内容にかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと明確化されました。
具体的には、たとえば「長男に不動産をすべて相続させる」と指定されていた場合でも、長男の法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ第三者に権利を対抗できません。
遺言執行者の権限(民法1014条2項・3項)
改正民法では、特定財産承継遺言があるときは、遺言執行者は受益相続人が対抗要件を備えるために必要な行為(相続登記の手続きなど)をすることができると明記されました(民法1014条2項)。また、対象財産が預貯金債権である場合には、預貯金の払戻しの請求および契約の解約申入れをすることもできます(同条3項)。
受益相続人が遺言者より先に死亡した場合の問題
特定財産承継遺言では、「長男に〇〇を相続させる」と指定したにもかかわらず、長男が遺言者よりも先に亡くなってしまった場合に、その遺言の効力がどうなるかが問題となることがあります。
最高裁判所の判例(平成23年2月22日決定など)では、受益相続人が遺言者より先に死亡した場合、遺言者に別段の意思がない限り、代襲相続人に当然に適用されるわけではなく、遺言の効力は失われるとの考え方が示されています(ただし事案によって解釈が分かれることもあります)。
遺言書を作成する場合には、「もし指定した相続人が先に死亡した場合は、代わりに〇〇に相続させる」という予備的条項(補充遺言)を設けておくことが実務上重要です。予備的条項がない場合、当該財産は遺産分割の対象に戻り、相続人間でトラブルになる可能性があります。
特定財産承継遺言と遺留分の関係
特定財産承継遺言であっても、他の相続人の遺留分を侵害することがあります。たとえば、「全財産を長男に相続させる」という遺言がある場合、他の相続人(配偶者や他の子など)は遺留分侵害額請求権(民法1046条)を行使することができます。
遺留分の基礎財産の計算においては、特定財産承継遺言によって長男が取得した財産も当然に算入されます。遺留分侵害額の請求は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内(民法1048条)に行使する必要があります。
また、2019年の民法改正により、遺留分侵害があっても財産そのものの返還は求められず、金銭の支払いのみを求めることができます(遺留分侵害額請求権の金銭債権化)。これは特定財産承継遺言によって事業用不動産や自社株式を一括して後継者に承継させる場合に大きな意義があります。
特定財産承継遺言をめぐってよくある紛争パターン
特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)に関連して、実際に相続紛争に発展しやすいケースをいくつかご紹介します。
まず、被相続人の死後に遺言書が発見され、ほぼすべての財産が特定の相続人(たとえば長男)に承継させる旨の遺言があったケースで、他の相続人から遺留分侵害額請求が起こされるパターンが多く見られます。遺留分の基礎財産の評価(特に不動産の時価評価)を巡って当事者間で意見が対立し、調停・訴訟に至ることがあります。
次に、対象不動産について長男が相続登記を済ませた後、当該不動産の一部を第三者に売却してしまったケースでは、他の相続人は既にその第三者に対して所有権を主張できない可能性があります(民法899条の2)。そのため、遺留分侵害額請求の対象も第三者に対する関係では金銭請求のみになる場合があります。
また、「相続させる」と書かれているはずなのに受益相続人が遺言者より先に死亡していたというケースでは、その遺言部分の効力をめぐって相続人間で意見が対立し、調停や審判に持ち込まれることがあります。
まとめ:遺言書の文言や遺留分問題は弁護士への相談を
特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)は、日本の相続実務において非常に多く使われている遺言形式ですが、遺贈との違いや2019年改正後の対抗要件のルールを正確に理解していなければ、思わぬトラブルを招く可能性があります。
遺言書を作成する側としては、受益相続人が先に亡くなった場合の予備的条項を必ず設けること、遺留分侵害が生じないよう財産配分を工夫すること、早期の相続登記が重要であることを踏まえた内容にすることが求められます。
一方、亡くなった方の遺言書により自分の遺留分が侵害されていると感じる方は、遺留分侵害額請求の時効(相続開始及び侵害を知った日から1年)に注意しつつ、できるだけ早期に弁護士に相談することをお勧めします。横浜をはじめ神奈川県内でこのような問題を抱えている方は、ぜひ相続に精通した弁護士にご相談ください。
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