不貞行為は法定離婚事由になる?民法770条と慰謝料の関係を弁護士が解説
不貞行為は法定離婚事由になる?民法770条と慰謝料の関係を弁護士が解説
配偶者の不倫が発覚したとき、多くの方が最初に考えるのは「これを理由に離婚できるのか」「慰謝料はどうなるのか」という点ではないでしょうか。相手が離婚に応じてくれれば話し合いで進められますが、相手が離婚を拒む場合には、最終的に裁判で離婚が認められるかどうかが問題になります。その判断の基準となるのが、民法が定める「法定離婚事由」です。
この記事では、不貞行為が法定離婚事由にあたるのか、2026年4月に施行された民法改正で離婚事由がどう整理されたのか、そして離婚と慰謝料請求がどのように結びつくのかを、横浜の弁護士がわかりやすく整理して解説します。離婚を考えている方も、まだ迷っている方も、これからの判断材料としてお役立てください。
不貞行為は民法770条1項1号の法定離婚事由
夫婦が話し合いで合意すれば、理由を問わず協議離婚をすることができます。しかし相手が離婚に同意しない場合、離婚を求める側は最終的に離婚の訴えを起こすことになり、そのときには法律が定める離婚原因(法定離婚事由)が必要になります。これを定めているのが民法770条です。
民法770条1項は、離婚の訴えを提起できる場合を列挙しており、その筆頭(1号)に「配偶者に不貞な行為があったとき」を挙げています。つまり不貞行為は、法律が明文で認める離婚事由そのものです。ここでいう不貞行為とは、配偶者のある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を持つことを指すと理解されています。
不貞行為の範囲や「どこからが不貞にあたるか」については、肉体関係の有無が一つの重要な線引きになります。もっとも、その立証や境界の判断は容易でない場合があり、本記事では離婚事由としての位置づけと慰謝料との関係に焦点を当てて説明します。
2026年4月施行の民法改正で法定離婚事由はどう変わったか
法定離婚事由は、2026年4月1日に施行された民法改正(令和6年法律第33号)によって整理されました。改正前は5つの事由が定められていましたが、このうち従来の4号「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」が削除され、現在は4つの事由に整理されています。精神疾患を一律に離婚事由とする規定が、障害を理由とする差別的な規定であるとの指摘を受けての改正です。
改正後の民法770条1項が定める法定離婚事由は、次の4つです。
| 号 | 法定離婚事由 |
|---|---|
| 1号 | 配偶者に不貞な行為があったとき |
| 2号 | 配偶者から悪意で遺棄されたとき |
| 3号 | 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき |
| 4号 | その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき |
不貞行為が1号に位置づけられている点は改正の前後で変わっていません。なお、精神疾患を理由とする離婚が一切できなくなったわけではなく、精神疾患によって実質的に婚姻関係が破綻していると評価できる場合には、包括的な事由である4号「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し得ると考えられています。
不貞行為による離婚と慰謝料請求の関係
不貞行為があった場合、離婚できるかどうかという問題と、慰謝料を請求できるかという問題は、根拠となる条文が異なります。離婚の可否は民法770条の法定離婚事由の問題であるのに対し、慰謝料請求は不法行為に基づく損害賠償として、民法709条・710条を根拠とします。
不貞行為は、平穏な夫婦関係を侵害する共同不法行為と評価されるため、被害を受けた配偶者は、不貞をした配偶者と不倫相手の双方に対して慰謝料を請求できるのが原則です。離婚するかどうかにかかわらず、不貞行為による精神的苦痛そのものが賠償の対象になります。
また、慰謝料を請求できる期間には時効があります。不法行為に基づく損害賠償請求権は、民法724条により、損害および加害者を知った時から3年(不法行為の時から20年)で時効にかかります。相手を特定できているのに長く放置すると請求が難しくなることがあるため、時効の管理も重要です。
離婚する場合・しない場合で慰謝料の目安はどう違うか
不貞慰謝料の金額は法律で定められているわけではなく、婚姻期間、不貞の期間や回数、婚姻関係が破綻に至ったかどうか、子の有無といった事情を総合的に考慮して、事案ごとに判断されます。そのうえで、実務上よく語られる目安として、離婚に至るかどうかで金額の傾向に差が出るといわれています。
| ケース | 慰謝料額の目安(傾向) |
|---|---|
| 不貞が原因で離婚に至った場合 | 150万〜300万円程度とされることが多い |
| 離婚はせず婚姻を継続する場合 | 数十万〜150万円程度とされることが多い |
これらはあくまで一般的な傾向を示す目安であり、個別の事情によって上下します。離婚に至った場合に高くなりやすいのは、婚姻関係の破壊という結果まで生じた点が重く評価されるためと説明されます。慰謝料をいつ・どのように請求するかによっても交渉の進め方は変わるため、請求のタイミングも早めに検討しておくとよいでしょう。
不貞があっても離婚が認められない・慰謝料が制限される場合
不貞行為が法定離婚事由にあたるとしても、常に離婚が認められ、満額の慰謝料が得られるとは限りません。いくつか注意すべき場面があります。
裁判所の裁量による棄却
民法770条2項は、法定離婚事由がある場合であっても、裁判所が一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚請求を棄却できると定めています。実際に棄却されるケースは限られますが、条文上こうした裁量が認められている点は理解しておくとよいでしょう。
すでに婚姻関係が破綻していた場合
不貞行為の前にすでに夫婦関係が破綻していたと評価される場合、慰謝料請求が認められにくくなることがあります。最高裁平成8年3月26日判決は、婚姻関係がすでに破綻していた後に第三者と関係を持っても、原則として不法行為責任は生じないとの考え方を示しています。相手方(不倫相手)から「破綻していた」と反論されることもあり、この点はセックスレスと婚姻関係破綻の抗弁の記事でも詳しく整理しています。
不貞をした側からの離婚請求
自ら不貞をした配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は、原則として認められにくい傾向があります。最高裁昭和62年9月2日判決は、別居期間が相当の長期に及んでいること、未成熟の子がいないこと、相手方配偶者が離婚により過酷な状況に置かれないことなどを考慮して、例外的に離婚を認める枠組みを示しました。詳しくは有責配偶者からの離婚請求の記事もご参照ください。
よくある質問(FAQ)
配偶者の不貞があれば必ず離婚できますか?
不貞行為は民法770条1項1号の法定離婚事由にあたるため、裁判で離婚が認められる可能性は高いといえます。ただし裁判所は同条2項により、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは離婚請求を棄却できるため、必ず離婚できるとは限りません。
1回だけの不貞でも離婚事由になりますか?
1回の性的関係でも不貞行為に該当し、法定離婚事由になり得ます。もっとも回数や期間は慰謝料額や婚姻関係への影響の評価に関係するため、事案ごとの判断となります。
不貞をした側から離婚を請求できますか?
不貞をした有責配偶者からの離婚請求は原則として認められにくい傾向があります。最高裁昭和62年9月2日判決は、別居期間の長さ、未成熟の子の有無、相手方配偶者が過酷な状況に置かれないかなどを考慮して、例外的に認める枠組みを示しています。
離婚しない場合でも不貞の慰謝料は請求できますか?
離婚しない場合でも、不貞行為による精神的苦痛について慰謝料を請求できます。一般に離婚に至る場合より金額の目安は低くなる傾向がありますが、婚姻期間や不貞の態様など個別事情によって変わります。慰謝料請求に適したタイミングについては請求する最適なタイミングの記事も参考になります。
まとめ
不貞行為は、民法770条1項1号が定める法定離婚事由であり、相手が離婚に応じない場合でも、裁判で離婚が認められる可能性の高い事由です。2026年4月施行の改正で離婚事由は4つに整理されましたが、不貞行為が1号に位置づけられている点は変わりません。一方で、離婚できるかという問題と、慰謝料を請求できるかという問題は根拠となる条文が異なり、慰謝料は不法行為(民法709条・710条)に基づいて、離婚の有無にかかわらず請求できます。
もっとも、婚姻関係がすでに破綻していた場合や、裁判所の裁量、有責配偶者からの請求といった論点があり、実際の見通しは事案によって大きく異なります。証拠の集め方や請求の進め方を誤ると、本来認められるはずの請求が難しくなることもあります。判断に迷われたときは、早い段階で弁護士に相談し、ご自身の状況に応じた見通しを確認することをおすすめします。
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