賃貸アパート・マンションを相続したら?家賃収入・遺産分割・管理義務の注意点を横浜の弁護士が解説
賃貸アパート・マンションを相続したら?家賃収入・遺産分割・管理義務の注意点を横浜の弁護士が解説
親や祖父母が亡くなり、遺産の中に賃貸アパートや収益マンションが含まれていた場合、「入居者との賃貸借契約はどうなるのか」「家賃収入は誰が受け取るのか」「相続人が複数いる場合はどう分ければよいのか」と、次々と疑問が浮かび上がることでしょう。通常の不動産相続と異なり、収益不動産にはテナントや賃料収入が絡むため、手続きや権利関係が複雑になりがちです。
本記事では、賃貸アパート・マンションを相続した場合に押さえておくべき法律上のポイントを、賃貸借契約の承継から家賃収入の帰属、遺産分割の方法、そして固定資産税・確定申告の取扱いまで、横浜で相続問題を取り扱う弁護士の視点からわかりやすく解説します。
賃貸借契約はどうなる?相続人が新しい「大家」になる仕組み
被相続人(亡くなった方)が賃貸アパートやマンションを所有し、入居者と賃貸借契約を締結していた場合、その「賃貸人(大家)の地位」はどうなるのでしょうか。
民法第896条は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。これにより、賃貸借契約も相続の対象となり、相続人が賃貸人の地位を自動的に引き継ぎます。入居者の同意や新たな賃貸借契約の締結は原則として不要です。
ただし、相続人が複数いる場合(共同相続)は、当初は相続人全員が法定相続分に応じて賃貸人の地位を共有します(民法第898条)。この状態のまま放置すると、賃料の受取方法や管理の責任が不明確になり、入居者との間でトラブルが生じる原因にもなります。
実務上は、速やかに相続人全員で遺産分割協議を進め、誰が賃貸物件を取得するかを決定したうえで、入居者に対して「賃貸人変更通知書」を送付し、新しい振込先等を案内することが必要です。また、相続登記(不動産の名義変更)は2024年4月1日施行の改正不動産登記法により義務化されており、相続を知った日から3年以内に行わなければ10万円以下の過料が科される場合があります。
遺産分割前の家賃収入は誰のもの?最高裁判決が示した原則
相続人が複数いる場合、遺産分割が成立するまでの間に生じた家賃収入は、一体誰が受け取れるのでしょうか。これは実務上もよく問題になる論点です。
最高裁判所は平成17年9月8日の判決において、「遺産である賃貸不動産から生じる賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人が相続開始時から法定相続分に応じて取得する」と判断しました。つまり、遺産分割が確定する前であっても、家賃収入は相続人が法定相続分の割合に従ってそれぞれ取得する権利を持ちます。
さらに重要なのは、「この賃料の帰属は、後になされた遺産分割によっても影響を受けない」という点です。たとえば遺産分割の結果として賃貸物件を長男が単独で取得したとしても、それまでの間に発生した家賃収入は、遡って長男一人のものになるわけではなく、法定相続分に応じて各相続人に帰属したままとなります。
この判例のポイントをまとめると、以下のようになります。
| 時期 | 家賃収入の帰属 |
|---|---|
| 相続開始前(被相続人が生前に受領済みのもの) | 被相続人の遺産として遺産分割の対象 |
| 相続開始から遺産分割成立まで | 各相続人が法定相続分に応じて取得(遺産分割の遡及効なし) |
| 遺産分割成立後 | 賃貸物件を取得した相続人が単独で取得 |
遺産分割が長期化すると、その間に生じた家賃収入の精算が複雑になります。できるだけ早期に遺産分割を行うことが、後々のトラブル防止につながります。
遺産分割前に注意すべき管理義務と敷金の承継
遺産分割が成立するまでの間も、賃貸不動産の「管理」は続いています。この期間に生じうる問題点について確認しておきましょう。
管理費用・修繕費の負担
相続人全員が賃貸物件を共有している間は、設備の修繕や管理会社への委託費用なども法定相続分に応じて各相続人が負担します。実際には誰か一人が立て替えているケースが多く、後の精算でトラブルになりがちです。遺産分割協議の中で清算方法も決めておくことが重要です。
敷金返還債務の承継
入居者が差し入れた敷金(保証金)は、賃貸借契約が終了したときに返還する義務が生じます。この「敷金返還債務」も相続の対象となり、賃貸物件を相続した相続人が承継します。遺産分割により賃貸不動産を取得した相続人は、将来の敷金返還義務を引き受けることを念頭に置いて協議に臨む必要があります。
固定資産税の支払い
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に誰税されます。相続開始後、遺産分割が確定するまでの間の固定資産税は、遺産分割後に賃貸物件を取得した相続人が負担するのが一般的ですが、協議の中で精算方法を明確にしておくことが望ましいです。
賃貸不動産の遺産分割方法|4つの選択肢と注意点
賃貸アパートやマンションを含む遺産分割では、どのような方法で分けるかが重要な検討事項です。主な選択肢は以下の4つです。
①現物分割(特定の相続人が単独取得)
相続人のうち一人が賃貸物件をそのまま取得する方法です。例えば「長男が賃貸アパートを取得し、次男は預金を取得する」といった形です。物件の管理・経営を一人に集約できる反面、相続人間の取得財産に差が出やすいため、他の財産とのバランスを見ながら協議する必要があります。
②代償分割(取得者が他の相続人に金銭を支払う)
一人の相続人が賃貸物件を取得し、他の相続人に対して自己の財産から「代償金」を支払う方法です。物件の収益性を生かしながら、他の相続人とも公平に分配できる手法として実務でよく利用されます。ただし、代償金を支払う相続人に十分な現金・預金がない場合は実行が難しくなります。
③換価分割(売却して代金を分配)
賃貸物件を売却し、売却代金を相続人間で分配する方法です。現金化されるため公平に分配しやすい一方、売却には時間がかかり、仲介手数料や譲渡所得税が発生する点に注意が必要です。
④共有分割(相続人全員で共有持分を取得)
法定相続分のまま相続人全員で共有する方法です。遺産分割協議をせずに放置すると事実上この状態になります。管理の意思決定が複雑になり、将来的に共有物分割トラブルに発展するリスクがあるため、基本的には望ましくないとされています。
賃貸不動産の評価方法|相続税評価と遺産分割における時価の違い
賃貸アパートやマンションの評価は、「相続税申告のための評価」と「遺産分割協議のための評価」で異なることを理解しておく必要があります。
相続税申告における評価(貸家建付地評価)
相続税の計算では、賃貸物件の土地は「貸家建付地」として評価されます。具体的には、自用地評価額から「自用地評価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合」を控除した額が評価額となります(国税庁タックスアンサーNo.4614)。また、建物部分は固定資産税評価額から「固定資産税評価額 × 借家権割合 × 賃貸割合」を控除した額とされます。このように賃貸中の不動産は自用の場合より相続税評価額が低くなるため、節税効果が見込まれる場合があります。
遺産分割協議における評価(時価・実勢価格)
一方、遺産分割協議において不動産をいくらと評価するかは、当事者の合意によります。実務上は、不動産仲介業者による査定額や不動産鑑定士による鑑定評価額(時価)を用いることが多く、相続税評価額よりも高くなるのが一般的です。相続人間で評価額の合意が得られない場合、家庭裁判所の調停・審判に移行し、裁判所が選任した不動産鑑定士による鑑定評価が用いられる場合があります。
収益不動産では収益還元法(将来の家賃収入を基に現在価値を算定する手法)が用いられることもあり、評価方法の選択次第で金額が大きく変わる場合があります。評価額を巡る争いが予想される場合は、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
固定資産税・準確定申告と相続後の確定申告の注意点
賃貸不動産を相続した場合、税務上の手続きも重要です。代表的な注意点を整理します。
被相続人の準確定申告
被相続人が賃貸不動産から家賃収入を得ていた場合、死亡した年の1月1日から死亡日までの不動産所得について、相続人全員が共同で「準確定申告」を行う必要があります(所得税法第124条)。期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。この期限を過ぎると加算税・延滞税のペナルティが生じる場合があるため、注意が必要です。
相続人の確定申告
相続開始後に各相続人が受け取った家賃収入は、それぞれの所得税の申告対象となります。遺産分割が未了の場合は法定相続分に応じた額を、遺産分割後は実際に取得した分を不動産所得として申告します。管理費・修繕費・固定資産税なども必要経費として計上できますが、負担の割合を相続人間で明確にしておく必要があります。
相続税申告
遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告・納付が必要です。小規模宅地等の特例で土地評価額が最大80%減額される場合もあるため、税理士と連携して手続きを進めることをお勧めします。
まとめ|賃貸不動産の相続は早めの弁護士相談を
賃貸アパートやマンションの相続は、家賃収入の帰属、賃貸借契約の承継と入居者対応、敷金返還債務、評価方法を巡る対立、税務手続きなど、法律・税務・実務の各面が絡み合う複雑な問題です。特に、複数の相続人がいる中で遺産分割協議が難航する場合や、遺留分侵害額請求が絡む場合は、弁護士への早期相談が長期化リスクを抑える最善策です。横浜をはじめ神奈川県内で収益不動産の相続問題でお困りの方は、ぜひ専門家にご相談ください。
賃貸アパート・マンションの相続でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、相続や遺留分侵害額請求の事案について豊富な実績を有しております。収益不動産を含む遺産分割、家賃収入の精算、遺留分請求への対応など、複雑な相続問題もお気軽にご相談ください。横浜を中心に神奈川県全域の案件に対応しています。
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