タングラム法律事務所

名前が書かれていない誹謗中傷でも名誉毀損?「同定可能性」を弁護士が解説

名前が書かれていない誹謗中傷でも名誉毀損?「同定可能性」を弁護士が解説

名前が書かれていない誹謗中傷でも名誉毀損?「同定可能性」を弁護士が解説

名前が書かれていない誹謗中傷でも名誉毀損?「同定可能性」を弁護士が解説

名前が書かれていない誹謗中傷でも名誉毀損?「同定可能性」を弁護士が解説

「自分のことを書かれているのは間違いないのに、名前は書かれていない」「イニシャルや源氏名だけで悪口を書かれた」——ネット上の誹謗中傷では、投稿者があえてフルネームを避け、イニシャル・伏字・あだ名・ぼかした表現を使うことが少なくありません。名前が明記されていないと、「これでは名誉毀損として争えないのではないか」「削除も開示請求もできないのではないか」と不安になる方は多いはずです。

しかし、名前が書かれていないことは、それだけで泣き寝入りしなければならない理由にはなりません。法的には「同定可能性(どうていかのうせい)」という考え方があり、周辺の情報を総合して投稿の対象が誰であるかを特定できれば、名誉毀損などの権利侵害が認められる余地があります。この記事では、同定可能性とは何か、名前がなくても成立するのはどのような場合か、判断の基準、そして削除請求・発信者情報開示請求への影響までを、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。

同定可能性とは何か——名誉毀損の「入口」となる要件

同定可能性とは、ある投稿や記事の表現について、「それが特定の個人(または法人)を指していると認識できる状態」をいいます。名誉毀損は、公然と事実を摘示するなどして人の社会的評価を低下させた場合に問題となりますが(刑法230条、不法行為としては民法709条)、そもそも「誰の社会的評価が下がったのか」が定まらなければ、被害者の権利侵害を観念できません。そのため同定可能性は、名誉毀損が成立するかどうかを検討する際の、いわば入口の要件として位置づけられています。

ここで重要なのは、同定可能性は「フルネームが書かれているかどうか」だけで決まるわけではないという点です。氏名が明記されていなくても、勤務先・役職・居住地域・経歴・過去の出来事といった周辺情報が積み重なり、それらを手がかりに「これは○○さんのことだ」と分かる状態になっていれば、同定可能性は認められ得ます。

同定可能性はあくまで権利侵害を検討する「入口」です。同定可能性が認められても、その投稿が社会的評価を低下させる内容であるか、真実性・相当性などの違法性阻却事由が認められるかといった別の要件の検討が必要になります。名誉毀損が成立しない場合の詳細は「名誉毀損が成立しない場合|真実性・公共性・公益目的の3要件」もあわせてご覧ください。

名前がなくても成立するのはどんな場合か

実際の誹謗中傷では、名前を伏せたつもりでも同定可能性が認められることが少なくありません。以下は、名前が明記されていなくても対象者が特定され得る典型的なパターンです。

表現の類型 同定可能性が問題となる例
イニシャル・伏字 「営業部のS」「A社のK部長」など。前後の文脈や他の投稿と併せて特定できる場合
肩書・所属+地域 「○○市の△△クリニックの院長」「□□町の××商店の店主」など、地域と業種で対象が絞られる場合
源氏名・芸名・活動名 店舗で使う源氏名、配信者名、作家のペンネームなど、その名義で活動していることが知られている場合
ハンドルネーム・アカウント名 SNSや掲示板のハンドルネームが実在の人物と結び付いて認識されている場合
写真・特徴の描写 顔写真、勤務先の外観、特徴的な経歴・エピソードの記載などから人物が推知できる場合

ポイントは、投稿単体では特定できなくても、同じスレッドやアカウントの他の投稿、過去のやりとり、当該コミュニティで共有されている前提知識などを総合すると特定できてしまう、というケースが多いことです。「名前を出していないから大丈夫」と考えていても、実際には周辺情報から対象者が客観的に浮かび上がっていることが珍しくありません。

同定可能性はどのように判断されるのか

基準となるのは「一般の閲覧者の普通の注意と読み方」

裁判例では、名誉毀損の成否を検討する前提として、一般の閲覧者(読者)の普通の注意と読み方を基準に、投稿から推知される情報によってその対象が特定の個人・法人であると同定できるかどうかを判断する傾向があります。投稿者本人がどのようなつもりで書いたかではなく、その投稿を読んだ人が、記載された情報を手がかりに「誰のことか」を認識できるかどうかが問われる、という考え方です。

報道による人物の推知が問題となった事案として、最高裁第二小法廷平成15年3月14日判決(民集57巻3号229頁。いわゆる長良川リンチ殺人事件報道訴訟)があります。この判決は、少年法61条が禁じる推知報道に当たるかどうかを、記事等によって不特定多数の一般人がその人物を本人であると推知できるかどうかを基準に判断すべきである旨を示したものです。ネット上の名誉毀損における同定可能性の議論も、こうした「読み手の視点から対象者を特定できるか」という発想を共有しています。

「被害者を知る人」と伝播性も考慮される

一方で、ネット上の誹謗中傷では、一般の閲覧者にはすぐ分からなくても、被害者の周囲の人(同僚・取引先・地域の人など)であれば容易に特定できる、という状況もあります。裁判例には、被害者と面識がある人や、その人の経歴・事情を知る人が投稿の対象を特定でき、そこから第三者へと情報が広がっていく可能性(伝播性)を考慮して権利侵害を検討したものがみられます。名誉毀損の成立に関わる「公然性」や伝播可能性の考え方については「名誉毀損の「公然性」とは|DMや1対1でも成立するか」でも解説しています。

つまり同定可能性は、「世界中の誰が見ても一目で分かるか」という高いハードルではなく、投稿の内容・経緯・前後の文脈を総合し、一定の読み手にとって対象者が客観的に特定できるかどうかという観点から柔軟に判断されるものといえます。

ハンドルネーム・匿名アカウントへの誹謗中傷

近年は、実名を出さずにハンドルネームや配信者名などで活動する人が増えています。こうした名義への誹謗中傷について「本名ではないのだから名誉毀損にはならないのでは」と考える方もいますが、必ずしもそうとは限りません。

そのハンドルネームや活動名が現実の特定の人物と結び付いており、その名義で継続的に活動していることが一定範囲に知られている場合には、そのアカウントへの中傷が現実の人物の社会的評価や名誉感情を害するものとして評価され得ます。裁判例には、氏名では特定されていなくても、通称名で活動している者として特定されるとして、演者本人に対する名誉感情の侵害を認めたもの(東京地方裁判所令和5年5月25日判決)もあります。ハンドルネーム名義であっても、その背後にいる人物への権利侵害として構成できる場合があるということです。

この論点は、なりすまし被害や、SNS・掲示板上の匿名投稿の削除・特定を検討する場面でもしばしば問題になります。開示によってどこまで投稿者の情報が判明するのかについては「発信者情報開示でどこまでわかる?開示される情報の範囲」もご参照ください。

同定可能性が発信者情報開示請求に与える影響

ネット上の誹謗中傷で投稿者を特定するには、情報流通プラットフォーム対処法(従来のプロバイダ責任制限法が改正・改称され、2025年4月1日に施行されたものです)に基づく発信者情報開示請求や、裁判所の発信者情報開示命令を利用するのが一般的です。この手続では、当該投稿によって申立人の権利が侵害されたことが明らかであること(権利侵害の明白性)を示す必要があります。

ここで同定可能性は、権利侵害を基礎づける重要な要素になります。開示を求める側は、「この投稿は具体的に誰を指しているのか」を、投稿本文だけでなく、同一スレッドの他の投稿やプロフィールなどとあわせて主張・立証していくことになります。フルネームが書かれていない事案では、周辺情報を丁寧に拾い上げ、対象者との結び付きを説得的に示せるかが、開示の可否を大きく左右します。

名前が書かれていない投稿ほど、証拠のとり方が重要になります。対象を特定する手がかりとなる周辺の投稿・プロフィール・過去の書き込みは、削除される前にURLと日時が分かる形で保存しておくことをおすすめします。プロバイダのログには保存期間があるため、早めの対応が有効です。

名前がない誹謗中傷に気づいたときの初動

「名前は書かれていないが自分のことだ」と感じる投稿を見つけたときは、次の点を意識して行動すると、その後の削除請求や開示請求の検討がスムーズになります。

  • 投稿を保存する:問題の投稿だけでなく、対象者を特定する手がかりとなる前後の投稿・プロフィール・過去の書き込みも、URL・日時・アカウント名が分かる形でスクリーンショット等で保存します。
  • 特定の手がかりを整理する:どの情報の組み合わせから自分が特定されるのかを、第三者にも説明できるように整理しておきます。
  • 安易な反応を避ける:投稿者に直接反論・接触すると、対立が激化したり、かえって自分の情報を広げてしまうおそれがあります。対応方針が固まるまでは慎重に行動します。
  • 早めに弁護士に相談する:プロバイダのログには保存期間があり、時間の経過とともに投稿者の特定が難しくなることもあるため、早い段階での相談が有効です。

同定可能性が認められるかどうかは、投稿の文言や前後関係、周辺情報の積み重ね方によって結論が分かれる繊細な問題です。「名前がないから無理だ」と自己判断で諦める前に、横浜のタングラム法律事務所をはじめとする弁護士に、実際の投稿を見てもらったうえで見通しを確認することをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

名前が一切書かれていない投稿でも名誉毀損は成立しますか?

フルネームが書かれていなくても、勤務先・肩書・地域・源氏名・ハンドルネームなど周辺情報を総合すれば投稿の対象が特定の人物だと分かる場合には「同定可能性」が認められ、名誉毀損が成立し得ます。逆に、誰を指すのか客観的に特定できない場合は成立が難しくなります。

同定可能性は誰を基準に判断されますか?

裁判例では、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準に、投稿から推知される情報によって対象者を特定できるかどうかを判断する傾向があります。加えて、被害者を知る一定範囲の人が特定でき、そこから第三者に伝わる可能性(伝播性)も考慮される場合があります。

イニシャルや伏字なら名誉毀損にならないのですか?

イニシャルや伏字にしても、前後の文脈や他の投稿とあわせれば対象者が客観的に特定できる状況であれば同定可能性は否定されません。「営業部のS」のような表現でも、周囲の事情から特定できれば名誉毀損が成立し得ます。

ハンドルネームやSNSアカウントへの誹謗中傷でも請求できますか?

ハンドルネームや配信者名などが実在の人物と結び付いており、その名義で活動していることが知られている場合には、そのアカウントへの誹謗中傷が現実の人物の社会的評価や名誉感情を侵害するものとして、削除請求や発信者情報開示請求の対象になり得ます。

まとめ

ネット上の誹謗中傷では、投稿者が名前を伏せてイニシャルや源氏名、ハンドルネームで書き込むことが多く、「名前がないから争えない」と感じてしまいがちです。しかし法的には「同定可能性」という枠組みがあり、勤務先・地域・肩書・活動名などの周辺情報を総合して対象が特定できれば、名誉毀損などの権利侵害が認められ、削除請求や発信者情報開示請求の対象になり得ます。判断は一般の閲覧者の視点や伝播性を踏まえた総合考慮であり、周辺情報の積み重ね方が結論を左右します。

名前がない投稿ほど、どの情報から自分が特定されるのかを整理し、証拠を早めに保全しておくことが重要です。同定可能性の有無は個別性が高く、専門的な検討を要するため、判断に迷う段階でこそ、弁護士に実際の投稿を確認してもらい、削除・開示・損害賠償の見通しを立てることをおすすめします。

名前が書かれていない誹謗中傷でお悩みの方へ

タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。名前が明記されていない投稿でも、同定可能性の有無を踏まえて対応方針を検討します。まずはお気軽にご相談ください。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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