相続でタンス預金が見つかったら?遺産分割での扱いと隠された場合の対処法
相続でタンス預金が見つかったら?遺産分割での扱いと隠された場合の対処法
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月22日 最終更新日:2026年10月22日
親が亡くなった後、実家の押し入れやタンス、金庫から多額の現金が見つかることは珍しくありません。「見つけた人がもらってよいのか」「兄弟に知らせずに分けてしまってよいのか」と迷う方もいれば、反対に「兄が実家の現金を持ち出して隠しているのではないか」と疑いを抱いている方もいるでしょう。
この記事では、いわゆるタンス預金(自宅で保管されていた現金)が相続の場面でどのように扱われるのか、見つけたときに最初にすべきこと、他の相続人に隠された・持ち出された疑いがある場合の対処法、相続税との関係を、相続の紛争を多く扱う横浜の弁護士が解説します。
結論として、亡くなった方が自宅に保管していた現金は相続財産であり、相続人全員による遺産分割の対象になります。最高裁判所は、遺産分割が終わるまでは、現金を保管している相続人に対して自分の相続分に相当する金額の支払いを求めることはできないと判断しており、見つけた人や保管している人が単独で取得・処分できるものではありません。
相続でタンス預金(現金)は遺産分割の対象になる
相続人が複数いる場合、相続財産は相続人全員の共有となります(民法898条1項)。自宅に保管されていた現金もこの相続財産に含まれ、遺産分割によって誰がいくら取得するかを決めることになります。
この点について、最高裁判所平成4年4月10日判決(家月44巻8号16頁)は、相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存在した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできないと判断しました。つまり、現金は法定相続分に応じて当然に分かれるのではなく、遺産分割の中で配分を決める財産と位置づけられています。なお、預貯金についても、最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定(民集70巻8号2121頁)により遺産分割の対象とされています。
| 財産の状態 | 遺産分割での扱い(原則) |
|---|---|
| 相続開始時に自宅にあった現金(タンス預金) | 遺産分割の対象。保管者が単独で取得することはできない |
| 相続開始時の預貯金 | 遺産分割の対象(一定額の仮払い制度あり) |
| 相続開始後に相続人が持ち出した・使った現金 | 共同相続人の同意により遺産とみなすことができる(民法906条の2) |
| 生前に無断で引き出され、相続開始時に残っていない金銭 | 原則として遺産分割の対象外。不当利得返還請求等で別途請求する |
タンス預金を見つけたときに最初にすべきこと
現金を見つけた時点の対応次第で、その後の遺産分割がスムーズに進むか、使い込みを疑われる争いになるかが大きく変わります。次の点を意識してください。
- 使わない・自分の口座に入れない:葬儀費用の支払いなどでやむを得ず使う場合も、領収書を保管し、他の相続人に説明できるようにしておきます。
- 金額と発見状況を記録する:可能であれば他の相続人の立会いのもとで数え、発見場所・日時・金額を写真やメモで残します。
- 速やかに他の相続人に知らせる:後から発覚すると「隠していた」と受け止められ、信頼関係が損なわれやすくなります。
- 相続放棄を検討している場合は特に注意:相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認をしたものとみなされるおそれがあります(民法921条1号)。また、相続放棄の後であっても、相続財産を隠したり私的に消費したりすると、単純承認とみなされることがあります(同条3号)。
現金以外にも財産がある可能性があるため、預貯金・不動産・株式などもあわせて確認しておくと安心です。調べ方については相続財産の調査方法の解説記事で詳しく紹介しています。
兄弟がタンス預金を隠している・持ち出した疑いがある場合
「父は銀行を信用せず自宅に現金を置いていたはずなのに、実家を管理している兄が『現金はなかった』と言う」といった相談は少なくありません。この場合、問題となるのはいつ現金がなくなったのかです。
相続開始後に持ち出された場合
遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合でも、共同相続人全員の同意により、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができます(民法906条の2第1項)。そして、相続人の一人が処分した場合には、その処分をした相続人の同意は不要とされています(同条2項)。持ち出した相続人が否定していても、持ち出しの事実を立証できれば、その現金を遺産に含めて分割を進められる可能性があります。
生前に引き出されていた場合
亡くなる前に、同居の家族などが本人に無断で預金を引き出し、自宅に保管したり自分のために使ったりしていた場合、相続開始時に現金が残っていなければ、原則として遺産分割の対象にはなりません。この場合は、不当利得返還請求(民法703条・704条)や不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)として、遺産分割とは別に請求することになります。消滅時効は、不当利得返還請求権では権利を行使できることを知った時から5年・行使できる時から10年(民法166条1項)、不法行為では損害及び加害者を知った時から3年・不法行為の時から20年(民法724条)とされています。
証拠の集め方
自宅の現金そのものは記録が残りにくいため、金融機関の取引履歴から多額の現金引き出しの有無や時期を確認し、本人の生活状況や判断能力と照らし合わせて検討するのが一般的です。具体的な方法は遺産の使い込みの証拠の集め方をご覧ください。
タンス預金と相続税|申告漏れのリスク
自宅で保管されていた現金も、預貯金と同様に相続税の課税対象となる財産です。相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数。相続税法15条)を超える場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告が必要です(相続税法27条1項)。
「現金なら分からないだろう」と申告から除外すると、税務調査で指摘された場合に、本来の税額に加えて加算税や延滞税が課されるおそれがあります。また、相続人の一部が現金の存在を隠していた場合、他の相続人も申告内容の修正を迫られるなど、相続人全体の問題に発展しかねません。相続税の具体的な計算や申告の要否については、税理士または所轄の税務署にご確認ください。
話し合いでまとまらないときの解決手順
タンス預金の金額や存否について相続人の言い分が食い違う場合、一般的には次のような流れで解決を図ります。
- 遺産分割協議:発見した現金の金額・保管状況を開示し合い、他の遺産とあわせて分け方を話し合います。
- 遺産分割調停:協議がまとまらない場合、家庭裁判所(神奈川県内であれば横浜家庭裁判所やその支部など、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所等)に調停を申し立てます。
- 遺産分割審判:調停が不成立となった場合は審判手続に移行し、裁判所が分割方法を判断します。
- 民事訴訟:生前の引き出しなど遺産分割の対象とならない金銭や、現金の存否そのものに争いがある場合は、地方裁判所での訴訟で解決を図ることがあります。
現金の持ち出しや隠匿が疑われるケースは、調停で扱うか訴訟で扱うかの見極めが重要になります。遺産を一部の相続人に独占されている場合の全体的な対応は遺産を独り占めされたときの対処法でも解説しています。当事務所の相続分野の取扱いについては遺産分割・遺留分侵害額請求など相続問題の取扱いページをご覧ください。
相続のタンス預金トラブルを弁護士に相談するメリット
- 取引履歴の取得や弁護士会照会など、現金の存否を裏付ける証拠の収集を代理で進められる
- 民法906条の2の適用や、遺産分割と不当利得返還請求のどちらで請求すべきかを整理できる
- 感情的になりやすい兄弟間の交渉を代理人として行い、直接やり取りする負担を減らせる
- 遺留分侵害額請求など、他の相続上の請求とあわせて全体の見通しを立てられる
相続のタンス預金に関するよくある質問
タンス預金を見つけた相続人が多く受け取ることはできますか?
発見したことを理由に多く取得できるわけではありません。現金は遺産分割の対象となる相続財産であり、相続人全員の合意(または調停・審判)によって分け方を決めます。
遺産分割前に、自分の相続分の現金だけ先に受け取れますか?
最高裁判所平成4年4月10日判決により、遺産分割までの間は、現金を保管している相続人に対して自己の相続分相当額の支払いを求めることはできないとされています。なお、預貯金については、遺産分割前でも一定額の払戻しを受けられる制度があります(民法909条の2)。
相続放棄を予定していますが、タンス預金を見つけたらどうすればよいですか?
現金を使ったり自分のものにしたりすると、単純承認とみなされて相続放棄ができなくなるおそれがあります(民法921条)。手を付けずに保管し、他の相続人に知らせたうえで、早めに専門家に相談することをおすすめします。
少額のタンス預金でも相続税の申告は必要ですか?
相続税の申告が必要かどうかは、現金だけでなく相続財産の総額が基礎控除額を超えるかどうかで決まります。判断に迷う場合は、税理士または税務署にご確認ください。
まとめ
自宅で保管されていた現金(タンス預金)は相続財産であり、遺産分割の対象です。見つけた場合は使わずに記録して他の相続人に知らせ、相続税の申告にも含める必要があります。反対に、他の相続人による隠匿や持ち出しが疑われる場合は、持ち出しの時期によって民法906条の2による遺産への組入れや、不当利得返還請求などの方法を検討することになります。
現金は記録が残りにくく、証拠の集め方や請求の手段の選択によって結果が左右されやすい財産です。兄弟間で話し合いが難しい場合や、持ち出しが疑われる場合は、早めに相続問題を扱う弁護士に相談することで、時効や証拠散逸のリスクを抑えながら解決を目指すことができます。
タンス預金・遺産の持ち出しでお悩みの方へ
タングラム法律事務所では、遺産分割・遺留分侵害額請求・遺産の使い込みなど、相続人間で争いのある相続事件を多数取り扱っております。横浜を拠点に、証拠の収集から交渉・調停・訴訟まで一貫して対応いたします。
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