トレントの示談金は確定申告で経費になるか|肩代わりと贈与税
トレントの示談金は確定申告で経費になるか|肩代わりと贈与税
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月10日 最終更新日:2026年10月10日
BitTorrent(トレント)を理由に発信者情報が開示され、権利者から示談金の支払いを求められると、「せめて確定申告で経費にできないか」「親が代わりに払ってくれると言っているが、税金はかからないのか」といった、お金の出どころと税金の問題が気になってくる方も少なくありません。少しでも負担を軽くしたいと考えるのは自然なことです。
この記事では、トレントの示談金や弁護士費用を所得税の計算で差し引けるのか(会社員・個人事業主・法人の場合)、家族が示談金を肩代わりした場合に贈与税がかかるのかを、条文と国税庁の公表情報に沿って解説します。
結論として、私的なトレント利用で支払う示談金・損害賠償金は、会社員はもちろん個人事業主であっても、原則として必要経費や所得控除として差し引くことはできません。また、親や配偶者が本人に代わって示談金を支払うと、本人が贈与を受けたものとみなされ、年間110万円の基礎控除を超える部分に贈与税がかかる可能性があるため、肩代わりの方法は支払い前に検討しておくことが大切です。
会社員(給与所得者)は示談金を差し引けない
会社員の給与所得は、実際にかかった経費を積み上げるのではなく、給与の額に応じて定められた給与所得控除を差し引いて計算します。そのため、トレントの示談金や弁護士費用を支払っても、それを給与所得から差し引く仕組みはありません。
「損失」として所得控除を受けられないかと考える方もいますが、雑損控除の対象は、災害・盗難・横領による損失に限られています(所得税法72条、国税庁タックスアンサーNo.1110)。損害賠償金の支払いはこれらに当たらないため、雑損控除の対象にもなりません。
個人事業主・フリーランスでも原則として経費にならない
個人事業主やフリーランスの方は、事業所得の計算で必要経費を差し引くことができます。しかし、必要経費になるのは、その業務について生じた費用です(所得税法37条1項)。私的な動画やゲーム、音楽などのためにトレントを利用した結果支払う示談金は、業務とは関係のない「家事上の経費」にあたり、必要経費に算入しないものとされています(同法45条1項1号)。
さらに、仮に業務に関連していたとしても、故意または重大な過失によって他人の権利を侵害したことにより支払う損害賠償金は、必要経費に算入しないと定められています(所得税法45条1項8号、所得税法施行令98条2項)。事業用の回線や事業用のパソコンでトレントを使っていたとしても、それだけで示談金が経費になるわけではありません。
| 支払う人 | 示談金の税務上の扱い(原則) |
|---|---|
| 会社員(給与所得者) | 差し引く仕組みなし。雑損控除の対象外 |
| 個人事業主・フリーランス | 私的利用なら家事上の経費として必要経費に不算入。業務関連でも故意・重大な過失による権利侵害の賠償金は不算入 |
| 会社が従業員の分を負担 | 業務に関連しない行為なら、原則として従業員に対する債権として扱われる |
なお、示談交渉を依頼した弁護士費用も、私的な紛争に関する費用である以上、同じく家事上の経費と考えられます。具体的な申告内容は、税理士または所轄の税務署にご確認ください。
会社の回線で従業員が行い、会社が支払った場合
会社の回線で従業員がトレントを利用し、会社が権利者に損害賠償金を支払った場合の法人税の扱いについて、国税庁の法人税基本通達9-7-16は、業務の遂行に関連し、かつ故意または重過失に基づかないものであれば損金に算入できるとする一方、業務に関連しないもの、または故意・重過失に基づくものは、その役員・使用人に対する債権とすると定めています。
業務と無関係な私的利用の場合、会社がこの債権を貸倒れとして処理しても、従業員の支払能力などからみて回収が確実と認められる部分は、その従業員に対する給与として扱われます(同通達9-7-17)。会社側の対応の全体像は、会社の回線で従業員がトレントを利用していた場合の法人の対応で解説しています。
親や配偶者が示談金を肩代わりすると贈与税の対象になり得る
税金の面で特に注意したいのが、家族による肩代わりです。相続税法8条は、対価を支払わないで第三者に債務を弁済してもらった場合、その利益を受けた人が、弁済した人から弁済額相当の贈与を受けたものとみなすと定めています。つまり、本人が負う示談金の支払義務を親や配偶者が無償で支払うと、本人がその金額の贈与を受けたものとして扱われる可能性があります。
贈与税(暦年課税)には年間110万円の基礎控除があり、その年に受けた贈与の合計が110万円以下であれば贈与税はかからず申告も不要ですが、超える場合は翌年2月1日から3月15日までに申告・納税が必要です(国税庁タックスアンサーNo.4402)。示談金の額や件数によっては、他の贈与と合わせて基礎控除を超えることもあり得ます。
扶養義務者からの生活費・教育費の贈与は非課税とされていますが(相続税法21条の3第1項2号)、ここでいう生活費は「通常の日常生活に必要な費用」であり、必要な都度直接充てるものに限られます(国税庁タックスアンサーNo.4405)。損害賠償金の支払いがこれに当たると考えるのは難しいでしょう。
家族が法律上どこまで支払義務を負うのかについては、夫がトレントで開示請求を受けた場合に妻・家族に支払い義務はあるかをご覧ください。
贈与税の負担を避けるために考えられる方法
家族の援助を受ける場合には、次のような点を検討しておくことが考えられます。
- 贈与ではなく貸付けにする:家族から借りて本人が支払う形にするなら、金銭消費貸借契約書を作成し、実際に返済していくことが重要です。返済の実態がないと、贈与と判断されるおそれがあります。
- 資力がない場合の例外:本人が資力を失って債務を弁済することが困難な場合に、扶養義務者が債務を弁済したときは、弁済が困難な部分の金額については贈与税が課されません(相続税法8条ただし書2号)。ただし、資力喪失の判断は個別の事情によります。
- 親自身が責任を負う場合:子どもに責任能力がなく、親が監督義務者として自ら損害賠償責任を負う場合(民法714条1項)、親の支払いは自分自身の債務の弁済であり、肩代わりとは性質が異なります。責任能力の有無は年齢や発達の程度により個別に判断されます。
いずれの方法が適切かは、金額や家族関係、本人の収入・資産によって変わります。税務の判断は、必ず税理士または税務署に確認してから進めてください。
税金より先に確認したい「示談金の額そのもの」
税金の負担を考える前に、そもそも請求されている金額が妥当かを確認することが、実際の負担を左右します。示談金は、作品の性質、利用の態様や期間、件数などの事情によって決まり、請求額がそのまま法的に認められる額とは限りません。算定の考え方は、トレントの示談金はどう決まるのか(損害賠償額の算定要素)で詳しく解説しています。
開示後に通知書が届いた段階の交渉や支払方法の調整については、損害賠償請求を受けた方の対応(損害賠償請求対応のページ)もご参照ください。損害賠償請求の通知書がすでに届いている方向けには、BitTorrent損害賠償請求の通知書が届いた方向けの特設ページもあります。
また、意見照会書が届いた段階であれば、開示に至るかどうか、どのような回答をするかによって、その後の負担が大きく変わることがあります。回答の進め方や費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページでご案内しています。横浜の当事務所では、示談金の額と支払方法の両面から、負担をできるだけ小さくする方法を弁護士が一緒に検討します。
よくある質問
会社員ですが、トレントの示談金を確定申告で差し引くことはできますか。
できません。給与所得は給与所得控除を差し引いて計算する仕組みで、示談金を差し引く制度はありません。雑損控除も災害・盗難・横領による損失に限られるため、示談金の支払いは対象外です。
個人事業主で、仕事用のパソコンと回線で使っていました。経費にできますか。
原則としてできません。私的な目的での利用であれば家事上の経費にあたり、仮に業務に関連していても、故意または重大な過失による権利侵害の損害賠償金は必要経費に算入しないと定められています(所得税法45条1項1号・8号、所得税法施行令98条2項)。
親が示談金を払ってくれる場合、贈与税はかかりますか。
本人の債務を親が無償で支払うと、本人が贈与を受けたものとみなされる可能性があります(相続税法8条)。その年の贈与の合計が110万円以下なら贈与税はかかりませんが、超える場合は申告が必要です。借入れの形にする、資力がない場合の例外に当たるかを確認するなど、事前に税理士や税務署に相談することをおすすめします。
弁護士費用も経費や控除の対象になりませんか。
私的なトレント利用に関する紛争の弁護士費用は、示談金と同様に家事上の経費と考えられ、原則として必要経費にはなりません。個別の取扱いは税理士または税務署にご確認ください。
まとめ
私的なトレント利用で支払う示談金や弁護士費用は、会社員はもちろん、個人事業主であっても原則として経費や控除として差し引くことはできません。会社が従業員の分を負担した場合も、業務に関連しない行為であれば従業員に対する債権として扱われるのが原則です。
また、親や配偶者が示談金を肩代わりすると、贈与税の対象となる可能性があります。家族の援助を受ける場合は、借入れの形をとるか、例外に当たるかを支払い前に確認しておくことが大切です。そのうえで、最も大きいのは示談金の額そのものです。横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。金額の妥当性と支払方法を含めて、負担を小さくする方法を一緒に検討します。
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タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉、訴訟対応まで数多く取り扱っております。請求額の妥当性と、家族の援助を含めた支払方法を、事情に即してご説明します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。
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