チケット転売は1回だけでも開示請求されるのか|回数とリスクの関係
チケット転売は1回だけでも開示請求されるのか|回数とリスクの関係
「転売を繰り返していたわけではない。行けなくなった公演のチケットを1回出しただけなのに、なぜ自分に書面が届いたのか」。チケット転売の意見照会書を受け取った方から、最も多く寄せられるのがこの疑問です。
この記事では、出品が1回だけでも開示請求の対象になるのか、「業として」という要件を回数だけで判断してよいのか、そして回数の少なさが実際にどの場面で意味を持つのかを、弁護士が順に整理します。
「1回だけ」でも書面は届く
まず事実として、出品が1件であっても意見照会書は届きます。開示請求は、権利を侵害されたと主張する側が対象の出品を特定して行うものであり、出品回数が少ないことを理由に手続から自動的に除外される仕組みにはなっていません。
興行主が転売サイトの出品を調査し、対象に含めた出品について通信記録の開示を求め、そこから回線の契約者にたどり着く。この流れは、出品が1件でも数百件でも変わりません。
したがって、「1回だけだから自分は関係ないはずだ」という前提で書面を放置することは、最も避けたい対応になります。
文化庁が示す「業として」の考え方
チケット不正転売禁止法が禁じているのは、興行主等の同意のない有償譲渡のうち、業として行う有償譲渡であって、販売価格を超える価格によるものです。この「業として」の部分を、回数だけで判断してよいのかが問題になります。
この点について、文化庁が公表しているQ&A(チケットを購入する消費者編)は、「業として」とは繰り返し転売する反復継続性の意思がうかがえることをいうとしたうえで、たった1回の不正転売行為でも、繰り返し転売しようとしていた意思がうかがえる場合には、その時点で業として転売していると判断される可能性があるという趣旨を明らかにしています。
実際、購入枚数が明らかに自分の観覧目的を超えている、同一公演の複数座席を確保している、出品文面が転売を前提とした定型のものであるといった事情があると、回数が少なくても意思の面から評価される余地が生じます。要件そのものの整理はチケット転売はどこから違法かをご覧ください。
刑事の要件と、民事の請求は別物
ここで、多くの方が混同されている点を整理しておきます。チケット不正転売禁止法にあたるかどうかと、興行主から金銭を請求されるかどうかは、別の問題です。
| 場面 | 問われるもの | 回数の意味 |
|---|---|---|
| 刑事(不正転売禁止法違反) | 「業として」「販売価格を超える価格」等の要件を満たすか | 反復継続の意思を推認する材料の一つ |
| 民事(損害賠償・不当利得) | 興行主の権利を侵害したといえるか、いくらの損害が生じたか | 損害額・利益額の前提になる |
| 発信者情報の開示 | 権利侵害が明らかといえるか等 | 直接の要件ではない |
同法の要件を満たさない場合でも、興行主の規約に違反する出品であったことを理由に、民事上の主張を受けることはあります。「1回だから違法ではない」と考えても、請求そのものが来ないという保証にはならないということです。
回数の少なさが実際に効いてくる場面
では、1回だけであることに意味がないのかというと、そうではありません。むしろ、次の3つの場面で明確に意味を持ちます。
意見照会への回答
反復継続の意思がなかったこと、行けなくなった経緯があったこと、出品価格が販売価格を超えていなかったことは、開示に同意しない理由として書ける事情です。価格の論点はチケットを定価以下で譲るのは違法かで詳しく整理しています。
損害賠償額の交渉
請求額は、多くの場合、出品件数と得た利益の額を前提に組み立てられます。単発であること、手数料を差し引いた実際の入金額が小さいことを資料で示せれば、前提となる金額そのものを争えます。
その後の評価
継続的・組織的な転売と、単発の譲渡とでは、事案の位置づけが大きく異なります。この違いを、資料に基づいて具体的に説明できるかどうかが分かれ目になります。「1回だけです」と述べるだけでは足りず、取引履歴や購入時の記録で裏づけることが必要です。
1回の出品で書面が届いたときにすること
心当たりのある出品が1件だけだった場合、次の順で進めるのが安全です。
- 書面の記載を確認する:対象とされている出品の日時・公演名・出品価格が、自分の記憶と一致するか
- 資料を保存する:退会や履歴の削除をする前に、取引画面・購入時のメール・入金記録を残す
- 回答期限を確認する:多くは2週間程度と短く設定されています
- 回答方針を決めてから書く:回数の少なさを述べるだけでなく、何を資料で示せるかを整理する
意見照会書が届いた直後の全体像はチケット転売で意見照会書が届いたらにまとめています。当事務所の対応の範囲は意見照会対応のページでご案内しており、チケット転売の事案に特化した費用と流れはチケット転売の発信者情報開示請求への対応ページに掲載しています。
よくある質問
1回しか出品していないのに、なぜ書面が届いたのですか。
開示請求は、権利が侵害されたと主張する側が対象の出品を選んで行うものであり、出品回数によって自動的に対象から外れる仕組みにはなっていません。1件の出品でも、興行主が把握して請求の対象に含めれば、その通信を扱った事業者から意見照会が届きます。
1回だけなら「業として」にはあたらないのではありませんか。
文化庁のQ&Aは、たった1回の不正転売行為でも、繰り返し転売しようとしていた意思がうかがえる場合には、その時点で業として転売していると判断される可能性があると説明しています。回数だけで決まるものではないため、1回であることは有利な事情ではありますが、それだけで結論が決まるわけではありません。
行けなくなった公演のチケットを1枚譲っただけです。
反復継続の意思がうかがえない単発の譲渡であれば、不正転売にあたらないと考える余地があります。ただし、興行主の規約で転売が禁止されている場合には、規約違反を理由とする民事上の主張を受けることがあります。当時の事情と出品価格を示す資料を残しておいてください。
回数が少ないことは、どこで意味を持つのですか。
意見照会への回答内容、その後の損害賠償額の交渉、刑事事件になった場合の評価という各場面で意味を持ちます。とくに金額の交渉では、件数と得た利益の額が請求額の前提になるため、単発であることを資料で示せるかどうかが結果に影響します。
まとめ
- 出品が1件でも、開示請求の対象に含まれれば意見照会書は届く
- 「業として」は回数ではなく反復継続の意思で判断され、1回でも該当し得ると文化庁は説明している
- 不正転売禁止法にあたるかどうかと、民事上の請求を受けるかどうかは別の問題
- 回数の少なさは、回答内容・賠償額の交渉・事案の評価という場面で有利に働き得る
- ただし「1回だけです」と述べるだけでは足りず、取引履歴等の資料で裏づける必要がある
1回の出品であっても、届いた書面への対応を誤ると、その後の交渉の余地を狭めてしまいます。横浜のタングラム法律事務所では、単発の出品を理由に開示請求を受けた方からのご相談も承っています。弁護士が事案の実態を整理したうえで、回答の方針をご提案します。
1回の出品で書面が届いた方へ
タングラム法律事務所(横浜・山下公園)は、チケット転売を理由とする発信者情報開示請求について、意見照会書への回答書の作成・内容確認から、開示後の損害賠償請求への対応・示談交渉まで取り扱っています。オンラインで全国からご相談いただけます。回答期限がある場合は、その日付をお知らせください。
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