Xの鍵垢からの誹謗中傷は開示請求できる?公然性と証拠の集め方
Xの鍵垢からの誹謗中傷は開示請求できる?公然性と証拠の集め方
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月12日 最終更新日:2026年10月12日
「鍵垢(鍵アカウント)で自分の悪口を書かれているらしい」「フォロワーの知人がスクリーンショットを送ってくれたけれど、自分には投稿が見えない」——X(旧Twitter)の非公開アカウントからの誹謗中傷は、被害者本人が内容を確認できないことも多く、どう動けばよいのか分からず不安になる方が少なくありません。
この記事では、鍵垢の投稿でも名誉毀損が成立するのか(公然性の問題)、発信者情報開示請求の対象になるのか、見えない投稿の証拠をどう集めるのか、相手がアカウントを消した場合にどうなるのかを、横浜の弁護士が順に解説します。
結論として、Xの鍵垢からの誹謗中傷であっても、それだけで開示請求や損害賠償請求ができなくなるわけではありません。フォロワーの範囲や拡散の可能性から公然性が認められれば名誉毀損が成立し得ますが、事情によって判断が分かれるため、フォロワーの協力による証拠の確保と早めの対応が重要です。
Xの鍵垢(非公開アカウント)の投稿は誰が見られるのか
Xのヘルプセンターによると、ポストを非公開にすると、そのポストは現在のフォロワーのみが閲覧でき、フォローを希望するユーザーからはリクエストが届き、承認するか拒否するかを選べる仕組みです。また、非公開ポストはフォロワーがリポストボタンで再投稿することができず、Google検索などの外部の検索エンジンにも表示されません。
一方で、同じヘルプでは、フォロワーが画像を保存・共有できる点にも注意するよう案内されています。鍵垢の投稿も、フォロワーがスクリーンショットで他人に見せることは可能であり、この点が公然性の判断や証拠の確保に関わってきます。
鍵垢の誹謗中傷でも名誉毀損は成立する?「公然性」の考え方
刑法上の名誉毀損罪(刑法230条1項)は、事実を「公然と」摘示したこと、すなわち不特定または多数の人が知り得る状態にしたことを要件としています。民事上の名誉毀損(民法709条・710条)でも、社会的評価が低下したといえるかを判断する際に同様の点が問題になります。鍵垢の投稿は閲覧できる人が限られるため、加害者側から「公然性がない」と反論されることがあります。
この点、最高裁昭和34年5月7日判決(刑集13巻5号641頁)は、少数の人に話した場合でも、そこから不特定多数の人に伝わる可能性があるときは名誉毀損が成立し得るという考え方(いわゆる伝播性の理論)を前提に判断しています。鍵垢の投稿についても、裁判例では次のような事情が考慮されていると紹介されています。
| 公然性が認められやすい事情 | 公然性が否定されやすい事情 |
|---|---|
| フォロワーが多い、承認の基準が緩く誰でもフォローできる状態だった | フォロワーがごく少数で、家族など身近な人に限られている |
| フォロワーにスクリーンショット等で広められる可能性があった | 投稿の性質上、外部に広まることが想定しにくい |
| 被害者と共通の知人がフォロワーに含まれている | 被害者を知る人がフォロワーにいない |
実際に、鍵アカウントであることを理由に公然性を否定する反論を退けて名誉毀損を認めた裁判例がある一方、被害者がフォロワーでなく投稿内容を知り得なかった事案で名誉感情の侵害を否定した裁判例もあるとされています。鍵垢だから大丈夫、鍵垢だから無理、とは一概にいえず、個別の事情を丁寧に主張することが大切です。公然性の一般的な考え方は名誉毀損の「公然性」とは|DMや1対1でも成立するかでも詳しく解説しています。
鍵垢の投稿は発信者情報開示請求の対象になるか
発信者情報開示請求は、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)5条1項に基づき、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」が行うものです。「特定電気通信」とは、同法2条1号で「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の送信と定義されています。
総務省の逐条解説では、これは送信者の主観ではなく送信の態様から客観的・外形的に判断されるとされています。SNSへの投稿は特定電気通信の典型ですが、鍵垢は承認制であるため争点になる可能性があり、フォロワー承認の実態などを踏まえた主張が必要です。
開示が認められるには、権利侵害が明らかであること(5条1項1号)と、損害賠償請求のために必要であるなど開示を受けるべき正当な理由があること(同項2号)が必要です。Xのようなログイン型のSNSでは、ログイン時の通信記録から投稿者を特定することが多く、その場合は同項3号の要件も問題になります。手続の流れはX(旧Twitter)の誹謗中傷で投稿者を特定する方法をご覧ください。被害者側の手続全体については発信者情報開示請求・削除請求の取扱分野ページで紹介しています。
見えない鍵垢の投稿の証拠を集める方法
鍵垢の誹謗中傷で最も難しいのが証拠の確保です。裁判所に投稿の存在と内容を示せなければ、手続を進めることはできません。
フォロワーからスクリーンショットの提供を受ける
現実的なのは、鍵垢をフォローしている知人などからスクリーンショットを提供してもらう方法です。次の点を意識してください。
- 投稿本文だけでなく、アカウント名・ユーザー名(@から始まるID)・投稿日時が写るように撮影する
- 可能であれば投稿のURLも控えておく(投稿の特定に役立ちます)
- 前後の投稿やプロフィール画面も保存し、誰のことを書いているか(同定可能性)を示せるようにする
- 提供者に、いつ・どのように閲覧して保存したかを説明する陳述書の作成を依頼できるか相談する
撮影方法の基本は誹謗中傷の証拠保全|スクリーンショットの正しい撮り方も参考にしてください。
相手が鍵垢を削除・停止した場合の注意点
開示請求を警戒して、相手がアカウントを停止することもあります。Xのヘルプでは、アカウントを停止してから30日間ログインしなければアカウントが削除されると案内されています。
アカウントが削除されても、手元に証拠があり、Xやプロバイダに必要な記録が残っていれば、開示請求を検討できる場合があります。ただし、プロバイダの通信記録は一定期間で消去されるのが通常です。鍵垢での誹謗中傷に気づいたら、証拠を確保したうえで早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
鍵垢の誹謗中傷の削除を求める方法
投稿の削除を求める方法としては、Xの報告機能のほか、情プラ法に基づき大規模なプラットフォーム事業者が設ける削除申出の窓口を利用する方法があります。ただし、報告する本人が投稿を閲覧できないと、対象の投稿を特定して申し出ることが難しい場合があります。任意の削除に応じてもらえない場合は、裁判所に削除の仮処分を申し立てることも考えられます。
Xをはじめとする主要サイトごとの対応は掲示板・SNS別の削除・投稿者特定のページにまとめています。SNSでのなりすましや誹謗中傷全般への対応は、SNSなりすまし・誹謗中傷への対応の特設ページでもご案内しています。
よくある質問
鍵垢のフォロワーが数人しかいなくても名誉毀損になりますか?
人数だけで決まるわけではありません。フォロワーの範囲や関係性、フォロワーが画像を保存・共有して広める可能性などを総合して、不特定または多数の人に伝わる可能性があったかが判断されます。少人数でも公然性が認められる可能性はありますが、事情によっては否定されることもあります。
自分は鍵垢のフォロワーではなく、投稿を見たことがありません。それでも開示請求できますか?
投稿の内容を証拠で示せれば、請求を検討できる可能性があります。フォロワーの方からスクリーンショットの提供を受け、その方に経緯を説明する陳述書を書いてもらう方法が考えられます。証拠がまったくない場合は、投稿の存在や内容を裁判所に示すことが困難です。
相手が鍵垢を削除したら、もう特定できませんか?
直ちに不可能になるとは限りません。Xのヘルプでは、アカウント停止から30日間ログインしなければアカウントが削除されると案内されています。証拠が手元にあり、事業者やプロバイダに必要な記録が残っていれば、開示請求を検討できる場合があります。ただし時間の経過とともに記録が失われるおそれがあるため、早めの対応が重要です。
まとめ|鍵垢の誹謗中傷は証拠の確保と早めの相談を
- 鍵垢の投稿でも、フォロワーの範囲や拡散の可能性によっては公然性が認められ、名誉毀損が成立し得る
- 発信者情報開示請求では、公然性や特定電気通信該当性が争点になり得るため、事情を丁寧に主張する必要がある
- 見えない投稿は、フォロワーからのスクリーンショットと陳述書で証拠化するのが現実的
- アカウントの削除や記録の消去が進む前に、早めに動くことが重要
鍵垢の誹謗中傷は、公開アカウントの場合よりも主張・立証の工夫が求められます。弁護士に相談すれば、証拠が足りているか、どの手続を選ぶべきかを早い段階で見極められます。横浜の弁護士として、鍵垢からの誹謗中傷にお悩みの方のご相談をお受けしています。
鍵垢からの誹謗中傷でお悩みの方へ
タングラム法律事務所では、X・Instagram等のSNSや匿名掲示板での誹謗中傷について、発信者情報開示請求・削除請求の実績を多数有しております。見えない投稿の証拠の集め方から、開示請求・損害賠償請求まで一貫してサポートいたします。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。