アダルト動画は著作権で保護されないのか|トレント意見照会と著作物性
アダルト動画は著作権で保護されないのか|トレント意見照会と著作物性
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月13日 最終更新日:2026年10月13日
BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書を受け取り、対象が成人向けの映像作品だと分かったとき、「アダルト動画はそもそも違法なのだから、著作権で守られないのではないか」と考える方は少なくありません。インターネット上でも同じような意見を見かけるため、回答書にそう書けば開示を止められるのではないかと期待される方もいらっしゃいます。
この記事では、著作権法が「著作物」をどう定めているのか、成人向け映像のわいせつ性を理由に著作物性を否定する主張について裁判所がどう判断したのか、そして意見照会の段階でこの主張をすることの意味とリスクを、発信者側の立場から解説します。
結論として、著作権法にはわいせつな内容であることを理由に著作物の保護を否定する規定はなく、審査を受けて一般に販売されている成人向け映像について、わいせつ性を理由に著作物性を否定する主張を退けた裁判例があります。「アダルト動画だから著作権はない」という主張だけで開示を止められる可能性は低く、むしろ発信日時やファイルの同一性、権利者性など、事案に即した具体的な事情を確認することが重要です。
なぜ「アダルト動画に著作権はない」という主張が出てくるのか
BitTorrentをめぐる発信者情報開示請求は、成人向けの映像作品を対象とするものが多いと報道などでも伝えられています。意見照会書を受け取った方が、作品の性質に着目して「違法なものに法律上の保護が与えられるのはおかしい」と考えるのは、自然な発想かもしれません。
この主張の背景には、刑法175条の存在があります。同条は、わいせつな文書・図画・電磁的記録に係る記録媒体などを頒布したり公然と陳列したりする行為や、電気通信の送信によってわいせつな電磁的記録を頒布する行為を処罰の対象としています。「刑法で規制されるようなものなら、著作権法でも保護されないはずだ」という理屈です。
しかし、刑法が一定の行為を処罰していることと、著作権法がその作品を保護するかどうかは、別々に定められた問題です。以下、著作権法の定めから順に確認します。
著作権法上の「著作物」の要件と、映画の著作物
著作権法は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています(著作権法2条1項1号)。著作物の例として「映画の著作物」が挙げられており(同法10条1項7号)、映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、物に固定されている著作物も、映画の著作物に含まれます(同法2条3項)。
企画・監督・演出・撮影・編集などを経て制作され、DVDやデータとして固定された映像作品は、内容のジャンルを問わず、これらの要件を満たし得ます。
一方、著作権法は、権利の目的とならない著作物を13条で定めていますが、そこに挙げられているのは、憲法その他の法令、国や地方公共団体の機関などが発する告示・訓令・通達、裁判所の判決・決定などと、それらの翻訳物・編集物で国などが作成したものに限られます。わいせつな内容であることを理由に保護を否定する規定は、著作権法には置かれていません。
| 確認する点 | 著作権法の定め |
|---|---|
| 著作物の定義 | 思想又は感情を創作的に表現したもの(2条1項1号) |
| 映像作品の位置付け | 映画の著作物(10条1項7号・2条3項) |
| 保護の対象外とされるもの | 法令・告示・通達・判決など(13条)。内容のわいせつ性による除外の規定はない |
わいせつ性を理由とする主張を退けた裁判例
BitTorrentによる送信可能化を理由とする発信者情報開示請求の訴訟で、プロバイダ側が、対象の動画はいわゆるアダルト動画であり、刑法175条の「わいせつ」な電磁的記録に当たるから著作物として保護されない、と主張した事案があります(東京地方裁判所令和6年2月15日判決・令和5年(ワ)第70430号)。
裁判所は、まず、その動画が制作会社の従業員らによって企画・監督・演出・撮影などを経て制作され、思想または感情を創作的に表現したもので、DVD等の媒体に固定されていることから、映画の著作物に当たると認めました。そのうえで、動画が一般社団法人日本映像制作・販売倫理機構の審査を受けた映像作品として一般に販売されていることに照らすと、アダルト動画であるからといって直ちに刑法175条の「わいせつ」な電磁的記録に当たるとはいえず、プロバイダ側の主張は前提を欠くと判断し、ほかに著作物性を否定すべき事情もないとして、開示を認めました。
この裁判例が示しているのは、「アダルト動画である」という事情だけでは、著作物性は否定されないということです。なお、この判決は、審査を受けて一般に販売されている作品であることを前提に、わいせつ物に当たらないとした判断であり、仮に刑法上のわいせつ物に当たる作品であった場合に著作権法上の保護がどうなるかについてまで判断したものではありません。
回答書で「わいせつ性」を主張するリスク
では、審査を受けていない作品などであれば、わいせつ性を主張する意味があるのでしょうか。この点は確立した判断があるとはいえず、理論上は議論の余地があります。しかし、意見照会への回答としてこの主張を前面に出すことには、次のような問題があります。
- 開示を止める効果が期待しにくい:上記のとおり、著作権法には内容による保護の除外規定がなく、成人向け映像の著作物性を前提とした開示判断が積み重ねられています。
- 自ら不利な事情を示すことになりかねない:「わいせつな電磁的記録である」という主張は、その送信に自分が関与したことを前提にする面があります。刑法175条は電気通信の送信による頒布も対象としているため、主張の仕方によっては、かえって別の法的問題を自ら指摘することになりかねません。
- 回答書の記載は後の手続で参照され得る:回答書は、開示の判断や開示後の交渉の場面で参照されることがあります。作品の内容を詳しく論じることで、送信の事実や作品の認識を認めたと受け取られるおそれもあります。
回答書に何を書き、何を書かないかは、事案ごとに慎重な判断が必要です。当事務所が意見照会書への回答で重視している点は、意見照会対応のページでもご紹介しています。
意見照会の段階で本当に確認すべきこと
作品の性質を争うよりも、意見照会の段階で確認すべきなのは、照会書と添付資料に記載された具体的な事実です。
- 発信日時・IPアドレス・ポート番号:記載された日時に、その回線で、誰がどのような機器を使っていたか。日時が協定世界時(UTC)で記載されている場合は日本時間への換算も必要です。
- ファイルの同一性:ハッシュ値やファイル名が、権利者の作品と同一のファイルを示しているか。添付資料の読み方はトレント意見照会書の添付資料の読み方で詳しく解説しています。
- 請求者の権利者性:請求しているのが本当にその作品の著作権者か、権利の譲渡や利用許諾の関係はどうなっているか。この点はトレントの請求者は本当に著作権者かで整理しています。
- 回線を利用できた人の範囲:家族・同居人、Wi-Fiを利用できた第三者の有無など。
こうした点に具体的な疑問がある場合には、その疑問を回答書で指摘することに意味があります。反対に、記載された事実に心当たりがある場合には、開示後の示談交渉を見据えた対応を検討することになります。
作品の内容を知られたくないという不安について
成人向けの作品であることから、「家族や勤務先に作品の内容まで知られるのではないか」と不安を感じる方も多くいらっしゃいます。意見照会書は回線契約者に宛てて送られるもので、プロバイダや権利者が勤務先に連絡する仕組みはありません。どのような場面で誰に知られ得るのかは、トレント開示請求は会社・学校・家族に知られるのかで段階ごとに整理しています。
弁護士に依頼すれば、回答書の作成から開示後の権利者側代理人とのやり取りまで、連絡の窓口を弁護士に一本化することができます。横浜の当事務所では作品のジャンルにかかわらずご相談をお受けしており、作品の内容を理由に相談をためらう必要はありません。意見照会への対応の流れや費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページでご案内しています。
よくある質問
「アダルト動画は違法だから著作権はない」と回答書に書けば、開示を止められますか。
その主張だけで開示を止められる可能性は低いと考えられます。著作権法には、わいせつな内容であることを理由に著作物の保護を否定する規定はなく、審査を受けて一般に販売されている成人向け映像について、わいせつ性を理由とする著作物性の否定を退けた裁判例もあります。
審査を受けていない作品であれば、著作物性を争う余地はありますか。
刑法上のわいせつ物に当たる作品について著作権法上の保護がどうなるかは、確立した判断があるとはいえず、議論の余地があります。ただし、その主張は自らわいせつな電磁的記録を送信したことを前提にする面があり、かえって不利な事情を示すことになりかねません。主張するかどうかは弁護士と慎重に検討してください。
作品のジャンルを家族や勤務先に知られたくないのですが、どうすればよいですか。
意見照会書は回線契約者に宛てて送られ、プロバイダや権利者が勤務先に連絡する仕組みはありません。弁護士に依頼すれば、その後の連絡の窓口を弁護士に一本化することもできます。知られ得る場面は手続の段階ごとに異なるため、早めに弁護士へ相談してください。
著作物性を争わないのであれば、意見照会の段階で何を確認すればよいですか。
添付資料に記載された発信日時・IPアドレス・ポート番号とご自身の利用状況が整合するか、ファイルの同一性を示すハッシュ値、請求者が本当に著作権者か、回線を使える人が誰かといった点です。こうした具体的な事情の確認が、回答書の内容を左右します。
まとめ
著作権法は、思想または感情を創作的に表現したものを著作物として保護しており、内容のわいせつ性を理由に保護を否定する規定は置いていません。裁判例でも、審査を受けて一般に販売されている成人向け映像について、わいせつ性を理由に著作物性を否定する主張は退けられています。「アダルト動画だから著作権はない」という主張に頼るよりも、照会書と添付資料に記載された事実を一つずつ確認し、事案に即した回答をすることが大切です。
回答書の記載は、その後の手続や交渉にも影響します。横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。作品の内容にかかわらず、事実関係を丁寧に伺ったうえで、回答の方針をご提案します。
回答書に何を書くべきか迷っている方へ
タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉、訴訟対応まで数多く取り扱っております。照会書と添付資料を確認し、事案に即した回答の方針をご説明します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。
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