不貞慰謝料の示談後に追加請求はできる?清算条項の効力を解説
不貞慰謝料の示談後に追加請求はできる?清算条項の効力を解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月13日 最終更新日:2026年10月13日
不倫相手との間で慰謝料の示談が成立し、ようやく一区切りついたと思っていたところ、「実は不倫の期間はもっと長かった」「ほかにも相手がいた」といった事実が後から分かることがあります。反対に、示談金を支払い終えたのに、相手方から「新しい証拠が見つかったので追加で支払ってほしい」と連絡が来て戸惑っている方もいるでしょう。
この記事では、不貞慰謝料の示談が成立した後に追加請求ができるのかについて、示談(和解)の効力と清算条項の意味、追加請求が認められうる例外的な場面、示談後に追加請求をされた側の対応まで、横浜の弁護士が解説します。
結論として、清算条項のある示談書を取り交わした後は、原則としてその示談の対象となった不貞行為について追加で慰謝料を請求することはできません。ただし、示談の対象に含まれない別の不貞行為(示談後の再度の不倫や、別の不倫相手との関係など)は別途請求できる可能性があり、また、示談の前提となった事情について錯誤や詐欺があった場合には、示談の取消しが問題となることもあります。
不貞慰謝料の示談とは|和解としての効力
不貞慰謝料の示談は、法律上は「和解」(民法695条)にあたると解されています。和解は、当事者が互いに譲歩をして争いをやめることを約束する契約です。
和解が成立すると、その内容に従って権利関係が確定します。民法696条は、和解で認められた権利関係と異なる確証が後日出てきたとしても、その権利は和解によって移転し、または消滅したものとする旨を定めています。つまり、「後から見れば請求額が少なすぎた」「もっと払わせることができた」という事情があっても、それだけで和解の内容を覆すことはできないのが原則です。
清算条項があると追加請求はできないのが原則
不貞慰謝料の示談書には、通常、次のような清算条項が入っています。
この条項により、「本件」に関しては示談書で定めた金額以外に互いに請求しない合意をしたことになります。そのため、後から「金額が少なかった」と考え直しても、原則として追加請求はできません。
ここで重要になるのが、清算条項の対象となる「本件」の範囲です。示談書の冒頭で「乙が甲の配偶者丙と令和○年○月頃から令和○年○月頃までの間に不貞行為に及んだ件」のように対象を特定している場合は、その範囲の不貞行為が清算の対象になります。反対に、対象が曖昧なまま「本件」とだけ書かれていると、後から「どこまでが本件か」が争いになることがあります。示談書の条項の確認ポイントについては、不貞慰謝料の示談書にサインする前の確認点でも詳しく解説しています。
示談後でも追加請求が問題となる主なケース
清算条項があっても、次のような場面では追加請求や示談の効力が問題になりえます。
| ケース | 考え方の目安 |
|---|---|
| 示談後に再び不倫関係を持った | 示談後の新たな不貞行為は「本件」に含まれないため、別途請求できる可能性がある |
| 別の不倫相手がいたことが判明した | 示談の当事者ではない別の相手への請求は、その示談の清算条項に拘束されない |
| 示談で特定した期間より前から関係が続いていた | 「本件」の定め方次第。期間を限定していれば、範囲外の部分が争点になりうる |
| 相手が関係を偽って示談に応じさせた | 錯誤・詐欺による取消しが問題になりうる(ハードルは高い) |
| 示談後に夫婦が離婚することになった | 不倫相手に対する追加請求は、原則として難しいと考えられる |
示談後に再び関係を持った場合
示談後に再び不貞行為があった場合、その行為は示談の対象外の新たな不法行為(民法709条)として、改めて慰謝料を請求できる可能性があります。示談書に接触禁止条項と違約金の定めがあれば、違約金の請求も検討します。詳しくは不貞行為が繰り返された場合の慰謝料と違約金をご覧ください。
別の不倫相手がいた場合
示談は当事者の間でのみ効力を持つ契約です。別の相手との不貞行為が判明した場合は、その相手に別途請求することが考えられます。ただし、その相手の故意・過失や当時の婚姻関係の状況などは個別に検討が必要です。
示談後に離婚することになった場合
示談の時点では離婚しない前提だったものの、その後に離婚することになったため、不倫相手に増額を求めたいという相談もあります。しかし、最高裁は、不倫相手は、単に不貞行為に及んだにとどまらず、夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなど特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料(離婚慰謝料)を負わないと判断しています(最判平成31年2月19日民集73巻2号187頁)。清算条項もあるため、離婚を理由とする不倫相手への追加請求は、原則として難しいと考えられます。
示談の取消し・効力が争われる場合の考え方
示談の内容そのものを覆すには、錯誤(民法95条)や詐欺・強迫(民法96条1項)による取消しなどを主張する必要があります。和解の前提として当事者が争わなかった事項について錯誤があった場合に、和解の効力が否定されうるとした最高裁判例もあります(最判昭和33年6月14日民集12巻9号1492頁。改正前の民法のもとで「無効」とされた事案で、現行法では取消しの問題となります)。
また、交通事故の示談について、示談当時予想できなかった後遺症などの損害までは放棄していないとした最高裁判例もあります(最判昭和43年3月15日民集22巻3号587頁)。もっとも、身体の傷害に関する事案であり、不貞慰謝料の示談にそのまま当てはまるとは限りません。
不倫の期間や回数は示談の段階で争点になっていることが多く、「争いをやめる」という和解の性質上、後から「期間が長かった」と分かったというだけで取消しが認められるのは容易ではありません。示談の取消しについては不貞慰謝料の示談は取り消せるかを解説した記事もあわせてご確認ください。
示談後に追加請求をされた側の対応
示談金を支払った後に追加請求を受けた場合は、次の順に確認することをおすすめします。
- 示談書の清算条項と「本件」の範囲:請求されている内容が、示談の対象となった不貞行為に含まれるかを確認します
- 新たな事実の有無:示談後の接触や、示談書で特定されていない期間の関係を指摘されているのかを整理します
- 安易に認めない・署名しない:電話や面談でその場で認めたり、新たな念書に署名したりすると、示談の範囲外の事実を自ら認めたことになりかねません
- 書面で回答する:清算条項を指摘し、追加の支払義務がないと考える理由を書面で伝えるのが基本です
条項の意味が分からない場合は、回答する前に弁護士に相談するのが安全です。示談書の作成から追加請求への対応まで、当事務所の不貞慰謝料請求の取扱分野ページでご案内しています。
追加請求のトラブルを防ぐ示談書の作り方
これから示談をする場合は、後日のトラブルを防ぐため、次の点を示談書に明記しておくことが大切です。
- 対象となる不貞行為を、当事者・期間でできる限り特定する
- 「本件に関し、本示談書に定めるもののほか何らの債権債務がない」旨の清算条項を入れる
- 請求する側は、示談後の再度の接触に備えて接触禁止条項・違約金を定める
なお、示談の対象外となる不貞行為について請求する場合でも、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により請求権が消滅する点には注意が必要です(民法724条)。
よくある質問
示談後に不倫期間がもっと長かったと分かった場合、追加請求できますか?
清算条項がある場合は、原則として難しいと考えられます。ただし、示談書で対象の期間を限定していた場合は、その範囲外の部分について請求できるかが争点になりえます。
示談した不倫相手とは別の相手がいたことが分かりました。請求できますか?
示談は当事者の間でのみ効力を持つため、別の不倫相手に対しては別途請求できる可能性があります。相手の故意・過失や時効などは個別に確認が必要です。
示談金を払った後に追加で請求されました。支払う必要がありますか?
請求の内容が示談の対象となった不貞行為に含まれ、清算条項がある場合は、原則として追加で支払う義務はないと考えられます。その場で認めたり署名したりせず、清算条項を指摘して書面で回答するのが基本です。
示談後に離婚することになった場合、不倫相手に増額を求められますか?
最高裁は、不倫相手は特段の事情がない限り離婚慰謝料を負わないと判断しています(最判平成31年2月19日)。清算条項もあるため、離婚を理由とする追加請求は原則として難しいと考えられます。
まとめ
不貞慰謝料の示談は和解としての効力を持ち、清算条項がある場合は、示談の対象となった不貞行為について追加請求をすることは原則としてできません。一方で、示談後の再度の不倫や別の不倫相手との関係など、示談の対象外の行為については別途請求できる可能性があり、錯誤・詐欺を理由に示談の効力が争われることもあります。
追加請求ができるか、応じる必要があるかは、示談書の文言と事実関係によって結論が分かれます。早めに弁護士に相談することで、見通しを踏まえた対応が可能になります。横浜で不貞慰謝料の示談をめぐる問題にお悩みの方は、お早めにご相談ください。
示談後の追加請求でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、不貞慰謝料の請求・減額交渉について、請求する側・請求された側の双方から多数のご相談をお受けしています。お手元の示談書の内容を確認し、追加請求ができるか、応じる必要があるかを弁護士がご説明します。
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