タングラム法律事務所

不貞慰謝料の示談書にサインする前の確認点|横浜の弁護士が解説

不貞慰謝料の示談書にサインする前の確認点|横浜の弁護士が解説

不貞慰謝料の示談書にサインする前の確認点|横浜の弁護士が解説

不貞慰謝料の示談書にサインする前の確認点|横浜の弁護士が解説

不貞慰謝料の示談書にサインする前の確認点|横浜の弁護士が解説

不貞慰謝料を請求され、相手方から「この内容で示談してほしい」と示談書(合意書)が送られてきた。金額に納得できないわけではないけれど、書かれている条項の意味がよくわからない。早く終わらせたい気持ちもあり、署名して送り返してしまおうか迷っている——。こうしたご相談は少なくありません。

しかし、示談書は一度署名・押印してしまうと、あとから「やはり納得できない」と覆すことが非常に難しい書面です。しかも、負担が生じるのは支払う金額だけではありません。求償権の放棄、違約金付きの接触禁止、口外禁止といった条項が、金額とは別に重い義務を生じさせることがあります。この記事では、不貞慰謝料を請求された側の視点から、示談書にサインする前に必ず確認しておきたい点を、条項ごとに整理して解説します。

不貞慰謝料の示談書とは|署名するとどうなるのか

示談書は、法的には民法695条にいう「和解」の契約書にあたります。和解とは、当事者が互いに譲り合って争いをやめることを約束する契約です。不貞慰謝料の場面では、請求する側が請求額を下げ、請求された側が支払を約束する、という形で互譲が行われます。

署名・押印によって和解が成立すると、民法696条の効果が働きます。同条は、和解によって当事者の一方が権利を有するものと認められた場合、あとから反対の証拠が出てきたとしても、その権利は和解の内容どおりに確定するという趣旨を定めたものです。つまり、示談で決着させた事項については、後から蒸し返すことが原則としてできなくなります。ここが、示談書に署名する行為の重さです。

示談書は「支払う金額を決める書面」ではなく、「その紛争について、これ以上争わないことを確定させる書面」です。金額欄だけを見て署名するのは避けてください。

示談書に置かれる条項の全体像については、不貞慰謝料の示談書(合意書)の書き方と注意点の記事でも整理していますので、併せてご覧ください。

サイン前に確認すべき5つの条項

不貞慰謝料の示談書で、請求された側にとって特に影響が大きいのは次の5つの条項です。順に見ていきます。

条項確認のポイント
支払条項金額・支払方法・期限・分割の可否・遅延損害金の利率
清算条項対象となる当事者と債権の範囲。将来の請求を封じられるか
求償権放棄条項不貞をした配偶者への求償ができなくなる不利益
接触禁止条項禁止される行為の範囲と、違約金の額・発動条件
口外禁止条項誰に対して何を話せなくなるか。弁護士・家族への相談は除外されているか

1. 支払条項|金額だけでなく「支払える条件か」を見る

支払条項では、金額、支払方法(一括か分割か)、支払期限、振込先、遅延損害金の定めを確認します。実務でしばしば問題になるのは、分割払いの場合の「期限の利益喪失条項」です。これは、支払を怠ったときに残額を一括で支払わなければならなくなるという条項で、「1回でも遅滞したとき」と定められていることもあれば、「2回分以上を怠ったとき」と定められていることもあります。前者は、うっかり数日遅れただけで残額全部の一括請求を受けかねない厳しい内容です。

また、遅延損害金の利率が定められている場合、その利率が妥当かも確認が必要です。約定がなければ民法所定の法定利率によることになりますが、示談書で高い利率が定められていれば、それに従うことになります。

2. 清算条項|「他に何ら債権債務がないことを相互に確認する」の意味

清算条項は、示談書に定めたもののほかには当事者間に債権債務が存在しないことを確認する条項です。請求された側にとっては、これ以上の請求を受けないという保護になる、有利な条項でもあります。

ただし、注意すべきなのは対象範囲です。清算条項の当事者が「甲(請求者)と乙(請求された側)」に限られている場合、不貞をした配偶者との関係は清算されません。また、清算条項が「本件不貞行為に関し」と限定されていれば、それ以外の事由に基づく請求は残ります。逆に、範囲が広すぎて、自分が相手方に対して持っている可能性のある請求権(たとえば、私生活を職場に暴露されたことによる損害賠償請求など)まで消してしまう書きぶりになっていないかも見ておく必要があります。

3. 求償権放棄条項|金額との見合いで判断する

不貞行為は、不貞をした配偶者と不貞の相手方による共同不法行為(民法719条)と構成されるのが一般です。この場合、慰謝料を全額支払った側は、他方に対し、その負担部分に応じて求償することができるのが原則です。

ところが、請求する側が用意する示談書には、ほぼ例外なく「乙は、甲の配偶者に対する求償権を放棄する」という条項が入っています。請求者としては、慰謝料を受け取っても配偶者が求償を受ければ家計として意味がなくなるため、当然の要求です。しかし請求された側から見れば、本来は分担できたはずの負担を一人で背負うことを意味します。

したがって、求償権放棄に応じること自体が直ちに不当なわけではなく、「放棄する対価として、その分の減額を受けているか」という見方が重要になります。求償権の仕組みについては、不貞慰謝料における求償権の基礎知識で詳しく解説しています。

4. 接触禁止条項と違約金|「偶然の遭遇」まで含まれていないか

接触禁止条項は、以後、相手方の配偶者と連絡を取らない、会わないことを約束する条項で、違約金の定めとセットになっていることが一般的です。違約金の定めは、賠償額の予定(民法420条)として原則有効と解されています。なお、平成29年の民法改正により、裁判所が予定賠償額を増減することができない旨の規定は削除されました。もっとも、金額が著しく高額であるなど公序良俗に反すると評価される場合には、その効力が制限される可能性があります。

確認すべきは、禁止される行為の書きぶりです。同じ職場・同じ業界にいる場合、業務上必要な連絡まで禁止されると履行が不可能になります。また、「一切接触してはならない」とだけ書かれていると、街中で偶然すれ違った場合まで違約金の対象になりかねません。「自ら積極的に連絡を取り、又は面会してはならない」といった限定や、業務上やむを得ない場合の除外を求める交渉は、実務上よく行われます。

5. 口外禁止条項|弁護士や家族への相談まで封じられていないか

口外禁止条項(秘密保持条項)は、示談の事実や内容を第三者に口外しないことを約束する条項です。SNSでの言及を防ぐ目的もあり、双方にとって意味のある条項ですが、範囲が広すぎると、弁護士や税理士への相談、同居の家族への説明までできなくなる建て付けになっていることがあります。「法令に基づく場合及び弁護士等の専門家に相談する場合を除き」といった除外を入れておくのが穏当です。

金額そのものは妥当か|相場との比較を先に済ませる

条項の確認と並んで重要なのが、提示された金額が裁判実務の水準に照らして妥当かという検討です。裁判例の傾向としては、不貞行為が認められる場合の慰謝料額は、婚姻期間、不貞期間・回数、子の有無、不貞行為が夫婦関係の破綻に与えた影響などを考慮して算定され、離婚に至らない事案では比較的低額に、離婚に至った事案ではより高額になる傾向があるとされています。ただし、これはあくまで幅のある目安であり、個別事情によって大きく変動します。

請求書の段階では、相場を大きく上回る金額が提示されていることも珍しくありません。示談書に書かれた金額をそのまま受け入れる前に、不貞慰謝料が高すぎる場合の相場との比較と減額交渉のポイントを参照し、減額の余地がないかを確認してください。とりわけ、既に婚姻関係が破綻していた、相手が既婚者であることを知らなかった(善意無過失)、といった事情がある場合には、金額の大幅な見直しや、そもそも支払義務の有無自体が争点になり得ます。

夜職・パパ活に関連して慰謝料を請求されたケースでは、既婚者であることを知らなかったという主張の立て方に特有の注意点があります。当事務所では夜職・パパ活の不倫慰謝料請求への対応として、この類型に絞った特設ページをご用意しています。

公正証書にするよう求められた場合

分割払いの示談では、相手方から「公正証書にしたい」と求められることがあります。強制執行認諾文言のある公正証書(執行証書)は、民事執行法22条5号により債務名義となり、支払が滞ったときに、裁判を経ずにただちに給与や預金の差押えを受ける可能性が生じます。

公正証書化に応じること自体は、分割払いを認めてもらうための交換条件として合理的な場合もあります。ただし、応じる前に、①毎月の支払額が現実に継続可能な水準か、②期限の利益喪失条項の発動条件が厳しすぎないか、③勤務先に差押えが及んだ場合の影響、をあわせて検討しておく必要があります。給与差押えは勤務先に知られる契機となるため、この点は特に慎重な判断を要します。

一度サインした示談書は撤回できるのか

結論として、署名後の撤回は容易ではありません。前述のとおり民法696条により、示談で決着した事項の蒸し返しは原則として認められないためです。「よく読まずに署名した」「相場を知らなかった」といった理由での取消しは、通常認められません。

例外的に問題となり得るのは、次のような場面です。

  • 詐欺・強迫(民法96条)——虚偽の事実を告げられた、勤務先や家族に知らせると告げられて畏怖した状態で署名させられた等の事情がある場合
  • 錯誤(民法95条)——和解の前提として当事者間で争われていなかった事実について誤認があった場合。争いの対象そのものについての錯誤は主張しにくいと解されています
  • 公序良俗違反(民法90条)——違約金の額が著しく過大であるなど、条項の一部が無効と評価される場合

いずれもハードルは高く、事後の是正には相当な労力を要します。詳しくは不貞慰謝料の示談は取り消せるか(錯誤・詐欺・強迫)で解説していますが、実務上の要点は「署名する前に検討する」に尽きます。

サインする前にやっておきたいこと

示談書が届いてから署名するまでに、最低限、次の作業を済ませておくことをおすすめします。

  • 期限に追われない——相手方が示す回答期限に法的な拘束力はありません。検討に時間が必要であれば、その旨を書面で伝えて時間を確保できます
  • 支払義務の有無から検討する——請求されている事実関係が争えないか、時効(民法724条は、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年と定めています)が完成していないかを確認します
  • 条項ごとに影響を確認する——上記の5条項について、自分にどのような義務が生じるかを書き出します
  • 修正案を返す選択肢を持つ——示談書は「そのまま署名するか、拒否するか」の二択ではありません。条項の修正を提案し、合意内容を作り替える交渉が可能です

不貞慰謝料を請求された場合の全体的な進め方や、弁護士に依頼した場合の対応範囲については、当事務所の不貞慰謝料請求に関する取扱分野のページで詳しくご案内しています。横浜の弁護士として、請求する側・請求された側の双方のご相談に対応しています。

よくある質問

示談書にサインするまでに期限を切られていますが、応じなければならないのですか。

示談は当事者の合意によって成立する契約であり、相手方が示した期限に法的な拘束力はありません。期限を過ぎたことだけを理由に不利益な扱いを受けるものでもありません。ただし、長期間放置すると訴訟を提起されることがありますので、期限に追われて署名するのではなく、期限までに回答が難しい旨を書面で伝えたうえで、内容を検討する時間を確保することが考えられます。

示談書に署名したあとで、金額が相場より高すぎたと気づきました。取り消せますか。

民法696条により、和解(示談)で争いの対象とされ互譲によって決着した事項については、あとから覆すことが難しいと解されています。金額そのものが争いの対象であった場合、高すぎたという理由だけでの取消しは通常認められません。もっとも、詐欺や強迫による場合(民法96条)や、和解の前提として争われていなかった事実に錯誤があった場合(民法95条)には、取消しが問題となる余地があります。

求償権を放棄する条項があると、どのような不利益がありますか。

不貞行為は不貞をした配偶者との共同不法行為とされ、慰謝料を全額支払った側は、他方に対しその負担部分に応じた求償ができるのが原則です。求償権放棄条項に同意すると、この請求ができなくなり、実質的に全額を一人で負担することになります。放棄に応じる場合は、その分の減額を求めるなど、金額との見合いで検討することが一般的です。

違約金の定めがある接触禁止条項は、どこまで有効ですか。

接触禁止条項と違約金の定めは、賠償額の予定(民法420条)として一般に有効と解されています。平成29年改正により、裁判所が予定額を増減できない旨の規定は削除されました。金額が著しく高額で公序良俗に反すると評価される場合には、効力が制限される可能性があります。偶然の遭遇まで違約金の対象となる書きぶりになっていないか、確認が必要です。

示談書を公正証書にするよう求められました。応じるべきでしょうか。

強制執行認諾文言のある公正証書は、民事執行法22条5号により債務名義となり、裁判を経ずに給与や預金の差押えが可能になります。分割払いの場合に相手方が求めてくることが多い条項です。応じる場合は、期限の利益喪失条項の発動条件が厳しすぎないかを含め、支払を現実に履行できる条件になっているかを確認したうえで判断することが重要です。

まとめ

不貞慰謝料の示談書は、支払額を決めるだけの書面ではなく、その紛争についてこれ以上争わないことを確定させる書面です。民法696条により、決着した事項の蒸し返しは原則として認められず、署名後の是正は容易ではありません。

署名前に確認すべきは、①支払条項(金額・分割条件・期限の利益喪失)、②清算条項の範囲、③求償権放棄条項の要否と減額との見合い、④接触禁止条項と違約金の書きぶり、⑤口外禁止条項の除外規定、の5点です。加えて、提示金額が裁判実務の水準に照らして妥当かという検討も欠かせません。

示談書は「そのまま署名するか拒否するか」の二択ではなく、条項を修正した対案を返すことができます。弁護士に依頼した場合、金額の減額交渉に加え、求償権や接触禁止条項の条件調整、相手方との直接のやり取りを避けられるといった利点があります。署名を求められている書面がお手元にある段階であれば、まだ交渉の余地は残されています。

不貞慰謝料の示談書について、署名する前にご相談ください

タングラム法律事務所では、不貞慰謝料について、請求する側・請求された側の双方から多数のご相談をお受けしております。示談書の条項の検討、減額交渉、相手方との連絡の代行まで、横浜の弁護士が対応いたします。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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