タングラム法律事務所

「開示に同意する」と回答したらどうなるか|トレント意見照会

「開示に同意する」と回答したらどうなるか|トレント意見照会

「開示に同意する」と回答したらどうなるか|トレント意見照会

「開示に同意する」と回答したらどうなるか|トレント意見照会

「開示に同意する」と回答したらどうなるか|トレント意見照会

プロバイダから届いた意見照会書を開き、同封の回答書を見ると、選択肢は二つしかありません。「発信者情報開示に同意しません」と「発信者情報開示に同意します」。身に覚えがある場合、あるいは争っても仕方がないと感じている場合に、後者に丸を付けてしまいたくなるのは自然なことです。隠し立てをしているように見られたくない、という気持ちもあるでしょう。

しかし、「同意します」を選ぶことが手続上どういう意味を持つのかは、意見照会書にはほとんど書かれていません。この記事では、BitTorrent(トレント)の著作権侵害を理由とする発信者情報開示について、「同意する」と回答した場合に何が起き、何が起きないのかを、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の条文と、事業者が実際に用いている業界統一書式に即して、横浜で発信者側の対応を扱う弁護士の立場から整理します。

回答書の書式は「同意しません」と「同意します」の二択になっている

プロバイダが用いている回答書は、多くの場合、情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会が公表している「発信者情報開示関係ガイドライン」(第10版・2025年5月13日改訂)の統一書式に沿ったものです。同ガイドラインの書式③-1(発信者からの回答書)は、次の構造になっています。

選択肢付随する記入欄書式上の注記
( )発信者情報開示に同意しません。[理由]「理由の内容が相手方に対して開示を拒否する理由となりますので、詳細に書いてください。証拠がある場合は、本回答書に添付してください。」
( )発信者情報開示に同意します。[備考]注記なし

ここで注目していただきたいのは、「同意します」の側には「理由」欄がなく、「備考」欄しか用意されていないという点です。書式は、不同意の場合にこそ理由と証拠を詳しく書かせる設計になっており、同意の場合には説明の場をほとんど想定していません。「発信者ではないが、争うのも面倒なので開示には応じる」といった留保を、書式の中で適切に表現する枠が存在しないのです。

なお、意見照会書(書式②)の本文には、「ご回答いただけない場合又は開示に同意されない場合でも、同法の要件を満たしている場合には、〔弊社・私〕は、……発信者情報を、権利が侵害されたと主張される方に開示することがございますので、その旨ご承知おきください。」という一文が置かれています。同意しなければ絶対に開示されない、という制度ではありません。回答しなかった場合の扱いについては、「開示に同意しない」と回答した後の流れの記事でも整理しています。

同意すると、裁判所の判断を経ずに開示されうる

情プラ法5条1項は、開示請求が認められるための要件として、①権利が侵害されたことが明らかであること(1号)、②発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること(2号)を定めています。プロバイダは、本来この要件を自ら判断したうえで開示の可否を決める立場にあります。

もっとも実務では、権利侵害の明白性の判断には法的な評価が伴い、誤って開示すれば契約者から責任を追及されうるため、プロバイダが自ら進んで任意開示に応じる例は多くありません。この点について情プラ法6条4項は、「開示関係役務提供者は、……開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。」と定めており、プロバイダが開示を断ることには法律上の保護がある一方、開示することには同様の保護がありません。プロバイダが不同意の回答を受けて任意開示を見送るのは、この非対称な構造によるものです。

裏を返せば、発信者本人が同意している場合には、この懸念が大きく後退します。その結果、次の違いが生じます。

 「同意しません」と回答した場合「同意します」と回答した場合
プロバイダの通常の対応任意開示に応じないことが多い任意開示に応じることがある
裁判所の関与権利者が開示命令の申立て等をすれば、裁判所が5条1項の要件を審理する任意開示で完結すれば、裁判所の審理を経ない
反論の機会回答書の理由欄、及び裁判手続の中で主張できる意見照会の段階で自ら反論を放棄している
要する期間手続が進めば数か月単位になることがある短期間で開示に至ることがある

「争っても結論は同じだろう」と考えて同意する方は少なくありません。しかし、BitTorrentの事案でも、発信日時の特定、IPアドレスと契約者の対応関係、そもそも当該通信が自分の回線のものかといった論点は常に存在します。裁判所の審理を経るということは、これらを検討する機会が制度として確保されるということです。同意は、その機会を自ら手放す選択でもあります。意見照会書が手続のどの段階の書面なのかについては、意見照会書と開示決定通知の違いの記事で整理していますので、あわせてご覧ください。

同意した場合、開示された事実は通知されない

ここが、実務上もっとも見落とされている点です。

情プラ法6条2項は、次のように定めています。「開示関係役務提供者は、発信者情報開示命令を受けたときは、前項の規定による意見の聴取……において前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた当該発信者情報開示命令に係る侵害情報の発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。」

この通知義務は、二重に限定されています。第一に、プロバイダが発信者情報開示命令を受けたときに限られます。任意開示で完結した場合は、そもそも命令を受けていません。第二に、通知の相手方は「開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた」発信者に限られます。同意した発信者は、文言上この対象に含まれません。

この読み方は、業界統一書式からも裏づけられます。別冊手引き編の書式【D】(開示関係役務提供者から発信者に対する通知書)は、「当社から貴殿に送付した●年●月●日付『発信者情報開示に係る意見照会書』に対し、貴殿からは、●年●月●日付『回答書』にて、『発信者情報開示に同意しません』とのご意見をいただいておりましたが」という書き出しで始まります。通知書の書式そのものが、不同意の回答があったことを前提として作られているのです。

また、開示が実行されたことを知らせる書式④(発信者情報開示決定通知書)は、宛先が「権利を侵害されたと主張する者」、すなわち請求者です。発信者に宛てたものではありません。

整理すると、「同意します」と回答した場合、自分の氏名・住所がいつ相手方に渡ったのかを知る手段が制度上用意されていないことになります。次に何かが届くとすれば、それは権利者又はその代理人からの通知書であり、その時点で初めて開示の事実を知る、という経過をたどることが多くなります。

家族・同居人が発信者の場合、「同意します」という選択肢はない

意見照会書は回線契約者宛てに届きますが、実際に通信をしたのが家族や同居人であることは珍しくありません。この場合に用いる書式が、書式③-2(発信者(加入者のご家族・同居人)からの回答書)です。この書式の選択肢は、次の二つです。

  • ( )発信者情報開示に同意しません。[理由]
  • ( )本件については、発信者情報開示請求者と直接連絡を取りたいので、加入者の情報に代え、上記の私の住所、氏名及び連絡先を請求者に通知願います。

お気づきのとおり、この書式には単純な「同意します」という選択肢が置かれていません。同意に相当する選択肢は、「加入者の情報に代えて、自分の住所・氏名・連絡先を請求者に通知してほしい」という積極的な申出の形をとっています。つまり、家族が同意するということは、その家族自身の氏名・住所を相手方に伝えることを意味し、以後の請求はその家族に向かうことになります。

さらに、書式③-2の注記は、「理由や証拠は、原則としてそのまま相手方に通知されます。」と明記しています。書式③-1よりも踏み込んだ注意書きであり、記載内容がそのまま相手方に届くことを前提に書く必要があります。誰が回答するのかという判断は、家庭内の事情にも関わる繊細な問題ですので、書式を選ぶ前に検討されることをお勧めします。

同意することは、支払義務を認めたことではない

「同意したのだから、請求された金額は払わなければならない」と考える方がありますが、これは正確ではありません。開示への同意は、プロバイダが契約者情報を請求者に渡すことについての意見であり、損害賠償債務を認める意思表示とは別の事柄です。

ただし、注意すべきは「備考」欄の書き方です。民法152条1項は、「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。」と定めています。備考欄に「お支払いします」「分割でお願いできないでしょうか」といった記載をすれば、それは開示への同意とは別に、債務の承認と評価される余地が生じます。回答書は権利者に渡ることを前提とした書面ですから、金額や支払いに触れる記載は、意見照会の段階では避けるのが無難です。

回答書に書いた内容は、原則として相手方に伝わります。謝罪の言葉、経緯の説明、反省を述べる文章も同様です。事実関係を認める記載は、後の交渉における出発点を自ら固定してしまうことがあります。この点は、同意・不同意のいずれを選ぶ場合にも共通する注意です。BitTorrent著作権侵害の意見照会対応では、回答書の作成から開示後の対応までの流れをご案内しています。

開示された後に何が起きるか

開示が実行されると、権利者は契約者の氏名・住所を取得します。BitTorrentの事案では、その後に権利者の代理人から損害賠償請求(示談金請求)の通知書が届くのが通常の流れです。届いた通知書にどう向き合うかについては、トレント開示後に損害賠償請求の通知書が届いたらの記事で詳しく解説しています。

請求される金額は、作品の性質、利用の態様、期間、対象とされた件数などの要素から算定されるものであり、同意したかどうかによって一義的に決まるものではありません。同意したことが直ちに不利な事情として評価されるわけでもありませんが、他方で、同意したことによって金額が軽くなるという制度的な仕組みも存在しません。

なお、開示を受けた側にも法律上の義務があります。情プラ法7条は、「第五条第一項又は第二項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。」と定めています。業界統一書式の開示決定通知書にも、この条文が注意事項として明記されています。開示されたからといって、権利者が氏名や住所を自由に公表してよいわけではありません。

「同意する」ことに合理性がある場面はあるか

一律に不同意がよい、という趣旨ではありません。同意という選択が検討に値する場面は確かにあります。たとえば、発信者性を争う余地が乏しく、早期に相手方と連絡を取って解決したいという方針が明確な場合です。手続が長引くほど、精神的な負担も、その間の不確実性も続きます。

問題は、その判断を、材料が揃わないまま二週間前後の回答期限の中で行わなければならないという点にあります。意見照会書に記載されているのは、請求者の氏名、侵害されたとする権利、権利侵害が明らかであるとする理由、開示を請求されている発信者情報の項目、発信日時などです。ここから、請求の当否や見込まれる負担を見通すには、著作権法と手続法の双方に関する検討が必要になります。回答期限までに判断がつかない場合に、期限の延長を申し入れるという選択肢があることも、書式②に「二週間以内にご回答いただけない事情がございましたら、その理由を〔弊社・私〕までお知らせください。」と明記されています。

また、一度提出した回答の撤回について、情プラ法にも業界統一書式にも定めは置かれていません。撤回の申出を受け入れるかどうかはプロバイダの判断に委ねられ、既に開示が実行された後は、情報を回収することはできません。同意は、実質的にやり直しのきかない選択だとお考えください。

意見照会書が届いた段階での対応全般については、意見照会対応のページで、当事務所の取扱いをご案内しています。

よくある質問

「開示に同意します」と回答すると、いつ開示されるのですか。

同意を得たプロバイダが任意に開示する場合、裁判所の手続を経ないため、回答書の到達から短期間で開示に至ることがあります。開示の時期はプロバイダの処理次第であり、発信者の側で把握する手段は制度上ありません。

同意した場合、開示されたことは知らせてもらえますか。

情プラ法6条2項の通知義務は、発信者情報開示命令を受けたプロバイダが、意見聴取で「開示の請求に応じるべきでない旨の意見」を述べた発信者に対して負うものです。同意した発信者は文言上この対象に含まれません。業界統一書式の通知書(書式【D】)も、同意しない旨の回答があったことを前提とする文面になっています。

「同意します」と回答することは、支払義務を認めたことになりますか。

開示への同意は、プロバイダが契約者情報を請求者に渡すことへの意見であり、損害賠償義務の承認とは別の事柄です。もっとも、回答書の備考欄に支払意思や事実を認める記載をした場合には、その記載が民法152条1項の「承認」その他の不利益な事情として扱われる可能性があります。

一度「同意します」と回答した後で、撤回できますか。

情プラ法にも業界統一書式にも、回答の撤回に関する定めは置かれていません。撤回の申出をするかどうかはプロバイダの対応に委ねられ、既に開示が実行された後は原状に戻すことができません。

家族が発信者の場合、家族が「同意します」と回答できますか。

家族・同居人が発信者である場合に用いる業界統一書式(書式③-2)には、単純に「同意します」という選択肢が置かれていません。選択肢は「同意しません」と、加入者の情報に代えて自分の住所・氏名・連絡先を請求者に通知するよう求めるもの、の二つです。後者を選ぶことは、自分の氏名・住所を相手方に伝えることを意味します。

まとめ

本記事の要点を整理します。

  • 回答書(書式③-1)は、不同意の場合にこそ理由と証拠を書かせる設計であり、同意の場合には「備考」欄しか用意されていない。
  • 同意すると、プロバイダが任意開示に応じることがあり、その場合は裁判所が情プラ法5条1項の要件を審理する機会が生じない。
  • 情プラ法6条2項の通知義務は、開示命令を受けた場合に、不同意の意見を述べた発信者に対して負うものである。同意した発信者は文言上その対象に含まれず、業界統一書式の通知書も不同意を前提とする文面になっている。
  • 家族・同居人が用いる書式③-2には、単純な「同意します」の選択肢がなく、同意に相当する選択肢は自分の氏名・住所の通知を求める形をとっている。
  • 開示への同意は債務の承認とは別であるが、備考欄の書き方によっては、民法152条1項の承認と評価される余地が生じる。

意見照会書に回答するという行為は、手続の中でたった一度しかない、こちらから能動的に働きかけられる場面です。そこで何を書き、何を書かないかは、その後の展開を左右します。当事務所は横浜に事務所を置いていますが、やり取りはオンラインで完結し、来所いただく必要はありません。回答期限が迫っている場合でも、まずは書面をお手元にご相談ください。

プロバイダから意見照会書が届いた方の対応については、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちらをご覧ください。

意見照会書への回答をお決めになる前に、一度ご相談ください

タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)の著作権侵害に係る発信者情報開示について、意見照会への回答書の作成から、開示後の示談交渉・示談書の締結まで、発信者側の立場での対応に豊富な実績を有しております。ITエンジニアの経験を持つ弁護士が、技術面と法律面の双方から検討します。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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