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高年齢者の労災防止が努力義務に|企業がすべき対策を弁護士が解説

高年齢者の労災防止が努力義務に|企業がすべき対策を弁護士が解説

高年齢者の労災防止が努力義務に|企業がすべき対策を弁護士が解説

高年齢者の労災防止が努力義務に|企業がすべき対策を弁護士が解説

高年齢者の労災防止が努力義務に|企業がすべき対策を弁護士が解説

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月23日 最終更新日:2026年10月23日

定年後の再雇用やシニア人材の採用が進み、60代・70代の従業員が現場を支えている会社は珍しくありません。その一方で、「ベテランの社員が段差でつまずいて骨折した」「若い頃と同じ作業量を任せてよいのか分からない」といった悩みを抱える経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

2026年4月1日から、改正労働安全衛生法により、高年齢者の労働災害を防止するための措置が事業者の努力義務となりました。この記事では、改正の内容、厚生労働省の指針(エイジフレンドリー指針)が求める対策、努力義務と会社の法的責任の関係を、横浜の弁護士が中小企業向けに解説します。

結論として、2026年4月1日施行の改正労働安全衛生法62条の2により、すべての事業者に、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業の管理などの措置を講ずる努力義務が課されました。罰則はありませんが、厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」に沿った対策をとっていないと、事故が起きた際に安全配慮義務違反を問われる可能性が高まるため、体制づくり・職場環境の改善・体力の把握・教育を計画的に進めることが重要です。

高年齢者の労働災害防止が努力義務化された背景

厚生労働省の「令和7年 労働災害発生状況」によれば、令和7年の休業4日以上の死傷者数135,333人(新型コロナウイルス感染症によるものを除く)のうち、60歳以上は42,318人で、全体の31.3%を占めています。つまり、労働災害で4日以上休業した人のおよそ3人に1人が60歳以上ということです。

こうした状況を受けて、労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号、2025年5月14日公布)により、高年齢者の労働災害防止対策が法律上の努力義務として位置づけられました。

改正労働安全衛生法62条の2の内容と施行日

改正後の労働安全衛生法62条の2は、次のように定めています。

項内容
1項事業者は、高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない
2項厚生労働大臣は、事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表する
3項厚生労働大臣は、指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる

この規定は2026年4月1日に施行され、同日から「高年齢者の労働災害防止のための指針」(令和8年2月10日 高年齢者の労働災害防止のための指針公示第1号)が適用されています。あわせて、2020年に策定された従来の「エイジフレンドリーガイドライン」は2026年3月31日をもって廃止されました。

ポイント:法律や指針には、対象となる企業の規模や業種の限定はありません。また、「高年齢者」を何歳以上とする年齢の定義も置かれていないため、自社の従業員の年齢構成や作業内容に応じて対象を考える必要があります。

エイジフレンドリー指針で事業者が講ずべき5つの措置

指針は、事業者が講ずべき措置として次の5つを挙げています。

1. 安全衛生管理体制の確立等

経営トップが高年齢者の労働災害防止対策を盛り込んだ安全衛生方針を表明し、担当者や組織を明確にします。安全衛生委員会がある場合はそこで調査審議し、ない場合も労使で話し合う場を設けます。あわせて、災害事例やヒヤリハットから危険源を洗い出すリスクアセスメントを行い、①作業の廃止・変更などの根本対策、②手すりの設置や段差解消などの工学的対策、③マニュアル整備などの管理的対策、④身体負荷を軽減する装備の使用、の順で対策を検討します。

2. 職場環境の改善

照度の確保、階段の手すり、段差の解消、床の防滑対策といった設備面の改善のほか、重量物の小口化、短時間勤務・隔日勤務などの勤務形態の工夫といった作業管理の見直しが求められます。暑熱作業では、始業時の体調確認や熱中症の早期発見の体制づくりも挙げられています。熱中症対策については、熱中症対策の義務化と企業がすべきことの記事もご参照ください。

3. 高年齢者の健康や体力の状況の把握

雇入時・定期の健康診断を確実に実施するとともに、体力チェック等により事業者と本人が体力の状況を客観的に把握し、体力に合った作業に従事させます。評価基準を設ける場合は職務内容に照らして合理的な水準とし、健康・体力に関する情報は本人の同意や社内手続を定めて適正に取り扱います。

4. 健康や体力の状況に応じた対応

基礎疾患などを踏まえ、産業医等の意見を聴いたうえで、労働時間の短縮、深夜業の回数削減、作業の転換などを本人との十分な話合いを経て検討します。個人差が大きいことを前提に、健康・体力に適合する業務とのマッチングを図ることも求められています。

5. 安全衛生教育

高年齢者には写真・図・映像などを活用して十分な時間をかけ、再雇用などで経験のない業務に就く場合は特に丁寧に教育します。管理監督者への教育も求められています。

努力義務に違反するとどうなる?安全配慮義務との関係

62条の2は努力義務であり、罰則はありません。もっとも、「何もしなくてよい」と考えるのは危険です。

会社は、労働契約法5条により、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。高年齢の従業員が転倒などで被災し、会社に損害賠償を請求する事案では、会社が予見できた危険に対して適切な措置をとっていたかが争点となります。国が具体的な対策を指針として示している以上、指針に沿った対策の有無が、安全配慮義務違反の判断において考慮される可能性があります。

実際に労災事故が起きたときの報告義務や損害賠償の考え方は、労災事故が起きたときの会社の対応の記事で詳しく解説しています。

中小企業が今から進めるべき実務対応

中小企業では、次の順序で取り組むと進めやすいでしょう。

  • 従業員の年齢構成と、過去の労災・ヒヤリハットを洗い出す
  • 転倒・墜落のおそれがある場所(段差・階段・濡れた床・暗い通路)を点検し、優先順位をつけて改善する
  • 定年後再雇用者の業務内容・勤務時間を、体力や健康状態に応じて見直す
  • 体力チェックの方法と、結果の取扱いルール(利用目的・同意・保管)を定める
  • 安全衛生教育の計画に、高年齢者向けの内容と管理職向けの内容を加える

再雇用者の勤務時間の短縮や業務の変更は、労働条件の変更を伴うことがあります。賃金の設定とあわせて検討する場合は、定年後再雇用の賃金はどこまで下げられるかの記事も参考にしてください。体力チェックの結果だけを理由に不利益な取扱いをすると紛争につながるおそれがあるため、就業規則や再雇用規程の整備も含めて、労務の専門家と相談しながら進めることが大切です。当事務所の労務・社内規程の整備に関するサポートは、企業法務の取扱分野ページでご紹介しています。

なお、中小企業向けには「エイジフレンドリー補助金」など職場環境の整備を支援する制度があります。申請期間や要件は年度ごとに変わるため、最新の情報は厚生労働省や所管の窓口でご確認ください。

高年齢者の労働災害防止に関するよくある質問

Q1. 高年齢者の労働災害防止の努力義務は、小規模な会社にも適用されますか?

はい。労働安全衛生法62条の2は事業者一般を対象としており、企業規模や業種による限定はありません。50人未満の事業場は、地域産業保健センターなどの支援を活用することが考えられます。

Q2. 何歳以上の従業員が「高年齢者」にあたりますか?

法律や指針に年齢の定義は置かれていません。身体機能の低下は個人差が大きいため、年齢だけで一律に判断せず、作業内容や本人の健康・体力の状況に応じて対策を考えることが求められます。

Q3. 努力義務を守らないと罰則はありますか?

罰則はありません。ただし、事故が起きた場合には、指針に沿った対策をとっていたかどうかが、安全配慮義務違反による損害賠償責任の判断に影響する可能性があります。

Q4. 体力チェックの結果が悪い従業員を配置転換してもよいですか?

指針は、健康・体力に適合する業務とのマッチングを求めています。もっとも、配置転換や勤務時間の変更は労働条件に関わるため、就業規則や労働契約上の根拠を確認し、本人と十分に話し合ったうえで行うことが重要です。

まとめ|高年齢者の労災防止は「努力義務」でも早めの対応を

  • 2026年4月1日から、高年齢者の労働災害防止措置が事業者の努力義務になった(労働安全衛生法62条の2)
  • エイジフレンドリー指針は、体制確立・職場環境の改善・体力の把握・状況に応じた対応・教育の5つの措置を求めている
  • 罰則はないが、指針に沿った対策の有無が安全配慮義務の判断で考慮される可能性がある
  • 再雇用者の業務・勤務時間の見直しは、就業規則や労働条件の整備とあわせて進める

シニア人材の活躍は中小企業に欠かせませんが、安全対策と労務管理の両面から備えておかないと、事故の際に会社の責任が問われかねません。横浜の弁護士として、労務トラブルの予防から事故後の対応まで、事業者の立場に立ってサポートしています。

高年齢者の雇用・労務管理のご相談はお任せください

タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。再雇用規程・就業規則の見直しや、労災事故が起きた際の対応についてもご相談いただけます。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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