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熱中症対策の義務化|2026年に企業がすべきことと罰則を弁護士が解説

熱中症対策の義務化|2026年に企業がすべきことと罰則を弁護士が解説

熱中症対策の義務化|2026年に企業がすべきことと罰則を弁護士が解説

熱中症対策の義務化|2026年に企業がすべきことと罰則を弁護士が解説

熱中症対策の義務化|2026年に企業がすべきことと罰則を弁護士が解説

「うちは建設業でも製造業でもないから、熱中症対策の義務化は関係ない」——そう考えている事業者の方は少なくありません。しかし、2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則は、業種を限定していません。配達、営業回り、店舗前の清掃、空調のない倉庫での荷さばき、厨房での調理といった業務も、条件を満たせば義務の対象になります。2025年に職場の熱中症で死亡または4日以上休業した方は1,803人と過去最多を記録し、商業や運送業でも多数発生しています。

この記事では、①どの作業が義務の対象になるのか、②事業者は具体的に何をしなければならないのか、③違反した場合の罰則・法的リスク、④2026年3月に策定された新ガイドラインの要点、⑤法務担当者のいない中小企業が今から取り組める実務対応、という順に、横浜の弁護士が整理して解説します。

職場の熱中症対策は2025年6月から法的義務になっています

職場の熱中症対策は、従来は行政通達に基づく指導が中心でしたが、2025年(令和7年)4月15日公布の労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和7年厚生労働省令第57号)により、同年6月1日から法令上の義務となりました。根拠となるのは、新設された労働安全衛生規則612条の2です。同条は、労働安全衛生法22条(事業者の講ずべき健康障害防止措置)に基づく規定と位置づけられています。

この改正の狙いは、熱中症の発生そのものをゼロにすることではなく、初期症状の放置や対応の遅れによる重篤化・死亡を防ぐ点にあります。厚生労働省の通達(令和7年5月20日基発0520第6号)でも、死亡災害の原因の多くが初期症状の放置や対応の遅れにあることが背景として説明されています。

重要なのは、この義務に業種の限定も、事業場の規模による適用除外もないことです。従業員数名の飲食店、小売店、運送会社、清掃業者、警備会社であっても、後述の基準に当てはまる作業を行わせるのであれば、等しく義務を負うと解されています。

義務の対象となる「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは

労働安全衛生規則612条の2の義務が生じるのは、次の2つの要件をいずれも満たす作業です。行政通達では、それぞれの意味が具体的に示されています。

要件内容
暑熱な場所WBGT値(暑さ指数)が28度以上、または気温が31度以上の場所
作業時間継続して1時間以上、または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業

ここで見落とされやすい点が3つあります。

  • 屋外に限られない——空調のない倉庫、厨房、ビニールハウス、工場内など、屋内でも基準を満たせば対象です。2025年の死亡災害19件のうち4件は屋内で発生しています。
  • 一つの作業場所に限られない——移動しながら複数の場所で作業する場合、作業場所間の移動時間も含めて判断するとされています。配達や営業回りが典型です。
  • 短時間・臨時の作業でも対象になり得る——単発・臨時の作業でも、条件を満たすと見込まれる場合は対象になるとされています。
なお、基準に該当しない場合でも、作業強度や着衣の状況によっては熱中症のリスクが高まります。通達でも、そのような場合にはガイドラインに沿った対応を行うよう指導することとされており、「基準を下回るから何もしなくてよい」という整理にはならない点に注意が必要です。

事業者に義務づけられる2つの措置と周知の方法

労働安全衛生規則612条の2が求めているのは、次の2つの措置と、それぞれの作業従事者への周知です。設備投資を求めるものではなく、「見つける」「判断する」「対処する」仕組みを事前に作っておくことが中心です。

1.報告体制の整備と周知(1項)

作業に従事する者が熱中症の自覚症状を持った場合、または他の作業従事者に熱中症が生じた疑いを発見した場合に、その旨を報告させる体制をあらかじめ整備しなければなりません。通達では、報告を受ける責任者の連絡先と連絡方法を定めて周知し、作業中は常に報告を受けられる状態を確保することが求められています。方法としては、責任者による巡視、2人1組で互いの健康状態を確認する「バディ制」、ウェアラブルデバイスの活用などが挙げられています。

2.措置手順の作成と周知(2項)

熱中症の疑いがある者を発見したときの、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察・処置など、症状の悪化を防ぐために必要な措置の内容と実施手順を、作業場ごとにあらかじめ作成し、周知しなければなりません。緊急連絡網や搬送先の連絡先も定めておく必要があります。

周知は、口頭の朝礼だけでは確実に伝わらない場合があるため、作業場の見やすい場所への掲示、メールの送付、書面の配布などを組み合わせることとされています。休憩室内への掲示も、ガイドラインで例示されています。

また、元請と下請が同じ作業場で混在して作業を行う場合には、元方事業者と関係請負人のいずれかが措置を講じれば足りるとされていますが、誰も措置を講じていなかった場合には、当該作業場に関わる全ての事業者が違反に問われるとされている点は、建設業やビルメンテナンス業で特に重要です。

違反した場合の罰則と、労災・損害賠償のリスク

刑事罰と行政指導

労働安全衛生規則612条の2は労働安全衛生法22条に基づく規定であるため、違反した場合には6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています(同法119条1号)。さらに、法人にも罰金刑が科され得る両罰規定(同法122条)が置かれています。なお、2025年6月1日施行の改正刑法により懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されたため、条文上の刑名は「拘禁刑」となっています。

もっとも実務上、いきなり刑事罰に至るケースは多くありません。まずは労働基準監督署の臨検監督で是正勧告や指導が行われるのが通常です。2026年の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」でも、報告体制の整備・手順の作成・周知が徹底されているかが確認事項とされています。社内規程の整備状況とあわせて、就業規則の作成義務と届出手順を解説した記事もご確認ください。

労災と民事上の損害賠償

企業にとって影響が大きいのは、むしろ民事上の責任です。業務中の熱中症は労災保険給付の対象となり得ますが、労災保険では慰謝料は填補されません。会社が安全配慮義務(労働契約法5条)を怠っていたと判断されれば、遺族や本人から損害賠償を請求される可能性があります。

報道されている近時の裁判例では、作業中に熱中症で死亡した従業員について、会社が休憩室や飲料の準備など一定の予防措置を講じていた事案でも、体調不良が疑われる段階で作業を中止させ受診につなげる運用が欠けていたなどとして安全配慮義務違反が認められ、多額の賠償が命じられた例があると伝えられています。法令上の義務を形式的に満たすだけでは足りず、実際に機能する運用にしておくことが重要と考えられます。会社の対応の適否が事後的に厳しく検証される点は、パワハラ・セクハラが発生した場合の会社の法的責任と共通します。

2026年3月策定の新ガイドラインで押さえるべきポイント

2026年3月18日、厚生労働省は「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を策定しました。これは規則612条の2の義務を上乗せするものではなく、熱中症リスクに応じて行うことが望ましい具体的方法を一体的に示したものです。中小企業が特に押さえておきたいのは次の点です。

項目ガイドラインが示す考え方
暑熱順化7日以上かけて作業時間を徐々に延ばす。休暇等で暑さへのばく露が中断すると4日後には順化が失われ始め、3〜4週間で完全に失われるとされる
休憩時間の目安WBGT基準値を1度程度超過で1時間当たり15分以上、2度程度で30分以上、3度程度で45分以上、それ以上は作業中止が望ましい
スポットワーク短期就労者は原則として暑熱順化していない者として取り扱うことが望ましい。周知・雇入れ時教育の対象にもなる
注文者の配慮夏季の屋外作業を発注する者は、経費や工期・納期について配慮することが望ましい
飲料水・塩の備付け多量の発汗を伴う作業場では、労働安全衛生規則617条により塩および飲料水の備付けが義務づけられている

注文者側の配慮に言及されている点は、発注する立場の企業にとっても他人事ではありません。夏季の短工期・低予算の発注が現場の安全対策を圧迫していないか、契約条件を見直す余地があります。法令が企業に「体制の整備」を求める発想は、カスハラ対策の義務化に関する記事で扱った枠組みと共通しています。

中小企業が今から取り組む実務対応チェックリスト

夏本番を迎えたこの時期からでも、着手できることは多くあります。

  • 作業の棚卸し——屋外作業、空調のない場所での作業、移動を伴う作業を洗い出し、基準に照らして対象作業を特定する
  • 報告体制の文書化——責任者の氏名・連絡先、連絡方法、単独作業時の代替手段(定期連絡、バディ制等)を書面にする
  • 手順書の作成と掲示——作業離脱・身体冷却・救急要請の判断基準、緊急連絡先、搬送先医療機関を作業場ごとに定め、休憩場所に掲示する
  • 周知の記録化——記録保存は法令上求められていませんが、掲示物の写真や配布記録を残しておくと後日の説明に役立ちます
  • 教育と体調確認——2025年の死亡災害19件のうち9件は労働衛生教育の実施が確認できなかったとされています。朝礼時の声かけとあわせて習慣化しましょう
2025年の統計では、死傷者の約72%、死亡災害の約79%が7月・8月に集中しています。また、17時台以降に死亡に至るケースには、日中は重篤な症状がみられなかったにもかかわらず、作業終了後や帰宅後に容態が悪化した事案が含まれています。「業務が終わったから大丈夫」ではない点は、社内周知の際に強調すべきポイントです。

よくある質問

エアコンの効いた事務所で働く社員だけの会社でも、熱中症対策は義務になりますか?

義務が生じるのは、WBGT値28度以上または気温31度以上の場所で、継続して1時間以上または1日4時間を超えて行われる見込みの作業を行わせる場合です。空調の効いた屋内で作業が完結し基準に該当しないのであれば、対象にはならないと考えられます。もっとも、屋外での配達・営業・清掃や、空調のない倉庫・厨房・車両内での作業が少しでもある場合は対象となる可能性があります。

WBGT計(暑さ指数計)を必ず購入しなければならないのでしょうか?

同条が義務づけているのは報告体制の整備と手順の作成・周知であり、WBGT値の測定自体を一律に義務づけるものではありません。行政通達でも、通風のよい屋外作業などは天気予報や環境省の熱中症予防情報サイト等で判断できる場合、それを用いて差し支えないとされています。ただしガイドラインでは、直射日光下の作業、熱源の近くでの作業、冷房がなく風通しの悪い屋内作業については実測が必要とされています。

報告体制や手順は、書面で作成しなければなりませんか?就業規則に定める必要はありますか?

法令上の様式はありませんが、作業に従事する者へ確実に周知する必要があるため、実務上は書面化して掲示・配布する方法が現実的です。厚生労働省の通達には手順例が添付されており、自社の作業実態に合わせて修正して用いることが考えられます。就業規則への記載は義務ではありませんが、安全衛生規程や作業手順書として整備しておくと、労働基準監督署の調査や紛争時に説明しやすくなると考えられます。

スポットワークの短時間就労者や一人親方にも周知が必要ですか?

周知の対象となる「当該作業に従事する者」には、自社の労働者だけでなく、同じ場所で当該作業に従事する労働者以外の者も含まれるとされています。ガイドラインでも、スポットワークを利用する労働者は当然に周知の対象であり、雇入れ時教育の対象にもなると明記されています。短期間だけ就労する方は、暑熱順化ができていない者として扱うことが望ましいとされています。

従業員が業務中に熱中症になった場合、会社は必ず損害賠償責任を負うのでしょうか?

必ず責任を負うわけではなく、会社が安全配慮義務を尽くしていたといえるかどうかで判断されます。もっとも報道されている近時の裁判例では、休憩場所や飲料を用意するなど一定の措置を講じていた事案でも、体調不良の兆候があった段階で作業を中止させ受診につなげる運用が欠けていたとして安全配慮義務違反が認められ、多額の賠償が命じられた例があります。形式的に義務を満たすだけでなく、実際に機能する運用にしておくことが重要と考えられます。

まとめ

職場の熱中症対策は、2025年6月から労働安全衛生規則612条の2に基づく法的義務となり、業種や規模を問わず、WBGT28度以上または気温31度以上の場所で一定時間以上の作業を行わせる事業者に、報告体制の整備・措置手順の作成・周知が求められています。違反には6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められ、法人に対する両罰規定も置かれています。

もっとも、この義務は高額な設備投資を求めるものではなく、「誰に、どうやって知らせ、誰が、どう判断して動くか」を紙一枚にまとめて掲示することから始められます。企業にとっての真のリスクは、事故が起きたときに安全配慮義務を尽くしていたと説明できるかどうかにあります。手順書が自社の作業実態と噛み合っているか、下請や請負人との関係で誰が措置を講じるのかが整理されているか、契約上の工期・費用の設定が現場の安全確保と矛盾していないか——こうした点は労務と契約の両面から検討する必要があり、弁護士が関与する意義が大きい領域です。タングラム法律事務所(横浜・新横浜)では、安全衛生体制の整備や社内規程の見直し、労働災害が発生した場合の初動対応までご相談に対応しています。

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タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。手順書の整備から労働災害発生時の対応まで、自社の作業実態に即した具体的なアドバイスをいたします。

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※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な案件については弁護士にご相談ください。

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