タングラム法律事務所

営業権侵害・営業妨害を理由に発信者情報開示請求はできるのか?

営業権侵害・営業妨害を理由に発信者情報開示請求はできるのか?

営業権侵害・営業妨害を理由に発信者情報開示請求はできるのか?

営業権侵害・営業妨害を理由に発信者情報開示請求はできるのか?

「ネット上の投稿のせいで売上が落ちた」「悪質な口コミは営業妨害ではないのか」――事業を営む方から、このようなご相談をいただくことは少なくありません。匿名の投稿者を特定する手段として発信者情報開示請求という制度がありますが、では「営業妨害された」「営業権を侵害された」という理由で、開示は認められるのでしょうか。

2026年3月には、チケット転売サイトへの出品を興行主の「営業権」の侵害と認めて発信者情報の開示を命じた東京地裁判決が報じられ、この論点への関心が高まっています。本記事では、インターネット上の開示請求・削除請求を数多く扱う横浜の弁護士が、発信者情報開示請求の要件を確認したうえで、営業権・営業上の利益を理由とする開示の可否と、この判決の射程について解説します。

発信者情報開示請求の要件:情プラ法5条1項

発信者情報開示請求は、情報流通プラットフォーム対処法(正式名称「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」。旧プロバイダ責任制限法。以下「情プラ法」)5条1項に定められています。開示が認められるための主な要件は次のとおりです。

  • 権利侵害の明白性(1号):情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことが「明らか」であること。違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないことまで含む、ハードルの高い要件です。
  • 正当な理由(2号):損害賠償請求権の行使のためなど、開示を受けるべき正当な理由があること。
  • ログイン時情報など「特定発信者情報」の開示を求める場合には、さらに補充的な要件(3号)を満たす必要があります。

「情報の流通によって権利を侵害された」の意味

見落とされがちですが、5条1項柱書の「情報の流通によって自己の権利を侵害された」という文言には重要な限定機能があります。この要件は、投稿と損害の間に何らかの因果関係があれば足りるというものではなく、情報の流通(投稿行為等)それ自体から権利侵害が発生することを要すると解されています。

たとえば、投資を勧誘する投稿を信じて連絡を取り、その後の取引で詐欺被害に遭ったという場合、財産的損害は投稿の後の金銭交付行為によって生じたものであり、投稿それ自体から生じたものではないため、「情報の流通によって権利を侵害された」には該当しないと解釈されています。名誉毀損の投稿であれば、投稿が閲覧された時点で社会的評価の低下という権利侵害がそれ自体として発生するのと対照的です。開示請求を検討する際は、主張しようとする損害がこの要件を満たす構造になっているかを最初に確認する必要があります。

営業権・営業上の利益は「権利」として認められるか

「営業権」は、名誉権や著作権のように法律上輪郭の定まった権利ではありません。営業上の利益に対する侵害が不法行為となり得ること自体は認められていますが、取引や競争に伴う不利益は本来自由競争の中で甘受すべきものであるため、違法と評価されるのは限定的な場合と考えられてきました。

このため、発信者情報開示の実務において、営業上の不利益だけを理由に開示が認められることは基本的になく、口コミ・レビューへの対応では、投稿が虚偽の事実を摘示して社会的評価を低下させるものであれば名誉毀損(名誉権侵害)として構成するのが一般的です。「営業妨害だ」という主張は、法的にはそのままでは通りにくいのが実情といえます。

2026年東京地裁判決:チケット転売と営業権侵害

こうした状況の中で注目されたのが、報道によれば2026年3月18日に東京地裁が言い渡した判決です。転売禁止が明示されたコンサートチケットが定価を上回る価格で転売サイトに出品された事案について、裁判所は、出品自体によって興行主に出品者を特定・排除するための時間的・金銭的・労力的負担が生じるとして営業権の侵害を認め、サイト運営会社に出品者の発信者情報の開示を命じたとされています。営業権侵害を理由に開示を認めた初の司法判断と報じられており、被侵害権利の範囲という観点で一石を投じる判決です。

判決の射程:口コミ・レビューにも応用できるのか

では、この判決を根拠に、「口コミへの対応負担が生じているから営業権侵害だ」として開示請求ができるようになったのでしょうか。結論として、そのような一般化は難しいと考えられます。

  • 事案の特殊性:本判決は、転売禁止の明示、定価超過の出品、チケット不正転売禁止法による立法的評価の存在など、違法性を基礎づけやすい事情がそろった事案です。表現行為である口コミ・レビューには表現の自由の保障が及び、同列には論じられません。
  • 柱書解釈との緊張関係:前述のとおり、「情報の流通によって」の要件は流通それ自体からの権利侵害を求めるものと解されています。投稿への対応負担という損害の捉え方がこの解釈と整合するかには議論があり、同種事案でも異なる判断が示される可能性は十分にあります。
  • 確立した判例ではないこと:本判決は一つの地裁判決であり、確定状況についても報道が分かれています。今後の裁判例の集積を注視する必要があります。

事業者が取るべき現実的な選択肢

ネット上の投稿で営業上の被害を受けている事業者の方は、「営業妨害」という切り口に固執するのではなく、投稿の内容に応じて次のような構成・手段を検討するのが現実的です。

投稿の内容 検討すべき構成・手段
虚偽の事実で評判を落とす投稿 名誉毀損(名誉権侵害)を理由とする開示請求・削除請求
経営者個人の私生活の暴露 プライバシー侵害を理由とする開示請求・削除請求
虚偽の風説の流布・業務妨害 信用毀損罪・偽計業務妨害罪を視野に入れた刑事告訴の検討
規約違反にとどまる投稿 サイトのポリシーに基づく削除申請(法的請求とは別ルート)

どの構成が成り立つかは、投稿の文言・文脈・媒体によって大きく変わります。開示請求には権利侵害の明白性という高いハードルがあるため、着手前の見立てが結果を左右します。横浜のタングラム法律事務所では、Googleマップの口コミ、SNS、匿名掲示板など媒体ごとの特性を踏まえた開示請求・削除請求を数多く手掛けていますので、構成の選択に迷われた際はご相談ください。

よくある質問

「営業妨害だ」というだけで発信者情報開示は認められますか?

認められない可能性が高いと考えられます。発信者情報開示には権利侵害の明白性が必要であり、営業上の不利益があるというだけでは足りません。実務では、投稿内容が虚偽の事実で社会的評価を下げるものであれば名誉毀損(名誉権侵害)として構成するのが一般的です。

投稿がきっかけで損害を被れば、開示請求できますか?

投稿と損害の間に因果関係があるだけでは足りず、情報の流通それ自体から権利侵害が生じることが必要と解されています。たとえば投稿をきっかけに詐欺被害に遭ったような場合は、この要件を満たさないと解釈されています。

2026年のチケット転売判決は、口コミ対応にも使えますか?

直ちに応用できるとは考えにくいです。同判決は転売禁止チケットの高額出品という事案に関するものであり、表現行為である口コミ・レビューとは性質が異なります。口コミ対応では引き続き名誉毀損等の構成を軸に検討するのが現実的です。

名誉毀損での構成が難しい場合、他に手段はありますか?

投稿内容によっては、プライバシー侵害、信用毀損・偽計業務妨害を前提とする刑事告訴の検討、サイトの利用規約に基づく削除申請など、開示請求以外の手段が考えられます。どの手段が適切かは投稿内容ごとの検討が必要です。

まとめ:構成の選択が開示の成否を分ける

営業権・営業上の利益を理由とする発信者情報開示は、2026年のチケット転売判決によって新たな可能性が示された一方、情プラ法5条1項の要件との関係で議論の残る領域であり、口コミ等への安易な一般化は禁物です。事業への被害にお悩みの方は、投稿内容に即した法的構成を見極めることが解決への近道です。発信者情報開示・削除請求の経験豊富な弁護士がご事情を伺い、実現可能性を踏まえた方針をご提案します。

ネット上の投稿による営業被害にお悩みの事業者の方へ

タングラム法律事務所では、口コミ・SNS・匿名掲示板の投稿に関する発信者情報開示請求・削除請求を数多く取り扱っています。「営業妨害ではないか」と感じる投稿への対応方針も、投稿内容に即して具体的にご提案します。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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