タングラム法律事務所

誹謗中傷の慰謝料を支払督促で請求する方法|手続と限界を弁護士が解説

誹謗中傷の慰謝料を支払督促で請求する方法|手続と限界を弁護士が解説

誹謗中傷の慰謝料を支払督促で請求する方法|手続と限界を弁護士が解説

誹謗中傷の慰謝料を支払督促で請求する方法|手続と限界を弁護士が解説

誹謗中傷の慰謝料を支払督促で請求する方法|手続と限界を弁護士が解説

「発信者情報開示請求でようやく投稿者の氏名と住所がわかった。あとは慰謝料を払ってもらうだけなのに、また裁判となると費用も手間もかかる」——そこで目に入るのが、簡易裁判所の「支払督促」でしょう。裁判所に出向く必要がなく、申立手数料も訴えの提起の半額とされているため、自分でできる手続としてよく紹介されます。

もっとも、支払督促は「相手が争ってこないこと」を前提にした制度です。この記事では、支払督促の流れと2026年5月に変わった費用の扱いを裁判所の公表情報にもとづいて整理したうえで、誹謗中傷の慰謝料請求でこの手続を使う場合の落とし穴を、横浜の弁護士が解説します。

支払督促とは——書類審査だけで支払を命じてもらえる手続

支払督促は、金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付を求める請求について、債権者の申立てにより、簡易裁判所の裁判所書記官が債務者に支払を命じる制度です(民事訴訟法382条以下)。法務省の説明によれば、裁判所書記官は債務者の言い分を聞かないまま支払督促を発することとされています(同法386条1項)。特徴は次の3点です。

  • 書類審査のみで進むため、審理のために裁判所へ出頭する必要がない
  • 申立手数料が、訴えの提起の場合の半額とされている
  • 債務者が2週間以内に督促異議を申し立てると、通常の訴訟手続に移行する(同法395条)

誹謗中傷の慰謝料も金銭の支払を求める請求ですから、対象そのものにはなります。問題は、3つ目の「異議が出れば訴訟に移行する」という性質が、誹謗中傷という紛争類型とどう噛み合うかです。

支払督促は、日本国内において公示送達によらずに送達することができる場合に限って利用できます(民事訴訟法382条)。相手の氏名・住所が不明の段階では申し立てられません。特定までの手順は当事務所の発信者情報開示請求のページ、特定後の進め方は投稿者を特定した後の流れで解説しています。

支払督促の手続の流れ

裁判所が公表している流れは次のとおりです。

段階内容
①申立て相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てる
②審査・発付書記官の審査を経て発付され、債権者に発付通知、債務者に支払督促が送達される
③督促異議(2週間)債務者は受領から2週間以内に督促異議を申し立てられる(同法386条2項)。異議があれば通常訴訟へ移行
④仮執行宣言の申立て異議がなければ、送達日の翌日から起算して2週間目の翌日から30日以内に申し立てる
⑤仮執行宣言付支払督促双方に送達され、強制執行の申立てが可能になる。債務者はここでも受領から2週間以内に督促異議を申し立てられる(同法391条1項)
⑥確定督促異議がなければ確定し、確定判決と同一の効力を有する(同法396条)

注意したいのは④です。仮執行宣言の申立てには30日の期限があり、これを過ぎると支払督促は効力を失います。裁判所が代わりに進めてくれるわけではないため、自分で申し立てる場合は期限の管理も自分で行う必要があります。

費用——2026年5月の「郵便費用の一本化」で納める額が変わりました

費用について古い情報が残っているサイトが少なくないため、ここは注意が必要です。裁判所の説明によれば、従来必要であった郵便費用(予納郵券)は申立手数料に一本化され、両者を合わせた額を原則としてペイジーで電子納付することになりました。裁判所の「手数料額早見表」から、慰謝料請求でよくある金額帯を抜き出すと次のとおりです。

請求額支払督促(書面申立て)支払督促(電子申立て)訴えの提起(書面申立て)
30万円4,200円4,000円5,500円
50万円5,200円5,000円7,500円
100万円7,700円7,500円12,500円

「手数料が半額」というのは郵便費用を含まない手数料本体の話であり、一本化された結果、実際に納める額の差は上の表のとおり半額とまではいきません。

さらに見落としやすいのが、督促異議で訴訟に移行したときの追納です。早見表の注記によれば、訴え提起の手数料額から所定の額(支払督促で納めた手数料額を上限とする)を控除した額を追納します。100万円の請求を書面で申し立てた例では、申立てで7,700円、移行時に7,500円を追納して合計15,200円となり、最初から訴訟を提起した場合の12,500円を上回ります。安く済ませるつもりが割高になる、という逆転が起こりうるわけです。

資力に乏しい場合には、申立費用の支払を猶予する「訴訟上の救助」や、法テラスの民事法律扶助による立替制度を利用できることがあります。金額は請求額や申立方法で変わるため、申立て前に管轄の簡易裁判所にご確認ください。当事務所の費用は弁護士費用のページに掲載しています。

申立ての方法——書面・督促手続オンラインシステム・mints

裁判所の説明によれば、令和8年(2026年)5月21日以降は、書面および督促手続オンラインシステムによる申立てに加えて、民事裁判書類電子提出システム「mints(ミンツ)」によるオンライン提出(電子申立て)ができるようになりました。弁護士等の訴訟代理人には電子申立てが義務付けられています。

申立先は、原則として相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官です。ただし督促手続オンラインシステムを利用する場合には、他の簡易裁判所の管轄に属する事件であっても東京簡易裁判所の書記官に申し立てられるとされており、相手が遠方の場合には書面申立てにはない利点となります。書式は裁判所ウェブサイトの「支払督促で使う書式」にまとめられています。

誹謗中傷の慰謝料で支払督促を使うときの3つの落とし穴

落とし穴1:異議ひとつで振り出しに戻る

督促異議に理由は要りません。相手が「争います」と書いて出せば、それだけで通常訴訟に移行します。誹謗中傷の慰謝料請求は、投稿者が本当にその人か、権利侵害があったか、金額が相当か——いずれについても相手が争う余地のある類型です。訴訟移行を前提にするなら、初めから訴状を作成したほうが手間も費用も少なく済みます。手順は誹謗中傷の損害賠償を自分で提訴する方法で解説しています。

落とし穴2:審理の場所が相手の住所地に固定される

これは費用よりも重要かもしれません。適法な督促異議があると、その請求については、目的の価額に従い、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所またはその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(民事訴訟法395条)。申立先は相手の住所地ですから、移行後の審理も相手の住所地で行われます。

これに対し、最初から訴訟を提起するのであれば、不法行為に関する訴えとして不法行為があった地の裁判所に提起する道があります(民事訴訟法5条9号)。不法行為地には結果が発生した地も含まれると解されており、被害者の生活の本拠に近い裁判所を選べる可能性があります。横浜にお住まいの方が遠方の投稿者に支払督促を選ぶと、この選択肢を自ら手放しかねません。

落とし穴3:内容の判断が示されない

支払督促は書類審査のみで、書記官が権利侵害の有無を実質的に判断するわけではありません。確定しても「その投稿が違法だった」と裁判所が認定した書面が残るわけではない点は、判決との大きな違いです。

支払督促・少額訴訟・通常訴訟の使い分け

手続向いている場面主な注意点
支払督促相手が支払義務を争っておらず、金額にも実質的な争いがない督促異議で通常訴訟へ移行。移行後の管轄は相手の住所地が基準
少額訴訟請求額が60万円以下で、証拠が揃っていて1回の期日で終えられる相手が通常訴訟への移行を求めることができる。同一簡裁で年10回まで
通常訴訟権利侵害の有無や金額に争いがある(誹謗中傷では通常こちら)期日への出頭が必要で、判決まで一定の期間を要する

少額訴訟の進め方は誹謗中傷の損害賠償を自分で請求する「少額訴訟」の進め方で説明しています。支払督促が本領を発揮するのは、示談交渉がまとまりかけていて、執行力の確保だけが残っている、といった限られた場面です。

よくある質問

相手の氏名・住所がわからなくても支払督促はできますか?

できません。支払督促は、日本国内において公示送達によらずに送達することができる場合に限って利用できます(民事訴訟法382条)。まず発信者情報開示請求によって投稿者の氏名・住所を特定する必要があります。

支払督促に督促異議が申し立てられたらどうなりますか?

適法な督促異議があると、その請求については、目的の価額に従い、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所またはその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(民事訴訟法395条)。通常訴訟に移行し、申立手数料の差額の追納も必要になります。

支払督促の申立てで消滅時効の完成は防げますか?

支払督促は、裁判上の請求等による時効の完成猶予事由として民法147条1項2号に掲げられています。権利が確定すれば時効は更新され、確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利の時効期間は10年です(民法169条1項)。ただし申立てが却下された場合等の扱いは異なるため、時効が迫る事案では弁護士にご確認ください。

誹謗中傷の慰謝料請求では支払督促と少額訴訟のどちらを選ぶべきですか?

相手が支払義務を争っておらず金額の合意もできているなら、出頭が不要な支払督促が使いやすい場面があります。他方、相手が投稿の事実や金額を争うと予想される場合は、督促異議で通常訴訟に移行してしまうため、当初から少額訴訟や通常訴訟を選ぶほうが結果的に早いことが多いと考えられます。

まとめ——「争われない請求」なら有力、そうでなければ訴訟を

支払督促は、出頭が不要で手数料本体も訴えの提起の半額という、たしかに使いやすい制度です。しかし、その使いやすさは相手が争ってこないことと引き換えに成り立っています。誹謗中傷の慰謝料請求のように相手の反論が予想される場面では、督促異議によって通常訴訟に移行し、費用は追納となり、審理の場所も相手の住所地に固定される——という三重の不利益を招きかねません。開示までご自身で進めてこられた方も、請求の段階で一度弁護士にご相談いただければ、遠回りを避けられることが少なくありません。

誹謗中傷の慰謝料請求について、横浜の弁護士にご相談ください

タングラム法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、発信者情報開示請求から特定後の損害賠償請求まで一貫して取り扱っております。手続の選択や請求額の組み立てについて、事案に即したご説明をいたします。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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