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誹謗中傷の慰謝料は上がる?民法改正の研究会と今できる請求

誹謗中傷の慰謝料は上がる?民法改正の研究会と今できる請求

誹謗中傷の慰謝料は上がる?民法改正の研究会と今できる請求

誹謗中傷の慰謝料は上がる?民法改正の研究会と今できる請求

誹謗中傷の慰謝料は上がる?民法改正の研究会と今できる請求

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月29日 最終更新日:2026年9月29日

SNSで誹謗中傷を受け、時間と費用をかけて投稿者を特定し、裁判で勝っても、認められた慰謝料は数十万円だった。こうした「勝っても割に合わない」という声は、ネット上の権利侵害に取り組む現場で長く聞かれてきました。

2026年9月29日、法務大臣は閣議後の記者会見で、民法の「不法行為」の規定を見直す研究会を法務省に設置すると発表しました。検討テーマの中心は、誹謗中傷などの人格権侵害に対する慰謝料の算定の在り方です。この記事では、研究会で何が議論されるのか、現在の慰謝料の水準はどの程度か、そして法改正を待たずに被害者が今できることを、横浜の弁護士が解説します。

結論から言うと、今回の発表は研究会の設置であり、慰謝料の基準がすぐに変わるわけではありません。研究会の議論を踏まえて法制審議会への諮問が判断され、改正が実現するとしても数年単位の時間がかかるのが通常です。現行法のもとでも、証拠を揃えて悪質性や被害の実態を具体的に主張すれば、慰謝料の増額や調査費用の賠償が認められる余地はあり、請求できる権利には時効もあるため、改正を待たずに動くことが重要です。

法務省が設置した「不法行為」見直しの研究会とは

報道によれば、研究会は民法の専門家や実務家など10人で構成され、2026年9月30日に初会合が開かれる予定です(読売新聞は座長を山本敬三・早稲田大学教授と報じています)。研究会での議論を踏まえ、法務大臣が法制審議会への諮問を判断するとされています。

報道で挙げられている主な検討テーマは次のとおりです。

テーマ現状の課題検討されている方向性
誹謗中傷などの慰謝料算定基準が条文になく、勝訴しても被害に比べて低額との指摘被害内容や行為の悪質性を算定要素として明文化。懲罰的損害賠償の導入の是非も議題
死者の人格権人格権は死亡により消滅すると解されており、出版物等の差止めのハードルが高い死者の名誉を傷つける表現への対応
子どもの性被害と消滅時効被害を打ち明けられないまま時効を迎えるおそれ時効の起算を18歳からとすることを検討

民法の不法行為の規定は1896年(明治29年)の制定以来、基本的な枠組みが大きく変わっていません。一連の見直しが実現すれば、制定以来の抜本的な改正になると報じられています。

現行民法では慰謝料はどう決まっているか

誹謗中傷による損害賠償の根拠は、民法709条(「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」)と、名誉などを侵害した場合に財産以外の損害(精神的損害)の賠償を定める710条です。

しかし、民法には慰謝料をいくらにするかの基準を定めた規定がありません。そのため、裁判官が過去の裁判例を踏まえ、投稿の内容、拡散の程度、被害者の社会的地位、加害者の動機などを総合的に考慮して金額を決めており、これが低額にとどまりやすい一因と指摘されてきました。

また、日本の損害賠償は「実際に生じた損害の穴埋め」を原則としています。最高裁判所は、アメリカの裁判所が命じた懲罰的損害賠償の部分について、日本では執行判決をすることができないと判断しています(最高裁平成9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁)。研究会で懲罰的損害賠償の導入が議題になることが注目されるのは、この原則に関わるためです。

ネット誹謗中傷の慰謝料の実際の水準

法務省が2026年4月に公表した「インターネット上の名誉権侵害等の損害賠償額等に関する調査報告書」は、名誉権侵害が問題となった裁判例を分析しています。インターネット上の媒体による名誉毀損の事案118件について、認められた慰謝料は次のとおりでした。

項目金額
中央値30万円
平均値約47万円
最高額349万円

同報告書によれば、主にインターネット上の権利侵害の事案では、慰謝料が30万円未満にとどまったものが約半数(46.6%)を占めています。一方で、新聞などのマスメディアによる名誉毀損では、ネット上の事案より高額になる傾向が示されています。慰謝料の増額・減額を左右する具体的な要素については、ネット誹謗中傷の慰謝料を左右する「増額要素」と「減額要素」の記事で詳しく解説しています。

法改正を待たずに今できること

研究会の設置は大きな一歩ですが、改正法が成立し施行されるまでには相当の期間がかかるのが通常です。また、改正法が施行前の投稿にさかのぼって適用されるかどうかも、現時点では分かりません。被害を受けている方は、現行法のもとで次の点を押さえておくことが重要です。

  • 証拠を早めに保全する:投稿のURL・投稿日時・アカウント名が分かる形でスクリーンショットを残します。投稿が削除されると立証が難しくなります
  • 投稿者の特定を急ぐ:匿名の投稿者を特定するには発信者情報開示の手続が必要です。プロバイダの通信記録(ログ)の保存期間は限られているため、時間との勝負になります
  • 悪質性・被害の実態を具体的に示す:投稿の回数や期間、拡散の範囲、仕事や日常生活への影響、通院の有無などを記録しておくと、慰謝料の算定で考慮される可能性があります
  • 調査費用も請求する:投稿者の特定にかかった弁護士費用(調査費用)は、損害として一部が認められることがあります。詳しくは発信者情報開示にかかった弁護士費用は加害者に請求できるかをご覧ください

発信者情報開示請求・削除請求の手続の流れについては、発信者情報開示請求・削除請求の取扱分野ページで詳しくご案内しています。SNSでのなりすましや誹謗中傷にお悩みの方は、SNSなりすまし・誹謗中傷への対応の特設ページもあわせてご覧ください。

損害賠償請求の時効に注意

誹謗中傷による損害賠償請求権は、被害者が「損害及び加害者を知った時から3年間」行使しないとき、または「不法行為の時から20年間」行使しないときに、時効によって消滅します(民法724条)。匿名の投稿の場合、発信者情報開示によって投稿者の氏名・住所が判明した時点から3年の期間が進むのが一般的な考え方です。

「法改正で慰謝料が上がるまで待とう」と考えて手続を先延ばしにすると、ログの保存期間の経過で投稿者を特定できなくなったり、時効が完成したりするおそれがあります。時効の詳しい考え方は、ネット誹謗中傷の時効はいつ?の記事をご参照ください。

なお、報道で取り上げられている子どもの性被害の時効は、生命・身体を害する不法行為の場合に「3年」を「5年」とする民法724条の2の特例に関わる論点です。刑事手続では、2023年の刑事訴訟法改正により、一定の性犯罪について被害者が18歳未満の場合、18歳に達する日までの期間を公訴時効の期間に加算する規定(刑事訴訟法250条4項)が設けられており、民法でも同様の考え方をとるかが検討されます。

死者の名誉を傷つける投稿はどうなるか

研究会では、死者の人格権の保護も検討テーマとされています。現在の実務では、人格権は本人だけが持ち、死亡によって消滅すると解されています。そのため、亡くなった方を中傷する投稿に対しては、遺族自身の「故人に対する敬愛追慕の情」が侵害されたとして損害賠償を求める構成がとられていますが、出版物などの差止めについては十分な裁判例がなく、ハードルが高いのが現状です。現行法での考え方は、亡くなった人の誹謗中傷は名誉毀損?の記事で解説しています。

よくある質問

民法が改正されれば、誹謗中傷の慰謝料は必ず高くなりますか?

現時点では研究会が設置された段階で、改正の内容や時期は決まっていません。実際の金額水準は、今後の議論や裁判所の運用によります。

改正前の誹謗中傷にも新しいルールが適用されますか?

分かりません。一般に、法改正では施行前の行為に新しい規定を適用するかどうかを経過措置で定めますが、今回はまだ改正案もない段階です。改正を当てにして手続を遅らせることは、時効やログの消去のリスクを高めるため避けるべきです。

現在、誹謗中傷の慰謝料の目安はいくらですか?

法務省の2026年4月の調査報告書では、インターネット上の名誉毀損の事案118件で、慰謝料の中央値は30万円、平均値は約47万円、最高額は349万円でした。個別の事案の内容によって大きく変わるため、あくまで目安としてお考えください。

投稿者を特定するための弁護士費用は相手に請求できますか?

発信者情報開示にかかった弁護士費用(調査費用)は、損害として認められることがあります。ただし、実際に支払った全額が認められるとは限らず、一部の認容にとどまる例も少なくありません。

まとめ

  • 法務省は2026年9月29日、民法の不法行為規定を見直す研究会の設置を発表し、誹謗中傷の慰謝料の算定の在り方などを検討する
  • 現行民法には慰謝料の算定基準の規定がなく、ネット上の名誉毀損の慰謝料は中央値30万円程度にとどまっている
  • 改正の内容・時期は未定であり、改正前の投稿に適用されるかも分からない
  • 証拠保全、投稿者の特定、時効の管理は、法改正を待たずに今から進める必要がある

誹謗中傷の被害は、時間の経過とともに特定や請求が難しくなります。ネット上の権利侵害に取り組む弁護士に早めに相談し、見通しを確認することをおすすめします。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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