亡くなった人の誹謗中傷は名誉毀損?死者の名誉と遺族の権利を弁護士が解説
亡くなった人の誹謗中傷は名誉毀損?死者の名誉と遺族の権利を弁護士が解説
大切なご家族を亡くされたあとに、インターネット上で故人を中傷する書き込みを見つけてしまう——これは、遺されたご遺族にとって二重の苦しみとなる出来事です。「もう亡くなっているのだから、名誉毀損にはならないのでは」「反論できる本人がいないのに、遺族は何もできないのか」と、無力感を抱える方も少なくありません。実際、亡くなった方への中傷については、生きている人への誹謗中傷とは異なる法律のルールが適用されます。
この記事では、亡くなった人(死者)への中傷が名誉毀損として問題になるのかを刑事・民事の観点から整理し、遺族がとりうる削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求といった対処法とその限界を弁護士がわかりやすく解説します。
亡くなった人(死者)への誹謗中傷は法的に問題になるのか
結論から言えば、亡くなった人への中傷も、一定の要件を満たせば法的な責任の対象になります。ただし、そのルールは生存者への誹謗中傷とは大きく異なります。ポイントは、「刑事責任(犯罪として処罰されるか)」と「民事責任(損害賠償の対象になるか)」を分けて考えることです。
刑事の面では、刑法が「死者に対する名誉毀損罪」を特別に定めており、成立には厳しい条件が課されています。民事の面では、死者本人ではなく、遺族が自ら持つ権利が侵害されたと構成できるかどうかが問題になります。以下、それぞれを詳しく見ていきましょう。
刑事:死者に対する名誉毀損罪(刑法230条2項)の要件
刑法230条は名誉毀損罪を定めた条文で、その第2項が死者に関する特別なルールを規定しています。同項は「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」と定めています(e-Gov法令検索で確認)。
ここで重要なのは、生存者への名誉毀損罪(同条1項)が、摘示した事実が真実か虚偽かを問わず成立しうるのに対し、死者への名誉毀損罪は「虚偽の事実」の摘示に限って成立するという点です。つまり、亡くなった方について事実として真実の内容を述べた場合は、たとえそれが故人の社会的評価を下げるものであっても、本罪では処罰されません。
虚偽であることの認識(故意)も必要
死者の名誉毀損罪は故意犯であり、摘示した事実が虚偽であることについての認識も必要とされます。したがって、結果的に虚偽の内容であったとしても、投稿者が「真実だ」と信じて書き込んだ場合には、虚偽の事実の摘示についての故意が欠けるため、本罪は成立しないと解されています。名誉毀損が成立しない場合の考え方については、名誉毀損が成立しない場合|真実性・公共性・公益目的の3要件もあわせてご参照ください。
親告罪であり、告訴できるのは親族・子孫
名誉毀損罪は親告罪であり、被害者側の告訴がなければ検察官は起訴できません。死者に対する名誉毀損罪については、刑事訴訟法233条により、死者の親族または子孫が告訴権者とされています。親族や子孫がいない場合には、検察官が利害関係人の申立てにより告訴できる者を指定できる仕組みも設けられています(刑事訴訟法234条)。
民事:遺族固有の「敬愛追慕の情」侵害という構成
民事の損害賠償については、考え方の出発点が刑事と異なります。人は死亡によって権利能力を失うため、死者自身が名誉毀損を理由に損害賠償を請求する権利は、原則として生じません。では遺族はまったく救済を受けられないのかというと、そうではありません。
裁判例では、遺族が亡くなった人に対して抱く「敬愛追慕の情」を一種の人格的利益ととらえ、これを違法に侵害する行為は遺族に対する不法行為(民法709条)を構成しうる、という考え方が示されています。つまり、死者本人の権利ではなく、遺族自身が持つ権利の侵害として損害賠償を組み立てるわけです。
参考となる裁判例(落日燃ゆ事件)
この論点でしばしば参照されるのが、いわゆる「落日燃ゆ」事件です。東京高等裁判所は昭和54年(1979年)3月14日の判決で、遺族が死者に対して抱く敬愛追慕の情もまた一種の人格的法益として保護されるべきものであり、これを違法に侵害する行為は不法行為を構成しうるとの一般論を示しました(裁判所ウェブサイト等で確認)。もっとも、同事件では、記述された対象者の死後44年余りが経過していたことなどを考慮し、遺族の敬愛追慕の情を受忍し難い程度に害したとはいえないとして、請求は認められませんでした。
この裁判例が示すのは、死者への表現がただちに違法となるわけではなく、内容の虚偽性・重大性や死亡からの時間の経過などを踏まえ、社会通念上の受忍限度を超えるかどうかで違法性を判断するという枠組みです。中傷が事実無根で悪質なほど、遺族固有の権利侵害が認められやすくなる傾向があると考えられます。
遺族がとりうる対処法
亡くなった方への中傷を見つけた遺族が検討できる対応は、大きく分けて「投稿の削除」「投稿者の特定」「損害賠償の請求」の3つです。それぞれのポイントを整理します。
| 対処法 | 内容 | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 削除請求 | プラットフォーム運営者への削除依頼(送信防止措置依頼)や、削除の仮処分 | 権利侵害の明白性の説明が必要。運営者の判断で削除されない場合は裁判手続を検討 |
| 発信者情報開示請求 | 情プラ法に基づき、匿名の投稿者を特定するための手続 | 遺族自身の権利侵害を主張して構成。ログ保存期間の制約があり早期着手が重要 |
| 損害賠償請求 | 特定した投稿者に対する慰謝料等の請求(民法709条) | 受忍限度を超える侵害といえるかが争点 |
削除請求と発信者情報開示請求
誹謗中傷投稿の削除や投稿者の特定は、2025年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法。従来のプロバイダ責任制限法を改正・改称したもの)に基づく発信者情報開示請求などによって進めることになります。死者への中傷の場合は、投稿が遺族自身の敬愛追慕の情や名誉感情を侵害していると構成できるかが出発点になります。開示によってどこまでの情報が明らかになるかについては、発信者情報開示でどこまでわかる?開示される情報の範囲で詳しく解説しています。
投稿者の特定には、プロバイダが保有する通信記録(ログ)が不可欠ですが、これらは一定期間で消去されてしまいます。時間が経つほど特定は難しくなるため、中傷を見つけたら、まずスクリーンショットなどで証拠を保全し、早めに横浜など地元の弁護士へ相談することが望まれます。
死者への中傷に対応するうえで気をつけたい点
死者への中傷への対応には、生存者の場合とは異なる難しさがあります。刑事責任を追及するには「虚偽の事実」の摘示が必要で、投稿内容が真実であれば名誉毀損罪では処罰できません。民事でも、遺族固有の権利侵害として構成したうえで、受忍限度を超える侵害といえるかどうかの立証が求められます。
また、死亡から長い年月が経過している事案では侵害が受忍限度内と判断されやすくなる一方、亡くなった直後の悪質で事実無根な中傷であれば、遺族の精神的苦痛は大きく、違法性が認められやすい方向に働くと考えられます。どの構成・どの手続が適切かは専門的な判断を要するため、弁護士に相談したうえで方針を決めることをおすすめします。
よくある質問
亡くなった人の悪口をネットに書くと必ず罪になりますか?
死者に対する名誉毀損罪(刑法230条2項)は、虚偽の事実を摘示した場合でなければ成立しません。真実であれば、たとえ名誉を傷つける内容でも本罪では処罰されない点が、生存者に対する名誉毀損罪との大きな違いです。ただし、民事上の責任や、遺族自身の名誉・感情を害する表現については別途問題となる可能性があります。
亡くなった家族が中傷された場合、遺族は加害者に損害賠償を請求できますか?
死者本人は権利能力を失っているため、死者自身の損害賠償請求権は原則として生じません。もっとも、裁判例では、遺族が死者に対して抱く敬愛追慕の情という人格的利益が違法に侵害された場合には、遺族固有の権利として不法行為に基づく損害賠償が認められる余地があるとされています。侵害が社会通念上の受忍限度を超えるかどうかが判断の焦点になります。
死者への中傷でも投稿者を特定できますか?
遺族自身の権利(敬愛追慕の情の侵害など)を主張して、情プラ法に基づく発信者情報開示請求を行う余地があります。ただし、匿名投稿の特定にはプロバイダのログ保存期間という時間的制約があるため、早期に証拠を保全し手続に着手することが重要です。
亡くなった人への侮辱的な言葉だけでも対応できますか?
具体的な事実を示さない侮辱的表現については、死者への適用に関する明文がなく慎重な検討を要します。もっとも、その表現が遺族自身の名誉感情を害する場合には、遺族固有の権利侵害として民事上の対応を検討できる可能性があります。個別の事案ごとに弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
亡くなった人へのネット誹謗中傷は、「本人がいないから何もできない」というものではありません。刑事の面では、虚偽の事実の摘示があれば死者に対する名誉毀損罪(刑法230条2項)が成立しうるほか、民事の面では、遺族固有の敬愛追慕の情の侵害として損害賠償が認められる余地があります。投稿の削除や投稿者の特定も、遺族自身の権利を主張して進めることが考えられます。
もっとも、真実の摘示は刑事上処罰できないこと、民事では受忍限度を超える侵害といえるかがハードルになることなど、生存者の場合とは異なる難しさがあります。だからこそ、事案に応じてどの構成・どの手続を選ぶかの見極めが重要です。故人を守りたいという思いを法的な主張へと組み立てるうえで、経験のある弁護士のサポートは大きな支えになります。まずは証拠を保全し、早めにご相談ください。
亡くなったご家族への誹謗中傷でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。死者への中傷は遺族固有の権利という観点からの検討が必要な繊細な問題です。横浜の弁護士が、遺されたご家族のお気持ちに寄り添いながら、とりうる方針を丁寧にご説明します。
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