侮辱罪の刑罰はどれくらい?2022年厳罰化と拘禁刑を弁護士が解説
侮辱罪の刑罰はどれくらい?2022年厳罰化と拘禁刑を弁護士が解説
SNSや掲示板で「バカ」「気持ち悪い」「消えろ」といった言葉を繰り返し浴びせられ、精神的に追い詰められている——。こうした具体的な事実を伴わない悪口は、名誉毀損罪ではなく「侮辱罪」の問題になります。かつて侮辱罪は最も軽い刑しか定められておらず、実際に処罰されることはまれでしたが、ネット上の誹謗中傷が深刻化したことを受け、2022年に法定刑が大きく引き上げられました。
この記事では、侮辱罪の刑罰が現在どれくらいなのか、2022年の厳罰化と2025年6月に施行された拘禁刑への一本化で何が変わったのか、そして侮辱罪の成立要件や、匿名の投稿者を特定して削除・損害賠償を求める方法までを、横浜の弁護士が整理して解説します。加害を受けた側だけでなく、思わぬ投稿で「訴えられるかもしれない」と不安を抱えている方にも役立つ内容です。
侮辱罪とは|名誉毀損罪との違い
侮辱罪は刑法231条に定められた犯罪で、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者」を処罰するものです。ポイントは、具体的な事実を示さずに、人の社会的評価を害する表現を公然と行う点にあります。「無能」「クズ」「ブス」といった、抽象的な価値判断や罵倒がこれにあたります。
これに対して名誉毀損罪(刑法230条)は、「公然と事実を摘示し」て人の社会的評価を低下させた場合に成立します。ここでいう「事実」とは、真偽を問わず、具体的な出来事や状態を指す言葉です。たとえば「〇〇は会社の金を横領している」「△△は不倫している」といった投稿は、具体的な事実を含むため名誉毀損罪の問題となります。両者の詳しい違いは、ネットの誹謗中傷は何罪になるかを解説した記事もあわせてご覧ください。
【2022年改正】侮辱罪の厳罰化で何が変わったか
2022年(令和4年)の刑法改正により、侮辱罪の法定刑が引き上げられました。改正前の侮辱罪は「拘留または科料」しか定められておらず、これは刑法上もっとも軽い刑です。拘留は1日以上30日未満の身柄拘束、科料は1000円以上1万円未満の財産刑にとどまります。そのため実務上は起訴されること自体がまれで、抑止力に乏しいと指摘されていました。
改正では、これに加えて「1年以下の懲役もしくは禁錮」と「30万円以下の罰金」が新たに規定されました。あわせて、公訴時効(検察官が起訴できる期間)が1年から3年へと延長されています(刑事訴訟法250条)。この法定刑引き上げに関する規定は、2022年7月7日から施行されました。改正の背景には、SNS等での誹謗中傷が人の命に関わる社会問題となったことがあります。
| 項目 | 改正前 | 2022年改正後 |
|---|---|---|
| 法定刑 | 拘留または科料 | 1年以下の懲役・禁錮、または30万円以下の罰金、または拘留・科料 |
| 公訴時効 | 1年 | 3年 |
| 逮捕・勾留 | 要件が厳しく実際上困難な場合が多い | 懲役刑等が加わり身柄拘束の余地が広がった |
公訴時効が3年に延びた意味は小さくありません。匿名の投稿では、投稿者を特定するまでに発信者情報開示などの手続きで数か月を要することが少なくないため、時効期間が短いと特定できた頃には起訴できなくなる、という事態が起こりえます。時効の延長により、こうした「時間切れ」のリスクが大きく緩和されました。
2025年6月の拘禁刑一本化で現在の法定刑は
その後、2025年6月1日に改正刑法の残りの部分が施行され、これまで別々に定められていた「懲役」と「禁錮」が「拘禁刑」に一本化されました。これに伴い、侮辱罪の条文上の「懲役もしくは禁錮」という文言も「拘禁刑」に置き換わっています。
その結果、現在の侮辱罪の法定刑は「1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」となっています。刑の重さそのものが変わったわけではなく、懲役と禁錮の区別がなくなった点が変更の中心です。ニュースや古い記事では「懲役1年以下」と表記されていることもありますが、2025年6月以降は「拘禁刑」が正しい表記です。
侮辱罪が成立するための要件
侮辱罪が成立するには、主に次の要素が必要と解されています。
- 公然性:不特定または多数の人が認識できる状態で行われたこと。SNSの公開投稿や掲示板への書き込みは、多くの人が閲覧できるため公然性が認められやすい類型です。
- 人に対する侮辱:他人の人格的価値について、社会的評価を害するに足りる軽蔑の表現を向けたこと。単なる感想や意見の域を超えているかが問題になります。
- 特定性(同定可能性):その表現が「誰に向けられたものか」を第三者が判別できること。実名でなくても、ハンドルネームや文脈から本人と分かる場合には成立しうると考えられています。
逆にいえば、1対1のクローズドなやり取りで公然性が認められない場合や、批判の対象が特定できない場合には、侮辱罪の成立が難しくなります。もっとも、公然性の有無は伝わり方によって微妙な判断を要するため、投稿の状況を具体的に検討する必要があります。
厳罰化後の実務|検挙・処罰の傾向
厳罰化前は、侮辱罪で起訴・処罰に至る例はごく限られていました。厳罰化以降は、悪質なネット上の侮辱について、書類送検や略式起訴による罰金といった形で刑事処分に進む事案が報じられるようになっています。特に、特定の個人を執拗に攻撃する投稿や、実名・写真とともに人格を否定するような投稿は、悪質性が高いと評価されやすい傾向があります。
ただし、いまも侮辱罪は親告罪(刑法232条)であり、被害者などの告訴がなければ起訴できません。警察が自動的に動くわけではなく、被害者側から証拠を整えて告訴することが処罰への出発点になります。告訴は犯人を知った日から6か月以内にする必要があります(刑事訴訟法235条)。加害者が匿名の場合、この起算点をいつと見るかは難しい問題を含むため、刑事責任を問うことを検討している段階から準備を進めることが重要です。刑事事件化の条件や実際に動いた事例については、ネット誹謗中傷で逮捕されるのかを解説した記事もご参照ください。
侮辱でも投稿者の特定・削除はできるか
「事実を含まない悪口だから、削除や投稿者の特定はできないのでは」と考える方もいますが、そうとは限りません。刑事の侮辱罪とは別に、民事上は「名誉感情の侵害」として不法行為(民法709条)が問題となり得ます。人が自分自身に対して抱く誇りや自尊心(名誉感情)を、社会通念上許される限度を超えて侵害した場合には、削除請求や損害賠償請求、そのための発信者情報開示請求が認められる余地があります。
実際の裁判例でも、投稿が社会通念上許される限度(受忍限度)を超えるかどうかを基準に、侮辱的な表現についての損害賠償や開示の可否が判断される傾向があります。単発の軽い悪口では認められにくい一方、執拗な繰り返しや、著しく下品・侮蔑的な表現は違法と評価されやすくなります。この点は、「死ね」などの侮辱でも開示・削除できるかを解説した記事で詳しく取り上げています。SNSでのなりすましや執拗な中傷でお困りの方は、SNSの誹謗中傷・なりすまし対応のページもご覧ください。
2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)により、大規模なプラットフォーム事業者には削除申請への対応の迅速化・透明化が求められるようになりました。侮辱的な投稿への対応環境は、以前より整いつつあります。
よくある質問
侮辱罪の刑罰は現在どれくらいですか?
2022年の刑法改正での法定刑引き上げと、2025年6月1日の拘禁刑への一本化を経て、現在の侮辱罪(刑法231条)の法定刑は「1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」です。改正前は「拘留または科料」のみでした。
2022年の侮辱罪の厳罰化で何が変わったのですか?
法定刑に「1年以下の懲役もしくは禁錮」と「30万円以下の罰金」が加えられ、公訴時効が1年から3年へ延長されました。法定刑引き上げの規定は2022年7月7日に施行されています。ネット上の誹謗中傷の深刻化が改正の背景にあります。
侮辱罪と名誉毀損罪はどう違いますか?
名誉毀損罪(刑法230条)は具体的な「事実を摘示して」社会的評価を低下させた場合に、侮辱罪(刑法231条)は事実を示さずに公然と人を侮辱した場合に成立します。「バカ」「無能」などの抽象的な罵倒は侮辱罪、「〇〇は横領した」など具体的事実を伴うものは名誉毀損罪が問題になります。
侮辱罪で告訴するのに期限はありますか?
侮辱罪は親告罪(刑法232条)で、告訴がなければ起訴できません。親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月以内にする必要があります(刑事訴訟法235条)。匿名投稿では特定後に起算されると考えられますが、判断が難しいため早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
まとめ
侮辱罪はかつて「拘留または科料」しか定められていない軽微な罪でしたが、2022年の厳罰化で「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が加わり、公訴時効も3年に延長されました。2025年6月の拘禁刑一本化を経て、現在の法定刑は「1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」です。ネット上の悪質な侮辱は、刑事責任の対象となるだけでなく、民事上も名誉感情の侵害として削除・損害賠償・発信者情報開示の対象となり得ます。
もっとも、公然性の有無、名誉毀損罪との区別、告訴期間の起算点、開示の見込みなど、実際の判断には専門的な検討が欠かせません。被害を受けている方も、投稿によって責任を問われるおそれのある方も、早い段階で弁護士に相談することで、証拠の保全や手続きの選択を誤らずに進めることができます。横浜のタングラム法律事務所では、こうしたインターネット上の侮辱・誹謗中傷の問題に幅広く対応しています。
侮辱・誹謗中傷の投稿でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。侮辱的な投稿の削除や投稿者の特定、刑事告訴のご検討まで、状況に応じた最適な対応をご提案します。
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