即決和解を自分で申し立てる方法|手続・費用と公正証書との違い
即決和解を自分で申し立てる方法|手続・費用と公正証書との違い
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月19日 最終更新日:2026年10月19日
「滞納している賃料を分割で払うと約束してもらえたが、また払われなくなったらどうしよう」「退去の合意はできたものの、期限までに本当に明け渡してもらえるのか不安だ」。合意書を交わしただけでは、相手が約束を破ったときに改めて訴訟を起こす必要があります。
この記事では、話し合いでまとまった内容を簡易裁判所で「和解調書(電子調書)」にしてもらう即決和解(訴え提起前の和解・起訴前の和解)を会社が自分で申し立てる方法と、公正証書との違いを解説します。
結論として、即決和解は、当事者間で既に合意ができている場合に、その内容を簡易裁判所で和解として成立させ、判決と同じ効力(強制執行できる効力)を持たせる手続です。公正証書と異なり、建物の明渡しなど金銭以外の約束も強制執行の対象にできる点が最大の特徴です。会社が自分で申し立てることも可能ですが、和解条項の書き方を誤ると執行に使えないおそれがあるため、条項の作成には注意が必要です。
即決和解(訴え提起前の和解)とは
即決和解は、民事訴訟法275条1項に定められた手続です。民事上の争いがある当事者は、請求の趣旨・原因と争いの実情を示して、簡易裁判所に和解の申立てをすることができます。裁判所が合意内容を相当と認めて和解が成立し、その内容が電子調書に記録されると、確定判決と同一の効力を持ちます(民事訴訟法267条1項)。
この電子調書は強制執行の根拠となる「債務名義」に当たり(民事執行法22条7号)、相手方が約束を守らなければ、訴訟をせずに強制執行に進めます。
よく使われるのは次のような場面です。
- 店舗・事務所の賃料滞納について、分割払いと明渡しを合意する場合
- 売掛金の分割弁済を合意する場合
- リース物件などの動産の引渡しを合意する場合
賃料滞納への対応全体については、家賃滞納テナントの追い出しは違法?正しい明渡しの手順もあわせてご覧ください。
即決和解と公正証書の違い|明渡しは即決和解でしか確保できない
合意内容に強制執行力を持たせる方法としては、公証役場で作成する公正証書(執行証書)もあります。両者の主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 即決和解 | 公正証書(執行証書) |
|---|---|---|
| 手続の場所 | 簡易裁判所 | 公証役場 |
| 強制執行できる内容 | 金銭の支払に加え、建物・土地の明渡し、動産の引渡しなども可能 | 金銭等の一定額・一定数量の給付に限られる(民事執行法22条5号) |
| 費用 | 手数料は一律(後述) | 目的の価額に応じた公証人手数料 |
| 期間の目安 | 申立てから期日まで1か月半〜2か月程度(東京簡易裁判所の案内) | 公証役場との調整次第 |
このように、明渡しや引渡しを確実にしたい場合は即決和解、金銭の支払だけで足りる場合は公正証書も選択肢になります。公正証書の作り方は公正証書を自分で作る方法|売掛金回収に使う手順・費用で詳しく解説しています。
即決和解の申立先・必要書類・費用
申立先(管轄)
申立先は、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所です(民事訴訟法275条1項)。たとえば相手方が横浜市内に本店を置く会社であれば、通常は横浜簡易裁判所が申立先になります。
必要書類
東京簡易裁判所の案内(建物明渡しの例)では、主に次の書類が必要とされています。
- 和解申立書(当事者目録・和解条項案・物件目録・図面を含む)
- 物件や明渡しを求める権利を確認できる資料(賃貸借契約書、不動産の登記事項証明書など)
- 未払賃料などの債務の存在がわかる資料
- 当事者が法人の場合は、発行後3か月以内の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
申立書には、当事者間に「民事上の争い」があることを必ず記載するよう求められています。「賃料の支払が滞り、明渡しを巡って協議してきた」など、争いの実情を具体的に書きます。
費用
東京簡易裁判所の案内では、申立手数料は2,700円(電子申立ての場合は2,400円)とされています。2026年5月21日施行の改正民事訴訟法等により、民事訴訟手続では郵便費用が申立手数料に一本化され、納付は原則としてペイジーで行う運用となっています。具体的な額や納付方法は、申立て前に管轄の簡易裁判所で確認してください。
申立てから和解成立までの流れ
即決和解は「話し合いを裁判所でする手続」ではなく、既にまとまった合意を裁判所で確認する手続です。流れはおおむね次のとおりです。
- 相手方と合意し、和解条項案を作成する
- 簡易裁判所に申立書を提出する
- 裁判所が申立書・和解条項を審査し、必要に応じて修正や書類の追完を求める
- 裁判所が示す候補日から、相手方と調整して和解期日を決める
- 期日に双方が出頭し、和解条項に合意して和解が成立する
東京簡易裁判所の案内によれば、申立てから和解期日までは平均1か月半〜2か月程度かかります。明渡日や第1回の支払日は、この期間を見込んで設定する必要があります。
和解条項の作り方|強制執行に使える書き方のポイント
即決和解で最も重要なのが和解条項です。条項があいまいだと、せっかく和解が成立しても強制執行に使えないことがあります。
- 給付の内容を特定する:「誠実に支払う」ではなく、「金○円を、令和○年○月から毎月末日限り金○円ずつ、申立人指定の口座に振り込んで支払う」のように金額・期限・方法を明記する
- 期限の利益喪失条項を入れる:「分割金の支払を2回分以上怠ったときは、当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う」など
- 明渡しの対象と期日を特定する:物件目録・図面で範囲を明確にし、明渡しの期日を定める
- 清算条項に注意する:「ほかに債権債務がない」と確認する条項を入れる場合、他に請求したい債権が残っていないかを確認する
相手方が会社の場合、会社を代表して出頭するのは代表者です。簡易裁判所では、裁判所の許可を得て従業員などを代理人とすることも認められています(民事訴訟法54条1項ただし書)。一方で、申立人側が相手方の代理人を用意したり、相手方から白紙委任状を取り付けたりする方法は、双方代理(民法108条)などの問題から和解の効力が争われるおそれがあるため避けるべきです。
相手方が約束を破った場合の差押えの手続は、強制執行を自分で申し立てる方法|差押えの流れ・費用で解説しています。
自分で行う場合の限界と弁護士に依頼するメリット
即決和解は会社が自分で申し立てることも可能ですが、次の点では専門的な判断が求められます。
- 執行の場面で使える和解条項になっているか(特定性・条件の定め方)
- 合意内容が借地借家法・消費者契約法などの強行規定に反していないか
- 清算条項などにより、自社の他の権利を意図せず放棄していないか
弁護士に依頼すれば、相手方との条件交渉から和解条項の作成、裁判所とのやり取り、期日への出頭、成立後の強制執行まで一貫して任せることができます。横浜を中心に、契約・債権回収・不動産賃貸借のトラブルを扱う当事務所の企業法務への取り組みは、企業法務の取扱分野ページでご紹介しています。
よくある質問
即決和解は相手が期日に来なかったらどうなりますか?
申立人または相手方が和解期日に出頭しないときは、裁判所は和解が調わないものとみなすことができます(民事訴訟法275条3項)。即決和解は書面の受諾による和解(同法264条)が使えないため、相手方本人または代理人の出頭が必要です。期日の候補日は事前に相手方と調整しておくことが大切です。
即決和解と公正証書はどちらを選べばよいですか?
金銭の支払だけを確保したい場合は公正証書(執行証書)でも足りることが多い一方、建物や土地の明渡し、動産の引渡しなど金銭以外の義務を強制執行できる形にしたい場合は、即決和解を検討することになります。公正証書による強制執行は金銭等の一定額の給付に限られるためです(民事執行法22条5号)。
和解が成立すれば、すぐに強制執行できますか?
相手方が和解条項どおりに履行しない場合、和解を記録した電子調書は債務名義となり(民事執行法22条7号)、強制執行を申し立てることができます。ただし、原則として執行文の付与と送達証明が必要になり、条件や期限が付いた条項では、その到来を確認する手続も必要です。
まとめ
- 即決和解は、既にまとまった合意を簡易裁判所で和解として成立させ、確定判決と同一の効力を持たせる手続(民事訴訟法275条・267条)
- 公正証書と異なり、建物の明渡しや動産の引渡しも強制執行の対象にできる
- 申立先は相手方の所在地を管轄する簡易裁判所。申立書には「民事上の争い」を具体的に記載する
- 和解条項の書き方次第で、強制執行に使えるかどうかが決まる
話し合いで合意できたときこそ、その合意を「守られなかったときに使える形」にしておくことが重要です。和解条項の作成や相手方との交渉に不安がある場合は、早めに弁護士へご相談ください。
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