支払督促が届いたら|会社が自分で督促異議を申し立てる方法
支払督促が届いたら|会社が自分で督促異議を申し立てる方法
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月28日 最終更新日:2026年10月28日
ある日、簡易裁判所から会社宛てに「支払督促」と書かれた書類が届いた——金額に納得できない場合もあれば、まったく身に覚えがない場合もあるでしょう。どうすればよいか分からないまま日にちが過ぎてしまうことも少なくありません。
この記事では、支払督促を受け取った会社・個人事業主が、自分で「督促異議」を申し立てる方法を、期限の数え方、督促異議申立書の書き方、異議を出した後の訴訟の流れ、仮執行宣言付支払督促が届いた場合の対応まで、横浜の弁護士が民事訴訟法の条文に沿って解説します。
結論から言うと、支払督促は受け取った日から2週間以内に督促異議を申し立てなければ、相手の申立てにより仮執行宣言が付され、預金や売掛金を差し押さえられるおそれがあります。督促異議には理由の記載は必須ではなく、申立書を簡易裁判所に提出すれば通常の訴訟に移行し、そこで初めて請求の当否が審理されます。
支払督促とは|放置してはいけない理由
支払督促は、金銭などの支払を求める債権者の申立てにより、簡易裁判所の裁判所書記官が発する命令です(民事訴訟法382条)。最大の特徴は、債務者の言い分を聞かずに発せられることです(同法386条1項)。申立ての段階では請求が正しいかどうかは審理されないため、身に覚えのない請求でも発せられることがあります。債務者が何もしないと、次のように手続が進みます。
| 段階 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| ① 支払督促の送達 | 受け取った日から2週間以内なら督促異議ができる | 民訴法386条2項・391条1項 |
| ② 仮執行宣言 | 異議がなければ、債権者の申立てにより仮執行宣言が付される | 民訴法391条1項 |
| ③ 仮執行宣言付支払督促の送達 | この時点で強制執行が可能になる。受け取った日から2週間以内なら再度異議ができる | 民訴法393条、民事執行法22条4号 |
| ④ 確定 | 異議がなければ確定判決と同一の効力を持つ | 民訴法396条 |
会社の預金や売掛金が差し押さえられると、資金繰りや取引先・金融機関からの信用にも影響しかねません。
支払督促が届いたらまず確認すること
本物の裁判所の書類か
裁判所の名をかたる架空請求もあります。裁判所ウェブサイトは、書面記載の電話番号ではなく電話帳などで調べた番号で裁判所に直接問い合わせるよう案内するとともに、本物の書類を放置すると架空の請求でも強制執行を受けるおそれがあると注意喚起しています。
受け取った日と期限
督促異議の期限は「送達を受けた日から2週間」です。期間の計算は民法の規定に従い、受け取った日は算入せず翌日から数えます(民事訴訟法95条1項)。期間の末日が土日・祝日・年末年始(12月29日〜1月3日)に当たるときは、その翌日に満了します(同条3項)。封筒や配達記録から受け取った日を必ず控えておきましょう。
仮執行宣言が付いているか
届いた書類に「仮執行宣言」の記載があるかどうかで、取るべき対応が変わります(後述)。あわせて、請求の趣旨・原因を社内の契約書・請求書・入金記録と突き合わせます。
督促異議の申立て方法|督促異議申立書の書き方
督促異議は、支払督促を発した裁判所書記官が所属する簡易裁判所に申し立てます(民事訴訟法386条2項)。申立てには裁判所の書式(督促異議申立書)を利用できます。東京簡易裁判所が公開している記載例によれば、主な記載事項は次のとおりです。
| 項目 | 会社が記載する際のポイント |
|---|---|
| 作成日・債権者名 | 支払督促の記載どおりに書く(事件番号も併記しておくと照合しやすい) |
| 債務者 | 会社名、代表者の役職・氏名を記載し押印する(認印可・浸透印は避ける) |
| 送達場所 | 今後の裁判所の書類を受け取る場所。本店以外で受け取りたい場合は具体的に記載 |
| 言い分 | 空欄でも提出できる。分割払いの話し合いを希望する場合は支払可能な金額を、反論がある場合はその内容を書く |
同記載例ではFAXは不可で、持参または郵送で提出するとされています。2026年5月21日以降の事件では、民事裁判書類電子提出システム「mints」による提出も案内されていますが、提出方法は書類記載の裁判所に確認するのが確実です。
督促異議を申し立てた後の流れ|通常訴訟への移行
適法な督促異議があると、支払督促の申立ての時に、請求額に応じて支払督促を発した書記官の所属する簡易裁判所またはその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(民事訴訟法395条)。仮執行宣言前の異議であれば、支払督促はその異議の限度で効力を失います(同法390条)。
訴訟に移行すると、会社は被告として答弁書を提出し、反論を主張していくことになります。答弁書の書き方は訴状が届いたら|会社が自分で答弁書を書く方法で詳しく解説しています。
- 消滅時効の主張:古い代金請求であれば、権利を行使できることを知った時から5年などの消滅時効(民法166条1項)が完成している可能性があります。時効は援用しなければ裁判所は考慮しません(民法145条)。2020年4月1日より前に生じた債権には改正前の規定が適用されます(参考:売掛金の消滅時効は5年|完成猶予と更新)。
- 分割払いの話し合い:請求自体は争わないものの一括では払えない場合、簡易裁判所では和解のほか、被告が争わないときに分割払い等を定める「和解に代わる決定」(民事訴訟法275条の2)がされることもあります。
仮執行宣言付支払督促が届いた場合の対応
最初の支払督促から2週間が過ぎても、仮執行宣言がされる前であれば、督促異議を申し立てることができます(民事訴訟法391条1項ただし書)。期限を過ぎてしまったと気づいたら、すぐに裁判所へ連絡してください。
仮執行宣言付支払督促が届いた場合も、受け取った日から2週間以内であれば督促異議を申し立てられます(同法393条)。ただし、この段階の異議には注意が必要です。仮執行宣言付支払督促はそれ自体が債務名義となり(民事執行法22条4号)、異議を出しただけでは強制執行は止まりません。差押えを止めるには、別途、強制執行停止の申立てをし、裁判所の決定を得る必要があります(民事訴訟法403条1項3号)。停止の決定にあたっては、担保(保証金)を立てるよう命じられる場合があります。
自分で対応する場合の限界と弁護士に依頼するメリット
督促異議の申立て自体は会社自身で行うことができ、期限が迫っている場合はまず異議を出して時間を確保することが重要です。もっとも、次の点では専門的な判断が必要になります。
- 移行後の訴訟で、契約書・発注書・メール等の証拠に基づいて反論を組み立てる必要がある
- 消滅時効、相殺、契約不適合など、どの主張が使えるかの見極めが結論を左右する
- 仮執行宣言後は、強制執行停止の申立てと担保の準備を短期間で行わなければならない
弁護士に依頼すれば、異議から訴訟対応、和解交渉までを一貫して任せることができます。当事務所の取り組みは企業法務の取扱分野ページをご覧ください。なお、逆に自社が債権者として支払督促を利用する場合の手続は自分で支払督促を申し立てて売掛金を回収する方法で解説しています。
支払督促に関するよくある質問
請求内容は正しいが、一括では払えません。それでも督促異議を出すべきですか?
督促異議申立書の言い分欄に、分割払いの話し合いを希望する旨と支払可能な金額を書いて提出する方法があります。異議を出さずにいると仮執行宣言が付され、強制執行を受けるおそれがあります。
督促異議の期限(2週間)を過ぎてしまいました。もう争えませんか?
仮執行宣言がされる前であれば、2週間を過ぎていても督促異議を申し立てることができます(民事訴訟法391条1項ただし書)。仮執行宣言付支払督促が届いた後も、受け取った日から2週間以内なら異議が可能ですが、強制執行停止の申立ても検討が必要です。
まったく身に覚えのない支払督促が届きました。無視してもよいですか?
無視は避けてください。自分で調べた電話番号で裁判所に問い合わせて本物かを確認し、本物であれば期限内に督促異議を申し立ててください。放置すると確定し、強制執行を受けるおそれがあります。
督促異議の後の裁判に、社長ではなく担当社員が出席できますか?
簡易裁判所の訴訟であれば、裁判所の許可を得て、弁護士でない社員を訴訟代理人とすることができます(民事訴訟法54条1項ただし書)。地方裁判所に移行した場合は、代表者本人か弁護士が対応します。
まとめ|支払督促は「2週間以内の督促異議」が最優先
支払督促は債務者の言い分を聞かずに発せられるため、受け取った側が督促異議を申し立てて初めて、請求の当否が裁判所で審理されます。まず本物かを確認し、受け取った日から2週間以内に督促異議申立書を提出すること、仮執行宣言付支払督促が届いている場合は強制執行停止まで視野に入れることが重要です。
異議後の訴訟では、証拠に基づく反論や和解条件の交渉が結果を左右します。受け取った段階で横浜の弁護士にご相談いただければ、期限を守りつつ対応方針を整理できます。
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