相続で隠し子が判明したら|死後認知と価額支払請求を弁護士が解説
相続で隠し子が判明したら|死後認知と価額支払請求を弁護士が解説
相続手続きのために戸籍を取り寄せたところ、家族の誰も知らなかった子の記載があった。あるいは遺産分割協議がまとまった後になって、「自分は被相続人の子だ」と名乗る人物から連絡が届いた——。相続の現場では、こうした事態が現実に起こります。
この記事では、相続の開始後に被相続人の子(いわゆる隠し子・婚外子)の存在が判明した場合について、認知の有無で結論がどう変わるのか、死後認知の訴えの3年という期限、遺産分割後に認知された場合の民法910条の価額支払請求、相続税の取扱いまでを、横浜の弁護士が順に整理します。
相続人になるかどうかは「認知」の有無で決まる
婚姻関係にない男女の間に生まれた子と父との間に法律上の親子関係が生じるのは、認知があった場合です。認知は戸籍法の定めるところにより届け出ることによってするほか、遺言によってすることもできます(民法781条1項・2項)。認知がされると、その効力は出生の時にさかのぼって生じます(民法784条本文)。そのため被相続人の死亡後に認知の判決が確定した場合でも、その子は相続開始の時点ですでに子であったものとして扱われ、相続人となります。ただし同条ただし書は「第三者が既に取得した権利を害することはできない」と定めており、この制限が後述する価額支払請求の仕組みにつながります。
相続分にも注意が必要です。かつての民法900条4号ただし書前段は嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていましたが、最高裁判所大法廷は平成25年9月4日の決定でこの規定を憲法14条1項に違反すると判断し、民法の一部を改正する法律(平成25年法律第94号)により削除されました(法務省「民法の一部が改正されました」)。認知された子の相続分は、他の子と同じです。
逆に、認知されていない子は事実上の親子関係があっても相続人ではなく、遺産分割に参加する権利もありません。被相続人が生前に認知の届出をしていれば、その事実は戸籍に記載されますが、認知されていない子は戸籍上あらわれません。前妻の子の相続権と遺留分のように戸籍から明らかになる相続人と異なり、調査だけでは存在を把握できない点が、この問題を難しくしています。
死後認知の訴え——3年という期限
誰が、誰を相手に提起するか
父が生前に認知をしないまま死亡した場合、民法787条本文により、子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人が認知の訴えを提起できます。相手方となるべき父が既に死亡しているため、人事訴訟法12条3項により検察官を被告とします。もっとも認知の訴えには家事事件手続法257条1項の調停前置主義が適用されるため、まず家庭裁判所に認知調停を申し立て、不成立の場合に訴えを提起するのが通常の流れです。
3年の期限(民法787条ただし書)
実務上もっとも重要な点がここです。民法787条ただし書は「父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない」と定めており、3年が経過すると認知の訴えを提起すること自体ができなくなります。この3年は原則として延長されない期間と解されており、父の死亡を知らなかったという事情があっても原則として救済されません。
父子関係の立証
父が既に死亡しているため、DNA鑑定の可否が立証の鍵になることが多くあります。他の相続人から見れば、認知が認められれば自らの相続分が減少するため、訴訟に参加して争うかどうかの検討が必要です。
遺産分割の「前」か「後」かで結論が変わる
認知の効力は出生時にさかのぼりますが、どの段階で認知が確定したかによって取り得る手段は大きく異なります。
| 認知が確定した時期 | 認知された子の立場 | 他の共同相続人への影響 |
|---|---|---|
| 遺産分割の前 | 共同相続人として遺産分割に参加する | 認知された子を加えて遺産分割協議・調停を行う必要がある |
| 遺産分割の後 | 価額のみによる支払を請求できる(民法910条) | 成立した遺産分割は維持されるが、金銭での精算義務を負う |
遺産分割の前に認知が確定した場合、その子は共同相続人ですから、遺産分割協議に参加させなければなりません。相続人の一部を除外して成立させた協議は無効と解されており、やり直すことになります(遺産分割協議のやり直し・無効と取消し)。まとまらない場合は遺産分割調停に移行します。
これに対し、遺産分割その他の処分が既に済んでいる場合には民法910条が適用されます。同条は「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する」と定めています。確定した遺産分割の効力を維持しつつ、認知された子には金銭による救済を与える調整規定です。
価額支払請求の金額はどう計算されるか
最高裁判所は平成28年2月26日の判決で、価額算定の基礎となる遺産の価額は、価額の支払を請求した時を基準として算定すべきであると判断しました。相続開始時や遺産分割時ではない点に注意が必要です。同判決はあわせて、この支払債務は期限の定めのない債務であり、履行の請求を受けた時に遅滞に陥るとしています。
もう一つの争点が、被相続人の債務(消極財産)を差し引くかどうかです。最高裁判所は令和元年8月27日の判決で、算定の基礎となる遺産の価額は遺産分割の対象とされた積極財産の価額であると判断しました。つまり債務は控除されない扱いです。
請求する側にとっては、遺産の価値が上昇していればその上昇分が反映され、債務も控除されない点で有利な計算になります。逆に請求を受ける側は、想定より高額な支払を求められる可能性があります。不動産の評価をめぐる専門的な主張立証が必要になる場面も少なくありません。当事務所の取扱いは相続・遺産分割に関する取扱分野のページをご覧ください。
相続税・譲渡所得の取扱い
相続税法32条1項2号は、民法787条の規定による認知に関する裁判の確定等により相続人に異動を生じたことを更正の請求の特則事由として掲げており、すでに申告をした相続人は、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に限り更正の請求ができます。この4か月は短く、判決確定後は速やかに動く必要があります。
また国税庁の質疑応答事例「遺産分割後に認知を受けた者に遺産の一部を給付した場合の譲渡所得の課税」は、民法910条の請求に対して土地を交付することは代物弁済に該当するとして原則として譲渡所得課税が行われるとしつつ、関係者全員が連署した最終的な遺産分割協議書などにより現物分割で取得したものと認められる場合には課税を行わない取扱いが相当であるとしています。
よくある質問
父の死亡から3年を過ぎてしまいました。もう認知を求めることはできませんか。
民法787条ただし書により、3年を経過すると訴えを提起できなくなるのが通常です。死亡の事実が客観的に明らかでなかったなどの特段の事情に着目した裁判例もありますが、例外的な取扱いです。
遺産分割が終わった後に認知の判決が確定しました。分割をやり直す必要がありますか。
民法910条により、認知によって相続人となった者は価額のみによる支払を請求できるにとどまります。成立した遺産分割は効力を維持し、不動産の登記をやり直す必要も原則としてありません。他の共同相続人は金銭で精算します。
価額支払請求を受けましたが、支払えるだけの現金がありません。
民法910条の請求は金銭の支払を求めるもので、現物を引き渡す義務はありません。分割払いの合意や不動産の売却による精算などを協議します。支払に代えて不動産を交付すると代物弁済として譲渡所得課税の対象となり得ます。
認知された子にも遺留分はありますか。
認知された子は被相続人の子として相続人となるため、遺留分権利者にあたります。被相続人が全財産を他の相続人に相続させる旨の遺言を残していた場合には、認知された子は遺留分侵害額請求をすることができます。
まとめ
- 相続人になるかどうかは認知の有無で決まり、認知の効力は出生時にさかのぼる(民法784条本文)
- 現行の民法900条4号は嫡出子と嫡出でない子の相続分を区別していない(平成25年法律第94号による改正)
- 死後認知の訴えは父又は母の死亡の日から3年以内に限られ(民法787条ただし書)、調停前置で検察官が被告となる
- 遺産分割の前なら分割に参加するが、後であれば価額のみによる支払請求となる(民法910条)
- 価額の算定基準時は支払を請求した時(最判平成28年2月26日)、算定の基礎は積極財産の価額(最判令和元年8月27日)
- 相続税の更正の請求は事由を知った日の翌日から4か月以内(相続税法32条1項2号)。税務は必ず税理士に確認する
この問題は、身分関係の確定という人事訴訟の領域と、遺産の精算という財産法の領域が重なり合うため、進め方の選択が結論を左右します。名乗り出る側には3年の期限が、請求を受ける側には遺産の評価と支払方法が、それぞれ大きな分岐点になります。弁護士に依頼すれば、相手方との連絡窓口を一本化し、法的な争点を早期に絞り込むことができます。
相続人が増えた・価額支払請求を受けたなど、相続のトラブルでお困りの方へ
横浜のタングラム法律事務所では、遺産分割・遺留分をはじめとする紛争性のある相続案件について豊富な実績を有しております。死後認知や価額支払請求が絡む事案は、期限と評価額の両面で慎重な判断が必要です。まずは現在の状況をお聞かせください。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。