トレントの示談金は自己破産で免責されるか|破産法253条の「悪意」
トレントの示談金は自己破産で免責されるか|破産法253条の「悪意」
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月25日 最終更新日:2026年9月25日
BitTorrent(トレント)の利用について損害賠償請求の通知書が届き、「とても払えない」「自己破産するしかないのか」と考え込んでしまう方がいます。他の借入れがある方や、複数の作品について請求を受けている方ほど、その不安は切実です。
本記事では、トレントの示談金・損害賠償が自己破産で免責されるのかを、破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」を中心に、個人再生の扱いや破産前に確認すべき点とあわせて横浜の弁護士が解説します。
結論から言えば、トレントによる著作権侵害の損害賠償請求権が、自己破産で当然に免責されないというわけではありません。非免責債権となるのは「悪意で加えた不法行為」に基づく場合であり、ここでいう悪意は単なる故意を超える積極的な害意と解されているため、個別の事情によって結論が分かれます。ただし、破産は生活への影響も大きい手続であり、その前に請求の内容そのものを検討する余地があることが多いのが実情です。
自己破産の免責と「非免責債権」の仕組み
自己破産の手続で免責許可の決定が確定すると、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について責任を免れます(破産法253条1項本文)。トレントの利用を理由とする損害賠償請求権も、破産手続開始前の行為に基づくものであれば破産債権となるため、この原則の対象に含まれます。
もっとも、同項ただし書は、免責の効力が及ばない請求権(非免責債権)を列挙しています。トレント事案との関係で問題になり得るのは、主に次のものです。
| 号 | 非免責債権の内容 | トレント事案との関係 |
|---|---|---|
| 2号 | 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 | 著作権侵害の損害賠償が該当するかが主な争点 |
| 3号 | 故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権 | 生命・身体の侵害ではないため、通常は該当しない |
| 6号 | 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権 | 権利者を名簿から外すと免責されない |
| 7号 | 罰金等の請求権 | 刑事手続で科された罰金は免責されない |
破産法253条1項2号の「悪意」とは何か
法律用語の「悪意」は文脈によって意味が異なります。破産法253条1項2号の「悪意」については、単なる故意では足りず、他人を害する積極的な意欲(害意)を要すると解するのが通説です。
根拠とされるのは条文の書き分けです。3号が「故意又は重大な過失」と定める一方で2号だけが「悪意」という別の言葉を使っている以上、2号は故意よりも絞り込まれた要件と読むのが自然だ、という理解です。
「意図せず共有していた」という主張と故意・過失の関係を解説した記事のとおり、トレント事案では少なくとも過失が認められる傾向にあります。しかし、不法行為が成立することと、その不法行為が破産法上の「悪意」によるものであることとは、別の問題です。
著作権侵害で「悪意」を否定した裁判例
著作権侵害の損害賠償と破産法253条1項2号の関係を扱った裁判例として、大阪地方裁判所平成27年8月27日判決(平成27年(ワ)第9838号)があります。音楽著作権の管理団体が、カラオケ装置のリース業者の代表者に対し、管理著作物の演奏権・上映権の侵害を理由に損害賠償を求めた事案で、被告はすでに破産手続で免責を受けていました。
同判決は、破産法253条1項2号の「悪意」には権利侵害に対する単なる故意では足りず、権利侵害に向けた積極的な害意が必要であるとしたうえで、被告の行為は他者の利益を顧みずに自らの利益を図ったにすぎず、著作権侵害に向けた積極的な害意があったとは認め難いとして、請求を棄却したと紹介されています(知的財産を専門とする法律事務所のウェブサイトによる判例紹介に基づく)。
営業としてカラオケ装置を提供していた事案であり、個人のトレント利用とは事実関係が異なりますが、著作権侵害だから直ちに「悪意」とされるわけではないという点は参考になります。なお、非免責債権に当たるかどうかは、通常、免責後に権利者が起こした訴訟の中で判断されます。
個人再生の場合はどうなるか
民事再生法229条3項1号は、小規模個人再生において「再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」については、その債権者の同意がない限り、再生計画で債務の減免その他権利に影響を及ぼす定めをすることができないとしています。この規定は給与所得者等再生にも準用されています(同法244条)。こうした請求権は、計画の弁済期間中は一般の基準に従って弁済し、期間の満了時に残額を支払う仕組みになっています(同法232条4項・5項)。
「悪意」に当たらなければ、他の借入れと同様に再生計画に従って減額・分割の対象になります。
破産手続でトレントの請求を扱うときの注意点
権利者を債権者名簿から外さない
権利者を債権者名簿に載せずに申し立てたいと考える方もいますが、知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権は、原則として免責されません(破産法253条1項6号)。さらに、虚偽の債権者名簿の提出は免責不許可事由とされています(同法252条1項7号)。
免責不許可事由と裁量免責
破産法252条1項は、財産の隠匿や浪費・賭博等による著しい財産の減少などを免責不許可事由としていますが、該当する場合でも、裁判所は一切の事情を考慮して免責を許可することができます(同条2項)。
破産による生活への影響
自己破産には、一定の財産の処分、官報への掲載、一部の資格の制限など、生活への影響があります。トレントの請求だけを理由に破産を選ぶべきかは慎重に検討すべきです。
自己破産を考える前に確認すべきこと
損害賠償請求の金額は、作品の性質、利用態様、利用期間、対象となる作品数などによって大きく変わります。トレントの示談金の算定要素を解説した記事で触れたとおり、提示された金額がそのまま法的に認められる額であるとは限りません。
- 請求の根拠を確認する——対象作品・発信日時・算定方法が具体的に示されているかを確認します。
- 支払方法を交渉する——分割払いを含めて交渉する余地があります(相手方があるため、応じてもらえるとは限りません)。
- 訴訟・支払督促への対応を怠らない——支払えないからといって放置すると、判決や仮執行宣言付支払督促によって差押えに進むおそれがあります。トレントで訴訟・支払督促を受けた場合の対応もあわせてご確認ください。
- ほかの債務と合わせて整理する——借入れが多い場合は、債務全体を見て整理の方法を判断します。
開示後の請求への具体的な対応は、トレント等の損害賠償請求を受けた方向けの対応ページで整理しています。また、まだ意見照会書の段階にある方は、この段階での回答の内容が後の請求額や交渉の前提に影響します。BitTorrentの意見照会書が届いた方向けの専門ページで、対応の流れと費用をご案内しています。すでに通知書を受け取った方は、BitTorrentの損害賠償請求への対応ページもご覧ください。
よくある質問
トレントの示談金や損害賠償は、自己破産すれば支払わなくてよくなりますか。
免責許可の決定が確定すれば、破産債権について責任を免れるのが原則です(破産法253条1項本文)。ただし、同項2号の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に当たる場合は免責されません。トレントの損害賠償が常にこれに当たるわけではなく、個別に判断されます。
破産法253条1項2号の「悪意」とは、故意と同じ意味ですか。
同じではないと解するのが通説です。同項3号が「故意又は重大な過失」という文言を使い分けていることから、2号の「悪意」は単なる故意を超える、他人を害する積極的な意欲(害意)を指すと理解されています。著作権侵害の事案でこの立場から請求を棄却した裁判例もあります(大阪地方裁判所平成27年8月27日判決)。
権利者を債権者一覧に書かずに自己破産するとどうなりますか。
破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権は、原則として免責されません(破産法253条1項6号)。請求を受けている権利者は、必ず債権者として記載する必要があります。
個人再生なら、トレントの損害賠償も減額されますか。
個人再生でも、再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は、債権者の同意がない限り再生計画で減免できないとされています(民事再生法229条3項1号、給与所得者等再生について同法244条)。悪意に当たらなければ、他の再生債権と同様に扱われます。
まとめ
トレントの著作権侵害による損害賠償請求権は、自己破産の免責の対象になり得ます。非免責債権となる「悪意」は単なる故意を超える積極的な害意と解されているためです。もっとも、利用の態様によって評価は変わり得るうえ、権利者を債権者名簿から外せば免責されないなどの注意点もあります。
破産は生活への影響が大きい手続です。請求額の根拠を検討し、支払方法を交渉することで、破産を選ばずに解決できる場合もあります。横浜のタングラム法律事務所では、弁護士がBitTorrent事案の技術的な背景を踏まえて対応しています。
トレントの意見照会書・損害賠償請求でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、BitTorrentに係る発信者情報開示の意見照会対応と、開示後の示談交渉について、多数のご相談に対応してきた実績があります。請求額が妥当なのか、支払が難しい場合にどう進めるべきかを含めて、ご相談ください。
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