相続で不在者財産管理人を自分で申し立てる方法|費用・書類を弁護士が解説
相続で不在者財産管理人を自分で申し立てる方法|費用・書類を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月24日 最終更新日:2026年9月24日
「兄が何年も前に家を出たきり連絡がつかない」「戸籍の附票の住所に手紙を出しても戻ってくる」。相続人の一人が行方不明のままでは、遺産分割協議を成立させることができません。遺産分割は相続人全員の合意が必要なため、一人でも欠けると預貯金の解約も不動産の名義変更も止まってしまいます。
このようなときに使うのが、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選んでもらう手続です。この記事では、不在者財産管理人の選任を自分で申し立てる方法を、申立先・費用・必要書類・予納金、そして選任後に必要な「権限外行為許可」まで、裁判所の公表資料と条文に沿って順に解説します。
結論から言うと、行方不明の相続人がいる場合は、不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に、利害関係人である他の相続人が収入印紙800円分と郵便切手を添えて不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。ただし、管理人の選任だけでは遺産分割はできず、管理人が家庭裁判所から権限外行為許可を得る必要があり、不在者の法定相続分を確保した分割案でなければ原則として許可は出ません。
不在者財産管理人とは?相続で必要になる場面
民法は、従来の住所又は居所を去った者を「不在者」と呼び、不在者が財産の管理人を置いていないときは、家庭裁判所が利害関係人又は検察官の請求により、財産の管理について必要な処分を命ずることができると定めています(民法25条1項)。この「必要な処分」の中心が、不在者財産管理人の選任です。
相続の場面では、次のようなケースで問題になります。
- 相続人の一人が長年音信不通で、住民票上の住所にも住んでいない
- 相続人調査で初めて存在を知った相続人(前妻の子など)の所在が分からない
- 海外に渡航したまま連絡が取れなくなった相続人がいる
なお、単に「連絡を無視している」相続人は、住所が分かっていれば不在者には当たりません。その場合は、遺産分割調停を申し立てて手続に呼び出すのが基本です。行方不明の相続人がいる場合の全体像は、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産分割の進め方で整理していますので、あわせてご覧ください。
失踪宣告との違い
不在者の生死が7年間明らかでないときは、利害関係人の請求により失踪宣告を受けることもできます(民法30条1項)。失踪宣告を受けると不在者は死亡したものとみなされ、その相続人が遺産分割に加わることになります。これに対し、不在者財産管理人は不在者が生存している前提で、その財産(相続分を含みます)を管理する制度です。生存が推認される場合や、所在不明になってから7年に満たない場合は、不在者財産管理人の選任が現実的な選択肢になります。
申立ての基本事項(申立人・申立先・費用)
裁判所ウェブサイトの手続案内に基づき、申立ての基本事項をまとめると次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立人 | 利害関係人(不在者の配偶者、相続人、債権者など)又は検察官。遺産分割をしたい他の共同相続人は利害関係人に当たります |
| 申立先 | 不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法145条) |
| 収入印紙 | 800円分 |
| 郵便切手 | 連絡用の郵便切手。金額は裁判所ごとに異なるため、申立先の家庭裁判所のウェブサイトで確認します |
| 予納金 | 不在者の財産で管理費用が不足する可能性がある場合に、申立後に納付を求められることがあります(後述) |
申立先は「被相続人の住所地」ではなく「不在者の従来の住所地」である点に注意が必要です。たとえば被相続人が横浜市に住んでいても、行方不明の相続人の最後の住所が大阪府であれば、大阪家庭裁判所が申立先になります。
必要書類と「不在の事実」の証明
裁判所が標準的な添付書類として挙げているのは、次のとおりです。
- 申立書(裁判所ウェブサイトに書式・記載例があります)
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
- 不在の事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金の残高が分かる資料など)
- 利害関係を証する資料(遺産分割が目的なら、被相続人との相続関係が分かる戸籍謄本等)
自分で申し立てる場合に最も準備が難しいのが「不在の事実を証する資料」です。名古屋家庭裁判所の案内では、例として不在者の捜索願の受理証明書や、返戻された不在者宛ての手紙等が挙げられています。戸籍附票上の住所に配達記録の残る方法で手紙を送り、宛所不明で戻ってきた封筒を保管しておく、親族から最後に連絡があった時期を陳述書にまとめるといった準備が考えられます。申立前に入手できない書類は、申立後に追加提出することも認められています。
遺産分割目的であることを明示する
遺産分割のための申立てであることを申立書に明記し、遺産の内容(遺産目録)や、想定している分割案の概要を示しておくと、裁判所が管理人の選任や予納金の額を判断しやすくなります。不動産が遺産に含まれる場合、相続登記の申請義務(相続の開始と不動産の取得を知った日から3年以内。不動産登記法76条の2)との関係で、手続が長引きそうなときは相続人申告登記で義務を果たしておく方法も検討しておくとよいでしょう。
候補者と予納金の考え方
申立てをする相続人は候補者になれない
申立書には管理人の候補者を記載する欄がありますが、遺産分割を目的とする場合、他の共同相続人は不在者と利益が相反するため、候補者として適当ではありません。名古屋家庭裁判所の遺産分割目的の手引でも、共同相続人を財産管理人として選任することはできないと明記されています。利害関係のない親族を候補者とするか、候補者を立てずに裁判所の選任に委ねると、弁護士や司法書士等の専門職が選任されるのが一般的です。
予納金は数十万円単位になることがある
管理人の報酬は不在者の財産の中から支払われるのが原則です(民法29条2項)。しかし、不在者の財産が相続分以外にほとんどなく、管理費用や報酬を賄えないおそれがある場合には、申立人が予納金を納めることになります。名古屋家庭裁判所の手引では、遺産分割目的の場合の予納金の目安を30万円〜50万円程度とし、事案によっては50万円を超える場合もあるとしています。額は裁判所ごと・事案ごとに異なるため、申立先の家庭裁判所で確認してください。
選任後の流れと権限外行為許可
申立てが受理されると、家庭裁判所は書面照会や審問などで不在の事実や財産の状況を調べ、管理人を選任します。選任された管理人は、不在者の財産の目録を作成し(民法27条1項)、家庭裁判所に財産の状況を報告しながら管理を行います(家事事件手続法146条2項)。
ここで注意が必要なのは、管理人が選任されただけでは遺産分割協議はできないという点です。家庭裁判所が選任した管理人の権限は、保存行為や、財産の性質を変えない範囲の利用・改良行為に限られます(民法103条)。遺産分割協議への参加はこれを超える行為に当たるため、管理人が家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法28条)。この「権限外行為許可」の申立ては管理人が行い、収入印紙800円分と郵便切手が必要です。
法定相続分の確保が原則
名古屋家庭裁判所の手引では、不在者の法定相続分が確保されていなければ、遺産分割協議に不在者(実際には管理人)を参加させて合意するために必要な許可は出せないとされています。「行方不明の兄の取り分はゼロにしたい」という分割案は、原則として認められないと考えておく必要があります。
許可を得たうえで遺産分割協議が成立すれば、管理人は不在者の取得分を引き続き管理します。その後、不在者が財産を管理できるようになったとき、管理すべき財産がなくなったときなどには、管理人の選任処分が取り消され、管理が終了します(家事事件手続法147条)。
協議がまとまらない場合には、管理人を相手方として遺産分割調停を申し立てることになります。調停の申立て方は遺産分割調停を自分で申し立てる方法で解説しています。
自分で申し立てる場合の注意点と限界
- 時間がかかる:選任の審理、管理人による財産調査、権限外行為許可の審理と段階を踏むため、遺産分割の成立まで相応の期間を要します。相続税の申告が必要な場合、申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内。相続税法27条1項)に間に合わないことも想定し、未分割での申告を含めて早めに税理士や税務署に相談してください。
- 「共有物の持分取得」の制度は使えない:2023年4月施行の改正民法で、所在等不明共有者の持分を取得する裁判の制度(民法262条の2)が設けられましたが、持分が相続財産に属し共同相続人間で遺産分割をすべき場合は、相続開始から10年を経過していないと利用できません(同条3項)。
- 分割案の組み立てが結果を左右する:不在者の法定相続分をどの財産で、どのように確保するか(代償金を支払う方法など)によって、許可の見通しや他の相続人の手取りが変わります。
- 書類の不備による補正:不在の事実の疎明が不十分だと、追加の調査や資料提出を求められ、手続が長引く原因になります。
弁護士に依頼した場合は、戸籍・附票による所在調査、不在の事実の資料づくり、申立書の作成に加え、管理人との遺産分割協議や権限外行為許可を見据えた分割案の提案まで一貫して任せることができます。相続全般のご相談については相続・遺産分割の取扱分野のページもご覧ください。
よくある質問
不在者財産管理人の候補者に、申立てをする相続人自身がなることはできますか。
遺産分割を目的とする場合、他の共同相続人は不在者と利益が相反するため、管理人に選任されないのが通常です(名古屋家庭裁判所の手引でも、共同相続人を財産管理人として選任することはできないとされています)。利害関係のない親族を候補者とするか、候補者を立てずに弁護士・司法書士等の専門職の選任を裁判所に委ねることになります。
予納金はいくらくらい必要ですか。
不在者の財産で管理費用や管理人の報酬を賄えない可能性がある場合に、申立人が予納を求められます。額は裁判所が事案に応じて決めますが、名古屋家庭裁判所の遺産分割目的の手引では30万円〜50万円程度が目安とされ、50万円を超える場合もあるとされています。
管理人が選任されれば、すぐに遺産分割協議ができますか。
できません。遺産分割協議は管理人の通常の権限(民法103条の保存・利用・改良行為)を超えるため、管理人が別途家庭裁判所の権限外行為許可を得る必要があります(民法28条)。また、不在者の法定相続分が確保されていない分割案には、原則として許可が出ないとされています。
行方不明の相続人について、失踪宣告と不在者財産管理人のどちらを選ぶべきですか。
生死が7年間明らかでない場合は失踪宣告(民法30条1項)を申し立てることができ、宣告が確定すると死亡したものとみなされて、その相続人が遺産分割に加わります。生存が推認される場合や7年に満たない場合は、不在者財産管理人の選任を検討することになります。どちらが適切かは、所在不明になった時期や生存の手がかりによって異なります。
まとめ
- 行方不明の相続人がいると遺産分割協議は成立しないため、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる(民法25条1項)。
- 申立先は不在者の従来の住所地の家庭裁判所(家事事件手続法145条)。費用は収入印紙800円分と郵便切手で、事案により予納金が必要になる。
- 不在の事実を証する資料(返戻郵便物、捜索願の受理証明書など)の準備が重要。
- 共同相続人は管理人の候補者に適さず、専門職が選任されることが多い。
- 遺産分割には管理人の権限外行為許可(民法28条)が必要で、不在者の法定相続分の確保が原則となる。
不在者財産管理人の申立ては自分で行うこともできますが、選任後の遺産分割まで見据えると、所在調査から分割案の組み立てまで専門的な判断が続きます。横浜で相続の紛争を多く扱う弁護士として、手続の入口から遺産分割の成立までお手伝いすることができます。
行方不明の相続人がいて遺産分割が進まない方へ
タングラム法律事務所は、横浜・山下公園に事務所を構え、相続人間で対立の生じた遺産分割・遺留分の事案について、調停から審判まで一貫して対応しております。所在不明の相続人の調査や不在者財産管理人の選任申立て、その後の遺産分割協議まで、状況に応じた進め方をご提案します。
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