最低賃金引き上げで企業がすべき対応|2026年10月改定を弁護士が解説
最低賃金引き上げで企業がすべき対応|2026年10月改定を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月24日 最終更新日:2026年9月24日
「10月から最低賃金が上がると聞いたが、うちの給与は大丈夫だろうか」「パートの時給は上げたが、月給制の社員まで確認すべきなのか」。改定の時期には、中小企業の経営者や総務担当者の方からこのようなご相談が寄せられます。
この記事では、2026年度(令和8年度)の最低賃金改定の内容を確認したうえで、下回った場合の効果と罰則、月給制を含めた確認方法、見落としやすい注意点、就業規則の見直しや助成金まで、企業側の対応を横浜の弁護士が解説します。
結論として、2026年10月1日から神奈川県の最低賃金は時間額1,279円(東京都は1,280円)に引き上げられます。時給制の従業員だけでなく、月給制の社員や管理職も、通勤手当・家族手当・残業代などを除いた賃金を時間額に換算して最低賃金以上かを確認する必要があり、下回る部分は無効となって差額の支払義務と罰則(50万円以下の罰金)の対象となります。
2026年度(令和8年度)最低賃金改定の概要
厚生労働省の発表によれば、2026年9月3日までに全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました。全国加重平均額は1,177円で、前年度から56円(約5.0%)の引上げとなります。最高額は東京都の1,280円、最低額は1,085円です。新しい最低賃金は、2026年10月1日から12月2日までの間に都道府県ごとに順次発効する予定とされています。
| 都道府県 | 改定前 | 改定後 | 引上げ額 | 発効日 |
|---|---|---|---|---|
| 神奈川県 | 1,225円 | 1,279円 | 54円 | 2026年10月1日 |
| 東京都 | 1,226円 | 1,280円 | 54円 | 2026年10月1日 |
| 埼玉県 | 1,141円 | 1,196円 | 55円 | 2026年10月1日 |
| 千葉県 | 1,140円 | 1,195円 | 55円 | 2026年10月1日 |
神奈川県の最低賃金は、2026年8月31日に官報で公示され、10月1日に発効します。県内の事業場で働くすべての労働者に適用され、雇用形態は問いません。
最低賃金を下回るとどうなるか|法的効果と罰則
使用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法4条1項)。違反の効果は民事・刑事の両面に及びます。
- 契約の一部無効:最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約は、その部分について無効となり、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(同条2項)。本人が低い時給に同意していても、差額の支払義務は免れません。
- 刑事罰:地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合、50万円以下の罰金の対象となります(同法40条)。両罰規定により、行為者だけでなく法人も処罰の対象になり得ます(同法42条)。
- 周知義務違反:使用者は最低賃金の概要を作業場の見やすい場所に掲示するなどして周知する義務を負い(同法8条)、違反は30万円以下の罰金の対象です(同法41条)。
また、未払いの差額は後から従業員に請求される可能性があり、賃金請求権の消滅時効は当分の間3年とされています。労働基準監督署の調査で指摘を受ける前に、自社で点検しておくことが重要です。
自社の賃金が最低賃金以上かを確認する方法
最低賃金の対象から除外される賃金
厚生労働省は、次の賃金を最低賃金の対象から除外するとしています。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 時間外割増賃金・休日割増賃金・深夜割増賃金(通常の賃金を超える部分)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
給与形態ごとの計算式
| 給与形態 | 確認方法 |
|---|---|
| 時間給制 | 時間給 ≧ 最低賃金額 |
| 日給制 | 日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額 |
| 月給制 | 月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額 |
| 出来高払制 | 出来高給の総額 ÷ その期間の総労働時間 ≧ 最低賃金額 |
たとえば、年間所定労働日数250日・1日8時間の会社であれば、1か月平均所定労働時間は約166.7時間です。神奈川県の1,279円を当てはめると、除外賃金を差し引いた月給がおおむね213,200円以上でなければなりません。基本給20万円に通勤手当・家族手当を加える給与体系では、改定後に基準を下回るおそれがあります。
見落としやすい注意点
- 月給制の若手社員・管理職:月給制の社員の換算漏れが少なくありません。管理監督者も適用対象です。管理監督者の範囲については名ばかり管理職と管理監督者の判断基準の記事もご参照ください。
- 固定残業代を含む給与:固定残業代は時間外割増賃金にあたるため、最低賃金の計算からは除かれます。固定残業代を除いた部分で最低賃金を満たしているかを確認しましょう。
- 事業場ごとの適用:地域別最低賃金は事業場の所在地で決まります。他県の支店・店舗にはその県の最低賃金が適用され、発効日も異なる場合があります。
- 派遣労働者:派遣先の事業場の所在地の最低賃金が適用されます(最低賃金法13条)。
- 特定最低賃金:一部の産業には産業別の特定最低賃金が定められています。地域別最低賃金と両方が適用される場合は、高いほうの金額以上を支払う必要があります。
- 試用期間・見習い:試用期間中の者等について減額の特例がありますが(同法7条)、都道府県労働局長の許可が必要です。
賃上げに伴う就業規則・雇用契約の見直し
賃金を改定する際は、賃金規程、雇用契約書(労働条件通知書)、求人票、給与計算システムの設定をあわせて更新します。賃金締切日が月の途中にある会社では、発効日である10月1日以降の労働分から新しい金額が適用される点にも注意が必要です。
低賃金層だけを引き上げると賃金体系全体の見直しが必要になることがあり、手当を削減・統合する場合は不利益変更の問題が生じます。進め方については就業規則の不利益変更と賃金減額の進め方で解説しています。時間外労働の上限規制との関係で労働時間を見直す場合は、36協定と残業の上限規制の記事もあわせてご確認ください。
当事務所の取扱内容は企業法務(契約書・労務・法改正対応)のページをご覧ください。
業務改善助成金の活用と注意点
設備投資等を行い、事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げた中小企業等を支援する「業務改善助成金」があります。令和8年度の申請期間は、2026年9月1日から、事業場のある都道府県の地域別最低賃金の発効日の前日又は11月30日のいずれか早い日までとされています。
注意すべきなのは、賃金の引上げや設備投資はこれから実施するものが助成の対象とされ、申請前に実施したものは対象外となる点です。神奈川県では発効日の前日が申請期限となるため、早めの準備が必要です。
よくある質問
試用期間中の従業員であれば、最低賃金を下回る時給にしてもよいですか?
できません。最低賃金法7条は、試の使用期間中の者などについて最低賃金の減額の特例を定めていますが、これは都道府県労働局長の許可を受けた場合に限られます。許可を受けずに試用期間であることを理由として最低賃金を下回る賃金を定めても、その部分は無効となります。
管理職(管理監督者)にも最低賃金は適用されますか?
適用されます。労働基準法41条2号の管理監督者は労働時間・休憩・休日に関する規定の適用が除外されますが、最低賃金法には管理監督者を適用除外とする規定はありません。管理職の月給も、所定労働時間で時間額に換算して最低賃金額以上であることを確認する必要があります。
通勤手当や家族手当を含めれば最低賃金を上回っている場合、問題はありませんか?
問題があります。精皆勤手当、通勤手当及び家族手当は最低賃金の対象となる賃金から除外されます。賞与や時間外割増賃金なども同様です。これらを除いた賃金を時間額に換算して、最低賃金額以上かどうかを判断します。
最低賃金を下回っていたことに後から気づいた場合はどうすればよいですか?
最低賃金に満たない部分は無効となり、最低賃金額で合意したものとみなされるため、発効日にさかのぼって差額を支払う必要があります。賃金請求権の消滅時効は当分の間3年とされています。対象者と期間を特定したうえで、早期に精算することが望ましいでしょう。
まとめ
2026年10月1日から、神奈川県の最低賃金は1,279円、東京都は1,280円に引き上げられます。確認の要点は次のとおりです。
- 時給制だけでなく、月給制の社員・管理職も時間額に換算して確認する
- 通勤手当・家族手当・精皆勤手当、賞与、割増賃金、固定残業代は計算から除く
- 事業場ごと・派遣先ごとの最低賃金と、特定最低賃金の有無を確認する
- 賃金規程・雇用契約書・給与計算システムを発効日までに更新する
- 助成金を利用する場合は、賃上げの実施前に申請する
賃金体系や就業規則の見直しには法的な検討を要する場面が少なくありません。日頃から相談できる顧問弁護士がいれば、改定のたびに素早く点検できます。顧問契約の活用方法については顧問弁護士の費用相場とメリットの記事で紹介しています。
最低賃金改定に伴う賃金規程の見直しはご相談ください
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