タングラム法律事務所

給与のデジタル払いとは|企業の導入手順と注意点を弁護士が解説

給与のデジタル払いとは|企業の導入手順と注意点を弁護士が解説

給与のデジタル払いとは|企業の導入手順と注意点を弁護士が解説

給与のデジタル払いとは|企業の導入手順と注意点を弁護士が解説

給与のデジタル払いとは|企業の導入手順と注意点を弁護士が解説

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月5日 最終更新日:2026年10月5日

「従業員からPayPayで給与を受け取りたいと言われた」「求人で『給与のデジタル払い対応』をうたう会社を見かけるが、うちでも導入できるのか」。2023年に解禁された給与(賃金)のデジタル払いについて、このような相談を受けることが増えてきました。便利そうに見える一方で、労働基準法の賃金支払のルールとの関係が分かりにくく、導入に踏み切れない中小企業も多いのではないでしょうか。

この記事では、給与のデジタル払いの仕組みと法的根拠、現在指定されている資金移動業者、企業が導入する際の手順(労使協定・同意書)と、違法にならないための注意点を、横浜の弁護士が中小企業・個人経営の事業者向けに解説します。

結論として、給与のデジタル払いは、労働基準法施行規則7条の2第1項3号に基づき、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座に限って認められる支払方法です。導入には労使協定の締結と、労働者一人ひとりからの個別の同意が必要であり、会社がデジタル払いを強制することはできません。銀行口座振込などの選択肢を必ず残したうえで、希望者に限って利用させるのが基本です。

給与のデジタル払いとは|賃金支払の原則との関係

労働基準法24条1項は、賃金は「通貨で、直接労働者に、その全額を」支払わなければならないと定めています(通貨払いの原則)。現金手渡しが原則であり、多くの会社が行っている銀行口座への振込みも、厚生労働省令が定める例外として、労働者の同意を得た場合に限り認められているものです。

この例外の一つとして、2023年4月1日施行の労働基準法施行規則の改正により追加されたのが、資金移動業者の口座への賃金支払、いわゆる「賃金のデジタル払い」です。労働者の同意を得て、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座へ資金移動する方法で、賃金を支払うことができます(労働基準法施行規則7条の2第1項3号)。

なお、認められたのは指定を受けた資金移動業者の口座への支払いに限られます。指定を受けていない決済サービスへの送金や、ポイント・暗号資産による支払いは、この制度の対象ではありません。対象外の方法で賃金を支払うと通貨払いの原則に反し、罰則(労働基準法120条1号・30万円以下の罰金)の対象となり得るため注意が必要です。

指定資金移動業者はどこか|PayPayなど4社

厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者は、厚生労働省の公表資料によれば2026年1月31日時点で4事業者です。2024年8月9日にPayPay株式会社が最初に指定され、その後、株式会社リクルートMUFGビジネス(COIN+)、楽天Edy株式会社、auペイメント株式会社(2025年4月4日指定)が続いています。

指定資金移動業者は今後増減する可能性があるため、導入を検討する際は、厚生労働省のウェブサイトで最新の一覧を確認してください。また、指定を受けた事業者であっても、実際に給与の受取サービスを提供する開始時期や、企業側の導入条件(給与計算システムとの連携、手数料等)は事業者ごとに異なります。

デジタル払いの安全性を支える指定要件

資金移動業者の口座は銀行預金と異なり預金保険の対象ではないため、労働者保護の観点から、指定には厳しい要件が課されています。主な要件は次のとおりです。

要件内容
口座残高の上限口座残高の上限を100万円以下に設定すること(超えた場合に速やかに100万円以下にする措置を含む)
破綻時の保証資金移動業者が破産等で債務を履行できなくなった場合に、労働者の口座残高を速やかに保証する仕組みがあること
不正取引の補償労働者に責任のない理由(不正な取引等)で損失が生じた場合に補償する仕組みがあること
換金性ATM等により1円単位で受け取ることができ、少なくとも毎月1回は手数料なしで受け取れること
口座の有効期限最後の入出金から少なくとも10年間は口座残高が有効であること

使用者は、労働者の同意を得る際に、こうした制度の内容(残高上限、破綻時の保証、不正取引の補償、換金性、口座の有効期限等)を説明することが求められています。

企業が給与のデジタル払いを導入する手順

1.労使協定を締結する

厚生労働省の通達により、デジタル払いを導入するには、事業場ごとに、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数代表者)との間で労使協定を締結する必要があるとされています。協定では、対象となる労働者の範囲、対象となる賃金の範囲と金額、取り扱う指定資金移動業者の範囲、実施開始時期などを定めるのが一般的です。

2.制度を説明し、個別の同意を得る

労使協定を結んだだけでは足りず、デジタル払いを利用する労働者一人ひとりから同意を得なければなりません。厚生労働省は同意書の様式例を示しており、受取口座の情報、デジタル払いとする賃金の額、口座残高が上限を超えたときなどに資金を移す銀行口座等(代替口座)を記載するのが基本です。

3.就業規則・賃金規程を整備する

賃金の支払方法は就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法89条2号)に関わるため、支払方法の規定にデジタル払いを加えるなど、規程を見直しておくのが望ましいでしょう。就業規則の作成義務や記載事項については、就業規則の作成義務の基準と記載事項を解説した記事もご参照ください。

4.給与計算・振込の運用を準備する

指定資金移動業者ごとに、企業からの送金方法や必要な手続が異なります。給与計算システムの対応状況や、銀行振込とデジタル払いを併用する場合の事務負担を事前に確認しておきます。

違法にならないための法的注意点

  • 強制してはならない:デジタル払いはあくまで労働者が希望した場合の選択肢です。同意しないことを理由に不利益に扱ったり、採用条件としてデジタル払いを事実上強制したりすることは許されません。
  • 銀行口座等の選択肢を併せて示す:労働者に対しては、銀行口座振込などの選択肢も併せて示す必要があり、「現金かデジタル払いか」の二択で同意を迫ることは認められないとされています。
  • 賃金の一部だけでもよい:賃金の全額でなく、労働者が指定した一部の額だけをデジタル払いとし、残りを銀行口座に振り込むことも可能です。
  • 同意の撤回への対応:労働者が同意を撤回した場合に備え、支払方法を変更する手続を社内で決めておきます。
  • 最低賃金・割増賃金の計算は従来どおり:支払方法が変わっても、賃金額の計算方法は変わりません。最低賃金の改定時の確認方法は、最低賃金引き上げで企業がすべき対応の記事で解説しています。
外国人労働者の中には、銀行口座の開設に時間がかかる方もいます。デジタル払いは選択肢の一つになり得ますが、在留資格の確認など雇用時の基本的な注意点は変わりません。詳しくは外国人労働者を雇用する際の在留資格確認と法的注意点をご覧ください。

給与のデジタル払いを導入するメリット・デメリット

導入のメリットとしては、キャッシュレス決済を日常的に使う若年層やアルバイト・パートの方への訴求(採用面でのアピール)、従業員の利便性の向上などが挙げられます。

一方で、労使協定の締結や個別同意の取得、銀行振込との併用による給与事務の増加、指定資金移動業者ごとの対応の違いなど、導入・運用の負担があります。従業員からの希望が少ないうちは、無理に導入する必要はありません。希望の有無や事務負担を見極めたうえで判断するとよいでしょう。労使協定や同意書、就業規則の整備に不安がある場合は、企業法務の取扱分野ページでご案内しているとおり、弁護士に相談しながら進めることも可能です。

よくある質問

Q1. 会社の判断で、全従業員の給与をデジタル払いに切り替えることはできますか?

できません。デジタル払いは労働者本人の同意がある場合に限り認められる方法です。会社が一方的に切り替えることはできず、同意しない従業員には従来どおり銀行口座振込等で支払う必要があります。

Q2. 給与の一部だけをデジタル払いにすることはできますか?

できます。労働者が希望する一部の額だけをデジタル払いとし、残りを銀行口座に振り込む方法も可能です。同意書でデジタル払いとする額を明確にしておきます。

Q3. どの決済サービスでも給与を支払えますか?

いいえ。厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座に限られます。2026年1月31日時点で指定を受けているのは4事業者であり、最新の一覧は厚生労働省のウェブサイトで確認してください。

Q4. デジタル払いの口座残高が100万円を超えたらどうなりますか?

指定資金移動業者は口座残高の上限を100万円以下に設定する必要があり、上限を超えた場合には、労働者があらかじめ指定した銀行口座等へ資金を移すなどの方法で、速やかに100万円以下にする措置がとられます。

まとめ

給与のデジタル払いは、労働基準法施行規則7条の2第1項3号に基づき、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座に限って認められる支払方法です。導入するには、労使協定の締結、制度内容の説明と労働者ごとの同意の取得、就業規則・賃金規程の整備が必要であり、銀行口座振込等の選択肢を残したうえで、希望者に限って利用させることが前提となります。

労使協定や同意書の作り方、就業規則の改定は、後のトラブルを防ぐうえで重要なポイントです。横浜の弁護士として、中小企業の労務管理の見直しとあわせてご相談を承っています。

給与のデジタル払いの導入・就業規則の見直しをご検討の事業者様へ

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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