社長が急死したら会社はどうなる?|後任選任と株式相続を弁護士が解説
社長が急死したら会社はどうなる?|後任選任と株式相続を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月28日 最終更新日:2026年9月28日
「社長が突然亡くなってしまった」――中小企業では、社長が代表取締役であると同時に大株主であることが少なくありません。悲しみの中でも給与の支払いや取引先・金融機関への対応は待ってくれず、残された家族や役員は「会社は誰が動かすのか」「株はどうなるのか」という問題に直面します。
この記事では、社長(代表取締役)が急死した場合に会社がまず行うべきこと、後任の代表取締役の選び方、取締役が社長1人だった会社の注意点、株式の相続と議決権の行使、登記の期限、そして生前にしておくべき備えまでを、横浜の弁護士が解説します。
結論から言えば、社長が亡くなっても会社そのものは存続しますが、代表取締役が不在のままでは契約や登記などの対外的な手続が滞ります。他に取締役がいれば取締役会や株主総会で速やかに後任を選び、2週間以内に変更登記を行います。取締役が社長1人で株式も社長が保有していた会社では、相続人が株主として権利行使者を定め、株主総会で新しい取締役を選ぶ必要があり、相続人同士の対立があると会社が動けなくなるおそれがあります。
社長が急死した直後に会社がすべきこと
取締役の地位は死亡によって当然に終了します。任期満了や辞任で退任した役員が後任の就任まで権利義務を引き継ぐ規定(会社法346条1項・351条1項)はありますが、死亡の場合にはこの仕組みは働きません。
そのため、まずは次の事項を並行して進めることになります。
- 現状の把握:登記簿と定款で、取締役の人数・取締役会の有無・代表取締役の選び方・株式に関する定めを確認する
- 事業の継続:当面の資金繰り、従業員への給与支払い、支払期日の近い取引を洗い出す
- 関係先への連絡:主要な取引先・金融機関・顧問税理士に、当面の窓口を伝える
後任の代表取締役の選び方|会社の機関設計で手続が変わる
後任を選ぶ手続は、取締役会を置いているかどうかで異なります。
| 会社の形態 | 後任の代表取締役の選び方 |
|---|---|
| 取締役会設置会社 | 取締役会の決議で、取締役の中から代表取締役を選定する(会社法362条2項3号) |
| 取締役会を置かない会社(取締役が複数) | 定款の定め、定款に基づく取締役の互選、または株主総会の決議で代表取締役を定める(会社法349条3項) |
| 取締役が社長1人だった会社 | 株主総会で新たに取締役を選任する必要がある(次の章で解説) |
取締役が法律または定款の定める員数を下回る場合は、株主総会で取締役を補充します。株主総会や取締役会の議事録は、変更登記の添付書類になるほか、後日の紛争で決議の有効性を示す証拠にもなります。議事録の作り方は「株主総会・取締役会の議事録を作成しなかったらどうなる?」で解説しています。
取締役が社長1人だった会社の注意点
中小企業で最も問題になりやすいのが、社長が唯一の取締役で、株式の大半も社長が持っていたケースです。株主総会は原則として取締役が招集するため(会社法296条3項)、取締役がいなくなると通常の招集ができません。
この場合に考えられる方法は、主に次のとおりです。
- 株主全員の同意による書面決議:株主が取締役選任の提案をし、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば、株主総会の決議があったものとみなされます(会社法319条1項)
- 一時取締役(仮取締役)の選任申立て:株主の意見が対立して選任が進まない場合などに、利害関係人の申立てにより、裁判所が一時取締役の職務を行う者を選任できます(会社法346条2項)
ただし、いずれの方法でも、亡くなった社長の株式を誰が行使するのかという問題を先に解決しなければなりません。
社長の株式の相続と議決権の行使
遺産分割前は相続人の「共有」になる
遺言がなく相続人が複数いる場合、社長の株式は遺産分割が終わるまで相続人全員の共有(準共有)となります。株式が共有に属するときは、共有者は権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、原則として議決権などの権利を行使できません(会社法106条)。
この権利行使者の指定について、最高裁平成9年1月28日判決(有限会社の持分に関する事案)は、持分の価格に従いその過半数で決することができると判断しています。また、最高裁平成27年2月19日判決は、権利行使者の指定・通知を欠いたまま議決権が行使された場合、その行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ、会社が同意しても適法にはならないと判断しました。相続人間で意見が分かれている場合に、会社が特定の相続人の議決権行使を安易に認めると、決議の効力が争われるリスクがあります。
「相続人等に対する売渡請求」には要注意
譲渡制限株式を発行する会社は、相続などで株式を取得した者に対し、株式を会社に売り渡すよう請求できる旨を定款で定めることができます(会社法174条)。請求するには、その都度、株主総会の特別決議で売渡しを求める株式数と相手方を決め(会社法175条1項・309条2項3号)、会社が相続を知った日から1年以内に請求する必要があります(会社法176条1項)。
注意したいのは、売渡請求の対象となる相続人はその株主総会で議決権を行使できない点です(会社法175条2項)。社長が過半数の株式を持っていた会社でも、少数株主の側だけで相続人から株式を買い取る決議ができてしまい、経営権の帰属が大きく変わるおそれがあります。生前から定款を確認しておくべきポイントです。
変更登記と金融機関・取引先への対応
代表取締役の死亡や後任の就任など登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に本店所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。登記を怠ると、代表者が100万円以下の過料に処せられる可能性があります(会社法976条1号)。
会社名義の預金口座は会社の財産であり、社長個人の相続財産ではありません。もっとも、金融機関からは代表者変更の届出や新しい登記事項証明書の提出を求められるのが通常です。また、社長が会社の借入れについて連帯保証をしていた場合、保証債務は原則として相続人に引き継がれるため、相続人は相続放棄の期限(自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内・民法915条1項)も意識する必要があります。経営者保証の整理については「経営者保証を外したい|ガイドライン活用と解除の進め方」もご参照ください。
なお、死亡退職金や弔慰金の支給、株式の評価、相続税の申告など税務上の取扱いは個別の事情によって大きく異なります。詳細は顧問税理士や税務署にご確認ください。
社長の急死に備えて今からできる対策
社長の急死による混乱の多くは、生前の準備で防ぐことができます。
- 遺言で株式の承継先を決めておく:後継者に株式を集中させる内容の遺言を作成しておくと、遺産分割がまとまらずに会社が動けなくなる事態を避けやすくなります(遺留分への配慮は必要です)
- 取締役を複数置く:社長以外にも取締役がいれば、急死しても直ちに代表取締役を選定できます
- 定款の見直し:相続人等に対する売渡請求の規定の有無、代表取締役の選定方法、取締役の員数を確認し、自社の株主構成に合っているか点検します
後継者が見つからず会社をたたむ選択肢を検討する場合は、「会社の解散・清算手続きの流れ」もあわせてご覧ください。事業承継や定款の見直しを含む当事務所の対応内容は、企業法務(中小企業の法務サポート)のページでご案内しています。
社長が急死したときによくある質問
Q. 社長が亡くなると、会社の銀行口座は凍結されますか?
会社名義の口座は会社の財産であり、社長の死亡によって当然に凍結されるものではありません。ただし、金融機関から代表者変更の届出を求められるのが一般的なため、早めに後任を選び、登記を済ませることが重要です。
Q. 社長の株式を相続した家族は、すぐに株主として議決権を使えますか?
相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまで株式は相続人全員の共有となります。この場合、原則として共有者の中から権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、議決権を行使できません(会社法106条)。権利行使者は、相続分に応じた持分の過半数で決めることができると解されています。
Q. 代表者の変更登記はいつまでにしなければなりませんか?
登記事項に変更が生じた日から2週間以内に、本店所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。登記を怠ると、代表者が100万円以下の過料に処せられる可能性があります(会社法976条1号)。
Q. 社長の個人保証も相続人に引き継がれますか?
死亡時点で発生している保証債務は、原則として相続の対象になります。引き継ぎたくない場合は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続放棄などを検討する必要があります(民法915条1項)。
まとめ|社長の急死は「株式」と「後任選び」を早期に整理する
社長が急死しても会社は存続しますが、代表取締役の不在は事業の継続に支障をきたします。後任を速やかに選定して2週間以内に登記し、取締役が社長1人だった会社では、権利行使者の指定と取締役の選任を早期に進めることが重要です。
権利行使者の指定や株主総会の運営を誤ると、決議の効力が争われるおそれがあります。弁護士に相談することで、会社と相続人の双方の立場を踏まえた手順を早期に組み立てられます。横浜の事務所として、神奈川県内の中小企業・オーナー経営者のご家族からのご相談にも対応しています。
社長の急死・事業承継に伴う会社の手続はご相談ください
タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。後任役員の選任や株主総会の運営、株式の相続をめぐる調整から、生前の定款見直し・事業承継対策まで、弁護士がサポートいたします。
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