タングラム法律事務所

従業員のSNS誹謗中傷で会社に賠償請求できる?使用者責任を解説

従業員のSNS誹謗中傷で会社に賠償請求できる?使用者責任を解説

従業員のSNS誹謗中傷で会社に賠償請求できる?使用者責任を解説

従業員のSNS誹謗中傷で会社に賠償請求できる?使用者責任を解説

従業員のSNS誹謗中傷で会社に賠償請求できる?使用者責任を解説

発信者情報開示によって投稿者を特定してみたら、相手は取引先の従業員だった、あるいは同業他社の社員だった——。そうしたとき次に浮かぶのは、「この人個人に請求して支払ってもらえるのか」「投稿の内容からして会社ぐるみだったのではないか」という疑問ではないでしょうか。投稿者本人に資力がなければ、判決を得ても回収できないという現実的な問題もあります。

この記事では、従業員によるインターネット上の誹謗中傷について勤務先の会社にも損害賠償を請求できるのかを、民法715条の使用者責任を中心に整理します。要件の考え方、私的アカウントからの投稿の扱い、代表者の投稿の場合の会社法350条、会社名義の回線から投稿されていた場合の発信者情報開示の実務までを解説します。

従業員個人だけでなく会社にも請求できる場合がある

誹謗中傷の投稿をした本人は、民法709条の不法行為責任を負います。これに加えて、一定の場合には、その人を雇っている会社も責任を負うことがあります。その根拠が民法715条1項の使用者責任です。

民法715条1項は「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めています。ただし書では、被用者の選任及び事業の監督について相当の注意をしたときなどは責任を負わないとされていますが、実務上、この免責が認められるハードルは高いと指摘されています。

被害者にとっての意味は明快です。投稿者個人に十分な資力がなくても、会社に請求できれば賠償金を現実に回収できる可能性が高まります。責任の主体が増えるという点では、未成年者の投稿について親の監督義務者責任(民法714条)を検討する場面と発想が似ています。

使用者責任(民法715条)が成立するための要件

使用者責任が認められるためには、おおむね次の点が必要と整理されています。

要件内容
使用関係があること正社員に限らず、指揮監督関係があればアルバイト・派遣・出向者等でも認められうる
被用者の不法行為が成立すること投稿が名誉毀損・侮辱(名誉感情侵害)・プライバシー侵害等にあたること
「事業の執行について」といえること投稿が職務との関係で行われたと評価できること(最大の争点)
免責事由がないこと選任・監督について相当の注意をしたことを会社側が主張立証できないこと

このうち、ネット上の誹謗中傷で実際に争いになるのは、ほぼ3番目の「事業の執行について」の要件です。

私的アカウントからの投稿は「事業の執行について」といえるか

「事業の執行について」は、条文の文言よりも広く解釈されてきました。取引の外形を備えた行為については、外形から見て被用者の職務の範囲内に属すると認められるかで判断され(外形標準説)、暴行のような事実的不法行為については、職務執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する行為かどうかが問われます(最高裁昭和44年11月18日判決)。

これをインターネット上の投稿にあてはめると、次のような整理になります。

  • 会社の公式アカウント・業務用アカウントからの投稿——会社の広報活動そのものであり、事業の執行についてといえる場合が多いと考えられます。
  • 私的アカウントだが、業務に関連する内容の投稿——担当業務上の取引先や競合他社を中傷する、自社の営業のために相手方の信用を落とすといった投稿は、業務との密接な関連が認められる余地があります。
  • 私的アカウントで、業務と無関係な私怨に基づく投稿——勤務時間中に会社の設備から行われたとしても、内容が純粋に個人的な事柄であれば、事業の執行についてとは評価されにくいと考えられます。
従業員のSNS利用をめぐる裁判例はまだ蓄積が少ないと指摘されており、「私的アカウントなら必ず免責される」といった単純な線引きはできません。投稿の内容と業務との結び付きを個別に検討する必要があります。

代表者・役員が投稿していた場合——会社法350条

投稿者が従業員ではなく代表取締役だった場合には、別の条文が使えます。会社法350条は「株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めており、代表者の職務執行に関して生じた損害を会社が直接負うことになります。

また、会社の公式アカウントでの中傷が組織としての意思決定に基づくものであれば、会社自身の不法行為(民法709条)として構成することも考えられます。競合他社による営業上の中傷であれば、不正競争防止法の信用毀損行為としての構成も選択肢に入ります。

会社名義の回線・アカウントから投稿されていた場合の開示実務

そもそも投稿者が誰かわからなければ、会社に請求することもできません。実務上は、サイト運営者への開示と、そこで判明したIPアドレスをもとにしたアクセスプロバイダへの開示という二段階の手続を踏みます。手続の全体像は発信者情報開示請求の取扱いページにまとめています。

ここで重要なのは、アクセスプロバイダから開示されるのが原則として回線の契約者の氏名・住所だという点です。投稿が勤務先のオフィスの回線から行われていれば、開示されるのは法人名義の情報になります。会社名が出てきた時点で、事実関係の説明を求め、使用者責任を前提とした交渉に入ることが可能になります。

もっとも、法人名義で開示されても、社内の誰が投稿したのかまでは判明しません。投稿の内容から書ける人物が限られるといった事情を積み上げる作業が必要です。SNSでの中傷やなりすまし被害については、SNSなりすまし・誹謗中傷への対応の特設ページもご覧ください。

会社に請求するときに押さえておきたい点

会社と従業員は不真正連帯の関係に立つ

従業員個人の709条責任と会社の使用者責任は、同一の損害についての責任であり、不真正連帯債務の関係に立つと解されています。被害者はどちらに対しても損害の全額を請求できますが、二重に受け取ることはできません。複数の投稿者がいる場合の責任の分担については、複数人からの誹謗中傷と共同不法行為の記事もご参照ください。

会社が支払った後の求償には制限がある

民法715条3項は、使用者から被用者への求償権を認めています。ただし最高裁昭和51年7月8日判決(民集30巻7号689頁・茨城石炭商事事件)は、事業の性格・規模、被用者の業務内容や労働条件、加害行為の態様などの事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に求償を制限しています。被用者が先に賠償した場合に使用者へ求償できるか(逆求償)についても、最高裁令和2年2月28日判決(民集74巻2号106頁)が判断を示しています。

時効とログ保存期間に注意する

損害賠償請求権は、民法724条により、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で消滅時効にかかります。加えてアクセスプロバイダのログ保存期間には限りがあり、投稿から時間が経つほど特定自体が難しくなります。特定後の進め方は投稿者を特定した後の損害賠償請求・訴訟の流れで解説しています。

よくある質問

従業員が勤務時間中に会社のパソコンから投稿した場合、必ず会社の責任になりますか。

勤務時間中・会社設備の使用という事情は「事業の執行について」を基礎づける有力な事情ですが、それだけで当然に使用者責任が成立するわけではありません。投稿の内容が会社の業務とどのような関係にあるのか、外形上その従業員の職務の範囲内と見えるのかといった点を含めて判断されます。

会社と従業員の双方に請求した場合、二重に受け取れますか。

受け取れません。従業員個人の民法709条の責任と会社の使用者責任は、同一の損害についての責任であり、いわゆる不真正連帯の関係に立つと解されています。どちらから支払を受けても、その限度で損害は填補されたことになります。

投稿者が誰かわからない段階でも、会社に請求できますか。

使用者責任は「被用者の不法行為」を前提とするため、まずは発信者情報開示によって投稿者を特定するのが通常の流れです。ただし会社名義の回線やアカウントから投稿されていた場合、開示手続の過程で勤務先が判明し、そこから交渉に入れることがあります。

損害賠償請求に期限はありますか。

民法724条により、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で消滅時効にかかります。投稿者が誰かわからないうちは3年の時効は進行しないと解されますが、プロバイダのログ保存期間の制約があるため、実際には早期の着手が必要です。

まとめ

従業員によるインターネット上の誹謗中傷について勤務先の会社に損害賠償を請求できるかは、民法715条1項の「事業の執行について」といえるかで決まります。会社の公式アカウントや業務に密接に関連する投稿であれば責任を問える可能性がありますが、業務と無関係な私的投稿では認められにくいと考えられます。代表者の投稿であれば会社法350条という別の根拠もあります。

実際の事件では、まず投稿者を特定し、その所属や投稿内容から会社を相手方に加えられるかを見極める作業が必要です。開示手続には期間の制約があり、証拠の残し方ひとつで後の請求の成否が変わることもあります。横浜のタングラム法律事務所でも、削除請求から発信者情報開示、損害賠償請求までを一貫してお受けしています。投稿を見つけた段階で、早めに弁護士にご相談ください。

従業員による誹謗中傷投稿でお困りの方へ

タングラム法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求の実績を有しております。投稿者の勤務先を相手方に加えられるかを含め、横浜の弁護士が見通しをご説明します。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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