相続した実家を売りたいのに兄弟が反対|売却する方法を弁護士が解説
相続した実家を売りたいのに兄弟が反対|売却する方法を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月8日 最終更新日:2026年10月8日
「誰も住まない実家を売って、兄弟で代金を分けたい」。そう考えて話を切り出したところ、兄弟の一人から「売るのは反対だ」「思い出の家を手放すつもりはない」と言われ、話が止まってしまった――。親が亡くなった後の実家をめぐって、このようなご相談は少なくありません。固定資産税や管理の負担だけが続き、どうすればよいのか途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、相続した実家を一人の判断で売却できない理由、兄弟が反対しているときに取り得る手段(話し合い・遺産分割調停・審判・自分の持分の売却)、相続開始から10年が経過した場合の注意点、売却時の税金と登記の注意点を、横浜の弁護士が順を追って解説します。
結論から言うと、遺産分割前の実家は相続人全員の共有に属するため、兄弟の一人が反対している限り、実家全体を自分だけの判断で売却することはできません。話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停で「売却して代金を分ける(換価分割)」ことを求め、調停が不成立となれば審判の中で、裁判所が競売等による換価を命じることがあります。自分の相続分にあたる持分だけを売る方法もありますが、価格や後の手続の面で注意が必要です。
相続した実家は兄弟全員の「共有」|一人では売却できない理由
民法898条1項は、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。遺産分割が終わるまでの間、実家の土地・建物は兄弟全員の共有状態にあり、各自の持分は法定相続分(遺言で相続分の指定があればその割合)によって決まります(同条2項)。
共有物の売却は、共有物全体の処分にあたります。民法251条1項は、共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が必要としており、共有物全体を売却するには、共有者全員の同意が必要と解されています。つまり、実家を丸ごと売るには、反対している兄弟を含む相続人全員の合意が欠かせません。
「多数決で売る」「代表者が勝手に売る」という方法はとれない点を、まず押さえておきましょう。
兄弟が売却に反対する主な理由と話し合いのポイント
反対の理由によって、取るべき対応は変わります。よくある理由と、話し合いの際の着眼点を整理します。
| 反対の主な理由 | 話し合いのポイント |
|---|---|
| 思い出のある家を手放したくない | その兄弟が実家を取得し、他の兄弟に代償金を支払う「代償分割」を提案する |
| 兄弟の一人が実家に住んでいる | 居住の継続を前提に、代償金の額や支払時期を協議する。賃料相当額の問題も整理する |
| 売却価格が安すぎると感じている | 複数の不動産業者の査定や不動産鑑定で、価格の根拠を共有する |
| 他の遺産の分け方に不満がある | 実家だけでなく、預貯金・生前贈与(特別受益)・介護の貢献(寄与分)を含めて全体で調整する |
反対している兄弟が実家を取得したいのであれば、代償分割が現実的な解決策になることがあります。ただし、代償金を支払えるだけの資力があるかは必ず確認すべきです。不動産の分け方の比較は「遺産分割で不動産をどう分ける?現物分割・代償分割・換価分割の比較」で、兄弟が住み続けている場合の論点は「相続した実家に兄弟が住み続けている場合の家賃請求と明渡し」で詳しく解説しています。
話し合いがまとまらないときは遺産分割調停で換価分割を求める
当事者同士の協議がまとまらない場合、遺産分割は家庭裁判所の手続に移ります(民法907条2項)。まずは遺産分割調停を申し立て、調停委員会を交えて話し合うのが一般的です。
調停では、遺産の範囲や評価を確認したうえで、具体的な分け方を協議します。その中で「実家は売却し、売却代金から諸経費を差し引いて法定相続分で分ける」という換価分割を提案することができます。審判になった場合の見通しが示されることで、反対していた兄弟が任意の売却に応じるケースも見られます。
調停で売却の合意ができた場合は、売却の方法(仲介業者・最低売却価格・売却期限)や、売却できなかったときの扱いまで具体的に調停条項に盛り込んでおくことが重要です。
審判で売却(換価)が命じられる場合
調停が不成立となると、手続は自動的に遺産分割審判に移行し、裁判官が分割方法を決めます。審判では、現物分割、代償分割、換価分割の順で検討され、代償金を支払える取得希望者がいない場合などには、換価分割(競売による売却)が選択されることがあると解されています。
また、家事事件手続法194条は、審判の途中で家庭裁判所が相続人に対して遺産の換価を命じる制度を設けています。
- 競売による換価(同条1項):遺産分割の審判をするため必要があると認めるときに命じられる
- 任意売却による換価(同条2項):必要かつ相当と認めるときに、相続人の意見を聴いて命じられる。ただし、相続人の中に競売によるべき旨の意思を表示した者がいるときは命じることができない
競売は市場価格より低い金額で売却される傾向があるため、反対している兄弟にとっても不利な結果になり得ます。この見通しを踏まえて、審判に至る前に任意売却で合意を目指すことが、双方にとって合理的な場合が多いといえます。
調停・審判を見据えた進め方や、当事務所が扱う相続紛争の内容については「遺産相続・遺産分割のご相談(相続の取扱分野ページ)」をご覧ください。
自分の持分だけを売却する方法と注意点
遺産分割を待たずに、自分の相続分にあたる共有持分だけを第三者に売却することも、法律上は可能です。最高裁昭和50年11月7日第二小法廷判決は、共同相続人の一人から遺産である不動産の共有持分を譲り受けた第三者が共有関係の解消を求める手続は、遺産分割審判ではなく共有物分割訴訟(民法258条)であると判断しています。
ただし、次の点に注意が必要です。
- 持分だけでは買主が建物を自由に使えないため、売却価格は相場より大幅に低くなる傾向がある
- 買主と他の兄弟との間で、共有物分割訴訟などの新たな紛争が生じるおそれがあり、兄弟関係がさらに悪化しやすい
- 実家以外の遺産の分割には影響しないため、遺産分割の手続は別途続ける必要がある
持分の売却は「最後の手段」と位置づけ、遺産分割の中での解決を優先して検討することをおすすめします。
相続開始から10年が経過した場合の注意点
2023年4月1日に施行された改正民法により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を考慮しない(法定相続分等で分ける)こととされました(民法904条の3)。実家の売却をめぐって話し合いが長引いている間に10年が経過すると、生前贈与や介護の貢献を主張できなくなるおそれがあります。
また、親の一方がもともと持分を持っていた家のように、通常の共有と相続による共有が併存する不動産については、相続開始から10年を経過すると、一定の場合に共有物分割訴訟の中で相続人の持分も含めて分割できるようになりました(民法258条の2第2項。相続人が所定の期間内に異議を申し出た場合を除く)。適用関係は複雑なため、早めに専門家へ確認することが大切です。
売却するときの相続登記と税金の注意点
2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をする必要があります(不動産登記法76条の2)。売却の前提としても相続登記は必要になるため、遺産分割が長引く場合は相続人申告登記の利用も検討しましょう。
実家を売却して利益が出た場合は、売却した相続人に譲渡所得税・住民税がかかる可能性があります。相続税を納めた人が、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続財産を譲渡した場合には、相続税額の一部を取得費に加算できる特例があります(国税庁タックスアンサーNo.3267)。税金の具体的な取扱いについては、税理士または税務署に必ずご確認ください。売却手続と税金の全体像は「相続した不動産を売却するときの手続きと税金」もご参照ください。
よくある質問
Q1. 兄弟の一人が反対していても、多数決で実家を売ることはできますか?
できません。遺産分割前の実家は相続人全員の共有に属し、全体の売却には共有者全員の同意が必要と解されています。合意できない場合は、遺産分割調停・審判の中で換価分割を求めることになります。
Q2. 遺産分割審判で、裁判所が実家の売却を命じることはありますか?
あります。代償金を支払える取得希望者がいない場合などには、審判で競売による換価分割が選択されることがあります。また、家事事件手続法194条により、審判の途中で遺産の換価が命じられることもあります。
Q3. 自分の相続分だけを売ることはできますか?
法律上は可能です。ただし、持分だけの売却は価格が大幅に低くなる傾向があり、買主と他の兄弟との間で共有物分割をめぐる新たな紛争が生じるおそれもあるため、慎重な検討が必要です。
Q4. 実家に住んでいる兄弟に出て行ってもらうことはできますか?
共有者の一人が共有物を使用していても、他の共有者が当然に明渡しを求められるわけではありません。遺産分割で実家の帰属や売却を決めることが基本となり、事情によっては賃料相当額の支払いを求められる場合があります。
まとめ|実家の売却で兄弟ともめたら早めに弁護士へ
- 遺産分割前の実家は兄弟全員の共有であり、全員の同意がなければ全体を売却できない
- 反対の理由に応じて、代償分割や価格の根拠の共有など、話し合いの方法を工夫する
- 協議がまとまらなければ遺産分割調停で換価分割を求め、不成立なら審判で競売等が命じられることがある
- 自分の持分だけを売る方法もあるが、価格の低下や新たな紛争のリスクがある
- 相続開始から10年の経過、相続登記の期限、譲渡所得税にも注意が必要
実家の売却をめぐる兄弟間の対立は、感情面と法的な論点が絡み合い、当事者だけでは解決が難しくなりがちです。弁護士が代理人として入ることで、調停・審判の見通しを踏まえた現実的な解決案を示し、交渉を前に進められる場合があります。早い段階で横浜の弁護士にご相談いただくことで、取り得る手段とその見通しを整理することができます。
相続した実家の売却で兄弟と意見が対立している方へ
タングラム法律事務所では、遺産分割・遺留分侵害額請求など、相続人間の紛争の解決に取り組んでいます。実家の売却や代償金をめぐる話し合いが進まない場合は、調停・審判の見通しを含めてご相談ください。
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