誹謗中傷の投稿が消された後でも開示請求できる?被害者の対処法
誹謗中傷の投稿が消された後でも開示請求できる?被害者の対処法
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月28日 最終更新日:2026年10月28日
SNSや掲示板で自分を中傷する投稿を見つけ、対応を考えているうちに、その投稿が消えてしまった。あるいは、投稿したアカウントごと見当たらなくなった。こうした場合、「消えたのだから、もう投稿者を特定することはできないのでは」と不安に思われる方は少なくありません。
この記事では、誹謗中傷の投稿が削除された後でも発信者情報開示請求ができるのか、その際に壁となる「証拠」と「ログの保存期間」の問題、消された投稿の証拠の集め方、損害賠償請求や刑事告訴への影響について、横浜の弁護士が解説します。
結論として、投稿が消された後でも、発信者情報開示請求ができる可能性はあります。法律上、投稿が現在も残っていることは開示請求の要件とされていないためです。ただし、投稿の内容・URL・日時を示す証拠と、サイト運営者やプロバイダに通信記録(ログ)が残っていることが実際上の前提になるため、気づいた時点ですぐに証拠を確保し、早めに動くことが重要です。
投稿が消されても発信者情報開示請求はできる?
発信者情報開示請求は、情報流通プラットフォーム対処法(正式名称:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)5条1項に定められています。開示の要件は、大まかにいえば次の2つです。
- 投稿(侵害情報)の流通によって、請求者の権利が侵害されたことが明らかであること
- 損害賠償請求権の行使のために必要である場合など、開示を受けるべき正当な理由があること
これらの要件は、過去に投稿が流通して権利が侵害されたかどうかを問うもので、投稿が現在も表示されていることまでは求めていません。投稿者が後から投稿を消したとしても、それまでに名誉やプライバシーが侵害されたという事実は残ります。そのため、投稿が消されたことだけを理由に、開示請求ができなくなるわけではありません。
ただし、実際に投稿者の特定にたどり着けるかどうかは、次に述べる2つの問題をクリアできるかにかかっています。
投稿が削除された後の開示請求で壁になる2つの問題
| 問題 | 内容 | 対処の方向性 |
|---|---|---|
| 証拠の問題 | 投稿が消えると、どこに・いつ・どのような投稿があったのかを、被害者側で立証しなければならない | スクリーンショット、URL、投稿日時、アカウント名などを確保する |
| ログの問題 | サイト運営者やプロバイダの通信記録(IPアドレス等)には保存期間があり、期間が過ぎると特定ができなくなる | できるだけ早く手続に着手し、ログの保全を図る |
投稿が表示されていれば、URLから投稿を特定することも容易ですが、消された後は、被害者が手元に残した資料だけが頼りになります。また、ログの保存期間は投稿が消されたかどうかに関係なく進んでいくため、「消えたからしばらく様子を見よう」と考えている間にも、特定の可能性は少しずつ小さくなっていきます。
消された誹謗中傷の投稿の証拠を集める方法
自分で保存した画面の記録を整理する
最も重要なのは、被害者自身が投稿を見たときに保存した記録です。スクリーンショットがあれば、投稿の本文だけでなく、投稿日時、アカウント名、URLが写っているかを確認してください。スマートフォンのアプリの画面ではURLが表示されないことが多いため、ブラウザで開いた画面の記録やURLのメモがあると、投稿の特定に役立ちます。証拠の撮り方の基本は、誹謗中傷の証拠保全|スクリーンショットの正しい撮り方と注意点で詳しく解説しています。
手元に記録がない場合に探せるもの
自分で保存していなかった場合でも、次のような資料から投稿の内容がわかることがあります。
- 投稿を見た知人・友人が保存していたスクリーンショット
- 他の利用者による引用投稿や返信に残った投稿内容
- インターネット上のアーカイブサービスに保存されたページ
- SNSの通知欄や通知メールに表示された投稿の一部
第三者が保存した資料を使う場合は、いつ、誰が、どの画面を保存したのかを説明できるようにしておくと、証拠としての信用性を補いやすくなります。受け取ったデータは元の形式のまま保管しておきましょう。
ログの保存期間と「時間との勝負」
発信者情報開示請求では、サイト運営者(コンテンツプロバイダ)からIPアドレスなどの開示を受け、その記録をもとに通信事業者(アクセスプロバイダ)に契約者の情報を求める流れが一般的です。いずれの段階でも、事業者が通信記録を保存していることが前提になります。
ところが、ログの保存期間は公表されていないことが多く、長くはないと考えられています。総務省の「通信ログ保存の在り方に関するワーキンググループ」(2025年6月)で示された実務家の資料でも、ログの保存期間が3か月程度の場合もあり、保存期間切れで特定をあきらめざるを得ない事案が少なくないと指摘されています。投稿が消された場合でも、この期間は投稿やログインの時点から進んでいる点に注意が必要です。
そこで、裁判所の手続では、発信者情報開示命令の申立てとあわせて、相手方が保有する発信者情報を手続中に消去しないよう命じる「消去禁止命令」(同法16条1項)や、次の段階の事業者を特定するための「提供命令」(同法15条1項)を申し立てることがあります。手続の全体像は発信者情報開示請求の流れと費用で解説しています。
証拠の検討から裁判所への申立てまでの当事務所の対応内容は、発信者情報開示請求・削除請求のページをご覧ください。
アカウントごと消された場合はどうなる?
投稿だけでなく、投稿したアカウント自体が削除されていることもあります。この場合も、サイト運営者が一定期間データを保持していれば、開示請求の余地はあります。もっとも、アカウント削除後のデータの保持期間はサービスごとに異なり、外部からは確認できないことが多いため、投稿が消された場合以上に急ぐ必要があります。
アカウントが消える前のユーザーIDや表示名、プロフィール画面の記録は、投稿を特定するうえで重要な手がかりになります。別のアカウントで同じ人物が投稿を続けているような場合は、新しいアカウントの記録もあわせて残しておきましょう。なりすましアカウントによる被害については、SNSなりすまし・誹謗中傷への対応の特設ページもご参照ください。
投稿が消えても損害賠償請求・刑事告訴はできる
投稿者が特定できれば、投稿が削除されていても、それまでの権利侵害について損害賠償請求を検討できます。投稿の削除は過去の不法行為をなかったことにするものではありません。ただし、投稿が掲載されていた期間の長さや閲覧された範囲は、慰謝料の額を判断する際の事情として考慮される傾向があります。
期限にも注意が必要です。不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年間、または不法行為の時から20年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法724条)。また、名誉毀損罪や侮辱罪は告訴がなければ起訴できない親告罪であり(刑法232条1項)、告訴は犯人を知った日から6か月を経過するとできなくなります(刑事訴訟法235条)。期限の考え方はネット誹謗中傷の時効はいつ?で詳しく解説しています。
よくある質問
相手が投稿を消したのは、反省したからと考えてよいですか?
削除の理由は外からは分かりません。反省して消した場合もあれば、責任追及を避けるために消した場合もあります。削除によって過去の投稿の法的責任が当然に消えるわけではないため、今後の対応は、被害の内容や再発の有無を踏まえて判断することになります。
URLが分からず、画面のスクリーンショットしかありません。開示請求はできますか?
URLがないと、どの投稿についての請求なのかを特定することが難しくなります。ただし、アカウント名(ユーザーID)、投稿日時、前後のやり取りなどから投稿を特定できる場合もあります。手元の資料で足りるかどうかは事案によるため、早めに弁護士にご相談ください。
投稿が消されてから時間が経っていますが、まだ間に合いますか?
問題になるのは、削除からの期間よりも、投稿(またはログイン)の時点からの期間です。通信記録(ログ)の保存期間は公表されていないことが多く、長くはないと考えられています。投稿から数か月が経過している場合は特定が難しくなる可能性がありますが、損害賠償請求の消滅時効とは別の問題ですので、まずは状況を確認することをおすすめします。
削除されたなら、もう何もしないほうがよいでしょうか?
被害が投稿の削除で収まったと感じる場合は、それ以上の手続をとらない選択も十分にあり得ます。一方で、同じ人物による投稿が繰り返されている場合や、仕事・生活に具体的な影響が出ている場合は、証拠が残っているうちに投稿者の特定を検討する意味があります。どちらを選ぶかは、費用や期間も踏まえて判断することが大切です。
まとめ
- 誹謗中傷の投稿が消された後でも、発信者情報開示請求ができる可能性はある
- 実際に特定できるかは、投稿の内容・URL・日時を示す証拠と、事業者のログが残っているかにかかっている
- ログの保存期間は長くないと考えられており、投稿の時点から期間が進んでいるため、早めの着手が重要
- 投稿が消えても損害賠償請求や刑事告訴は検討できるが、消滅時効(3年)や告訴期間(6か月)に注意する
投稿が消えた後の開示請求は、残された証拠で足りるか、ログが残っている見込みがあるかを短期間で見極める必要があり、通常の事案よりも判断が難しくなります。弁護士に相談すれば、手元の資料をもとに手続をとるべきかどうかを早期に判断できます。横浜の当事務所でも、こうしたご相談をお受けしています。
消された誹謗中傷の投稿者を特定したい方へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷の削除請求・発信者情報開示請求から、損害賠償請求、刑事告訴まで、多数のご相談に対応してきました。投稿やアカウントが消されてしまった場合も、証拠とログが残っているうちに、お早めにご相談ください。
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