遺留分侵害額請求を無視するとどうなる?放置リスクを弁護士が解説
遺留分侵害額請求を無視するとどうなる?放置リスクを弁護士が解説
ある日突然、亡くなった親のきょうだいや他の相続人から「遺留分侵害額を支払ってほしい」という内容証明郵便が届く——。多くの財産を受け取った側にとって、これは戸惑いの大きい出来事です。「そもそも払う必要があるのか」「放っておいたらどうなるのか」「額が高すぎて納得できない」といった気持ちから、つい対応を先延ばしにしてしまう方も少なくありません。
しかし、遺留分侵害額請求を無視したり放置したりすることには、いくつかの見過ごせないリスクがあります。この記事では、遺留分侵害額請求を受けた側が請求を無視するとどうなるのか、遅延損害金・調停・訴訟・強制執行という流れに沿って解説し、請求に納得できない場合や支払いが難しい場合の正しい対処法まで、横浜の弁護士がわかりやすく整理します。
遺留分侵害額請求とは?無視できない「金銭債権」の性質
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・直系尊属)に法律上保障された、遺産の一定割合を確保する権利です。遺言や生前贈与によってこの遺留分が侵害された相続人は、侵害している受遺者・受贈者に対し、侵害された額に相当する金銭の支払いを求めることができます(民法1046条)。これが遺留分侵害額請求です。
2019年7月施行の民法改正により、遺留分の請求は不動産などの現物を取り戻す制度(旧・遺留分減殺請求)から、金銭の支払いを求める制度へと変わりました。つまり、遺留分侵害額請求を受けるということは、法律上の金銭の支払義務(金銭債権)を相手から主張されているということです。この請求は、単なる「お願い」ではなく、応じない場合には裁判手続きを通じて実現され得るものだという点を、まず押さえておく必要があります。
遺留分侵害額請求を無視・放置するとどうなる?
請求を受けても対応しないまま時間が経つと、事態は一方通行で進んでいく傾向があります。無視・放置によって生じ得る主なリスクを、段階を追って整理します。
| 段階 | 起こり得ること |
|---|---|
| ①請求後の放置 | 支払いを求める請求を受けた時から履行遅滞となり、遅延損害金が発生し始める |
| ②家庭裁判所の調停 | 話し合いに応じないと、相手が遺留分侵害額の請求調停を申し立てる場合がある |
| ③地方裁判所等の訴訟 | 調停が不成立になると、訴訟を提起され、判決で支払いを命じられる可能性がある |
| ④強制執行 | 判決確定後も支払わなければ、預金・給与・不動産などの差押えを受ける可能性がある |
①遅延損害金が発生し、負担が膨らむ
遺留分侵害額請求によって発生する金銭債務は、あらかじめ支払期限が定められていない債務にあたります。この場合、支払いを求める請求(催告)を受けた時から履行遅滞となり(民法412条3項)、その翌日以降について遅延損害金が発生すると考えられます。遅延損害金の割合は法定利率によることが多く、法定利率は現在、年3%です(民法404条)。法定利率は3年ごとに見直されますが、2026年4月以降も当面は年3%とされています。放置すればするほど遅延損害金が積み重なり、最終的な支払額が当初より増えてしまう傾向があります。
②家庭裁判所の調停に発展する
当事者間の交渉に応じないでいると、請求者が家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てることがあります。調停は話し合いによる解決を目指す手続きですが、呼出しに応じず出席しないでいると、調停は不成立となり、次の訴訟段階へ進む一因になります。
③訴訟を提起され、判決で支払いを命じられる
調停が成立しない場合、請求者は地方裁判所または簡易裁判所に訴訟を提起することができます。訴訟で遺留分の侵害が認められれば、裁判所は支払いを命じる判決を下します。無視を続けて訴訟でも何ら反論しないと、相手の主張がそのまま認められ、不利な内容の判決が確定してしまうおそれがあります。反論すべき事情があっても、主張しなければ判断には反映されません。
④預金・給与などの差押え(強制執行)
支払いを命じる判決が確定したにもかかわらず支払わないでいると、請求者は強制執行を申し立てることができます。強制執行では、預貯金口座、給与、不動産などが差押えの対象となり得ます。相手方は財産開示手続や第三者からの情報取得手続によって財産の所在を調べることもできるため、「隠していれば逃げ切れる」というものではありません。
「時効を待てば消える」は正しいのか
「無視して時間を稼げば、時効で消えるのではないか」と考える方もいます。しかし、これは正確な理解とはいえません。遺留分侵害額請求権そのものは、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効消滅し、相続開始から10年の経過によっても消滅します(民法1048条)。
ここで重要なのは、請求者がこの1年の期間内に「遺留分侵害額を請求する」という意思表示(内容証明郵便など)をした時点で、権利は行使されたことになるという点です。いったん請求の意思表示がなされると、その後に発生した金銭債権は別個の債権として存在し続けます。すでに請求を受けている以上、こちらが無視して1年を過ぎても金銭の支払義務が当然に消えるわけではありません。時効を当てにした無視は、有効な戦略とはいえないでしょう。
納得できない・支払えないときの正しい対処法
請求を無視するのではなく、内容を確認したうえで適切に対応することが、結果的に負担を抑えることにつながります。状況に応じて、次のような対応が考えられます。
請求額に疑問がある場合は反論・交渉する
遺留分侵害額は、基礎となる相続財産の範囲や不動産の評価額、生前贈与の扱いなどによって大きく変わります。相手の計算が正しいとは限りません。特別受益にあたる生前贈与を相手が受けていた事情や、財産評価の妥当性などを検討し、根拠を示して減額を交渉する余地があります。計算の仕組みについては、遺留分侵害額の計算方法で詳しく解説しています。
支払いが難しい場合は期限の許与・分割を検討する
遺留分の対象が不動産中心で手元に現金がないなど、直ちに全額を支払うのが難しいケースもあります。この場合、裁判所に対して相当の期限の許与を求めることができ(民法1047条5項)、分割払いや不動産による代物弁済などを交渉する余地もあります。無視して強制執行に至るより、支払える形を模索する方が双方にとって現実的です。
すでに判決が出ている場合
訴訟で支払いを命じられた後の強制執行の仕組みについては、請求する側の視点からですが遺留分侵害額請求で相手が支払わない場合の強制執行で解説しています。差押えに至る前に、どのような対応が可能かを早めに検討することが重要です。
よくある質問(FAQ)
遺留分侵害額請求を無視し続ければ支払義務は消えますか?
無視しても支払義務は消えません。遺留分侵害額請求は請求者が期限内に意思表示をした時点で金銭債権として成立し、その後は放置しても自動的には消滅しません。むしろ調停・訴訟へと進み、最終的に判決が確定すれば預金や給与の差押えなどの強制執行を受ける可能性があります。
無視していると支払う金額は増えますか?
増える可能性があります。支払を求める請求を受けた時から履行遅滞となり(民法412条3項)、遅延損害金が発生します。法定利率は現在年3%(民法404条)で、支払が遅れるほど遅延損害金が積み重なり、最終的な負担が大きくなる傾向があります。
遺留分の請求内容に納得できない場合も無視してよいですか?
無視は避けた方がよいと考えられます。請求額の根拠や財産評価に争いがある場合は、無視するのではなく、算定の誤りや特別受益・生前贈与の主張などを示して反論・交渉することが重要です。無視して調停や訴訟に発展すると、かえって不利になる場合があります。
支払うお金がない場合はどうすればよいですか?
支払能力が乏しい場合でも、無視せず対応することが大切です。裁判所に対して支払期限の許与を求める(民法1047条5項)ほか、分割払いの交渉や不動産による代物弁済などの選択肢を検討することが考えられます。早めに弁護士に相談することで、取り得る方法を整理できます。
まとめ
遺留分侵害額請求を無視・放置しても、支払義務が消えることはありません。むしろ、①遅延損害金の発生、②家庭裁判所の調停、③訴訟による支払命令、④預金や給与の差押えという強制執行、というリスクが段階的に大きくなっていきます。時効を待つ作戦も、すでに請求を受けている以上は有効とはいえず、遅延損害金を増やすだけになりがちです。
大切なのは、請求を受けたら無視せず、内容を確認したうえで適切に対応することです。請求額に疑問があれば根拠を示して反論・交渉し、支払いが難しければ期限の許与や分割払いを検討する——感情的な対立を避けつつ有利に交渉を進めるためにも、早い段階で弁護士に相談することを検討してみてください。なお、相続税など税務上の取扱いについては、税理士や所轄の税務署にご確認ください。
遺留分侵害額請求を受けてお困りの方へ
タングラム法律事務所では、相続や遺留分侵害額請求の事案について豊富な実績を有しております。「請求額に納得できない」「支払いが難しい」といった請求された側のお悩みについても、減額交渉から調停・訴訟対応まで、横浜・新横浜の弁護士がサポートいたします。
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