タングラム法律事務所

意見照会書で回線は止められるのか|トレントとプロバイダの利用停止

意見照会書で回線は止められるのか|トレントとプロバイダの利用停止

意見照会書で回線は止められるのか|トレントとプロバイダの利用停止

意見照会書で回線は止められるのか|トレントとプロバイダの利用停止

意見照会書で回線は止められるのか|トレントとプロバイダの利用停止

トレント(BitTorrent)の利用を理由とする発信者情報開示請求について、契約しているプロバイダから意見照会書が届いたとき、多くの方が真っ先に心配されるのは示談金のことです。ところが、しばらく経って落ち着いてくると、別の不安が頭をもたげてきます。「このままインターネットの契約を切られるのではないか」「在宅勤務で回線を使っているのに、止められたら仕事にならない」——ご相談の場でも、回答書の話がひととおり済んだ後に、声を落としてこの質問をされる方が少なくありません。

この記事では、意見照会書が届いたことによって、プロバイダとの契約そのものがどうなるのかを整理します。開示の手続と契約上の措置がどういう関係に立つのか、各社の約款が実際にどのような条文を置いているのか、そして「解約すれば手続が止まるのではないか」という誤解がなぜ危険なのかを、条文と公開されている約款に即して横浜の弁護士が解説します。

意見照会は「開示の手続」であって、契約を切るための手続ではない

まず押さえていただきたいのは、意見照会書という書面の性格です。この書面は、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)6条1項に根拠があります。同項は次のように定めています。

「開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、当該開示の請求に応じるかどうかについて当該発信者の意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む。)を聴かなければならない。」

条文が命じているのは、開示の請求に応じるかどうかについて意見を聴くことだけです。契約を続けるかどうか、利用を止めるかどうかについては、一言も触れていません。つまり意見照会は、権利者からの開示請求に対してプロバイダが判断を下すための手続の一部であり、契約上の措置を発動するための手続ではないのです。

もう一点、誤解されやすいところがあります。意見照会書が届いたということは、プロバイダが「あなたが著作権を侵害した」と認定したことを意味するのか、という点です。答えは否です。プロバイダは、権利者から示された資料を前提に、情プラ法5条1項1号の「権利が侵害されたことが明らかであるとき」という要件を満たすかどうかをこれから判断する立場にあります。判断の前に発信者の言い分を聴くために送られてくるのが意見照会書ですから、この段階でプロバイダが侵害の事実を確定させているわけではありません。この点は、意見照会書と開示決定通知の違いを整理した記事でも詳しく述べています。

では、約款の上では止められるのか——禁止事項・利用停止・解除の三段構造

制度の話と契約の話は別です。プロバイダとの関係は、各社の会員規約や契約約款という契約によって規律されています。そして各社の規約を読むと、驚くほど似た三段構造になっていることがわかります。

すなわち、①禁止事項として「第三者の著作権その他の知的財産権を侵害する行為」を掲げ、②禁止事項に違反したときは利用を停止することが「ある」と定め、③利用停止を受けた事由が解消されないときは契約を解除することが「ある」と定める、という構造です。実際に公開されている規約から、該当する条項を拾うと次のようになります。

規約・約款①禁止事項②利用停止③解除
BIGLOBE会員規約32条1項6号(当社または第三者の著作権・商標権その他の知的財産権を侵害する行為)14条1項6号(32条の規定に違反した場合)10条1項(利用停止を受けた者が催告を受けてもなお事由を解消しない場合)
So-netサービス会員規約本則22条1項1号(著作権、その他の知的財産権を侵害する行為)5条1項2号(22条1項各号の禁止行為を行った場合の利用資格の停止・失効)同条(利用資格の失効。全利用資格を失った会員は退会したものとみなす)
IP通信網サービス契約約款(OCN)共通編48条1項6号および別記6(1)(他人の知的財産権その他の権利を侵害する行為又は侵害するおそれのある行為)26条1項2号(48条の規定に違反したとき)15条1項(利用停止を受けた者がなおその事実を解消しない場合)
ドコモnetご利用規約8条ⅰ号(ドコモ若しくは第三者の著作権その他の知的財産権を侵害する行為又は侵害するおそれのある行為)9条1項ⅰ号(8条の規定に違反したとき)10条ⅰ号(9条1項各号に定める行為が解消されない場合)

こうして並べると、「著作権侵害が禁止事項に当たること」も「それが利用停止・解除の事由になり得ること」も、契約上ははっきり書かれていることがわかります。ですから、「約款上まったく問題にならない」という説明は正確ではありません。

各社の規約は改定されます。上に挙げた条番号は執筆時点で各社が公開している版のものです。ご自身の契約に適用される規約は、必ず契約先の公式サイトで最新版をご確認ください。また、光回線の場合は「回線事業者との契約」と「プロバイダとの契約」が別になっていることがあり、どちらの規約が問題になるのかを切り分ける必要があります。

それでも、意見照会の段階で直ちに停止されるとは限らない三つの理由

条文上は可能性があるとして、では実際にどうなのか。ここは断定を避けるべき領域ですが、構造として指摘できることが三つあります。

(1)プロバイダは通信の内容を常時監視していない

電気通信事業法4条1項は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と定めています。同条2項は、事業に従事する者が在職中に知り得た他人の秘密を守るべきこと、退職後も同様であることを定めています。通信の秘密が手厚く保護されている以上、プロバイダが契約者の通信内容を日常的に覗いて侵害の有無を判定することは、そもそも制度が想定していません。

この点は、事業者側の公表資料からも読み取れます。たとえばBIGLOBEが会員規約32条に関して公表している運用方針の文書は、「膨大な数のデータが掲載されており、カスタマーサポートがすべてのデータを常時監視および閲覧することは困難です」と明記しています。しかも、この運用方針が想定しているのは、自社が提供するウェブサイト・ブログ・掲示板等に掲載されたデータへの対応です。トレントのように、アクセス回線を通じて外部のネットワーク上で行われる通信は、そもそもこの運用方針が直接の射程としている場面ではありません。

(2)意見照会の段階では、侵害の有無がまだ確定していない

先に述べたとおり、意見照会はプロバイダが判断を下すの手続です。禁止事項違反を理由とする利用停止は、違反があったという判断を前提とします。権利者の主張が示されただけの段階で、契約者に不利益な措置を先行させる合理性は乏しいと考えられます。

(3)電気通信事業法6条が「利用の公平」を定めている

同条は「電気通信事業者は、電気通信役務の提供について、不当な差別的取扱いをしてはならない。」と定めています。また各社の規約も、利用停止を「することがあります」という裁量的な書きぶりにしており、事由に該当すれば自動的に停止されるという構造にはなっていません。

もっとも、これらは「絶対に止められない」ことを保証するものではありません。とくに、同種の事象が繰り返されている場合や、権利者から繰り返し通知が寄せられている場合には、事業者の判断が変わり得ます。可能性の程度を一般論で断定することはできない、というのが正確なところです。

「開示に同意しない」と答えたことで不利益を受けるか

不同意の回答をためらう理由として、「プロバイダに反抗したと受け取られて、契約上不利に扱われるのではないか」という心配を挙げる方がいます。これについては、比較的はっきりしたことが言えます。

情プラ法6条1項は、プロバイダに対して発信者の意見を「聴かなければならない」と義務づけています。意見を述べること、そして開示に応じるべきでないという意見を述べることは、法律が正面から予定している行為です。各社の規約が掲げる禁止事項のどれにも当たりません。

加えて、情プラ法6条4項は「開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。」と定めています。開示を断ったことについてプロバイダを保護する規定は置かれている一方、開示したことについて同じ免責は置かれていません。この非対称な構造こそが、実務上、不同意の回答が意味を持つ理由です。不同意と答えた後に手続がどう進むのかは、「開示に同意しない」と回答した後の流れを扱った記事で詳しく説明しています。

解約すれば手続は止まる、という誤解

ご相談の場で最も多い誤解が、これです。「回線を解約して別のプロバイダに乗り換えれば、この話は終わるのではないか」。結論から申し上げると、止まりません

意見照会書が届いているということは、権利者が示したIPアドレスと発信日時から、プロバイダが契約者を特定し終えているということです。特定が済んでいる以上、その後に契約が終了したからといって、開示の可否の判断が消えてなくなるわけではありません。契約者情報も、通信記録も、解約と同時に即座に抹消されるものではありません。どの範囲の記録がどれだけの期間保存されるのかについては、プロバイダのログ保存期間といつまで遡られるかを扱った記事で整理しています。

むしろ、解約には実際上の不利益があります。

  • その後の通知が届かなくなる。情プラ法6条2項は、プロバイダが発信者情報開示命令を受けたときは、開示に応じるべきでない旨の意見を述べた発信者に対して遅滞なくその旨を通知しなければならないと定めています。ただし同項ただし書は「当該発信者に対し通知することが困難であるときは、この限りでない。」としています。連絡先が失われれば、この通知が届かないことになりかねません。
  • 手続の進行が見えなくなる。自分の情報がいつ相手方に渡ったのかを把握できないまま、ある日いきなり権利者の代理人から通知書が届く、という事態になり得ます。
  • 証拠が手元から失われる。契約内容や利用状況の照会ができなくなり、「その時刻に自分は回線を使っていない」といった主張の裏づけを取りにくくなることがあります。

引っ越しや乗り換えの予定がもともとあった場合は、解約それ自体を我慢する必要はありませんが、プロバイダに新しい連絡先を届け出ておくこと、そして意見照会書とその添付資料を手元にすべて保管しておくことが重要です。回答書を提出した場合は、その控えも必ず残してください。

利用停止・解除の通知が実際に届いたときにすること

可能性が低いとしても、万一そうした通知が届いた場合には、次の順序で確認することをおすすめします。

  • 根拠条項を特定する。禁止事項のどの号に該当するとされているのか、利用停止なのか解除なのか、通知の文面から読み取ります。
  • 手続要件を確認する。たとえばBIGLOBE会員規約14条2項は、利用停止をするときは「あらかじめ、その理由、利用停止をする日および期間または停止を解除する条件を会員等に通知します」としたうえで、「緊急でやむを得ない事情がある場合は、この限りではありません」と定めています。何が通知されていて、何が通知されていないのかを確かめます。
  • 解除までの段階を見る。解除は、利用停止を受けた者が催告を受けてもなお事由を解消しない場合を原則とする建て付けになっている例が多く、一足飛びに契約が終わる構造にはなっていません。
  • 開示請求への対応と切り分ける。契約上の措置と、権利者に対する法的責任の問題は別です。片方の言い分に引きずられて、もう片方で不利な事実を認めてしまわないよう注意が必要です。

なお、意見照会書を受け取った段階での具体的な進め方については、当事務所の意見照会対応のページもご参照ください。

回答書を書くときに気をつけたいこと

ここまでの整理を踏まえると、回答書の書き方について注意すべき点が見えてきます。

  • 契約上の弁明を回答書に混ぜない。回答書は開示の可否についての意見を述べる書面です。「今後は気をつけます」「契約は続けさせてください」といった契約上の弁明を書く場面ではありません。
  • 謝罪や事実の自認を安易に書かない。回答書に書いた理由は、原則としてそのまま相手方に伝わる扱いとなっています。契約を守りたい一心で書いた一文が、損害賠償の場面で不利な材料になり得ます。
  • 推測で技術的な反論を組み立てない。裏づけのない技術的主張は、かえって信用を損ないます。
  • 期限と控えを管理する。提出方法は照会書の指示に従い、提出前に全ページを複写して控えを残してください。

回答書の作成から開示後の交渉までを一貫してどう進めるかは、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページで、対応の範囲と費用の考え方を具体的にご案内しています。

よくある質問

意見照会書が届いただけで、インターネット回線はすぐに止まりますか。

意見照会は、情プラ法6条1項に基づき、プロバイダが開示請求に応じるかどうかについて発信者の意見を聴くための手続であり、契約上の措置を行うための手続ではありません。意見照会書の送付は、プロバイダが権利侵害の事実を認定したことを意味するものでもありません。もっとも、各社の約款は第三者の著作権を侵害する行為を禁止事項と定め、違反した場合に利用を停止することが「あります」と定めているのが一般的ですので、可能性がないとまでは言えません。

開示に同意しないと回答したことを理由に、契約を切られることはありますか。

情プラ法6条1項は、プロバイダに対して発信者の意見を聴くことを義務づけています。意見を述べること自体は法律が予定している行為であり、各社の約款が定める禁止事項にも当たりません。したがって、不同意と回答したこと自体を理由とする利用停止・解除は想定しにくいと考えられます。

回線を解約したり、別のプロバイダに乗り換えたりすれば、開示の手続は止まりますか。

止まりません。意見照会書が届いている時点で、プロバイダはIPアドレスと発信日時から契約者を特定し終えています。解約しても契約者情報や通信記録が直ちに消えるわけではなく、開示の可否の判断はそのまま進みます。むしろ解約により連絡先が変わると、その後の通知が届かなくなるおそれがあります。

プロバイダは、契約者がどのような通信をしているかを監視しているのですか。

電気通信事業法4条1項は「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と定めており、プロバイダが通信内容を常時監視することは前提とされていません。実際、権利者側の調査によって外形的な通信記録が示されて初めて、プロバイダは照会の手続に入ります。

利用停止や解除の通知が届いたら、どうすればよいですか。

まず、その通知がどの条項に基づくものかを確認してください。利用停止の規定は、あらかじめ理由・停止の日・期間または停止を解除する条件を通知する旨を定めていることがあります。解除は、利用停止を受けた後に催告を受けてもなお事由が解消されない場合を原則としている例が多く、段階を踏む構造になっています。開示請求への対応と契約上の対応は別の問題ですので、両方を並行して整理する必要があります。

まとめ

意見照会書は、情プラ法6条1項に基づいて開示の可否についての意見を聴くための書面であり、契約を打ち切るための手続ではありません。他方で、各社の規約には「第三者の著作権を侵害する行為」を禁止事項とし、違反時に利用停止・解除があり得ることが明記されています。制度と契約はレイヤーが違う、というのが本記事の出発点です。

そのうえで、通信の秘密の保護(電気通信事業法4条)と利用の公平(同法6条)、そして意見照会の段階では侵害の有無がまだ確定していないという構造から、照会が届いた時点で直ちに回線が止まるという事態は想定しにくいと考えられます。ただし、絶対にないと断定できる性質のものでもありません。

そして、最も避けていただきたいのが「解約すれば終わる」という発想です。特定はすでに済んでおり、解約しても手続は進みます。届くはずの通知が届かなくなる分だけ、不利になりかねません。回線はそのままに、回答書の内容と期限に集中する——これが、意見照会の段階での正しい優先順位です。

横浜のタングラム法律事務所では、意見照会書が届いた段階からのご相談をお受けしています。BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちらをご覧ください。

意見照会書が届いた方へ

タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)に関する発信者情報開示の意見照会対応について、多数のご依頼を受けております。回答書の作成から、開示された後の示談交渉まで一貫して対応いたします。理系・ITエンジニア出身の弁護士が、技術と法律の両面からご事情をうかがいます。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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