マッチングアプリの既婚者に慰謝料請求|LINEしか知らない場合
マッチングアプリの既婚者に慰謝料請求|LINEしか知らない場合
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月24日 最終更新日:2026年9月24日
マッチングアプリで知り合い、結婚を前提に交際していた相手が、実は既婚者だった。独身かどうか何度も確認していたのに、嘘をつかれていた。慰謝料を請求したいと思っても、アプリはすでに退会され、手元に残っているのはLINEのアカウントだけ――。本名も住所も分からず、どうしようもないと感じている方は少なくありません。
この記事では、独身と偽った既婚者にどのような請求ができるのか、請求の前に残しておくべき証拠、LINEしか分からない相手を特定する方法、特定後の請求の流れと注意点を、横浜の弁護士が解説します。
結論として、独身と偽って性的関係を持った既婚者には、貞操権侵害を理由に慰謝料を請求できる可能性があります。相手の連絡先がLINEしか分からない場合でも、弁護士会照会によりLINEヤフー株式会社と携帯電話会社に順に照会することで、相手の氏名・住所を特定できる可能性があります。
マッチングアプリで既婚者にだまされた場合に請求できるもの
誰とどのような性的関係を持つかを自分で決める利益は、「貞操権」(性的自己決定権)として法的に保護されると考えられています。既婚者が独身であると偽り、結婚の可能性があるかのように装って性的関係を持った場合、だまされた側は、偽った本人に対して、不法行為(民法709条・710条)に基づく慰謝料を請求できる可能性があります。
これは、配偶者が不倫相手に請求する不貞慰謝料とは別の請求です。請求できる人、守られる利益、慰謝料の水準の考え方が異なります。要件や金額の目安は貞操権侵害とは?独身と偽られた場合の慰謝料請求で詳しく解説しています。不貞慰謝料を含む男女関係の慰謝料請求の全体像は、不貞慰謝料の取扱分野のページをご覧ください。
なお、既婚である可能性に気づいていた、あるいは容易に気づける事情があった場合には、請求が認められにくくなったり、慰謝料が減額されたりする可能性があります。
相手の連絡先がLINEしか分からなくなる理由
マッチングアプリでは、ニックネームで登録するのが一般的です。何度かメッセージを交わすと、アプリの外のLINEに連絡手段を移すことも多く、交際中に本名や住所を知らされないまま関係が続くことがあります。既婚であることを隠している人ほど、本名・勤務先・自宅を明かさない傾向があるともいえます。
そして、既婚であることが発覚すると、相手はアプリを退会し、LINEもブロックする。こうして、手元にはLINEのアカウントしか残らないという状況が生まれます。しかし、慰謝料を請求するには、内容証明郵便の送付先としても、訴状に記載する被告としても、相手の氏名と住所が必要です。
請求の前に保存しておくべき証拠
貞操権侵害の請求で最も重要なのは、相手が既婚であることを隠し、あるいは独身であると積極的に偽ったことを示す記録です。相手の特定にも証拠の保存が欠かせません。次のものは、削除される前にスクリーンショット等で保存してください。
- マッチングアプリのプロフィール(「独身」の表示、自分のプロフィールの「既婚者お断り」の記載など)
- 独身かどうかを尋ね、相手が否定したメッセージのやり取り
- 結婚や将来の話をしたやり取り
- 相手のLINEのプロフィール画面(表示名・アイコン)と、トーク画面の履歴
- 会った日時・場所が分かる記録(予約メール、写真、交通系の記録など)
- 既婚者であると判明した経緯が分かる資料
アプリを自分が退会すると、メッセージ履歴を見られなくなることがあります。退会や機種変更の前に保存を済ませることが大切です。LINEのトーク履歴を証拠として残す際の注意点は、LINEの証拠と証拠力を高める残し方も参考になります。
LINEしか知らない相手を特定する流れ
1対1のLINEのやり取りは、不特定の者に向けた発信ではないため、SNSの誹謗中傷で使われる発信者情報開示請求の対象にはなりません。そこで用いられるのが、弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会です。
| 段階 | 内容 | 分かること |
|---|---|---|
| 1. 通報 | 相手のLINEのプロフィール画面から通報し、日時・回数を記録する | ― |
| 2. LINEヤフーへの照会 | 弁護士会を通じて、通報の記録をもとに照会する | 登録電話番号・メールアドレス |
| 3. 携帯電話会社への照会 | 判明した電話番号の契約者を照会する | 契約者の氏名・住所 |
LINEヤフー株式会社は、照会への回答は基本的に電話番号とメールアドレスに限られると説明しているため、氏名・住所を知るには2段階の照会が必要です。通報はトーク画面からではなく、プロフィール画面から行う必要があるなど、手順には注意点があります。詳しくはLINEしか知らない相手を特定する方法|弁護士会照会の流れと費用をご覧ください。
弁護士会照会は、慰謝料請求などの事件を弁護士が受任していることが前提の制度で、個人が直接利用することはできません。また、照会には強制力がなく、相手が他人名義の回線を使っている場合などには特定に至らないこともあります。マッチングアプリの運営会社に照会する方法も考えられますが、回答の方針は事業者ごとに異なります。
相手が特定できた後の請求の流れ
相手の氏名・住所が判明したら、次のような流れで請求を進めます。
- 内容証明郵便による請求:請求の根拠と金額、支払期限を示して請求します。
- 示談交渉:相手や相手の代理人と金額・支払方法を話し合い、合意できれば示談書を作成します。
- 訴訟:交渉で解決しない場合は、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。
注意したいのが時効です。不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。最高裁は、「加害者を知った時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時をいうと判断しています(最判昭和48年11月16日民集27巻10号1374頁)。相手の氏名・住所が判明した時点から3年の期間が進み始める可能性があるため、特定後は速やかに請求に着手することが大切です。
請求にあたって注意したいこと
相手の家族や職場に知らせない
怒りのあまり、相手の配偶者に交際の事実を伝えたり、職場に連絡したり、SNSで公表したりすると、名誉毀損やプライバシー侵害としてご自身が責任を問われるおそれがあります。判明した情報は、請求のためにのみ使ってください。
相手の配偶者から請求される可能性
既婚者との交際は、相手の配偶者から見れば不貞行為にあたります。もっとも、既婚者であると知らず、知らなかったことに過失もない場合には、配偶者に対する責任を負わないと考えられています。交際の途中で既婚と知った場合の考え方は、途中で既婚者と知った場合の不貞慰謝料で解説しています。独身だと確認したやり取りは、この場面でもご自身を守る証拠になります。
よくある質問
相手がアプリを退会し、LINEもブロックされました。もう特定はできませんか?
ブロックされていても、相手のアカウントがLINE上に残っていれば、プロフィール画面から通報できる場合があります。アカウントが削除されてから時間が経つと特定が難しくなるため、早めに弁護士に相談してください。アプリのプロフィールやトーク画面は、手元に残っているものをすべて保存しておきましょう。
既婚者かもしれないと少し疑っていました。それでも請求できますか?
既婚である可能性を認識していた事情があると、独身と誤信させられたとはいえないとして請求が認められにくくなったり、慰謝料が減額されたりする可能性があります。どの時点で何を認識していたかは事案ごとの評価になるため、やり取りの記録をもとに弁護士と検討してください。
相手の配偶者から慰謝料を請求されることはありますか?
あり得ます。ただし、既婚者であると知らず、知らなかったことに過失もなかった場合には、配偶者に対する不法行為責任を負わないと考えられています。独身だと確認したやり取りの記録は、この場面でも重要な証拠になります。
相手の特定から慰謝料の回収まで、どのくらいかかりますか?
相手方の特定には、LINEヤフー株式会社と携帯電話会社への2段階の照会で数か月程度を見込むのが一般的です。特定後に交渉で解決すれば比較的早く終わりますが、訴訟になれば1年程度以上かかることもあります。
まとめ
マッチングアプリで独身と偽った既婚者には、貞操権侵害を理由に慰謝料を請求できる可能性があります。相手がアプリを退会し、LINEしか分からない場合でも、プロフィール画面からの通報と弁護士会照会により、LINEヤフー株式会社と携帯電話会社に順に照会して、相手の氏名・住所を特定できる可能性があります。
一方で、請求の成否は「独身と偽ったこと」を示す証拠にかかっており、特定にも時効にも時間の制約があります。横浜のタングラム法律事務所では、相手方の特定から慰謝料請求まで一貫して対応しています。証拠を保存したうえで、早めに弁護士にご相談ください。
相手方の特定の手続と費用は、LINEしか知らない相手の特定(弁護士会照会)の詳細はこちらをご覧ください。
独身と偽った相手への慰謝料請求をお考えの方へ
タングラム法律事務所では、独身と偽られた交際(貞操権侵害)や不貞慰謝料の請求と、LINEしか分からない相手方の特定(弁護士会照会)を取り扱っております。相手の名前が分からない段階からご相談いただけます。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。