海外在住の相続人がいる場合の遺産分割|サイン証明・在留証明の取得方法を弁護士が解説
海外在住の相続人がいる場合の遺産分割|サイン証明・在留証明の取得方法を弁護士が解説
「相続人の一人がアメリカに移住していて、印鑑証明書を用意できないと言われた」――親が亡くなって相続手続きを進めようとしたところ、相続人の中に海外在住者がいて、どう進めればよいのか分からず手が止まってしまう方は少なくありません。海外で暮らす家族がいる相続は、今やごく一般的になっています。
海外在住の相続人がいても、遺産分割ができないわけではありません。ただし、日本に住民登録がない方は印鑑証明書や住民票を用意できないため、その代わりとなる「署名証明(サイン証明)」や「在留証明」を在外公館で取得するといった、国内だけの相続にはない手続きが必要になります。この記事では、海外在住の相続人がいる場合の遺産分割の進め方、必要書類とその取得方法、相続登記や相続税申告の注意点までを、横浜の弁護士が解説します。
海外在住の相続人がいても遺産分割協議には全員の参加が必要
まず押さえておきたいのは、相続人が海外に住んでいても相続人であることに変わりはなく、日本国内にいる相続人だけで遺産分割を完結させることはできないという点です。
遺産分割協議は、相続人全員が参加して合意することで初めて効力を持ちます(民法第907条)。相続人が一人でも欠けた状態で作成された遺産分割協議書は無効となり、後で作り直しになってしまいます。したがって、海外在住の相続人がいる場合も、その方に連絡を取り、協議に加わってもらったうえで合意を得る必要があります。
実際には、電話・メール・オンライン会議などで連絡を取り合いながら協議内容を固め、完成した遺産分割協議書に各相続人が署名・押印(海外在住者はサイン証明)をしていく流れが一般的です。まずは、誰が相続人であるかを戸籍で正確に確定させることが出発点となります。
国内在住の相続人との違いは「印鑑証明書・住民票の代わり」
日本に住民登録がある人が遺産分割協議書に実印を押す際は印鑑証明書を添付し、相続登記などでは住民票が住所証明として使われます。ところが、日本の住民登録を抹消して海外に住んでいる方は、住民登録の抹消と同時に印鑑登録も抹消されるため、印鑑証明書も住民票も取得できません。そこで、これらに代わる書類を在外公館(日本大使館・総領事館)で取得することになります。対応関係を整理すると次のとおりです。
| 国内在住者が使う書類 | 海外在住者が使う代替書類 | 発給機関 |
|---|---|---|
| 印鑑証明書(実印の証明) | 署名証明(サイン証明) | 在外公館(大使館・総領事館) |
| 住民票(住所の証明) | 在留証明 | 在外公館(大使館・総領事館) |
これらは在外公館でしか取得できず、日本国内では発給されません。そのため、海外在住者がいる相続では、必要書類の準備に時間がかかることを見込んでスケジュールを組むことが大切です。
署名証明(サイン証明)とは|印鑑証明書に代わる書類
署名証明(サイン証明)とは、日本に住民登録をしていない海外在留者に対して、日本の印鑑証明書に代わるものとして日本での手続きのために発給される証明書です。申請者の署名(及び拇印)が、確かに領事の面前でなされたことを証明するものです(外務省・在外公館における証明)。法務局や銀行なども、海外在留者に対しては印鑑証明書の代わりに署名証明の提出を求めています。
2つの形式がある(形式1・形式2)
署名証明には2種類の形式があります。
- 形式1:在外公館が発行する証明書と、申請者が領事の面前で署名した私文書(遺産分割協議書など)を綴り合わせて割り印を行うもの。書類そのものに署名したことを証明する方式です。
- 形式2:申請者の署名を単独で証明するもの。
遺産分割協議書に用いる場合は、協議書と証明書を綴り合わせる形式1が求められるのが一般的です。もっとも、どちらの形式にするかは提出先(法務局など)の意向によりますので、あらかじめ確認しておくと安全です。
取得方法と注意点
署名証明を取得する際の重要な注意点は、次のとおりです。
- 日本国籍を有する方のみ申請できます。
- 領事の面前で署名(又は拇印)を行う必要があるため、本人が在外公館へ出向く必要があり、代理申請や郵便申請はできません。
- 署名は領事の面前で行うため、あらかじめ署名した書類を持参してはいけません。遺産分割協議書は署名欄を空欄にした状態で海外に送付します。
- 手数料は1通につき邦貨1,700円相当(現地通貨で支払い)です。
つまり、日本側で作成した遺産分割協議書を海外の相続人に送り、現地の在外公館で領事の面前で署名・綴り合わせをしてもらったうえで、日本に送り返してもらう流れです。国際郵便の往復に時間がかかるため、余裕を持って進めることが欠かせません。
在留証明とは|住民票に代わる住所の証明
在留証明は、外国に住んでいる日本人がどこに住所(生活の本拠)を有しているかを、その地を管轄する在外公館が証明するものです。日本国内の提出先機関から外国における住所証明の提出を求められた場合に発給される行政証明で、不動産登記や年金手続きなどで用いられます(外務省・在外公館における証明)。相続の場面では、主に不動産の相続登記で住民票の代わりとして使われます。
発給の条件
在留証明の主な発給条件は次のとおりです。
- 日本国籍を有する方(二重国籍者を含む)のみ申請できます。
- 現地に既に3か月以上滞在し、現在も居住していること(申請時に3か月未満でも、今後3か月以上の滞在が見込まれる場合は対象になります)。
- 原則として日本に住民登録がないこと。
- 原則として本人が在外公館へ出向いて申請すること。
手数料は1通につき邦貨1,200円相当です。なお、証明書の本籍地欄に番地まで記載を希望する場合には戸籍謄(抄)本が必要になります。相続手続きでは、提出理由(遺産相続のため等)を伝えて申請することになります。
不動産の相続登記で必要になる書類
遺産に不動産が含まれ、海外在住の相続人がその不動産を取得する場合には、相続登記で在留証明書が必要になることがあります。国内在住者の住民票にあたる役割を在留証明書が果たすため、署名証明とあわせて取得しておくと一度の来館で済みます。
なお、相続登記は令和6年4月1日から義務化されており、不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります(不動産登記法第76条の2)。正当な理由なく怠ると過料の対象となる可能性があります。海外在住者がいると書類の準備に時間がかかりやすいため、早めの着手が重要です。売却まで検討している場合の流れは、相続した不動産を売却するときの手続きと税金の記事もご参照ください。
海外在住者がいる場合の相続税申告の注意点
海外在住の相続人が財産を取得し、相続税の申告・納付が必要になる場合には、国内在住者にはない手続きが加わります。日本に住所のない相続人(非居住者)が相続税を申告・納付するには、日本国内に住む「納税管理人」を選任し、被相続人の住所地を管轄する税務署に届け出る必要があります(国税庁タックスアンサーNo.4138)。
納税管理人は、他の相続人や日本在住の家族、税理士など、日本に住んでいる人であれば選任できます。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。海外在住者がいる場合は書類収集に時間を要するため、早めの準備が求められます。
手続きをスムーズに進めるためのポイント
海外在住の相続人がいる相続では、次の点を意識すると手続きが円滑に進みやすくなります。
- 早めにスケジュールを立てる:証明書の取得や国際郵便の往復には想像以上に時間がかかります。相続税の申告期限(10か月)や相続登記の期限(3年)から逆算しましょう。
- 協議書は署名欄を空欄にして送る:署名は領事の面前で行う必要があるため、事前に署名しないよう伝えておきます。
- 提出先に形式を確認する:署名証明の形式1・形式2のどちらが必要か、事前に提出先へ確認すると二度手間を防げます。
もっとも、海外在住の相続人との間で遺産の分け方について意見が対立している場合、書類の準備だけでは解決しません。相手が協議に応じない、内容に納得しないといった紛争性のあるケースでは、家庭裁判所の遺産分割調停・審判を視野に入れる必要があります。協議に応じてもらえない場合の進め方は、遺産分割協議に応じない相続人への対処法の記事で解説しています。
よくある質問(FAQ)
海外在住の相続人を外して遺産分割協議を進めてもよいですか?
できません。遺産分割協議は相続人全員が参加して合意する必要があり、一人でも欠けた協議は無効となります(民法第907条)。海外在住の相続人にも連絡を取り、協議に加わってもらう必要があります。
海外在住の相続人は印鑑証明書を用意できません。どうすればよいですか?
日本の住民登録を抹消して海外に住んでいる方は印鑑登録もできないため、印鑑証明書に代えて、在外公館で発給される署名証明(サイン証明)を用います。領事の面前で遺産分割協議書に署名することで、印鑑証明書と同等の書類として扱われます。
サイン証明や在留証明は郵送や代理人による取得ができますか?
署名証明(サイン証明)は、領事の面前で署名する必要があるため、代理申請や郵便申請はできず、本人が在外公館へ出向く必要があります。在留証明は原則本人申請ですが、事情によっては郵送申請が認められる場合もあります。詳細は現地の在外公館にご確認ください。
相続財産に不動産がある場合、海外在住の相続人は何を用意しますか?
不動産の相続登記では、住民票の代わりとなる在留証明書が必要になる場合があります。署名証明とあわせて在外公館で取得することが一般的です。取得には現地に3か月以上居住していることなどの条件があります。
海外在住の相続人がいると相続税の申告はどうなりますか?
日本に住所のない相続人が相続税を申告・納付する場合、日本国内に住む納税管理人を選任し、税務署へ届け出る必要があります。申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。税額計算や特例の適用は複雑なため、税理士や税務署への確認をおすすめします。
まとめ|海外在住の相続人がいる相続は早めの準備と専門家の関与を
海外在住の相続人がいても、遺産分割ができないわけではありません。ポイントは、印鑑証明書に代わる署名証明(サイン証明)と、住民票に代わる在留証明を在外公館で取得する必要があること、そしてこれらは本人が現地の公館へ出向いて取得するため時間がかかることです。あわせて、相続登記の3年以内の申請義務や、相続税の10か月以内の申告期限(納税管理人の選任が必要な場合があります)といった期限にも注意が必要です。
書類の準備だけでも負担が大きいうえ、海外の相続人との間で遺産の分け方に争いがある場合には、法的な見通しを立てながら交渉や調停を進める必要があります。手続きの複雑さや期限に不安を感じたら、早い段階で弁護士に相談することで、見落としや手戻りを防ぎながら円滑に進めやすくなります。
海外在住の相続人がいる遺産分割・遺留分のお悩みは、タングラム法律事務所へ
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