不倫は犯罪?姦通罪の廃止と不貞慰謝料(民事)の違いを弁護士が解説
不倫は犯罪?姦通罪の廃止と不貞慰謝料(民事)の違いを弁護士が解説
配偶者の不倫が発覚したとき、「こんなにひどいことをした相手を、警察に突き出して罰することはできないのか」と考える方は少なくありません。裏切られた側にとって、不倫は決して許せない行為です。しかし、相手を刑務所に入れたいと警察に相談しても、思うように動いてもらえず、戸惑うこともあります。
この記事では、不倫(不貞行為)が刑事上の「犯罪」にあたるのかという疑問について、かつて存在した「姦通罪」が廃止された経緯や、現在の法律で不倫にどのような責任を問えるのかを整理します。刑事責任と民事上の慰謝料請求(不貞慰謝料)の違い、不倫に関連して別の犯罪が成立するケースまで、横浜の弁護士が解説します。
不倫(不貞行為)は刑事上の「犯罪」ではない
結論から述べると、不倫(不貞行為)そのものは、現在の日本の法律では犯罪ではありません。配偶者以外の相手と性的関係を持ったこと自体を処罰する刑罰規定は存在しないため、警察に通報しても相手が逮捕・起訴されることは原則としてありません。
「不倫は道義的に許されない」という感覚と、「不倫が刑罰の対象になる」ということは、法律上は別の問題です。刑罰は国家が個人の自由を奪う強力な制裁であるため、どのような行為を犯罪とするかは法律で明確に定められていなければなりません(罪刑法定主義)。不貞行為を処罰する条文が現在は存在しない以上、不倫を理由に刑事責任を問うことはできないのです。
かつて存在した「姦通罪」はなぜ廃止されたのか
実は、戦前の日本には「姦通罪」という刑罰規定が存在しました。しかし、この規定には大きな不平等がありました。処罰の対象となるのは妻の不貞行為だけであり、夫が不貞行為をしても原則として罰せられなかったのです。
戦後、日本国憲法が制定され、法の下の平等(憲法14条)や両性の本質的平等(憲法24条)といった理念が掲げられました。妻だけを処罰する姦通罪は、この男女平等の理念と明らかに矛盾します。そこで、1947年(昭和22年)の刑法改正により姦通罪は廃止され、以後、日本では不貞行為を刑罰で罰する制度はなくなりました。不倫の問題は、刑事罰ではなく当事者間の民事的な解決に委ねられているのが現在の考え方です。
不倫は「民事上の不法行為」にあたり慰謝料を請求できる
刑事上の犯罪ではないとはいえ、不倫が何の責任も生じない行為だというわけではありません。不倫(不貞行為)は、平穏な婚姻共同生活を害する民事上の「不法行為」にあたり、被害を受けた配偶者は、不貞をした配偶者と不倫相手に対して慰謝料(損害賠償)を請求できます。
その法的根拠となるのが、民法709条と民法710条です。
- 民法709条(不法行為による損害賠償):故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う、と定めています。
- 民法710条(財産以外の損害の賠償):財産以外の損害、すなわち精神的苦痛に対しても賠償の責任を負うことを定めています。この精神的損害に対する賠償金が「慰謝料」です。
この精神的苦痛を金銭に換算して賠償を求めるのが不貞慰謝料の請求であり、刑事手続きとはまったく別の民事上の請求です。慰謝料の金額は事案によって幅がありますが、離婚に至らない場合はおおむね数十万円から100万円台、離婚に至る場合は100万円台から300万円程度が一つの目安とされることが多く、婚姻期間や不貞の期間・回数などの事情によって増減します。慰謝料の相場については、不倫の慰謝料はいくら?相場の目安と金額を左右する要素もあわせてご覧ください。
刑事責任と民事責任の違いを整理
「犯罪ではないのに賠償責任は生じる」という関係は、刑事責任と民事責任の性質の違いから説明できます。両者を整理すると次のとおりです。
| 項目 | 刑事責任 | 民事責任(不貞慰謝料) |
|---|---|---|
| 目的 | 社会秩序の維持・加害者の処罰 | 被害者が受けた損害の回復・賠償 |
| 不倫の扱い | 不貞行為自体は対象外(犯罪ではない) | 不法行為として賠償の対象になる |
| 手続きを行う主体 | 警察・検察(国家) | 被害を受けた配偶者本人(またはその代理人) |
| 結果 | 拘禁刑・罰金などの刑罰 | 慰謝料(金銭)の支払い |
| 主な根拠法 | 刑法など | 民法709条・710条 |
つまり、不倫は「国家が処罰する犯罪」ではないものの、「被害者が損害賠償を求められる民事上の違法行為」ではある、という位置づけになります。相手を刑務所に入れることはできませんが、慰謝料という形で法的責任を追及することは十分に可能です。
不倫に「関連する行為」が犯罪になるケースに注意
不貞行為そのものは犯罪ではありませんが、不倫をめぐる周辺の行為が別の犯罪の構成要件に該当することはあります。これは、不倫をした側だけでなく、怒りにまかせて行動した被害者側が加害者になってしまう場面もあるため、特に注意が必要です。代表的なものを挙げます。
- 住居侵入罪(刑法130条):不倫相手の家に無断で立ち入ったり、証拠を集めるために他人の住居へ侵入したりすると成立し得ます。
- 名誉毀損罪(刑法230条):不倫の事実を不特定多数に暴露して相手の社会的評価を低下させると、成立するおそれがあります。SNSでの暴露は特にリスクが高い行為です。
- リベンジポルノ(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律):性的な画像・動画を本人の同意なく第三者に提供・公表すると処罰の対象になります。
- 脅迫罪・強要罪:慰謝料を支払わせようとして「会社にばらす」「家族に言う」などと過度に迫ると、成立する可能性があります。
- 不正アクセス禁止法違反:証拠集めのために配偶者や相手のSNS・メールへ無断でログインすると違法となり得ます。
- 重婚罪(刑法184条):配偶者がいながら重ねて法律上の婚姻をした場合に成立し、2年以下の拘禁刑と定められています。もっとも、通常の不倫で問題になることはほとんどありません。
不倫への責任追及は「民事手続き」で進める
以上のとおり、不倫への責任追及は、刑事ではなく民事の慰謝料請求を軸に進めます。一般的な流れは次のとおりです。
- 証拠の確保:不貞行為を裏付ける証拠(写真、メッセージのやり取り、ホテルの出入りの記録など)を、適法な方法で確保します。
- 内容証明郵便による請求:相手に対し、慰謝料の支払いを求める通知を送ります。
- 示談交渉:金額や支払方法、接触禁止や口外禁止などの条件を話し合い、合意できれば示談書を作成します。
- 訴訟:交渉がまとまらない場合は、裁判所に慰謝料請求訴訟を提起します。
なお、不法行為に基づく慰謝料請求権には消滅時効があります。民法724条により、被害者が損害および加害者を知った時から3年(不法行為の時から20年)で時効にかかるため、請求を検討している場合は早めに動くことが重要です。時効の詳しい仕組みは、時効を止める方法などを解説した記事もあわせてご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 不倫を警察に通報したら相手は逮捕されますか?
不貞行為そのものは刑法上の犯罪ではないため、原則として警察は動かず、相手が逮捕されることはありません。不倫への法的な責任追及は、慰謝料の支払いを求める民事上の手続きが中心となります。
Q2. 昔は「姦通罪」があったと聞きましたが、今もあるのですか?
姦通罪は、妻の不貞のみを罰し夫の不貞を罰しない不平等な規定であったことから、日本国憲法の男女平等の理念に反するとして、1947年(昭和22年)の刑法改正で廃止されました。現在は存在しません。
Q3. 不倫相手を刑事告訴できるケースはありますか?
不貞行為自体を理由に刑事告訴することはできません。ただし、不倫に付随する別の行為(住居侵入、リベンジポルノ、名誉毀損など)が犯罪の構成要件に該当する場合には、その行為について刑事責任が問われる可能性があります。
Q4. 慰謝料を払わない相手を刑事罰で罰することはできますか?
慰謝料を支払わないこと自体は犯罪ではないため、刑事罰の対象にはなりません。支払いを確保するには、示談書の公正証書化や、判決を得たうえでの強制執行といった民事手続きを用います。過度な取り立ては、かえって脅迫罪などに問われるおそれがあるため注意が必要です。
まとめ
不倫(不貞行為)は、かつて存在した姦通罪が1947年に廃止されて以降、刑事上の犯罪ではありません。警察に通報しても相手を処罰することはできない一方で、不倫は民法709条・710条の不法行為にあたり、被害を受けた配偶者は不貞慰謝料という形で金銭的な責任を追及できます。刑事責任と民事責任は目的も手続きも異なるものであり、「犯罪ではないが賠償責任は生じる」という関係を理解しておくことが大切です。
また、怒りにまかせた行動が住居侵入罪や名誉毀損罪などにあたり、被害者側が思わぬ形で加害者になってしまうこともあります。適法かつ有利に慰謝料請求を進めるためには、早い段階で弁護士に相談し、方針を整理することをおすすめします。
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