貞操権侵害の慰謝料はいくら?金額の決まり方と請求できる損害
貞操権侵害の慰謝料はいくら?金額の決まり方と請求できる損害
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月29日 最終更新日:2026年9月29日
結婚を前提に交際していた相手が、実は既婚者だった。独身だと何度も確認していたのに、嘘をつかれていた――。貞操権侵害として慰謝料を請求したいと考えたとき、多くの方が最初に気になるのは「いくら請求できるのか」という点ではないでしょうか。
この記事では、独身と偽られた交際による貞操権侵害の慰謝料について、金額がどのように決まるのか、増額・減額に働く事情、慰謝料以外に請求を検討できる損害、そして請求額を組み立てるための証拠を、横浜の弁護士が解説します。
結論として、貞操権侵害の慰謝料に公的な基準表はなく、交際の期間や経緯、結婚の約束の有無、偽りの悪質さ、妊娠・中絶や心身の不調の有無などによって金額が決まります。慰謝料のほか、中絶費用や治療費、相手の特定に要した調査費用などを損害として請求できる可能性もあるため、事情と証拠を整理して請求額を組み立てることが大切です。
貞操権侵害の慰謝料とは
貞操権(性的自己決定権)とは、誰とどのような性的関係を持つかを自分の意思で決める利益をいいます。既婚者が独身であると偽り、結婚の可能性があるかのように装って性的関係を持った場合、だまされた側は、不法行為(民法709条・710条)に基づいて慰謝料を請求できる可能性があります。
要件や、不貞慰謝料との違いについては、貞操権侵害とは?独身と偽られた場合の慰謝料請求で解説しています。この記事では、金額の決まり方に焦点を当てます。
慰謝料の金額はどのように決まるか
貞操権侵害の慰謝料額について、公的な基準表はありません。裁判では、個々の事情を総合して金額が判断されます。一般に、不貞慰謝料と比べるとやや低めの水準にとどまる傾向があると指摘されていますが、事情によって大きく変わります。
| 増額に働きやすい事情 | 減額に働きやすい事情 |
|---|---|
| 結婚を明確に約束していた | 結婚の話が具体化していなかった |
| 交際期間が長い | 交際期間が短い |
| 独身かどうか確認したのに積極的に嘘を重ねた | 既婚を疑わせる事情があった |
| 妊娠・中絶があった | 性的関係の回数が少ない |
| 心身の不調を来した | 生活への影響が小さい |
| 年齢などから結婚・出産の機会を失った | 相手が真摯に謝罪している |
慰謝料以外に請求を検討できる損害
貞操権侵害によって実際に出費や損害が生じた場合は、慰謝料とは別に、その損害の賠償を請求できる可能性があります。
- 中絶費用・通院費用:妊娠・中絶に至った場合の費用。詳しくは不倫で妊娠・中絶した場合の慰謝料をご覧ください。
- 心身の不調の治療費:交際の破綻によって心身の不調を来した場合の治療費。診断書など、因果関係を示す資料が重要になります。
- 調査費用:相手が既婚者であることの確認や、相手の特定のために必要だった探偵の調査費用など。必要かつ相当な範囲に限られます(探偵費用は請求できるか)。
- 弁護士費用:訴訟で不法行為に基づく損害賠償が認められる場合、弁護士費用の一部が損害として認められることがあります。
どの損害が認められるかは、相手の行為との因果関係や、支出の必要性・相当性によって判断されます。
請求額を組み立てるための証拠
金額を左右する事情は、証拠によって裏付ける必要があります。
- 独身かどうかを尋ね、相手が否定したメッセージ
- 結婚や将来について話したやり取り、家族への紹介の記録
- 交際の期間や頻度が分かる記録(写真、予約、交通の記録など)
- 妊娠・中絶、通院を示す資料、診断書
- 支出の領収書(中絶費用、治療費、調査費用など)
マッチングアプリで知り合った場合の証拠の残し方は、マッチングアプリの相手が音信不通になった場合の記事で解説しています。
争点になりやすいポイント
貞操権侵害の請求では、相手から次のような反論が出されることが多く、金額にも影響します。
- 「独身だとは言っていない」:独身かどうかを尋ねたメッセージと、それに対する相手の回答が重要になります。
- 「既婚者だと分かっていたはずだ」:会える曜日や時間帯が限られていた、自宅に招かれなかったといった事情が、こちらの落ち度として主張されることがあります。
- 「真剣な交際ではなかった」:結婚の話をしていたことや、将来の計画を示すやり取りで反論します。
- 「中絶や体調不良とは関係がない」:時期の重なりや診断書などで、因果関係を示す必要があります。
こうした反論に備え、請求の前に、どの事情をどの資料で示せるかを整理しておくことが大切です。
請求の進め方と注意点
請求は、内容証明郵便で金額と根拠を示すところから始め、交渉で解決しなければ訴訟を検討します。相手の連絡先がLINEしか分からない場合は、弁護士会照会で氏名・住所を特定できる可能性があります(マッチングアプリの既婚者に慰謝料請求|LINEしか知らない場合)。
請求にあたっては、相手の配偶者や職場に交際の事実を知らせないよう注意してください。名誉毀損やプライバシー侵害として、ご自身が責任を問われるおそれがあります。また、慰謝料の請求権は、損害及び加害者を知った時から3年で時効により消滅します(民法724条1号)。男女関係の慰謝料請求の全体像は、不貞慰謝料の取扱分野のページをご覧ください。
よくある質問
貞操権侵害の慰謝料に決まった相場はありますか?
公的な基準表はなく、交際の期間や経緯、結婚の約束の有無、妊娠・中絶の有無など、事案ごとの事情によって金額が大きく変わります。不貞慰謝料と比べると、やや低めの水準にとどまる傾向があると指摘されています。
相手が既婚者だと薄々気づいていた場合はどうなりますか?
既婚である可能性を認識していた場合は、独身と誤信させられたとはいえないとして請求が認められにくくなったり、減額されたりする可能性があります。
探偵に払った調査費用も請求できますか?
相手が既婚者であることの確認や相手の特定のために必要だったといえる範囲で、損害として認められる可能性があります。ただし、全額が認められるとは限りません。
相手から「真剣な交際ではなかった」と反論されました。
結婚の話をしていたメッセージ、家族への紹介、将来の計画など、結婚の可能性を前提とした交際であったことを示す資料で反論することになります。やり取りの記録を整理しておいてください。
まとめ
貞操権侵害の慰謝料に公的な基準表はなく、交際の期間や経緯、結婚の約束の有無、偽りの悪質さ、妊娠・中絶や心身の不調の有無などによって金額が決まります。慰謝料のほか、中絶費用や治療費、調査費用なども損害として請求できる可能性があります。請求額は、これらの事情を証拠で裏付けながら組み立てることが大切です。
横浜のタングラム法律事務所では、貞操権侵害の慰謝料請求について、請求額の組み立てや証拠の整理から対応しています。相手の連絡先がLINEしか分からない場合の特定の手続と費用は、LINEしか知らない相手の特定(弁護士会照会)の詳細はこちらをご覧ください。
独身と偽られた交際の慰謝料請求をお考えの方へ
タングラム法律事務所では、貞操権侵害の慰謝料請求と、LINEしか分からない相手方の特定(弁護士会照会)を取り扱っております。請求額の組み立てや証拠の整理の段階からご相談いただけます。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。