タングラム法律事務所

誹謗中傷の裁判で住所を知られたくない|秘匿決定の申立て方法

誹謗中傷の裁判で住所を知られたくない|秘匿決定の申立て方法

誹謗中傷の裁判で住所を知られたくない|秘匿決定の申立て方法

誹謗中傷の裁判で住所を知られたくない|秘匿決定の申立て方法

誹謗中傷の裁判で住所を知られたくない|秘匿決定の申立て方法

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年11月5日 最終更新日:2026年11月5日

「誹謗中傷の相手を訴えたいけれど、訴状に自宅の住所を書いたら相手に知られてしまう」。ストーカーのようにつきまとわれている方、元交際相手から攻撃されている方、匿名で活動してきた方にとって、これは手続に踏み切れない大きな理由になります。

この記事では、裁判で住所や氏名を相手に伏せる「秘匿決定」の仕組みと申立て方法、発信者情報開示の段階で気をつけること、そして制度の限界を、弁護士の視点から解説します。

結論として、民事訴訟には、住所や氏名が相手に知られると社会生活に著しい支障が生じるおそれがある場合に、裁判所の決定で訴状などに記載しなくてよくする「秘匿決定」の制度があります。ただし、誹謗中傷の事案なら当然に認められるわけではなく、具体的な危険を示す資料が必要で、証拠の中の記載から住所が伝わることもあるため、提出書類の確認が欠かせません。

誹謗中傷の裁判で住所が相手に知られる仕組み

民事訴訟では、訴状に当事者を記載します。原告の住所は訴状の記載から被告に伝わるのが原則です。弁護士に依頼すれば連絡窓口は事務所になりますが、それだけで本人の住所欄が不要になるわけではありません。「弁護士を立てれば住所は相手に出ない」というのは誤解です。

住所が伝わる経路は、訴状だけではありません。

  • 訴状の当事者欄に記載した住所
  • 証拠として提出した書類(診断書、領収書、通院先の記載、契約書など)
  • 発信者情報開示の手続で作成された記録

秘匿の問題は、手続全体で考える必要があります。

秘匿決定とは|住所・氏名を伏せる制度の要件

令和4年の民事訴訟法改正により、令和5年2月20日から住所、氏名等の秘匿制度が施行されました(民事訴訟法133条)。もともと性犯罪やDVの被害者が、加害者に住所や氏名を知られることを恐れて訴えをためらう事態を念頭に作られた制度です。誹謗中傷を名指しした制度ではありません。

要件は、住所等や氏名等が当事者に知られることにより、申立てをする方が「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」があることについて、疎明(一応確からしいと裁判所に示すこと)があることです。

項目内容
秘匿できるもの住所・居所などの通常所在する場所、氏名その他本人を特定するに足りる事項。全部でも一部でも可能
決定の効果訴状等に「代替住所A」「代替氏名A」といった代替事項を記載すれば足りる
閲覧の制限秘匿事項届出書面は、原則として秘匿対象者しか閲覧できない
効果の及ぶ範囲当該事件のほか、反訴、参加、強制執行、仮差押え・仮処分の手続

誹謗中傷の事案で要件が問題になるのは、たとえば次のような事情がある場合です。

  • 相手から脅迫的なメッセージや、自宅に行くことをほのめかす投稿を受けている
  • ストーカー行為やDVの経緯があり、転居して住所を隠している
  • 過去に住所や勤務先をネットに晒された

反対に、「相手に知られるのが不安」というだけでは足りないと判断される可能性があります。元交際相手からの攻撃については元交際相手・元配偶者によるネット誹謗中傷への対処法もあわせてご覧ください。

秘匿決定の申立て方法と必要書類

申立ては、訴訟の裁判所に対し、次の書類を提出して行います。

書類内容
秘匿決定申立書事件の表示、申立ての趣旨と理由を記載
秘匿事項届出書面伏せたい真の住所・氏名、郵便番号、電話番号などを記載
疎明資料著しい支障のおそれが分かる資料(脅迫的なメッセージの画面、警察への相談記録、陳述書など)

手数料は、裁判所の案内(家庭裁判所の人事訴訟・家事事件向けのもの)では秘匿対象者ごとに収入印紙500円分とされています。提出前に、申立先の裁判所で金額と書式を確認してください。

住所を秘匿事項とする場合、訴状の住所欄は「代替住所A」のように記載して提出し、裁判所が定めた代替事項と異なるときは訂正します。

訴状の作成全般については誹謗中傷の損害賠償を自分で提訴する方法でも解説しています。

証拠から住所が漏れる?推知情報と閲覧等制限の注意点

秘匿決定で実務上もっとも注意が必要なのがこの点です。裁判所の案内でも、閲覧が制限されるのは原則として秘匿事項届出書面に限られ、その他の書面に住所等が書かれていても当然には制限されないとされています。

注意が必要な「推知情報」の例は次のとおりです。法務省の資料では、近隣の医療機関名や子どもの学校名が例に挙げられています。

  • 診断書や領収書に書かれた病院名・住所
  • お子さんの学校名、最寄り駅、町内会などの地域情報
  • 投稿の画面に写り込んだ風景や位置情報

対策は、提出書類の該当部分をマスキングする(黒塗りする)こと、やむを得ず記載する場合はその部分を特定して民事訴訟法133条の2第2項に基づく閲覧等制限を申し立てることです。この決定は書面の部分ごとに必要で、第1準備書面の決定が第2準備書面に及ぶわけではないとされています。証拠の出し方の基本は誹謗中傷の裁判で自分で証拠を出す方法も参考になります。

発信者情報開示の段階で住所や氏名はどこまで伝わるか

裁判の前の投稿者特定の段階でも注意が必要です。プロバイダ等に任意で開示を求める場合、業界のガイドラインの書式では、請求者の氏名や請求の理由、証拠を発信者に示して意見照会を行うのが原則とされています。一方、請求者の住所と連絡先は原則として示さない扱いで、個人の請求者は氏名、理由欄の記載、証拠について「発信者に示したくない」と明示できる欄があります。もっとも、示さなくても内容から推知されることがある、と書式の注記にも記載されています。

裁判所の発信者情報開示命令の手続は非訟事件の手続ですが、非訟事件手続法42条の2は民事訴訟法133条などの秘匿の規定を準用しています。また、民事保全法7条は民事訴訟法の規定を準用しており、仮処分でも秘匿制度の利用が問題となります。ただし、準用される範囲は民事訴訟とまったく同じではありません。非訟事件手続法42条の2が挙げているのは133条の2第1項までで、推知情報の閲覧等制限を定めた同条2項は含まれていません。発信者情報開示命令事件の記録は、当事者のほか利害関係を疎明した第三者も閲覧を請求できます(情報流通プラットフォーム対処法12条1項)。

開示の手続と損害賠償の訴訟は別の事件であり、訴訟で改めて申立てが必要になることを前提に準備します。開示請求全体の進め方は発信者情報開示請求・削除請求のページをご覧ください。夜のお仕事をされている方など、本名や自宅を知られたくない事情がある場合は夜職の誹謗中傷・晒しへの対応のページもご参照ください。

秘匿決定の限界|取消し・閲覧許可と相手方の対応

秘匿決定は絶対のものではなく、次の仕組みがあります。

  • 取消しの申立て:秘匿決定に係る者以外の者は、要件を欠くことなどを理由に取消しを申し立てることができます(民事訴訟法133条の4第1項)
  • 閲覧の許可:秘匿決定に係る者以外の当事者は、攻撃又は防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、裁判所の許可を得て閲覧等ができます(同条2項)。ただし、裁判所は取消しや許可の裁判をする際、秘匿対象者の意見を聴くこととされています

また、秘匿できてもつきまといそのものが止まるわけではありません。身の危険を感じる場合は、並行して警察への相談も検討してください。

自分で行う場合の注意点と弁護士に依頼するメリット

秘匿決定の申立て自体はご本人でも可能ですが、一度書類に書いた住所が相手の目に触れると取り返しがつきません。疎明資料の不足や証拠のマスキング漏れに注意が必要です。

弁護士に依頼すると、見立て、疎明資料の整理、提出書類の確認に加え、相手方との連絡を事務所が引き受けます。横浜の当事務所でも、こうした事情をふまえて手続を組み立てています。

よくある質問

住所だけでなく、名前も伏せて裁判できますか?

氏名その他本人を特定するに足りる事項も秘匿の対象です。ただし要件を満たす必要があり、相手がすでに氏名を知っている事案では、秘匿の必要性や効果が問題になることがあります。

弁護士に依頼すれば、住所は書かなくてよいのですか?

依頼しただけで住所の記載が不要になるわけではありません。連絡先を事務所にすることはできますが、本人の住所欄を伏せるには、原則として秘匿決定の手続が必要です。

秘匿決定が認められなかったらどうなりますか?

申立てを却下された場合、申立人は即時抗告ができます。却下が確定すると訴状の訂正が必要になるため、提出前に見通しを検討しておくことが大切です。

引っ越したあとの新しい住所も隠せますか?

転居先を伏せたい場合も申立てが考えられます。証拠に新しい住所が記載されていないかも確認してください。

まとめ

要点は次のとおりです。

  • 要件は「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」の疎明であり、具体的な資料が必要
  • 閲覧が制限されるのは原則として秘匿事項届出書面で、証拠の記載は別途の対策が必要
  • 開示手続と訴訟は別の手続であり、段階ごとに検討する
  • 取消しや閲覧許可の仕組みがあり、絶対に知られないわけではない

住所が相手に伝わるかどうかは、一度進めると元に戻せない問題です。横浜の弁護士として、タングラム法律事務所では手続を進める前の段階からご相談をお受けしています。

相手に住所を知られずに対応したい方へ

タングラム法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、削除請求・発信者情報開示から損害賠償請求まで対応しています。住所や氏名を相手に知られたくないというご事情も、まずはお聞かせください。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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