親名義の回線で子どもがトレント|意見照会書が届いた親の対応
親名義の回線で子どもがトレント|意見照会書が届いた親の対応
プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」が届き、心当たりを探るうちに、同居している子どもがファイル共有ソフト(BitTorrent・トレント)を使っていたらしいと分かる——。回線の名義は親、実際に使っていたのは子ども。この食い違いをどう説明すればよいのか、そもそも親が支払わなければならないのか。落ち着いて考えたくても、書面には回答期限が記載されています。
この記事では、①なぜ意見照会書が親のもとに届くのか、②責任を負うのは子か親か(民法712条・714条・709条の整理)、③回答をどう組み立てるか、④開示後の示談交渉に親がどう関わるか、を横浜の弁護士が順に整理します。
意見照会書が「親」に届く理由——契約者と発信者は別である
著作権者は、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)5条に基づき、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求できます。請求を受けたプロバイダは、原則として発信者の意見を聴かなければならないとされており(同法6条1項)、この手続のために送られてくるのが意見照会書です。
もっとも、著作権者が把握しているのはIPアドレスと発信日時にすぎません。プロバイダはそこから「その時刻にそのIPアドレスを割り当てられていた契約回線」を特定するため、書面は必然的に回線の契約名義人——多くは世帯主である親——に届きます。親宛てに届いたことは、「親が侵害行為をした」と判断されたことを意味しません。法律上の「発信者」は実際にその通信を行った者を指すからです。この点は家族・同居人が使っていた場合に発信者性を否認できるかもご覧ください。
国民生活センターに寄せられた相談にも、「以前使っていたパソコンは家族で共用しており、子どもも使用していた」という事例が紹介されています(総務省「『動画をダウンロードしただけ』が著作権侵害に?」)。
親がまずすべき3つのこと
| 順序 | やること | 注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 回答期限と提出方法を確認する | 期限・書式・送付先は事業者ごとに異なります。必ず書面の記載を確認してください |
| 2 | 照会対象の発信日時・作品を特定する | 複数が並記されていることがあります。件数は後の賠償額に直結します |
| 3 | 家庭内の利用状況を事実として整理する | 誰が・どの端末で・いつ使っていたか。記憶と記録を区別します |
この段階で端末の初期化やソフトの一括削除を急がないでください。利用を止めること自体は適切ですが、自分の側の説明を裏づける材料まで消えてしまうことがあります。
責任を負うのは子か、親か——民法の整理
未成年者本人の責任(民法712条)
民法712条は、未成年者が「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」(責任能力)を備えていなかったときは賠償責任を負わないと定めています。有無は年齢だけで機械的に決まるものではなく、裁判例ではおおむね12歳前後を一つの目安に、個別の事情を踏まえて判断される傾向にあるとされています。
親(監督義務者)の責任(民法714条・709条)
子に責任能力がないと判断される場合、親権者は民法714条1項により監督義務者として賠償責任を負います。ただし書により「その義務を怠らなかったとき」等は免責されますが、実務上この立証は容易ではありません。親権者が監護・教育の権利義務を負うことは民法820条に定められています。
では、子に責任能力がある場合(高校生・大学生など)は親は無関係かというと、そうではありません。最高裁昭和49年3月22日判決(民集28巻2号347頁)は、未成年者が責任能力を有する場合でも、監督義務者の義務違反と不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認め得るときは、監督義務者に民法709条の不法行為が成立すると判示しています。
| 子の状況 | 子本人の責任 | 親の責任の構成 |
|---|---|---|
| 責任能力なしと判断される場合 | 民法712条により責任を負わない | 民法714条1項(免責の立証は容易でない) |
| 責任能力ありと判断される場合(未成年) | 民法709条により責任を負い得る | 監督義務違反と結果との相当因果関係があれば民法709条 |
| 成人している場合 | 民法709条により責任を負い得る | 親が当然に監督義務者としての責任を負うわけではない |
「回線の契約者だから」という理由だけでは責任は生じない
契約者であること自体は、不法行為責任を基礎づける事実ではありません。責任が問題になるのは、①自ら送信可能化を行った、②監督義務違反がある、といった事情がある場合です。なお、トレントは「ダウンロードしただけ」のつもりでも同時に送信が行われる仕組みで、著作権法23条1項の公衆送信権(送信可能化を含む)との関係が問題になります。詳しくは「ダウンロードしただけ」は通用するか|送信可能化権との関係をご覧ください。
意見照会書への回答をどう組み立てるか
| 回答 | 想定される流れ |
|---|---|
| 同意する | 氏名・住所等が開示され、著作権者側の代理人から請求が届く段階に進みます |
| 同意しない(理由回答書) | 任意開示は止まることが多い一方、裁判所の手続に移行し得ます |
| 回答しない | 意見を述べる機会を自ら手放すことになり、その後の交渉でも不利に働きます |
親としては「正直に、子どもがやったと書けばよい」と考えがちです。しかし回答書は、後の示談交渉や訴訟で相手方が参照し得る資料です。確認が終わらないうちに行為者を断定して書けば、以後は「誰がいくら支払うか」だけの話に収束します。確認できている事実と、確認できていない事実を明確に切り分けて書くことが最大のポイントです。
当事務所では、こうしたBitTorrent(トレント)の意見照会書への対応を、回答書の作成から開示後の示談交渉まで一括してお引き受けしています。書面が届いた側の対応全般は、インターネット問題(書面が届いた方の対応)のページもご覧ください。
開示された後、親はどう関わるか
発信者情報が開示されると、著作権者の代理人から損害賠償を求める通知書が届きます。ここで問題になるのが、誰が交渉の当事者になるかです。
- 子が未成年の場合:示談(和解契約)は法律行為であり、未成年者が単独で行うには法定代理人の同意が必要です(民法5条)。実際には親権者が関与して進めます。
- 子が成人している場合:本人が当事者となります。親が支払う場合でも、法的な責任主体と事実上費用を負担する者は区別すべきです。
- 親自身が責任を追及されている場合:民法714条・709条のいずれの構成で請求されているのかを確認し、監督の実態に即して反論します。
請求額は、作品の性質、利用態様、期間、件数といった要素に左右され、一律の相場があるわけではありません。算定の考え方はトレントの示談金はどう決まるのか|損害賠償額の算定要素で整理しています。
再発防止——「削除して終わり」にしない
総務省の注意喚起によれば、令和6年にプロバイダへ申し立てられた発信者情報開示請求154,484件のうち、約95.6%(147,746件)が特定のファイル共有ソフトを用いたアダルト動画の著作権侵害を内容とするものでした。本人が「ダウンロードしているだけ」と認識していても、多くのソフトは同時に自動的なアップロードを行います。家庭内では、次の点を確認しておくことが有効です。
- 別の端末にも同種のソフトが導入されていないか
- 照会対象の日時以外にも利用が続いていないか(複数回・複数作品の請求につながります)
- 回線を共用する他の家族が同様の利用をしていないか
よくある質問
意見照会書は親(契約者)宛てに届きましたが、そのまま「子どもがやりました」と書いて回答してよいですか。
回答書は、後の示談交渉や訴訟で相手方の目に触れる資料です。確認が終わらないうちに行為者を断定して書けば、以後は「誰が支払うか」だけが争点になりかねません。確認できている事実とできていない事実を切り分けて記載してください。
子どもが中学生です。親が損害賠償を負うことになりますか。
子に責任能力がないと判断される場合、親権者は民法714条1項の責任を負い、義務を怠らなかったことを立証しない限り免れません。責任能力がある場合でも、監督義務違反と結果との相当因果関係が認められれば民法709条の責任を負い得ます(最高裁昭和49年3月22日判決)。年齢だけで結論は決まりません。
子どものパソコンからソフトを削除すれば、それで終わりますか。
削除しても、著作権者側が記録した通信の事実がなくなるわけではなく、かえって説明の手がかりを失うことがあります。利用を止めること自体は適切ですが、まずは現状を保存し、削除の要否を含めてご相談ください。
「開示に同意しない」と回答すれば、必ず開示されずに済みますか。
そうとは限りません。不同意の回答は任意開示を止める効果が期待できますが、著作権者が裁判所に発信者情報開示命令等を申し立て、要件が認められれば開示に至ります。以後の手続と交渉を見据えた最初の主張として作成する必要があります。
まとめ
- 意見照会書が親宛てに届くのは契約名義がそうだからであり、親が発信者と判断されたわけではない
- 子の責任能力の有無により、民法712条・714条・709条のいずれの枠組みで検討するかが変わる
- 責任能力がある子でも、監督義務違反と結果との相当因果関係があれば親が709条の責任を負い得る
- 回答書は後の交渉・訴訟で参照される。確認できた事実とできていない事実を切り分けて記載する
- 開示後の示談は、子が未成年であれば親権者の関与が必要となる(民法5条)
この類型は、「誰が行ったか」という事実の問題と「誰が責任を負うか」という法律の問題が混ざりやすく、独力での整理が難しいものです。回答期限は限られていますので、書面が届いた時点でご確認ください。費用と流れはBitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページに記載しています。
親名義の回線で、子どもがトレントを使っていた——そのご相談も承ります。
横浜のタングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求について、意見照会書への回答書の作成から、開示された場合の示談交渉まで一括して対応しています。回答には期限がありますので、お早めにご相談ください。
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